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第21話 拒まれた黒き羽
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よっと声を出して、野菜の詰まった段ボール箱を持つアルベルトを見かけて、千夏は手を振りながら呼びかけた。
「アル君、今日も順調ー?」
アルベルトは千夏の顔を見ると、ぱっと顔を明るくする。
「超順調ーって、千夏さんは今日は買い物?」
八百屋の軒先で作業する老夫婦をちらりと見ながら千夏は頷く。
「そう、ここの野菜はよくてね」
「そっかー、めっちゃこの大根とか、肌ツヤツヤだから、フロフキとか作るといいそうだよ」
「アル君、ここで働くようになってからそんなたってないのに、もういっぱし感がすごい……」
千夏はびっくりした顔でいうと、アルベルトは嬉しそうにニヤニヤした。
「そっかなー、そうだといいな」
そこでアルベルトの雇い主である老人が、ニコニコと言った。
「おお、あんたアルベルト君の知り合いか」
「そうです、俺のここに紹介した紫紋さんの彼女さんです」
アルベルトからその説明をさらっとされると動揺する。
いい加減、紫紋との立場を言及されることに慣れないと、と思った。
老人は大きく頷いた。
「そうかい、そうかい……紫紋さんによくお礼を伝えてくれないかな、アルベルト君は本当に良く出来てる。外国人だと聞いてるが、こんなに馴染むと思わなかったくらいだ」
千夏はアルベルトがうまく、お店に馴染んでいることにホッとしていた。
最初からコミュニケーションに難があるとまったく思わない性格だったが、それでも気になっていたのだ。
アルベルトはあっとそこで声をあげた。
「そうだ、もう少しで仕事終わるから、一緒に帰ろうよ、荷物持つし」
千夏の顔はぱっと明るくなる。
なんという幸運だ。
「ありがとー、これで安心してお米が買える……!」
千夏が嬉しそうに喜んでいると、アルベルトは不思議そうに言った。
「千夏さんってちょっと子供みたいに喜ぶときあるから、なんか俺より年下に見える」
「実際何歳なんだろうね、アル君は」
アルベルトは困ったような笑みを浮かべた。
「さあ、全然思い出せないや……」
「ただいまですー」
アルベルトと家に帰る。すると紫紋が珍しく少し慌てた様子で、出迎えてくれた。
「あ、千夏さんに、アルベルト君……」
「どうしたんっすか? なんか表情さえないんですけど」
アルベルトは天使の羽をパッとひろげた。
仕事や外にいる時は、目立ちすぎるということもあって、羽を見えないようにしているが
家の中ではアルベルトは羽を出したがる。白い羽根が綺麗に輝いていた。
アルベルトの問いに紫紋は難しい顔をする。
「いやその、まる太が家出してしまったようなんです……換気で一瞬開けた窓から」
「わ、それはやばい……」
「どこ行ったんでしょね、猫の行動ってわかんないし……」
場所はわかってるんです、と紫紋は言った。
しかし言葉と裏腹に表情が重い。
不可思議に感じていると、紫紋は目を伏せた。
「どうも、近くの教会にはいりこんでしまったようで……私ではいけそうにないのです」
悪魔が神様を信仰する場所である教会に行くのはリスクが高いらしい。
具体的に身体的負担で動けなくなるだろうと。
千夏は紫紋を励ますように意気込んだ。
「だいじょうぶです、私、まる太を探してきます!」
アルベルトは千夏に賛同した。
「俺も行く! 自分が何かわかんないけど、多分天使だろ!! 行くのは余裕余裕」
「二人とも……ありがとう、でも気をつけてくださいね」
二人は軽い調子で、紫紋の言葉に相槌を打つ。
「はーい、任せてください」
「すぐに帰ってくるよ、まる太と」
千夏は荷物を紫紋に預けると、アルベルトと一緒に、まる太を探しに外に飛び出した。
紫紋は何だかまる太だけではなく、千夏とアルベルトにも気をまわしていたようにも感じたが、いつも丁寧な態度の人なので、深く考えなかった。
「ここにいたのねー、まる太」
確かにまる太は教会の敷地内にいた。
たまたま教会の見学可能な時間で、出入りしても良さそうだった。
「にぼしとかつぶし、でどうにかなるのか」
「まる太の大好物だから多分……とにかく教会に行きましょ」
「そうだな……ここが、教会」
どこか陶然とした声で言うアルベルト。
教会にくればなにか思い出すかと思ったが、何も思い出せないようだ。
残念に感じつつ、先に千夏が教会の敷地に入る。追ってアルベルトも入ろうとした。
入ろうとしたが、急に電撃が走るような光がアルベルトの体に走る。
まるでアルベルトの存在を拒んでいるようだった。
「え……あ、ぐぅう」
戸惑いを隠せないアルベルトが胸を押さえて、膝をつく。
びっくりした千夏が近づくと、しまっているはずの背中の羽がばさりと広がる。
しかしそれはいつもの純白の羽ではなく、紫がかった黒き羽だった。
「なにこれ……」
千夏が呆然と呟くと同時に、アルベルトは痛みで打ち震えたような顔をして
ばたりと、倒れ伏した。
「アル君! アル君っ!!」
悲鳴のような声を、千夏は上げた。
「アル君、今日も順調ー?」
アルベルトは千夏の顔を見ると、ぱっと顔を明るくする。
「超順調ーって、千夏さんは今日は買い物?」
八百屋の軒先で作業する老夫婦をちらりと見ながら千夏は頷く。
「そう、ここの野菜はよくてね」
「そっかー、めっちゃこの大根とか、肌ツヤツヤだから、フロフキとか作るといいそうだよ」
「アル君、ここで働くようになってからそんなたってないのに、もういっぱし感がすごい……」
千夏はびっくりした顔でいうと、アルベルトは嬉しそうにニヤニヤした。
「そっかなー、そうだといいな」
そこでアルベルトの雇い主である老人が、ニコニコと言った。
「おお、あんたアルベルト君の知り合いか」
「そうです、俺のここに紹介した紫紋さんの彼女さんです」
アルベルトからその説明をさらっとされると動揺する。
いい加減、紫紋との立場を言及されることに慣れないと、と思った。
老人は大きく頷いた。
「そうかい、そうかい……紫紋さんによくお礼を伝えてくれないかな、アルベルト君は本当に良く出来てる。外国人だと聞いてるが、こんなに馴染むと思わなかったくらいだ」
千夏はアルベルトがうまく、お店に馴染んでいることにホッとしていた。
最初からコミュニケーションに難があるとまったく思わない性格だったが、それでも気になっていたのだ。
アルベルトはあっとそこで声をあげた。
「そうだ、もう少しで仕事終わるから、一緒に帰ろうよ、荷物持つし」
千夏の顔はぱっと明るくなる。
なんという幸運だ。
「ありがとー、これで安心してお米が買える……!」
千夏が嬉しそうに喜んでいると、アルベルトは不思議そうに言った。
「千夏さんってちょっと子供みたいに喜ぶときあるから、なんか俺より年下に見える」
「実際何歳なんだろうね、アル君は」
アルベルトは困ったような笑みを浮かべた。
「さあ、全然思い出せないや……」
「ただいまですー」
アルベルトと家に帰る。すると紫紋が珍しく少し慌てた様子で、出迎えてくれた。
「あ、千夏さんに、アルベルト君……」
「どうしたんっすか? なんか表情さえないんですけど」
アルベルトは天使の羽をパッとひろげた。
仕事や外にいる時は、目立ちすぎるということもあって、羽を見えないようにしているが
家の中ではアルベルトは羽を出したがる。白い羽根が綺麗に輝いていた。
アルベルトの問いに紫紋は難しい顔をする。
「いやその、まる太が家出してしまったようなんです……換気で一瞬開けた窓から」
「わ、それはやばい……」
「どこ行ったんでしょね、猫の行動ってわかんないし……」
場所はわかってるんです、と紫紋は言った。
しかし言葉と裏腹に表情が重い。
不可思議に感じていると、紫紋は目を伏せた。
「どうも、近くの教会にはいりこんでしまったようで……私ではいけそうにないのです」
悪魔が神様を信仰する場所である教会に行くのはリスクが高いらしい。
具体的に身体的負担で動けなくなるだろうと。
千夏は紫紋を励ますように意気込んだ。
「だいじょうぶです、私、まる太を探してきます!」
アルベルトは千夏に賛同した。
「俺も行く! 自分が何かわかんないけど、多分天使だろ!! 行くのは余裕余裕」
「二人とも……ありがとう、でも気をつけてくださいね」
二人は軽い調子で、紫紋の言葉に相槌を打つ。
「はーい、任せてください」
「すぐに帰ってくるよ、まる太と」
千夏は荷物を紫紋に預けると、アルベルトと一緒に、まる太を探しに外に飛び出した。
紫紋は何だかまる太だけではなく、千夏とアルベルトにも気をまわしていたようにも感じたが、いつも丁寧な態度の人なので、深く考えなかった。
「ここにいたのねー、まる太」
確かにまる太は教会の敷地内にいた。
たまたま教会の見学可能な時間で、出入りしても良さそうだった。
「にぼしとかつぶし、でどうにかなるのか」
「まる太の大好物だから多分……とにかく教会に行きましょ」
「そうだな……ここが、教会」
どこか陶然とした声で言うアルベルト。
教会にくればなにか思い出すかと思ったが、何も思い出せないようだ。
残念に感じつつ、先に千夏が教会の敷地に入る。追ってアルベルトも入ろうとした。
入ろうとしたが、急に電撃が走るような光がアルベルトの体に走る。
まるでアルベルトの存在を拒んでいるようだった。
「え……あ、ぐぅう」
戸惑いを隠せないアルベルトが胸を押さえて、膝をつく。
びっくりした千夏が近づくと、しまっているはずの背中の羽がばさりと広がる。
しかしそれはいつもの純白の羽ではなく、紫がかった黒き羽だった。
「なにこれ……」
千夏が呆然と呟くと同時に、アルベルトは痛みで打ち震えたような顔をして
ばたりと、倒れ伏した。
「アル君! アル君っ!!」
悲鳴のような声を、千夏は上げた。
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