26 / 30
第26話 俺を、選んで?
しおりを挟む
自分の体に何が起きているか、そんなことを言われても、千夏はわからないよとしか言えない。
アルベルトは魂の力が弱くなっていると言った。どうして弱くなっているのか、アルベルトは語らなかった。
何も考えないほうがいいとわかっている。
でも千夏は考えてしまって、その結果、自分の体が弱まった原因に紫紋が関係してないと思えないのだ。
紫紋は悪魔で、普段はまるで悪魔のような素振りは見せないが、人間とは違う。
彼は一度告白した際、苦渋の顔で、記憶を消そうとしてきた。それが千夏への思慕で出来なかったとも。
あの行為の裏にはなにか、事情があったのでは……と考えてしまう。
もやもやと考えても意味がないかもしれないのに。ただ聞く勇気も持てなくて、千夏は深く息をついた。
紫紋が今日から仕事の研究会のため遠出することになっていた。
朝ゆっくり目に立つと言っていたので、朝食後のお茶まで共にすることが出来た。
紫紋はいつもと様子が変わらず、紅茶を飲んでいる。メガネをかけて新聞を読んでいるので、千夏が紫紋をちらりと見ても気づく様子がなかった。
千夏は言った。
「紫紋さんって、誘われて今日の研究会に出席するんですよね」
「ああ、そうですね……十年来の友人がいまして、毎度会う度に若作りといわれてしまうんですが」
「紫紋さんに年はあんまり関係ないところはあるでしょうね、悪魔だから……」
「ですね、まあ、今更魔界に帰っても、人間臭いといわれるような始末でしょうが」
「ホント、紫紋さんはずっと、人間界にいるんですもんね、二百年も……」
紫紋は頷き、微笑みを浮かべる。その顔が本当に幸せそうだった。
悪魔の片鱗も見えない。
「たまーに本当に、紫紋さんが悪魔なのかって思っちゃいますよ。こんなに優しくて、人間と繋がっている悪魔なんていないでしょう」
紫紋は千夏の言葉に、少し物憂げに目を伏せた。
「ですね……私思うんです……ずっとこのまま、千夏さん、アルべルド君、町のみんなと、一緒にいたいって」
「紫紋さん……」
「人間だったら、良かったですね」
なんと返せばいいのか分からなかったし
紫紋はソレ以上、何も言わなかった。
時計の針の音が妙に部屋に響いていた。
庭の植物の剪定をする。冬の初めで元気な植物が減ってきて片付けることが増えてきた。
それでも、陽の光を少しでも浴びよう葉や枝を伸ばす植物を丁寧に世話をする。
アルベルトはそれを眺めていた。
「ちーなつさん、表情さえないよ」
アルベルトが声を掛けてくる。
「ごめんごめん、ちょっとボーとしちゃって」
「大丈夫? そういやごめんね、首筋に噛んじゃって……」
千夏は苦笑いした。
「ああ、まあ、あれは仕方ない……のかな。でもおかげでちょっと元気になった気がする」
実際減少しがちな食欲が戻って、体重も落ち着いてきたのだ。
アルベルトの行為のおかげかもしれない。
「……俺は、ちょっとドキドキしてたよ、正直」
「ええ……あんなことしたのに?」
「だ、だって、もう千夏さんの体から、紫紋さんの力がめっちゃ感じて……なんだろ染め上げられているっていうのかな、そういう人に触れるって、いろいろやばかったよ」
千夏は息を飲んだ。
もう何度も丁寧にキスされてるし抱かれてるし、日々を一緒に過ごしてきたのだ。
それが年月で考えると短い時間でも、濃い日々だった。
顔がとてもとても熱くなる。千夏は自然と黙々とした動きになった。
「あのさ、千夏さんって紫紋さんのことが好き?」
「え、なに急に」
感情をこらえようとしていたので、思わず素っ頓狂な声をあげる。
そんなの聞くの野暮な、いやでもアルベルトは素直に聞いてきたのだろうと想像がつく。
千夏は小声で言った。
「好きだよ……すごく、私恋愛失敗しがちだったけど、でも紫紋さんなら信じられる……」
「でも千夏さんの魂の力の弱まりは、多分割と長く続いてるよ。きっと俺と出会う前から……」
千夏は唇をぎゅっと噛む。
何も考えたくないし、何も言いたくない。
現実なんて知りたくない。
「そっか、本当に好きなんだね」
「うん……」
千夏は小さなジョウロを置く。
急に寒気を感じて身を縮こませた。
冬の寒気が心にしみる。家に帰って、飲み物でも飲もうかとおもった瞬間。
アルベルトに腕を引かれ、抱きしめられた。
「ア、アル君……?」
「……俺、紫紋さんが結構好きだよ、すげー良い悪魔だよ、三人でこうして何でもない生活だって続けたい。でもね、その紫紋さんより、俺……」
アルベルト、声を震わせた。
「千夏さんがどうかしちゃったら嫌なんだ……本当に……好きだから。ひどいこと言ってるとおもう、無茶苦茶だと思う……でも、俺を、えらんで? 俺だったら千夏さんの魂を弱らせないから、ずっと愛してるから……!」
アルベルトは魂の力が弱くなっていると言った。どうして弱くなっているのか、アルベルトは語らなかった。
何も考えないほうがいいとわかっている。
でも千夏は考えてしまって、その結果、自分の体が弱まった原因に紫紋が関係してないと思えないのだ。
紫紋は悪魔で、普段はまるで悪魔のような素振りは見せないが、人間とは違う。
彼は一度告白した際、苦渋の顔で、記憶を消そうとしてきた。それが千夏への思慕で出来なかったとも。
あの行為の裏にはなにか、事情があったのでは……と考えてしまう。
もやもやと考えても意味がないかもしれないのに。ただ聞く勇気も持てなくて、千夏は深く息をついた。
紫紋が今日から仕事の研究会のため遠出することになっていた。
朝ゆっくり目に立つと言っていたので、朝食後のお茶まで共にすることが出来た。
紫紋はいつもと様子が変わらず、紅茶を飲んでいる。メガネをかけて新聞を読んでいるので、千夏が紫紋をちらりと見ても気づく様子がなかった。
千夏は言った。
「紫紋さんって、誘われて今日の研究会に出席するんですよね」
「ああ、そうですね……十年来の友人がいまして、毎度会う度に若作りといわれてしまうんですが」
「紫紋さんに年はあんまり関係ないところはあるでしょうね、悪魔だから……」
「ですね、まあ、今更魔界に帰っても、人間臭いといわれるような始末でしょうが」
「ホント、紫紋さんはずっと、人間界にいるんですもんね、二百年も……」
紫紋は頷き、微笑みを浮かべる。その顔が本当に幸せそうだった。
悪魔の片鱗も見えない。
「たまーに本当に、紫紋さんが悪魔なのかって思っちゃいますよ。こんなに優しくて、人間と繋がっている悪魔なんていないでしょう」
紫紋は千夏の言葉に、少し物憂げに目を伏せた。
「ですね……私思うんです……ずっとこのまま、千夏さん、アルべルド君、町のみんなと、一緒にいたいって」
「紫紋さん……」
「人間だったら、良かったですね」
なんと返せばいいのか分からなかったし
紫紋はソレ以上、何も言わなかった。
時計の針の音が妙に部屋に響いていた。
庭の植物の剪定をする。冬の初めで元気な植物が減ってきて片付けることが増えてきた。
それでも、陽の光を少しでも浴びよう葉や枝を伸ばす植物を丁寧に世話をする。
アルベルトはそれを眺めていた。
「ちーなつさん、表情さえないよ」
アルベルトが声を掛けてくる。
「ごめんごめん、ちょっとボーとしちゃって」
「大丈夫? そういやごめんね、首筋に噛んじゃって……」
千夏は苦笑いした。
「ああ、まあ、あれは仕方ない……のかな。でもおかげでちょっと元気になった気がする」
実際減少しがちな食欲が戻って、体重も落ち着いてきたのだ。
アルベルトの行為のおかげかもしれない。
「……俺は、ちょっとドキドキしてたよ、正直」
「ええ……あんなことしたのに?」
「だ、だって、もう千夏さんの体から、紫紋さんの力がめっちゃ感じて……なんだろ染め上げられているっていうのかな、そういう人に触れるって、いろいろやばかったよ」
千夏は息を飲んだ。
もう何度も丁寧にキスされてるし抱かれてるし、日々を一緒に過ごしてきたのだ。
それが年月で考えると短い時間でも、濃い日々だった。
顔がとてもとても熱くなる。千夏は自然と黙々とした動きになった。
「あのさ、千夏さんって紫紋さんのことが好き?」
「え、なに急に」
感情をこらえようとしていたので、思わず素っ頓狂な声をあげる。
そんなの聞くの野暮な、いやでもアルベルトは素直に聞いてきたのだろうと想像がつく。
千夏は小声で言った。
「好きだよ……すごく、私恋愛失敗しがちだったけど、でも紫紋さんなら信じられる……」
「でも千夏さんの魂の力の弱まりは、多分割と長く続いてるよ。きっと俺と出会う前から……」
千夏は唇をぎゅっと噛む。
何も考えたくないし、何も言いたくない。
現実なんて知りたくない。
「そっか、本当に好きなんだね」
「うん……」
千夏は小さなジョウロを置く。
急に寒気を感じて身を縮こませた。
冬の寒気が心にしみる。家に帰って、飲み物でも飲もうかとおもった瞬間。
アルベルトに腕を引かれ、抱きしめられた。
「ア、アル君……?」
「……俺、紫紋さんが結構好きだよ、すげー良い悪魔だよ、三人でこうして何でもない生活だって続けたい。でもね、その紫紋さんより、俺……」
アルベルト、声を震わせた。
「千夏さんがどうかしちゃったら嫌なんだ……本当に……好きだから。ひどいこと言ってるとおもう、無茶苦茶だと思う……でも、俺を、えらんで? 俺だったら千夏さんの魂を弱らせないから、ずっと愛してるから……!」
0
あなたにおすすめの小説
どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~
さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」
あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。
弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。
弟とは凄く仲が良いの!
それはそれはものすごく‥‥‥
「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」
そんな関係のあたしたち。
でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥
「うそっ! お腹が出て来てる!?」
お姉ちゃんの秘密の悩みです。
最愛の番に殺された獣王妃
望月 或
恋愛
目の前には、最愛の人の憎しみと怒りに満ちた黄金色の瞳。
彼のすぐ後ろには、私の姿をした聖女が怯えた表情で口元に両手を当てこちらを見ている。
手で隠しているけれど、その唇が堪え切れず嘲笑っている事を私は知っている。
聖女の姿となった私の左胸を貫いた彼の愛剣が、ゆっくりと引き抜かれる。
哀しみと失意と諦めの中、私の身体は床に崩れ落ちて――
突然彼から放たれた、狂気と絶望が入り混じった慟哭を聞きながら、私の思考は止まり、意識は閉ざされ永遠の眠りについた――はずだったのだけれど……?
「憐れなアンタに“選択”を与える。このままあの世に逝くか、別の“誰か”になって新たな人生を歩むか」
謎の人物の言葉に、私が選択したのは――
次期国王様の寵愛を受けるいじめられっこの私と没落していくいじめっこの貴族令嬢
さら
恋愛
名門公爵家の娘・レティシアは、幼い頃から“地味で鈍くさい”と同級生たちに嘲られ、社交界では笑い者にされてきた。中でも、侯爵令嬢セリーヌによる陰湿ないじめは日常茶飯事。誰も彼女を助けず、婚約の話も破談となり、レティシアは「無能な令嬢」として居場所を失っていく。
しかし、そんな彼女に運命の転機が訪れた。
王立学園での舞踏会の夜、次期国王アレクシス殿下が突然、レティシアの手を取り――「君が、私の隣にふさわしい」と告げたのだ。
戸惑う彼女をよそに、殿下は一途な想いを示し続け、やがてレティシアは“王妃教育”を受けながら、自らの力で未来を切り開いていく。いじめられっこだった少女は、人々の声に耳を傾け、改革を導く“知恵ある王妃”へと成長していくのだった。
一方、他人を見下し続けてきたセリーヌは、過去の行いが明るみに出て家の地位を失い、婚約者にも見放されて没落していく――。
愛する貴方の心から消えた私は…
矢野りと
恋愛
愛する夫が事故に巻き込まれ隣国で行方不明となったのは一年以上前のこと。
周りが諦めの言葉を口にしても、私は決して諦めなかった。
…彼は絶対に生きている。
そう信じて待ち続けていると、願いが天に通じたのか奇跡的に彼は戻って来た。
だが彼は妻である私のことを忘れてしまっていた。
「すまない、君を愛せない」
そう言った彼の目からは私に対する愛情はなくなっていて…。
*設定はゆるいです。
初恋だったお兄様から好きだと言われ失恋した私の出会いがあるまでの日
クロユキ
恋愛
隣に住む私より一つ年上のお兄さんは、優しくて肩まで伸ばした金色の髪の毛を結ぶその姿は王子様のようで私には初恋の人でもあった。
いつも学園が休みの日には、お茶をしてお喋りをして…勉強を教えてくれるお兄さんから好きだと言われて信じられない私は泣きながら喜んだ…でもその好きは恋人の好きではなかった……
誤字脱字がありますが、読んでもらえたら嬉しいです。
更新が不定期ですが、よろしくお願いします。
行き場を失った恋の終わらせ方
当麻月菜
恋愛
「君との婚約を白紙に戻してほしい」
自分の全てだったアイザックから別れを切り出されたエステルは、どうしてもこの恋を終わらすことができなかった。
避け続ける彼を求めて、復縁を願って、あの日聞けなかった答えを得るために、エステルは王城の夜会に出席する。
しかしやっと再会できた、そこには見たくない現実が待っていて……
恋の終わりを見届ける貴族青年と、行き場を失った恋の中をさ迷う令嬢の終わりと始まりの物語。
※他のサイトにも重複投稿しています。
側妃の条件は「子を産んだら離縁」でしたが、孤独な陛下を癒したら、執着されて離してくれません!
花瀬ゆらぎ
恋愛
「おまえには、国王陛下の側妃になってもらう」
婚約者と親友に裏切られ、傷心の伯爵令嬢イリア。
追い打ちをかけるように父から命じられたのは、若き国王フェイランの側妃になることだった。
しかし、王宮で待っていたのは、「世継ぎを産んだら離縁」という非情な条件。
夫となったフェイランは冷たく、侍女からは蔑まれ、王妃からは「用が済んだら去れ」と突き放される。
けれど、イリアは知ってしまう。 彼が兄の死と誤解に苦しみ、誰よりも孤独の中にいることを──。
「私は、陛下の幸せを願っております。だから……離縁してください」
フェイランを想い、身を引こうとしたイリア。
しかし、無関心だったはずの陛下が、イリアを強く抱きしめて……!?
「離縁する気か? 許さない。私の心を乱しておいて、逃げられると思うな」
凍てついた王の心を溶かしたのは、売られた側妃の純真な愛。
孤独な陛下に執着され、正妃へと昇り詰める逆転ラブロマンス!
※ 以下のタイトルにて、ベリーズカフェでも公開中。
【側妃の条件は「子を産んだら離縁」でしたが、陛下は私を離してくれません】
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる