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第24話 近くで彼がいるのに、理性が、うまく、動かない
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「悪魔と堕天使は共に人類を堕とすために存在していますが、悪魔は人を惑わせる能力が強いのに対し、堕天使は感情の書き換えを得意としてるのです。正直書き換える能力に関しては悪魔より、ずっと群を抜いた能力を持っています」
ある日の昼下がり、紫紋が堕天使に関して何も知識がないのもまずいと、アルベルトに授業をしていた。
アルべルトは心底驚いたように両手をあげる。
「そんなスゴイ能力があるんですか?? はー、実感持てないっすね」
「制御出来ないのもまずいですから、ちょっとずつ教えていきますよ」
「紫紋さん、めっちゃ優しい……モテそう」
「……じゃ、次のこと教えますね」
悪魔の催淫でモテすぎた過去を思い出したのか、紫紋は目を伏せた。話を流そうとしている。
紫紋とアルベルト、なんだかんだ仲良くやれそうと思って、千夏はくすくす笑った。
「ふたりとも、今日はみんなで映画を見るって約束じゃないですか、授業はいつまでやるんですか?」
ふたりともアッという顔をする。
「すっかり忘れてましたね」
「もう、紫紋さんまで時間を忘れるなんて……」
千夏は苦笑いを浮かべる。
「なにげに、よく話を聞いてくれるのでつい……」
「なるほど」
千夏は映画のお供のお菓子を、テーブルに置く。
紫紋と千夏はお茶だが、アルベルトのために炭酸も用意していた。
アルベルトは深々とソファに座ると、なんだか楽しそうに声を掛けた。
「ふたりとも、仲いいよねー。めっちゃイイじゃん」
「あっ」
「えっ!」
紫紋と千夏は声を上げ、なぜかお互いはずかしそうに視線をそらす。
「なんか新婚夫婦みたいだよね、って言おうとしたら、視線をそらすって純情すぎ……」
「そういうこと言わないでください……」
紫紋は咳払いをして、ソファに座ろうとする。
すると、電話の音が鳴り、紫紋は頭をかしげて電話台にむかった。
「……ちょっと仕事の電話みたいです、ふたりともすいませんが、待っていただけますか」
「大丈夫っすー」
「わかりましたー」
二人はおのおの頷き、紫紋はホッとしたように部屋の外へ出ていった。
紫紋が出ていったあと、なぜか二人とも無言だった。
千夏は、今日見る映画の情報を調べていたこともあったが、アルベルトはどこかおどおどしている。
「アル君、どうしたの。貧乏ゆすりしてるけど……」
「え、マジで! ださ……」
アルベルトは目を丸くして両手を上げた。
それからおずおずと口をあけた。
「いやさ、この間。結構元気づけられたから、大根で」
「だ、大根……ああ、料理をもっていたときのことか」
「そうそう、あーんってしてくれたやつ」
千夏は顔を真っ赤にする。
あれは後で思い出した、結構すごいことしちゃったかもと、恥ずかしかったのだ。
「いやーあれは……無我夢中で……」
「わかってるって、千夏さんも紫紋さんもやさしいよなー。俺って、自分でもどうして堕天使なのか、わかってないのに」
「まあ、お人好し……かもだけど。ここまでするのは、きっとアル君がいい人だからだよ、だってホント私達、どうしようって考えてたもん」
千夏はふふっと、ニコニコと笑う。
「そ、そんないい笑顔を浮かべて、疑うつもり無いけど、ホントだなって恥ずかしくなっちゃうよ」
「アル君も恥ずかしがることもあるのね、なんか素直だから、そういうのないのかと……」
「しつれーい、ありますよーだ。千夏さんはすっごいまっすぐな人だから、俺でもその……」
「その?」
「ナンデモナイデス」
溢れそうな感情を頬を膨らませてこらえるアルベルトが可愛く、千夏は笑い続ける。
「アル君って、弟だったのかな。上にお兄ちゃんとお姉ちゃんがいたみたいな」
「わからないよ、そこは……でも俺はきっと、お兄ちゃん!!」
ぐいっとアルベルトは千夏に迫った。
「紫紋さんじゃないけど。俺だって頼りになるんだからね!」
千夏は思いがけず顔が近くなったアルベルトの美麗さに、ドキッとしながら、できるだけ平静を保とうとした。
「そっか、期待しているよ」
「まーた、そう言うー」
アルベルトは不服そうに唇の端をさげたが、それからふっと息を抜いた。
「でも、こういう状況だからかなぁ……俺、千夏さんといるのめっちゃ楽しいよ、こんなに胸躍るくらいなことないって感じ」
千夏はその言葉を聞くとアルベルトととの仲がよくなっているのを感じた。
それはとても、最高な気分だった。
「すみませんね、戻りました。映画見ましょうか」
がちゃりとドアをあけて紫紋がもどってくる。
千夏は
「はーい、待ってましたよ! 紫紋さん」と、笑顔で出迎えた。
二時間の映画が終わり、満たされた気分でクレジットロールを見る。
ミステリー要素がある恋愛劇だったが、変に感情に訴える描写がないせいか、じっくりとゆっくりと見ることが出来た。
「良かったですね……紫紋さん、アル君」
千夏が二人の方を見ると、アルベルトはソファの上に寝転がってるし、紫紋も頭を下げて目をつむっている。
「もうー二人とも。寝ちゃうの」
アルベルトは趣味があわなくて寝たかもしれないが、紫紋は大好きそうな映画だった。
眠くなってしまうくらい疲れているのだろうか。
下から覗きこむように、千夏は紫紋の顔を見る。
キレイな顔だ。何度見たって、飽きることのない大好きな顔だ。
千夏はアルベルトを見た。安らかな寝息が聞こえてくる……。
ちょっとだけ……と千夏は、紫紋の顔に自分の顔を寄せた。
唇を重ねる。触れるようなささやかなキスだ。
したあとで、なんだか恥ずかしくなってうつむいてしまう。
「いたずらっ子」
一人でドキドキする千夏の耳に優しい声が聞こえた。
びっくりして声が出そうになる千夏の唇を、紫紋は奪った。
「あれで、足ります?」
額や耳にキスしながら、紫紋は言った。
千夏はぎゅっと目をつむって、声を震わせた。
「いえ……」
甘い息が漏れる。
「足りない、です……」
アルベルトがそばにいるのに、何をやっているのだろう。
だけど大好きで、自分の理性がうまく、動かない。
ある日の昼下がり、紫紋が堕天使に関して何も知識がないのもまずいと、アルベルトに授業をしていた。
アルべルトは心底驚いたように両手をあげる。
「そんなスゴイ能力があるんですか?? はー、実感持てないっすね」
「制御出来ないのもまずいですから、ちょっとずつ教えていきますよ」
「紫紋さん、めっちゃ優しい……モテそう」
「……じゃ、次のこと教えますね」
悪魔の催淫でモテすぎた過去を思い出したのか、紫紋は目を伏せた。話を流そうとしている。
紫紋とアルベルト、なんだかんだ仲良くやれそうと思って、千夏はくすくす笑った。
「ふたりとも、今日はみんなで映画を見るって約束じゃないですか、授業はいつまでやるんですか?」
ふたりともアッという顔をする。
「すっかり忘れてましたね」
「もう、紫紋さんまで時間を忘れるなんて……」
千夏は苦笑いを浮かべる。
「なにげに、よく話を聞いてくれるのでつい……」
「なるほど」
千夏は映画のお供のお菓子を、テーブルに置く。
紫紋と千夏はお茶だが、アルベルトのために炭酸も用意していた。
アルベルトは深々とソファに座ると、なんだか楽しそうに声を掛けた。
「ふたりとも、仲いいよねー。めっちゃイイじゃん」
「あっ」
「えっ!」
紫紋と千夏は声を上げ、なぜかお互いはずかしそうに視線をそらす。
「なんか新婚夫婦みたいだよね、って言おうとしたら、視線をそらすって純情すぎ……」
「そういうこと言わないでください……」
紫紋は咳払いをして、ソファに座ろうとする。
すると、電話の音が鳴り、紫紋は頭をかしげて電話台にむかった。
「……ちょっと仕事の電話みたいです、ふたりともすいませんが、待っていただけますか」
「大丈夫っすー」
「わかりましたー」
二人はおのおの頷き、紫紋はホッとしたように部屋の外へ出ていった。
紫紋が出ていったあと、なぜか二人とも無言だった。
千夏は、今日見る映画の情報を調べていたこともあったが、アルベルトはどこかおどおどしている。
「アル君、どうしたの。貧乏ゆすりしてるけど……」
「え、マジで! ださ……」
アルベルトは目を丸くして両手を上げた。
それからおずおずと口をあけた。
「いやさ、この間。結構元気づけられたから、大根で」
「だ、大根……ああ、料理をもっていたときのことか」
「そうそう、あーんってしてくれたやつ」
千夏は顔を真っ赤にする。
あれは後で思い出した、結構すごいことしちゃったかもと、恥ずかしかったのだ。
「いやーあれは……無我夢中で……」
「わかってるって、千夏さんも紫紋さんもやさしいよなー。俺って、自分でもどうして堕天使なのか、わかってないのに」
「まあ、お人好し……かもだけど。ここまでするのは、きっとアル君がいい人だからだよ、だってホント私達、どうしようって考えてたもん」
千夏はふふっと、ニコニコと笑う。
「そ、そんないい笑顔を浮かべて、疑うつもり無いけど、ホントだなって恥ずかしくなっちゃうよ」
「アル君も恥ずかしがることもあるのね、なんか素直だから、そういうのないのかと……」
「しつれーい、ありますよーだ。千夏さんはすっごいまっすぐな人だから、俺でもその……」
「その?」
「ナンデモナイデス」
溢れそうな感情を頬を膨らませてこらえるアルベルトが可愛く、千夏は笑い続ける。
「アル君って、弟だったのかな。上にお兄ちゃんとお姉ちゃんがいたみたいな」
「わからないよ、そこは……でも俺はきっと、お兄ちゃん!!」
ぐいっとアルベルトは千夏に迫った。
「紫紋さんじゃないけど。俺だって頼りになるんだからね!」
千夏は思いがけず顔が近くなったアルベルトの美麗さに、ドキッとしながら、できるだけ平静を保とうとした。
「そっか、期待しているよ」
「まーた、そう言うー」
アルベルトは不服そうに唇の端をさげたが、それからふっと息を抜いた。
「でも、こういう状況だからかなぁ……俺、千夏さんといるのめっちゃ楽しいよ、こんなに胸躍るくらいなことないって感じ」
千夏はその言葉を聞くとアルベルトととの仲がよくなっているのを感じた。
それはとても、最高な気分だった。
「すみませんね、戻りました。映画見ましょうか」
がちゃりとドアをあけて紫紋がもどってくる。
千夏は
「はーい、待ってましたよ! 紫紋さん」と、笑顔で出迎えた。
二時間の映画が終わり、満たされた気分でクレジットロールを見る。
ミステリー要素がある恋愛劇だったが、変に感情に訴える描写がないせいか、じっくりとゆっくりと見ることが出来た。
「良かったですね……紫紋さん、アル君」
千夏が二人の方を見ると、アルベルトはソファの上に寝転がってるし、紫紋も頭を下げて目をつむっている。
「もうー二人とも。寝ちゃうの」
アルベルトは趣味があわなくて寝たかもしれないが、紫紋は大好きそうな映画だった。
眠くなってしまうくらい疲れているのだろうか。
下から覗きこむように、千夏は紫紋の顔を見る。
キレイな顔だ。何度見たって、飽きることのない大好きな顔だ。
千夏はアルベルトを見た。安らかな寝息が聞こえてくる……。
ちょっとだけ……と千夏は、紫紋の顔に自分の顔を寄せた。
唇を重ねる。触れるようなささやかなキスだ。
したあとで、なんだか恥ずかしくなってうつむいてしまう。
「いたずらっ子」
一人でドキドキする千夏の耳に優しい声が聞こえた。
びっくりして声が出そうになる千夏の唇を、紫紋は奪った。
「あれで、足ります?」
額や耳にキスしながら、紫紋は言った。
千夏はぎゅっと目をつむって、声を震わせた。
「いえ……」
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だけど大好きで、自分の理性がうまく、動かない。
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