姉ちゃんは悪役令嬢

ぽてち

文字の大きさ
8 / 10

8、運の悪い人っているよね

しおりを挟む
「それで、殿下に睨まれてお終いのはずなのだけど……」
「まだ、あるんですか?」

 ちょっとうんざりしたように聞く。
 まあ、ヒロインに対する注意は正当なんだろうけど。

「運悪く、青の騎士団の騎士団長様と赤の騎士団の副騎士団長様が学園の警備の視察に来ていたのよ」
「ああ、皇太子殿下が在学しているからですね」
「そうなの、平民であるヒロインが皇太子殿下に触れてしまって、警備はどうしているんだと青の騎士団長様が警備担当の副団長様を詰られてね」
「青の騎士団と赤の騎士団は仲が悪ですからね」
「そうそう、赤の騎士団の功績に青の騎士団は足元にも及ばないから、嫉妬しているのよ。見っとも無いわよね!」
 
 また、姉ちゃんが踏ん反り返って、髪をばっさあぁとかき上げている。

「さらに運が悪い事にその日の警備にカルステン様が入っていたのよ」
「あああぁ、それは運が悪い」

 目の前に連れてこられた息子カルステンに青の騎士団長アンドレアス・メッツェルダーは怒りと屈辱でどす黒い顔色になって震えていたらしい。
 副団長も何とも困った顔でカルステンを始めとする警備担当の騎士たちを叱責した。
 学園の建前としてはたとえ皇太子といえども、一生徒として平等に扱うという前提ではあるし、ぶつかったヒロインも生徒なのだから、騎士団長たちがその場に来なければ、不問に付されていたのだろう。

「姉上が騒いだために警備にあたっていたカルステンさんたちが叱責されたわけですね」
「……ええ、アンドレアス様もだけど、カルステン様にも帰り際物凄い目で見られたわ」
 しょんぼりと俯く姉ちゃん。
「アンドレアスさん達の気持ちは分かりますが、姉上を恨むのはお門違いでしょう」
「そうよね! 本当に小さい男だわ!」

 俺の言葉に嬉しそうに顔を上げて、また髪をばっさあぁとかき上げている。
 ……なんか、本当に婚約者(不可能)にこれっぽっちも未練がないんだな。

「姉上、もう皇太子殿下とカルステンさんの好感度はマイナスを振り切っていると思いますが、カルステンさんに未練がないのなら、ヒロインに意地悪しなくてもいいんじゃないですか?」

 というか、姉ちゃんが攻略対象権力者に嫌われると俺にも影響があるんですけど。

「分かっているわ。……でも」
「でも?」
「なんでもない! 大人しくすればいいでしょう。貴方には迷惑かけないようにするから安心しなさい」
 高笑いする姉ちゃん、……それを一番やめて欲しいだけど。


「貴方も学園に入学する訳だけど、卒業したら、どうするの?」
「え? この家の跡継ぎに」
「エッフェンベルク家は大した資産はないわよ」
「ええ! そ、そうなのですか」
 思わず、茫然となった。

 姉ちゃんの説明によると帝都郊外に城館ランドハウスがあり、まあまあの広さの小麦畑と果樹園がエッフェンベルク家が代々受け継いできた唯一の資産とのこと。
「もちろん、衣食住に困るほどではないし、今いる使用人たちを半分ほど減らすことになるけど、最低限は雇い続けられるほどの収入はある程度。何しろ代々我が家は騎士団の騎士隊長以上の職に就いてきたから、その俸給や報奨金で裕福な生活が出来ていたのよね。貴方も騎士になるか、文官になるか考えたほうがいいわよ」
「……分かりました」

 がっくりと肩を落とす。まあそれでも今までの生活に比べれば夢みたいな生活だけど。

「使用人は減らしたくないな」
「そうね、うちはそこそこお給料は良いし、長年働いてくれた使用人に年金も払っているから、貴方が無職で資産を切り崩すことをすれば、路頭に迷う者が出て来るわね」
 姉ちゃんの言葉にかあっと顔に血が上り、俯いた。

 すごく恥ずかしかった。
 俺は自分のことしか考えてなかったけど、姉ちゃんは仕えている者のことを考えている。

「姉ちゃん、えらいよ。俺、自分のことしか考えてなかったもの」
「伊達に伯爵令嬢ではなくってよ! あと言葉遣いに気をつけなさい、マルガの鞭が飛んでくるわよ」
 俺の褒め言葉にちょっと赤くなって、重低音の高笑いをする姉ちゃん。
「万が一こ……なんでも無いわ! 旦那様を支えて、領地経営をすることも考えて勉強したのよ! うおほほほほ」

 ぶわわわと尻尾を膨らませながら、姉ちゃんの高笑いを聞いていた。
 うん、姉ちゃんは本物の令嬢だよ。
 カルステンさんも、最初に姉ちゃんのこういうところを知っていれば、好きになった…可能性も無くは無いような……無理か。

 まあ、世の中は広いし、姉ちゃんの心根を分かってくれる残念な趣味の人がいるかもしれない。
 俺もこっそり応援するよ、姉ちゃんを引き取ってくれる犠牲者……もとい、結婚できるように。
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~

さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」 あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。 弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。 弟とは凄く仲が良いの! それはそれはものすごく‥‥‥ 「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」 そんな関係のあたしたち。 でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥ 「うそっ! お腹が出て来てる!?」 お姉ちゃんの秘密の悩みです。

この世界、イケメンが迫害されてるってマジ!?〜アホの子による無自覚救済物語〜

具なっしー
恋愛
※この表紙は前世基準。本編では美醜逆転してます。AIです 転生先は──美醜逆転、男女比20:1の世界!? 肌は真っ白、顔のパーツは小さければ小さいほど美しい!? その結果、地球基準の超絶イケメンたちは “醜男(キメオ)” と呼ばれ、迫害されていた。 そんな世界に爆誕したのは、脳みそふわふわアホの子・ミーミ。 前世で「喋らなければ可愛い」と言われ続けた彼女に同情した神様は、 「この子は救済が必要だ…!」と世界一の美少女に転生させてしまった。 「ひきわり納豆顔じゃん!これが美しいの??」 己の欲望のために押せ押せ行動するアホの子が、 結果的にイケメン達を救い、世界を変えていく──! 「すきーー♡結婚してください!私が幸せにしますぅ〜♡♡♡」 でも、気づけば彼らが全方向から迫ってくる逆ハーレム状態に……! アホの子が無自覚に世界を救う、 価値観バグりまくりご都合主義100%ファンタジーラブコメ!

敵に貞操を奪われて癒しの力を失うはずだった聖女ですが、なぜか前より漲っています

藤谷 要
恋愛
サルサン国の聖女たちは、隣国に征服される際に自国の王の命で殺されそうになった。ところが、侵略軍将帥のマトルヘル侯爵に助けられた。それから聖女たちは侵略国に仕えるようになったが、一か月後に筆頭聖女だったルミネラは命の恩人の侯爵へ嫁ぐように国王から命じられる。 結婚披露宴では、陛下に側妃として嫁いだ旧サルサン国王女が出席していたが、彼女は侯爵に腕を絡めて「陛下の手がつかなかったら一年後に妻にしてほしい」と頼んでいた。しかも、侯爵はその手を振り払いもしない。 聖女は愛のない交わりで神の加護を失うとされているので、当然白い結婚だと思っていたが、初夜に侯爵のメイアスから体の関係を迫られる。彼は命の恩人だったので、ルミネラはそのまま彼を受け入れた。 侯爵がかつての恋人に似ていたとはいえ、侯爵と孤児だった彼は全く別人。愛のない交わりだったので、当然力を失うと思っていたが、なぜか以前よりも力が漲っていた。 ※全11話 2万字程度の話です。

甘い匂いの人間は、極上獰猛な獣たちに奪われる 〜居場所を求めた少女の転移譚〜

具なっしー
恋愛
「誰かを、全力で愛してみたい」 居場所のない、17歳の少女・鳴宮 桃(なるみや もも)。 幼い頃に両親を亡くし、叔父の家で家政婦のような日々を送る彼女は、誰にも言えない孤独を抱えていた。そんな桃が、願いをかけた神社の光に包まれ目覚めたのは、獣人たちが支配する異世界。 そこは、男女比50:1という極端な世界。女性は複数の夫に囲われて贅沢を享受するのが常識だった。 しかし、桃は異世界の女性が持つ傲慢さとは無縁で、控えめなまま。 そして彼女の身体から放たれる**"甘いフェロモン"は、野生の獣人たちにとって極上の獲物**でしかない。 盗賊に囚われかけたところを、美形で無口なホワイトタイガー獣人・ベンに救われた桃。孤独だった少女は、その純粋さゆえに、強く、一途で、そして獰猛な獣人たちに囲われていく――。 ※表紙はAIです

つまらなかった乙女ゲームに転生しちゃったので、サクッと終わらすことにしました

蒼羽咲
ファンタジー
つまらなかった乙女ゲームに転生⁈ 絵に惚れ込み、一目惚れキャラのためにハードまで買ったが内容が超つまらなかった残念な乙女ゲームに転生してしまった。 絵は超好みだ。内容はご都合主義の聖女なお花畑主人公。攻略イケメンも顔は良いがちょろい対象ばかり。てこたぁ逆にめちゃくちゃ住み心地のいい場所になるのでは⁈と気づき、テンションが一気に上がる!! 聖女など面倒な事はする気はない!サクッと攻略終わらせてぐーたら生活をGETするぞ! ご都合主義ならチョロい!と、野望を胸に動き出す!! +++++ ・重複投稿・土曜配信 (たま~に水曜…不定期更新)

転生したら悪役令嬢になりかけてました!〜まだ5歳だからやり直せる!〜

具なっしー
恋愛
5歳のベアトリーチェは、苦いピーマンを食べて気絶した拍子に、 前世の記憶を取り戻す。 前世は日本の女子学生。 家でも学校でも「空気を読む」ことばかりで、誰にも本音を言えず、 息苦しい毎日を過ごしていた。 ただ、本を読んでいるときだけは心が自由になれた――。 転生したこの世界は、女性が希少で、男性しか魔法を使えない世界。 女性は「守られるだけの存在」とされ、社会の中で特別に甘やかされている。 だがそのせいで、女性たちはみな我儘で傲慢になり、 横暴さを誇るのが「普通」だった。 けれどベアトリーチェは違う。 前世で身につけた「空気を読む力」と、 本を愛する静かな心を持っていた。 そんな彼女には二人の婚約者がいる。 ――父違いの、血を分けた兄たち。 彼らは溺愛どころではなく、 「彼女のためなら国を滅ぼしても構わない」とまで思っている危険な兄たちだった。 ベアトリーチェは戸惑いながらも、 この異世界で「ただ愛されるだけの人生」を歩んでいくことになる。 ※表紙はAI画像です

幼い頃に、大きくなったら結婚しようと約束した人は、英雄になりました。きっと彼はもう、わたしとの約束なんて覚えていない

ラム猫
恋愛
 幼い頃に、セレフィアはシルヴァードと出会った。お互いがまだ世間を知らない中、二人は王城のパーティーで時折顔を合わせ、交流を深める。そしてある日、シルヴァードから「大きくなったら結婚しよう」と言われ、セレフィアはそれを喜んで受け入れた。  その後、十年以上彼と再会することはなかった。  三年間続いていた戦争が終わり、シルヴァードが王国を勝利に導いた英雄として帰ってきた。彼の隣には、聖女の姿が。彼は自分との約束をとっくに忘れているだろうと、セレフィアはその場を離れた。  しかし治療師として働いているセレフィアは、彼の後遺症治療のために彼と対面することになる。余計なことは言わず、ただ彼の治療をすることだけを考えていた。が、やけに彼との距離が近い。  それどころか、シルヴァードはセレフィアに甘く迫ってくる。これは治療者に対する依存に違いないのだが……。 「シルフィード様。全てをおひとりで抱え込もうとなさらないでください。わたしが、傍にいます」 「お願い、セレフィア。……君が傍にいてくれたら、僕はまともでいられる」 ※糖度高め、勘違いが激しめ、主人公は鈍感です。ヒーローがとにかく拗れています。苦手な方はご注意ください。 ※『小説家になろう』様『カクヨム』様にも投稿しています。

異世界は『一妻多夫制』!?溺愛にすら免疫がない私にたくさんの夫は無理です!?

すずなり。
恋愛
ひょんなことから異世界で赤ちゃんに生まれ変わった私。 一人の男の人に拾われて育ててもらうけど・・・成人するくらいから回りがなんだかおかしなことに・・・。 「俺とデートしない?」 「僕と一緒にいようよ。」 「俺だけがお前を守れる。」 (なんでそんなことを私にばっかり言うの!?) そんなことを思ってる時、父親である『シャガ』が口を開いた。 「何言ってんだ?この世界は男が多くて女が少ない。たくさん子供を産んでもらうために、何人とでも結婚していいんだぞ?」 「・・・・へ!?」 『一妻多夫制』の世界で私はどうなるの!? ※お話は全て想像の世界になります。現実世界とはなんの関係もありません。 ※誤字脱字・表現不足は重々承知しております。日々精進いたしますのでご容赦ください。 ただただ暇つぶしに楽しんでいただけると幸いです。すずなり。

処理中です...