子守を引き受けただけなのに、その保護者から不審者扱いされています

四葉るり猫

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気が付いた異変

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 それからの理緒の生活は一変した。豪華な部屋での療養生活は、過保護にもほどがあるだろう…と言いたくなるほど無駄に手厚かった。ネリーにここまでしなくてもいいと何度かお願いしたが、婚姻の契約が成った今、辺境伯と子を成せるのはこの世界に理緒一人だけで、跡取りがルイ一人しかいない現状ではこれでも足りないくらいだと言われた。ガルシェの事もあって、理緒が毒に殊更弱いとみられたため、いくら警戒しても足りないのだと。そう言われてしまうと理緒は、反論する材料もなく黙るしかなかった。



 変化を感じたのは、辺境伯から衝撃の命令を受けて三日後だった。何気なく窓の外に視線を向けた理緒は、ガラスに映った自分の姿に違和感を持った。

「え…?」

 光の加減のせいなのか、髪の色が薄い気がしたのだ。理緒は黒髪だが、窓に映るのは随分白けた色だった。何となく気になりベッド周りを見渡すと、少し離れたチェストの上に銀色の器を見つけた。お椀のような形のそれは鏡ほどではないがその身に周囲の景色を映していたため、理緒は手に取って覗き込んで…そして言葉を失った。

「…な、なに…」

 そこに映っていたのは自分の姿だったが、決定的な違いがあった。黒かった筈の髪と目は、髪は黄色く目は青くなっていたからだ。まるで外国人の様なその色は、顔立ちはそのままなので違和感が凄い。

「リオ様?どうかされましたか?」

 呆然と器を手にしていた理緒に声をかけたのは、理緒につけられた侍女の一人で、名をジュリアと言った。二十歳くらいと理緒よりも少し年上で、真面目な性格なのかにこりともしないのはネリーも同じだった。

「…ジュリア、さん…」

 声をかけられた理緒はそれどころではなかったが、無視するわけにもいかず声の主の名を呼んだ。どうやら食事を運んできてくれたようだった。

「まだ寝ていなければいけない時期です。歩き回っていないで横になってください。それに、私の事はジュリアと。使用人にさん付は不要です」
「あ…はい、ごめんなさい…」

 居丈高な物言いに、理緒は思わず謝ってしまったが、それはそれでジュリアの機嫌を損ねたらしい。表情が一層険しくなったが、それ以上は何も言わなかった。髪と目の事を聞こうかとも思ったが、この状況で聞けるほど理緒の心臓は強くはない。しかたない、ネリーか辺境伯が来るまで待つしかないだろう。

 出された食事は、野菜と思われるものが柔らかく煮込まれたスープだった。ネリーが持ってくるものとは違い、味がイマイチで美味しいとは思わないが、理緒は病人食だからこんなものだろうと思って何も言わなかった。正直に言えば、こちらの世界の食事はあまり口に合わない。味付けが濃すぎる上、辛い物が多いのだ。それに比べれば辛さは控えめでまだ食べやすかった。



「リオ様、気分はどうです?」

 食事の後に微睡んでいた理緒だったが、声をかけられた事で意識がすっと浮上した。声の主はネリーで、理緒の顔を覗き込むように伺っていた。

「ネリーさん、様付は…」
「そうはいきません。リオ様は国王陛下も認められた辺境伯の奥方様です。もう今までと身分が違うのですから…」
「……」

 既に何度も繰り返した会話だったが、未だに違和感が拭えない理緒は、挨拶のように同じ事を繰り返していた。やり過ぎなくらいの手厚い対応もあって、様付で呼ばれると息が詰まる様に感じるのだ。理緒はふぅとネリーに気付かれないようにため息を付いたが、、あ、と声を上げた。ネリーに聞きたい事があったからだ。

「ネリーさん、教えて欲しい事があるんですけど…」

 何となく、聞くのが怖い気もするが、有耶無耶にするのももっと怖い気がした理緒は、思い切ってネリーに尋ねる事にした。もしかしたら見間違いかもしれない、という期待を込めて。

「自分の髪と目の色、おかしくないですか?」
「髪と目ですか。そうですね、綺麗に辺境伯様のお色に染まっていますわね」
「は?辺境…伯…様?」

 そう言われて理緒は、自分の見たものが勘違いでなかったのと同時に、初めて辺境伯と同じ色である事に気が付いた。確かに言われてみればそうだ。

「な、何で…そんな…」
「それは辺境伯様と婚姻されたからですわ」
「何をしたら…色が…」
「理緒様は平民だったから知らないかったかもしれませんが…魔力を持った貴族の間では珍しい事ではありません」
「魔力…?」

 そう言えば、あの黒い存在は辺境伯に、魔術の造詣が深いと言っていたな、と理緒はあの時の会話を思い出した。あの婚姻の魔術も見ただけでわかっていたし、その前には治癒魔法を使おうとしていたのだ。今まで魔術なんか見る機会がないから、この世界にはそういうファンタジー設定はないんだろうと思っていたが、どうやらしっかりと存在しているらしい。婚姻の契約で色が変わったというなら、ずっとこのままなのだろうか…

「…元に戻せないんですか?」
「戻す方法はありませんが…暫く何もしなければ元に戻ります。そうですね…そこまで染まっているとなると…二~三か月くらいはかかるでしょうか」
「そんなに…」
「同じ色である方が喜ばれるものです」
「そうなんですか…どうやって…」
「それは辺境伯様にお尋ねください。私からは何とも…」
「…そうですか…」

 ネリーの性格からして、それ以上は教える気がないのだろうと理緒は感じて、その話は終わった。戻す方法はないと言うが、何もしなければ元に戻るというのなら、それでいいかと思ったのだ。下手に質問してこの世界の者じゃないとバレるのが怖かったし、出来ない事に悩むよりもこの状況をどうするかを考える方が建設的だろう。
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