子守を引き受けただけなのに、その保護者から不審者扱いされています

四葉るり猫

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理緒の事情

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 その後、理緒は自警団から事情聴取を受け、それと同時に小さなルイは、理緒の横で医師の助手と名乗る女性の診察を受けた。男児でも肌を見せるのは貴族としてはあり得ないと別室で診察をする予定だったのだが、ルイが盛大に泣いて抵抗したため、仕方なくその場で行われる事になったのだ。理緒はルイが診察を受けやすい様にしてやりながら、その横で自警団の質問に答えていた。

 幸いと言うべきか、理緒が誘拐だと叫んだお陰で人の目が集まり、またすぐにダニーたちが駆け付けてくれたのもあって、理緒は無駄に疑われる事なく済んだ。理緒の身元を冒険者ギルドのマスターが保証している事もよかったのだろう。
 実をいうと、理緒の身分はかなり不安定なものだった。
 と言うのも、理緒はこの町の、いや、この国どころかこの世界の住人ではなかったからだ。
 


 理緒は16歳の時、この世界に突然やってきた。やってきたと言う言い方は適切ではないかもしれない。何故なら、気が付いたらここにいたからで、自分の意思で来たわけじゃなかったからだ。
 一年位前のあの日、バイトから帰る途中で駅で酔っ払いの喧嘩に巻き込まれた理緒は、勢いでホームに突き落とされてしまったのだ。そこに電車のライトが見えて、ああ、これで死ぬんだ…と思ったところで記憶が途切れた。

 目を覚ました時、理緒は見知らぬ質素な部屋で目覚めた。ベッドから身体を起こした理緒は、自分が怪我一つ負っていない事を不思議に思い、同時に早く家に帰らなければと思った。
 そこへ見知らぬ老いた女性が現れて、理緒は戸惑った。その女性は理緒が住んでいたところではあまり見かけない容貌だったからだ。まるで中世ヨーロッパに出てくるようなその女性は理緒に、魔の森と呼ばれるところで倒れていたから助けたと告げた。理緒は混乱し、ここはどうかと尋ると、女性はここは王国の北に位置するファレル辺境伯の領地で、ここはその領主が住む町から少し離れたオークスと言う街だと語った。それは理緒の知識にはない地名で、女性に日本と言う国を知らないかと尋ねたが、そんな名前の国は聞いた事がないと応えた。

 目覚めた世界は理緒の目にはやはり中世ヨーロッパのようにしか見えなかった。電車もなければ電化製品も高層ビルもない。生活水準は理緒の国とは比較にならないほど不便で、食べる物も着る物も質が悪かった。飲み水ですら井戸か川の水なのだ。

 理緒はその後、数日熱を出して寝込んで老女を大いに心配させたが、程なくして回復した。回復した理緒に老女は、もし行く当てがないなら冒険者ギルドに登録し、そこで仕事を貰って生計を立ててはどうかと教えてくれた。老女は、自分は近々この家を去り子供達の家に厄介になる、この家も既に人手に渡る手配が済んでいるから置いてあげる事は出来ないのだと告げた。冒険者ギルドなら知り合いもいるし伝もあると言う。他の身の振り方が浮かばなかった理緒は老女の申し出を有難く受けたのだった。

 一緒にギルドに行って貰って冒険者として登録を済ませた理緒は、ギルドの紹介で小さな下宿の様な部屋を借り、そこを拠点に仕事をしながら生活した。体力も武の心得もない理緒に出来るのは、皿洗いや掃除等の家事代行、子守や薬草採取などの簡単な物ばかりで、賃金もささやかなものだった。

 治安が日本ほどよくないと察した理緒は、腰まであった長い髪を短く切り少年の様な装いで生活していた。はた目からは親を亡くした孤児と思われているらしく、その方が何かと都合がいいかと思い、そのままにしておいた。さすがに知らない世界から来たなどと言っても信じて貰えそうもなかったし、下手をすると狂人や犯罪者のように扱われそうな気がしたからだった。

 それから一年、理緒は何とか一人で最低限の生活を送っていたが、日本での生活とは程遠い厳しいものだった。便利な家電もなく、身元を保証する戸籍や人もなく、たった一人で常識も生活レベルも違う世界に放り出されたのだ。何とか家族の元に戻りたいと思ったが、その方法すらもわからないまま、ただ時は過ぎていくばかりだった。

 そんな事情があったため、理緒は極力目立たないようにしていたのだが、今回の事で余計な詮索をされないかと気が気ではなかった。幸いにもダニーのお陰で事なきを得たし、これで一件落着したと思われた。

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