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8、運の悪い人っているよね
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「それで、殿下に睨まれてお終いのはずなのだけど……」
「まだ、あるんですか?」
ちょっとうんざりしたように聞く。
まあ、ヒロインに対する注意は正当なんだろうけど。
「運悪く、青の騎士団の騎士団長様と赤の騎士団の副騎士団長様が学園の警備の視察に来ていたのよ」
「ああ、皇太子殿下が在学しているからですね」
「そうなの、平民であるヒロインが皇太子殿下に触れてしまって、警備はどうしているんだと青の騎士団長様が警備担当の副団長様を詰られてね」
「青の騎士団と赤の騎士団は仲が悪ですからね」
「そうそう、赤の騎士団の功績に青の騎士団は足元にも及ばないから、嫉妬しているのよ。見っとも無いわよね!」
また、姉ちゃんが踏ん反り返って、髪をばっさあぁとかき上げている。
「さらに運が悪い事にその日の警備にカルステン様が入っていたのよ」
「あああぁ、それは運が悪い」
目の前に連れてこられた息子に青の騎士団長アンドレアス・メッツェルダーは怒りと屈辱でどす黒い顔色になって震えていたらしい。
副団長も何とも困った顔でカルステンを始めとする警備担当の騎士たちを叱責した。
学園の建前としてはたとえ皇太子といえども、一生徒として平等に扱うという前提ではあるし、ぶつかったヒロインも生徒なのだから、騎士団長たちがその場に来なければ、不問に付されていたのだろう。
「姉上が騒いだために警備にあたっていたカルステンさんたちが叱責されたわけですね」
「……ええ、アンドレアス様もだけど、カルステン様にも帰り際物凄い目で見られたわ」
しょんぼりと俯く姉ちゃん。
「アンドレアスさん達の気持ちは分かりますが、姉上を恨むのはお門違いでしょう」
「そうよね! 本当に小さい男だわ!」
俺の言葉に嬉しそうに顔を上げて、また髪をばっさあぁとかき上げている。
……なんか、本当に婚約者(不可能)にこれっぽっちも未練がないんだな。
「姉上、もう皇太子殿下とカルステンさんの好感度はマイナスを振り切っていると思いますが、カルステンさんに未練がないのなら、ヒロインに意地悪しなくてもいいんじゃないですか?」
というか、姉ちゃんが攻略対象に嫌われると俺にも影響があるんですけど。
「分かっているわ。……でも」
「でも?」
「なんでもない! 大人しくすればいいでしょう。貴方には迷惑かけないようにするから安心しなさい」
高笑いする姉ちゃん、……それを一番やめて欲しいだけど。
「貴方も学園に入学する訳だけど、卒業したら、どうするの?」
「え? この家の跡継ぎに」
「エッフェンベルク家は大した資産はないわよ」
「ええ! そ、そうなのですか」
思わず、茫然となった。
姉ちゃんの説明によると帝都郊外に城館があり、まあまあの広さの小麦畑と果樹園がエッフェンベルク家が代々受け継いできた唯一の資産とのこと。
「もちろん、衣食住に困るほどではないし、今いる使用人たちを半分ほど減らすことになるけど、最低限は雇い続けられるほどの収入はある程度。何しろ代々我が家は騎士団の騎士隊長以上の職に就いてきたから、その俸給や報奨金で裕福な生活が出来ていたのよね。貴方も騎士になるか、文官になるか考えたほうがいいわよ」
「……分かりました」
がっくりと肩を落とす。まあそれでも今までの生活に比べれば夢みたいな生活だけど。
「使用人は減らしたくないな」
「そうね、うちはそこそこお給料は良いし、長年働いてくれた使用人に年金も払っているから、貴方が無職で資産を切り崩すことをすれば、路頭に迷う者が出て来るわね」
姉ちゃんの言葉にかあっと顔に血が上り、俯いた。
すごく恥ずかしかった。
俺は自分のことしか考えてなかったけど、姉ちゃんは仕えている者のことを考えている。
「姉ちゃん、えらいよ。俺、自分のことしか考えてなかったもの」
「伊達に伯爵令嬢ではなくってよ! あと言葉遣いに気をつけなさい、マルガの鞭が飛んでくるわよ」
俺の褒め言葉にちょっと赤くなって、重低音の高笑いをする姉ちゃん。
「万が一こ……なんでも無いわ! 旦那様を支えて、領地経営をすることも考えて勉強したのよ! うおほほほほ」
ぶわわわと尻尾を膨らませながら、姉ちゃんの高笑いを聞いていた。
うん、姉ちゃんは本物の令嬢だよ。
カルステンさんも、最初に姉ちゃんのこういうところを知っていれば、好きになった…可能性も無くは無いような……無理か。
まあ、世の中は広いし、姉ちゃんの心根を分かってくれる残念な趣味の人がいるかもしれない。
俺もこっそり応援するよ、姉ちゃんを引き取ってくれる犠牲者……もとい、結婚できるように。
「まだ、あるんですか?」
ちょっとうんざりしたように聞く。
まあ、ヒロインに対する注意は正当なんだろうけど。
「運悪く、青の騎士団の騎士団長様と赤の騎士団の副騎士団長様が学園の警備の視察に来ていたのよ」
「ああ、皇太子殿下が在学しているからですね」
「そうなの、平民であるヒロインが皇太子殿下に触れてしまって、警備はどうしているんだと青の騎士団長様が警備担当の副団長様を詰られてね」
「青の騎士団と赤の騎士団は仲が悪ですからね」
「そうそう、赤の騎士団の功績に青の騎士団は足元にも及ばないから、嫉妬しているのよ。見っとも無いわよね!」
また、姉ちゃんが踏ん反り返って、髪をばっさあぁとかき上げている。
「さらに運が悪い事にその日の警備にカルステン様が入っていたのよ」
「あああぁ、それは運が悪い」
目の前に連れてこられた息子に青の騎士団長アンドレアス・メッツェルダーは怒りと屈辱でどす黒い顔色になって震えていたらしい。
副団長も何とも困った顔でカルステンを始めとする警備担当の騎士たちを叱責した。
学園の建前としてはたとえ皇太子といえども、一生徒として平等に扱うという前提ではあるし、ぶつかったヒロインも生徒なのだから、騎士団長たちがその場に来なければ、不問に付されていたのだろう。
「姉上が騒いだために警備にあたっていたカルステンさんたちが叱責されたわけですね」
「……ええ、アンドレアス様もだけど、カルステン様にも帰り際物凄い目で見られたわ」
しょんぼりと俯く姉ちゃん。
「アンドレアスさん達の気持ちは分かりますが、姉上を恨むのはお門違いでしょう」
「そうよね! 本当に小さい男だわ!」
俺の言葉に嬉しそうに顔を上げて、また髪をばっさあぁとかき上げている。
……なんか、本当に婚約者(不可能)にこれっぽっちも未練がないんだな。
「姉上、もう皇太子殿下とカルステンさんの好感度はマイナスを振り切っていると思いますが、カルステンさんに未練がないのなら、ヒロインに意地悪しなくてもいいんじゃないですか?」
というか、姉ちゃんが攻略対象に嫌われると俺にも影響があるんですけど。
「分かっているわ。……でも」
「でも?」
「なんでもない! 大人しくすればいいでしょう。貴方には迷惑かけないようにするから安心しなさい」
高笑いする姉ちゃん、……それを一番やめて欲しいだけど。
「貴方も学園に入学する訳だけど、卒業したら、どうするの?」
「え? この家の跡継ぎに」
「エッフェンベルク家は大した資産はないわよ」
「ええ! そ、そうなのですか」
思わず、茫然となった。
姉ちゃんの説明によると帝都郊外に城館があり、まあまあの広さの小麦畑と果樹園がエッフェンベルク家が代々受け継いできた唯一の資産とのこと。
「もちろん、衣食住に困るほどではないし、今いる使用人たちを半分ほど減らすことになるけど、最低限は雇い続けられるほどの収入はある程度。何しろ代々我が家は騎士団の騎士隊長以上の職に就いてきたから、その俸給や報奨金で裕福な生活が出来ていたのよね。貴方も騎士になるか、文官になるか考えたほうがいいわよ」
「……分かりました」
がっくりと肩を落とす。まあそれでも今までの生活に比べれば夢みたいな生活だけど。
「使用人は減らしたくないな」
「そうね、うちはそこそこお給料は良いし、長年働いてくれた使用人に年金も払っているから、貴方が無職で資産を切り崩すことをすれば、路頭に迷う者が出て来るわね」
姉ちゃんの言葉にかあっと顔に血が上り、俯いた。
すごく恥ずかしかった。
俺は自分のことしか考えてなかったけど、姉ちゃんは仕えている者のことを考えている。
「姉ちゃん、えらいよ。俺、自分のことしか考えてなかったもの」
「伊達に伯爵令嬢ではなくってよ! あと言葉遣いに気をつけなさい、マルガの鞭が飛んでくるわよ」
俺の褒め言葉にちょっと赤くなって、重低音の高笑いをする姉ちゃん。
「万が一こ……なんでも無いわ! 旦那様を支えて、領地経営をすることも考えて勉強したのよ! うおほほほほ」
ぶわわわと尻尾を膨らませながら、姉ちゃんの高笑いを聞いていた。
うん、姉ちゃんは本物の令嬢だよ。
カルステンさんも、最初に姉ちゃんのこういうところを知っていれば、好きになった…可能性も無くは無いような……無理か。
まあ、世の中は広いし、姉ちゃんの心根を分かってくれる残念な趣味の人がいるかもしれない。
俺もこっそり応援するよ、姉ちゃんを引き取ってくれる犠牲者……もとい、結婚できるように。
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