子守を引き受けただけなのに、その保護者から不審者扱いされています

四葉るり猫

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辺境伯の噂

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「え?ファレル辺境伯領に?」

 その日理緒は常連の冒険者の話から、久しぶりにファレル辺境伯の噂話を聞いた。その冒険者はギルドの依頼でファレル辺境伯領で仕事をしてきて、つい先ほど戻ってきたのだという。理緒は疑われないよう自分からファレル辺境伯に関する話を振る事は避けていたが、実をいえば情報があればどんな些細な事でも知りたかったのだ。
 あれから何もないとはいえ、辺境伯が自分を探している可能性は大いにある、と理緒は思っていた。婚姻の契約魔法は解除が出来ず、不本意ではあるが彼の妻は自分だけなのだ。辺境伯家の後継者には甥のルイがいるとはいえ、この世界は元の世界に比べて医療も脆弱で、一人では心もとない。治癒魔法があるとはいえ万能ではないからだ。それに彼が自分の子を…と思っても不思議はないだろう。理緒に興味がなくとも、子どもを欲する可能性は大いにあった。

「何だ、サラはファレルに行った事があるのか」
「え?ううん、ないけど…でも以前いたところでも噂は聞いていたから」
「ああ、辺境伯様ってのは、若くてすげーいい男だって言うな。前の辺境伯様が事故で死んで、王都から戻って来たって言うし。きっと洗礼されたいい男なんだろうって女共が言ってたな。なぁんだよ、サラも顔重視なのか」
「そんな事ないよ~でも、王女様がお嫁に来るって話なかったっけ?きっと二人並ぶと絵になるんだろうね~って話してたんだ」
「そうか。だが残念だな、辺境伯様は王女じゃなく平民を妻にしたって言うぜ」
「え?そうなの?」

 どきんと胸が跳ねたが、理緒は素知らぬ顔で相槌をした。そうか、自分と結婚したって話は口外されていたのか。隠し切れないだろうから当然だと思いながらも、あのプライドの高そうな人が…と意外に思った。

「そうなんだよなぁ~詳しくはわかんねぇけど、辺境伯様はすげぇご執心って話だぞ」
「そ、そうなんだ…」

 いやいや、それはないだろうと思いながらも、理緒は背筋がヒヤリと寒くなるのを感じた。どこに執心する要素があるのかはわからないが、庶民にまでそんな話が伝わっているとは思わなかった。基本的に貴族の話など、庶民には殆ど下りてこないからだ。執心するのはやはり自分しか子を産めないからだろうか…

「おうよ、何でも色が変わるくらいだって話だからな」
「色…って何?」
「え?あ、あ~こりゃあ、まだサラには早い話だったな」
「はぁ?」
「まぁ、その内わかるさ。しっかし、絶対王様が怒るかと思ったけど大丈夫だったな」
「え?怒る?何で?」
「そりゃあお前さん、王女様との結婚の話が出ているのに、他の女を嫁に貰ったなんて言ったら失礼ってもんだろう?その平民の方が王女様より上って言ってるようなもんだからな」
「あ、そうか…」
「まぁ、その平民もすげー美人なのかもしれないけどな~」

 いや、それもないからと理緒は思ったが、さすがに口には出さなかった。

「ふ~ん、どんな人なんだろうねぇ…」
「さぁな。まぁ、でも、王女様よりもいいと思える何かがあるんだろうなぁ…でも、まだ一度も公式の場に出て来てないから詳しい事はわかんねぇらしい。まぁ、平民だし、お貴族様の小難しい教育ってのをやってるのかもしれないけど…」
「そうなんだ…」

 そのまま冒険者は新しい仕事の話を始めたため、それ以上辺境伯の事は聞けなかった。それでも、辺境伯が自分を妻にした事を認めている一方、不在を伏せている事は理解した。まぁ、噂が流れてくるには時間がかかるので、既に領地では不在との噂が流れているのかもしれないが。
 この世界の移動は徒歩か馬、馬車が基本で、新聞やテレビもなく、情報が流れてくるのが酷く遅い。よくは知らないが、元の世界の産業革命前くらいじゃないかと理緒は感じていた。まぁ、魔術なんてものがあるから完全に同じではないんだろうけど…
 有難くもない事に辺境伯は自分を探しているのだろう。不在を伏せ、執心していると噂されているからには、知られていないだけでそう言わせる何かがあったのかもしれない。

(もっと…遠くに行った方がいいのかな…)

 せっかくここで働かせて貰って落ち着いているが、探されているのであればいずれ見つかるかもしれない。未だに自分の下腹には婚姻契約の模様が出ているし、何たって魔法なんかがあるファンタジーな世界なのだ。魔法を使って探そうとしているかもしれない。魔法でどんな事が出来るかがわからないから、用心し過ぎてもやり過ぎという事はないだろう。出来れば国の反対側くらいまで行ってもいいのかもしれない。ここでの楽しい日々を思うと、それを手放さなければいけない現実に重い溜息が出た。

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