子守を引き受けただけなのに、その保護者から不審者扱いされています

四葉るり猫

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九死に一生を得る?

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「このクソガキ!」
「ぶっ殺してやる!」

 ルイの着替えなどを入れた袋をルイのように見せかけて走って逃げた理緒だったが、男達に捕まって袋がダミーだとバレてしまった。せっかくのお目当てを逃がした事を悟った男たちは、怒りを殺気に替えていた。既に仲間が何人も倒されただけでなく、目的の人物を捕獲出来なかったとあっては完全に失敗だ。彼らの怒りを前に、理緒は死を覚悟した。

「ぎゃあああ!」
「ぐわぁっ!」

 殺される…!と咄嗟に目を瞑った理緒の耳に届いたのは、自分ではない男たちの悲鳴だった。その展開に理解が及ばず、でも予想していた衝撃が来ない事を不審に思った理緒が目を開けると、そこには肩で息をしている辺境伯と、その足元に倒れ込んでうめき声をあげる男達だった。血に濡れた剣が木漏れ日を受けて光るのが、まるで映画のワンシーンのように見える。予想もしなかった状況に理解が及ばない…

「大丈夫か?!」
「…っ、…は、ぃ…」

 肩で息をしながらも、どうやら助かったらしい…と理解するのにも時間がかかった。元からこの様な荒事とは無縁な世界で生きてきただけに、現実味がないのだ。ただ、これまでにない程の息の苦しさと、肩からの熱だけが妙に現実的だった。助かったのかとの思いが頭をかすめたところで一気に力が抜けて、理緒はその場にへたり込んでしまった。やっと呼吸が出来る気がした。

「肩をやられたか…」
「…あ…は、い…すみません…」

 逃げるのに必死で意識の外に追い出していた現実がじわじわと押し寄せ、理緒は自分の肩に刺さった矢をもう一度視界に入れて息を飲んだ。服の上からで直接は見えないが、矢は確かに自分の肩に刺さっていたのだ。思ったほど出血がないようにも見えるが、服を着ているせいだろうか…でも、肘の辺りが濡れているように感じて視線を向けると、服が真っ赤に染まっていて、ざわり…と恐怖が湧き上がった。

「応急処置をする。傷むが我慢しろ」
「…へ…?あ、はい…」

 この人が?と思った理緒だったが、この場合どうすればいいのかわからず、理緒は任せる事にした。どちらにしろ片手しか使えないし、自分では止血も出来そうにないのだ。こういう時はどうするんだけ…と冒険者ギルドで最初に受けたレクチャーに思いを馳せたが、何も浮かばなかったのもある。切り傷の応急処置は教えて貰ったが、矢傷については聞いた事もなかったのだ。これは騎士をしていた辺境伯の方が詳しいだろう…

「どうだ?気分は悪くないか?」
「…気分…?」

 矢を抜き、止血をして貰った理緒だったが、その質問の意図が分からずに思わず聞き返してしまった。傷の具合と聞かれるのはまだわかるのだが、気分と言われても…襲撃されるし、怪我はするし、ルイ達は心配だし、よりにもよってこの人に助けられるなんて…と、気分を問われればあまりよろしくはない。さすがにそんな事は言えないが…

「矢に毒が塗ってある可能性もあるからだ。だが…その様子なら何ともなさそうだな?」
「ああ…はい、大丈夫…だと思います」

 なるほど、そういう事もあるのか…物騒な世界だなと思うが、ここは日本ではなかった。ここでは人の命は思った以上に軽く、呆気なく奪われる世界だった。先ほどの破落戸たちも死んだか、生きていても自警団か騎士が来るまではそのまま放置だろう。救護措置などしないし、そもそも犯罪者はその場で殺されても当然なのだ。犯罪者でも弁護士がついて裁判を行う日本とは大違いだった。

「…助かった」
「はい?」

 前置きもなしの簡潔すぎる謝辞は何に対してだろうと、理緒が意図を測りかねた。そもそもお礼を言われるような場面が直ぐに思い浮かばなかったからだ。むしろ礼を言うのはこちらの方だろう。

「さっきの事だ。あれは囮になってくれたのではないか?」
「…ま、まぁ…あ!ルイ様達は…」
「ああ、今頃は街に着いただろう。街は直ぐ近くだし、護衛は選りすぐりの精鋭だ。想定した以上に人数が多かったから手こずったが、お前の機転で何とかなった」
「そうですか…」

 そうか、街までの距離や護衛の事はよくわからないが、辺境伯が無事だと言うなら大丈夫なのだろう。でなければ、辺境伯もルイ達を追って行った筈で、自分を追っては来ないだろう。

「あの中でよくあんな事を思いついたな」
「あれは…前にルイ様が誘拐される場面に出くわしていたので…男達も子どもがと叫んでましたし…」
「…なるほど」
「でも、早くルイ様達を追わないと…」
「あちらは護衛もいるし大丈夫だろう。それよりもその傷では歩き回すのは危険だ。ここに来る途中で小屋があった。そこで治療をしよう」
「はぁ…って、わっ!何を…!」
「動くな。落とすぞ」

 いきなり抱きかかえられて理緒は思わず逃げようとしたが、落とすと言われてさすがに固まった。いや、この人は何をしているのだ…と疑問しかない。これは…いわゆるお姫様抱っこではないか…だが、状況と相手が悪すぎる…と理緒は生まれて初めての状況にも全く喜べなかった。

「あ、ああ歩けますから…!」
「怪我をしている状態で歩くと出血が増える。大人しくしろ。かえって重い」
「…」

 こっちの世界に来てからは食生活がロクでもなかったために随分痩せたと思っていたから、重いと言われたのは何気にショックだった。だが、出血が増えると言われた理緒は怯んで押し黙った。元の世界ではあり得ない自体に、少し落ち着いたら怖気づいたのもあった。今になって傷がじくじくと熱よりも痛みを主張してきた。
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