25 / 30
第25話 君の首筋に噛み付いた
しおりを挟む
「……」
映画が終わり、二人がキスをする。
けれど二人は気づかなかった。
その密かな逢瀬に耳をそばたてるひとがいたのに……
「アルベルト君、どうしたの。なんだか表情が冴えないけど」
大学終わりに、紫紋の家に寄ってまる太の世話をしていると、仕事が休みでだらだらしているアルベルトに会った。
アルベルトは頭をかきながら、ふわわとあくびをする。
だらしない仕草だが、普段はわりときっちりとしているアルベルトだと思うと、どこか新鮮さを覚えた。
「なんか、夢を見てて……」
「夢?」
千夏はまる太の遊び相手をしているので、アルベルトの方を向かないで話を聞く。
ぼんやりとした声で、アルベルトは言った。
「千夏さんと紫紋さんがキスしてるところを、見ちゃった夢。この間の映画見たじゃない、それの終わり際だったかな」
ドキリとした。
アルベルトはとてもよく寝入っていたし、紫紋とキスはしたがそれほど長くはなかったはずだ。
気づいてないけど、気づいている……?
なんともいえない状況だったが、千夏は苦笑した。
「すっごい夢……そんな夢を見るなんて、困っちゃうでしょ」
アルベルトはんーと言いながら、ぼそっと呟く。
「困ってるのかな……?」
「え?」
「どっちかというと、なんかモヤった……いや、二人がキスしても当たり前なんだけど」
「それは……フシギだね……」
千夏は小首をかしげる。
何故、彼はもやもやしたのだろう。近くでいちゃつくなってことだろうか。
いや、そうね、そうだわ…‥慎太郎もよく場所をわきまえずラブラブしてるカップル嫌いだったし。
千夏は実際にしてたという事実は言えず、気分転換しようとアルベルトの方を向いた。
アルベルトはしょんぼりした犬のようだった。
「もうーそんなに凹んで、おいしいものでもつくる?」
「俺、そんな子供じゃないよ、多分……」
あははと千夏はから笑いする……。
「そうだね、私もお母さんみたいだった」
「そうだよ、お母さんみたいだよ、ちなつおかーさん」
青年というくらいの年の外見の男に言われるとシュール……なはずなのに
アルベルトが言うと妙に説得力があった。寄る辺のない子供の心細さのようなものを感じたのかもしれない。
アルベルトの見た目と中身は相当違ったり……?
千夏はぐるぐるとしそうな思考があまりよくない方向にすすんでいる気配に気づき、ふるふると頭を横に振った。
「ちょっと、ご飯食べよ、何も食べてないでしょ、我ながら……またお母さんみたいなこと言ってるけど」
千夏はキッチンの方へと向かう。その時だ、がくと膝から力が抜けた。
さすがにいきなりのことで、姿勢がとれない。底なしの穴に落ちるような感覚をおぼえて、床に膝を強く打つかと思った。
しかしそうならなかった。アルベルトが背中から抱きとめて、そのまま尻もちをついたのだ。
こういうことは以前もあった。その時、千夏は紫紋に対してあきらかな恋心を自覚したのだ。
けれどアノ時は慌てすぎて転びかけたが、今は違う。明らかに膝の力が不意に抜けた。
ドキドキする……アルベルトとこんなに近くなったことはなかった。
「千夏さん、大丈夫? いきなり転ぶから驚いたよ」
「ん、うん、びっくりした……こんなことってあるんだね」
アルベルトが抱きとめた腕に力をこめた。
耳元で囁いてくる。
「千夏さん、もしかして少し痩せたんじゃない?」
「え、なんでそれを」
千夏はびっくりして目を丸くした。
確かに最近痩せ傾向で、一生懸命食べてるのだ……。
「魂の力、ちょっと、ちょっとだけ弱くなってるんだ。だから体の力、抜けちゃったと思う」
それはどういう……と思うと同時に、急に自分の体の状態を自覚したのか頭が意識がぐらぐらとする。
「俺の力を少しわけるよ……一気に弱くなってるから、ごめんね、強引で」
首筋に歯がたてられ、鈍い痛みが走った、
「っつ、あぁ……」
何かが流し込まれたような感覚。胸の奥がぎゅっと締め付けられる。
何も考えられず、頭と体の感覚は快感と痛みがないまぜになった。
やがてふっと臨界点を迎えたのか、意識が途切れる、その寸前。
こんな言葉が聞こえた。
「千夏さん、きっとこのままじゃ、いられないよ……」
映画が終わり、二人がキスをする。
けれど二人は気づかなかった。
その密かな逢瀬に耳をそばたてるひとがいたのに……
「アルベルト君、どうしたの。なんだか表情が冴えないけど」
大学終わりに、紫紋の家に寄ってまる太の世話をしていると、仕事が休みでだらだらしているアルベルトに会った。
アルベルトは頭をかきながら、ふわわとあくびをする。
だらしない仕草だが、普段はわりときっちりとしているアルベルトだと思うと、どこか新鮮さを覚えた。
「なんか、夢を見てて……」
「夢?」
千夏はまる太の遊び相手をしているので、アルベルトの方を向かないで話を聞く。
ぼんやりとした声で、アルベルトは言った。
「千夏さんと紫紋さんがキスしてるところを、見ちゃった夢。この間の映画見たじゃない、それの終わり際だったかな」
ドキリとした。
アルベルトはとてもよく寝入っていたし、紫紋とキスはしたがそれほど長くはなかったはずだ。
気づいてないけど、気づいている……?
なんともいえない状況だったが、千夏は苦笑した。
「すっごい夢……そんな夢を見るなんて、困っちゃうでしょ」
アルベルトはんーと言いながら、ぼそっと呟く。
「困ってるのかな……?」
「え?」
「どっちかというと、なんかモヤった……いや、二人がキスしても当たり前なんだけど」
「それは……フシギだね……」
千夏は小首をかしげる。
何故、彼はもやもやしたのだろう。近くでいちゃつくなってことだろうか。
いや、そうね、そうだわ…‥慎太郎もよく場所をわきまえずラブラブしてるカップル嫌いだったし。
千夏は実際にしてたという事実は言えず、気分転換しようとアルベルトの方を向いた。
アルベルトはしょんぼりした犬のようだった。
「もうーそんなに凹んで、おいしいものでもつくる?」
「俺、そんな子供じゃないよ、多分……」
あははと千夏はから笑いする……。
「そうだね、私もお母さんみたいだった」
「そうだよ、お母さんみたいだよ、ちなつおかーさん」
青年というくらいの年の外見の男に言われるとシュール……なはずなのに
アルベルトが言うと妙に説得力があった。寄る辺のない子供の心細さのようなものを感じたのかもしれない。
アルベルトの見た目と中身は相当違ったり……?
千夏はぐるぐるとしそうな思考があまりよくない方向にすすんでいる気配に気づき、ふるふると頭を横に振った。
「ちょっと、ご飯食べよ、何も食べてないでしょ、我ながら……またお母さんみたいなこと言ってるけど」
千夏はキッチンの方へと向かう。その時だ、がくと膝から力が抜けた。
さすがにいきなりのことで、姿勢がとれない。底なしの穴に落ちるような感覚をおぼえて、床に膝を強く打つかと思った。
しかしそうならなかった。アルベルトが背中から抱きとめて、そのまま尻もちをついたのだ。
こういうことは以前もあった。その時、千夏は紫紋に対してあきらかな恋心を自覚したのだ。
けれどアノ時は慌てすぎて転びかけたが、今は違う。明らかに膝の力が不意に抜けた。
ドキドキする……アルベルトとこんなに近くなったことはなかった。
「千夏さん、大丈夫? いきなり転ぶから驚いたよ」
「ん、うん、びっくりした……こんなことってあるんだね」
アルベルトが抱きとめた腕に力をこめた。
耳元で囁いてくる。
「千夏さん、もしかして少し痩せたんじゃない?」
「え、なんでそれを」
千夏はびっくりして目を丸くした。
確かに最近痩せ傾向で、一生懸命食べてるのだ……。
「魂の力、ちょっと、ちょっとだけ弱くなってるんだ。だから体の力、抜けちゃったと思う」
それはどういう……と思うと同時に、急に自分の体の状態を自覚したのか頭が意識がぐらぐらとする。
「俺の力を少しわけるよ……一気に弱くなってるから、ごめんね、強引で」
首筋に歯がたてられ、鈍い痛みが走った、
「っつ、あぁ……」
何かが流し込まれたような感覚。胸の奥がぎゅっと締め付けられる。
何も考えられず、頭と体の感覚は快感と痛みがないまぜになった。
やがてふっと臨界点を迎えたのか、意識が途切れる、その寸前。
こんな言葉が聞こえた。
「千夏さん、きっとこのままじゃ、いられないよ……」
0
あなたにおすすめの小説
どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~
さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」
あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。
弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。
弟とは凄く仲が良いの!
それはそれはものすごく‥‥‥
「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」
そんな関係のあたしたち。
でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥
「うそっ! お腹が出て来てる!?」
お姉ちゃんの秘密の悩みです。
最愛の番に殺された獣王妃
望月 或
恋愛
目の前には、最愛の人の憎しみと怒りに満ちた黄金色の瞳。
彼のすぐ後ろには、私の姿をした聖女が怯えた表情で口元に両手を当てこちらを見ている。
手で隠しているけれど、その唇が堪え切れず嘲笑っている事を私は知っている。
聖女の姿となった私の左胸を貫いた彼の愛剣が、ゆっくりと引き抜かれる。
哀しみと失意と諦めの中、私の身体は床に崩れ落ちて――
突然彼から放たれた、狂気と絶望が入り混じった慟哭を聞きながら、私の思考は止まり、意識は閉ざされ永遠の眠りについた――はずだったのだけれど……?
「憐れなアンタに“選択”を与える。このままあの世に逝くか、別の“誰か”になって新たな人生を歩むか」
謎の人物の言葉に、私が選択したのは――
次期国王様の寵愛を受けるいじめられっこの私と没落していくいじめっこの貴族令嬢
さら
恋愛
名門公爵家の娘・レティシアは、幼い頃から“地味で鈍くさい”と同級生たちに嘲られ、社交界では笑い者にされてきた。中でも、侯爵令嬢セリーヌによる陰湿ないじめは日常茶飯事。誰も彼女を助けず、婚約の話も破談となり、レティシアは「無能な令嬢」として居場所を失っていく。
しかし、そんな彼女に運命の転機が訪れた。
王立学園での舞踏会の夜、次期国王アレクシス殿下が突然、レティシアの手を取り――「君が、私の隣にふさわしい」と告げたのだ。
戸惑う彼女をよそに、殿下は一途な想いを示し続け、やがてレティシアは“王妃教育”を受けながら、自らの力で未来を切り開いていく。いじめられっこだった少女は、人々の声に耳を傾け、改革を導く“知恵ある王妃”へと成長していくのだった。
一方、他人を見下し続けてきたセリーヌは、過去の行いが明るみに出て家の地位を失い、婚約者にも見放されて没落していく――。
愛する貴方の心から消えた私は…
矢野りと
恋愛
愛する夫が事故に巻き込まれ隣国で行方不明となったのは一年以上前のこと。
周りが諦めの言葉を口にしても、私は決して諦めなかった。
…彼は絶対に生きている。
そう信じて待ち続けていると、願いが天に通じたのか奇跡的に彼は戻って来た。
だが彼は妻である私のことを忘れてしまっていた。
「すまない、君を愛せない」
そう言った彼の目からは私に対する愛情はなくなっていて…。
*設定はゆるいです。
初恋だったお兄様から好きだと言われ失恋した私の出会いがあるまでの日
クロユキ
恋愛
隣に住む私より一つ年上のお兄さんは、優しくて肩まで伸ばした金色の髪の毛を結ぶその姿は王子様のようで私には初恋の人でもあった。
いつも学園が休みの日には、お茶をしてお喋りをして…勉強を教えてくれるお兄さんから好きだと言われて信じられない私は泣きながら喜んだ…でもその好きは恋人の好きではなかった……
誤字脱字がありますが、読んでもらえたら嬉しいです。
更新が不定期ですが、よろしくお願いします。
行き場を失った恋の終わらせ方
当麻月菜
恋愛
「君との婚約を白紙に戻してほしい」
自分の全てだったアイザックから別れを切り出されたエステルは、どうしてもこの恋を終わらすことができなかった。
避け続ける彼を求めて、復縁を願って、あの日聞けなかった答えを得るために、エステルは王城の夜会に出席する。
しかしやっと再会できた、そこには見たくない現実が待っていて……
恋の終わりを見届ける貴族青年と、行き場を失った恋の中をさ迷う令嬢の終わりと始まりの物語。
※他のサイトにも重複投稿しています。
側妃の条件は「子を産んだら離縁」でしたが、孤独な陛下を癒したら、執着されて離してくれません!
花瀬ゆらぎ
恋愛
「おまえには、国王陛下の側妃になってもらう」
婚約者と親友に裏切られ、傷心の伯爵令嬢イリア。
追い打ちをかけるように父から命じられたのは、若き国王フェイランの側妃になることだった。
しかし、王宮で待っていたのは、「世継ぎを産んだら離縁」という非情な条件。
夫となったフェイランは冷たく、侍女からは蔑まれ、王妃からは「用が済んだら去れ」と突き放される。
けれど、イリアは知ってしまう。 彼が兄の死と誤解に苦しみ、誰よりも孤独の中にいることを──。
「私は、陛下の幸せを願っております。だから……離縁してください」
フェイランを想い、身を引こうとしたイリア。
しかし、無関心だったはずの陛下が、イリアを強く抱きしめて……!?
「離縁する気か? 許さない。私の心を乱しておいて、逃げられると思うな」
凍てついた王の心を溶かしたのは、売られた側妃の純真な愛。
孤独な陛下に執着され、正妃へと昇り詰める逆転ラブロマンス!
※ 以下のタイトルにて、ベリーズカフェでも公開中。
【側妃の条件は「子を産んだら離縁」でしたが、陛下は私を離してくれません】
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる