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不満だった料理の真相
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「お目覚めですか、奥様」
いつの間にか部屋にいた二人の侍女に、理緒は見覚えがあった。忘れられるはずもない、理緒を散々馬鹿にしていた侍女二人だったのだ。この二人がいるという事は、ここは辺境伯の屋敷なのだろう。理緒がいた筈の街からこの屋敷までは馬でも三日はかかる筈の距離だが、どうやって、いつの間に帰ったのか…もしかしたら三日も眠っていたのだろうか…
理緒は二人の姿を視線に入れながらも、そんな事を考えていたが、そんな理緒を侍女は呆けていると思ったのか、意地の悪い笑みを一層深めた。
「さぁ、奥様、まずはお食事を。名ばかりの奥様ではありますが、もう勝手な事をして仕事を増やさないで下さい」
そう言って侍女の一人がお盆に乗った食事をベッド脇にあるサイドテーブルに置くと、さっさと出て行ってしまった。盆の上に乗っていたのは、お粥のようなドロッとした感じの代物だった。何だか変な臭いがするし、どう見ても美味しくなさそうだが、以前ここにいた時に朝必ず出されていた物で、理緒がここにいたくないと思う理由の一つでもあった。ここの食事はこんな風に美味しくないか、やけに辛いか、または生焼けかと、貴族の食事としては疑問に思う物ばかりだった。
一度、普通にパンとスープがいいと言ったが、栄養があって貴族の朝食として一般的だと押し切られてしまったのだが、またこの食事になるのかと思うとうんざりした。食べたくはないが、お腹は空いているし、どうしようもない。理緒は暫くためらったが、諦めてスプーンを手にした。
食べ物を口に入れようとしたタイミングでドアが開いて、辺境伯が戻ってきた。いつもの騎士服ではなく、今はシャツにスラックス姿と、随分とラフな格好に見えた。
「目が覚めたか…」
それだけを言うと辺境伯が理緒の元に向かってきた。さすがにこの状況で食べるのもどうかと思い、手を止めてスプーンを更に戻すと、ああ、食事中だったかと言って皿の中身を目にした辺境伯だったが、次の瞬間、表情を険しくした。
「…これが、朝食?」
何だか酷く驚いているようにも疑っているようにも見えた辺境伯は、直ぐにその皿を手に取って匂いを嗅いだ。
「食べたのか?」
「いえ、今から食べようかと…」
そう言うと辺境伯はほっと息を吐いたが、料理を指に付けて舐めて、直ぐに吐き出した。
「誰がこれを?」
「…侍女ですけど…」
「食べていないな?」
「は、はい。でも…」
「でも?何だ?」
何だろう、この詰問のような言い方は…何だか悪い事でもあったのかと、理緒の中で不安が募った。
「あの…貴族の朝食って…こういうもの、なんですよね?」
「何だと?」
「い、いえ…だって、ずっとこんな食事でしたよ?普通にパンとスープがいいってお願いしたけど、これが貴族流だから、って…」
「何だと…!」
表情はあまり変わらなかったが、辺境伯が怒っているのだけは理解出来た理緒は、思わず身を縮こませた。どこに怒る要素があったのか分からないが、大層ご立腹のようだ。今度会ったら開き直って思う存分文句を言ってやろうと思っていた理緒だったが、あまりの剣幕に声が尻すぼみになってしまった。
「…これは…腐っている」
「は?くさる?」
「そうだ。…何という事だ…あいつらは…」
「あ、あの…どう、いう…」
「他の食事はどうだった?」
「は?」
「他の食事だ。何か気になる事はあったか?」
「気になるって言われても…強いて言うなら、やけに辛かったり、逆に味がなかったりとか…肉なんかも生焼けでしたけど…でも、それが普通だって…」
「侍女が?」
「は、はい…」
圧に負けてつい思った事を言ってしまったが…辺境伯はただでさえデフォルトな不機嫌な表情をさらに不機嫌に染めてしまったため、理緒は居心地の悪さを感じた。何と言うか…怖い先生にテストの点数が悪かった原因を述べよと言われた時の感覚に似ていた。そう言えば、あの先生もこの人と同じくにこりともしなかったな…と、理緒は高一の数学の教師の事を思い出していた。怖い先生だったが…あっちの人というだけで今は好きになれそうな気がした。
「まぁ、いい。これには口をつけるな。私は隠れている。あいつから来たらいつも通り対応しろ」
「は?」
「いいな」
「いや、でも…」
そうしている間にも辺境伯はクローゼットの中に隠れてしまい、理緒が呆気に取られているとノックもなくまたドアが開いた。入ってきたのは先ほどの侍女二人だった。
「まぁ、奥様。まだ食べていなかったんですか?」
「早く食べて下さいよ。片付かないじゃないですか。私達も忙しいですよ」
「あ、あの…」
「もう、勝手に逃げ出したせいで私達まで叱られたんですからね。嫌なら帰ってこなきゃよかったのに」
「全くよね。薄汚い冒険者が奥様だなんて…ファレル家の名折れだわ」
「そうそう。この屋敷の者は誰もあんたなんか認めちゃいないわ。いい気にならない事ね」
罵詈讒謗とはこの事を言うのだろうな…と思いながら、理緒は彼女たちの悪口のオンパレードを聞いていた。カチンと来て言い返してやろうかとも思ったが、それはやめた。ここは好きに言わせて辺境伯に聞かせてやれ、と思ったからだ。
いつの間にか部屋にいた二人の侍女に、理緒は見覚えがあった。忘れられるはずもない、理緒を散々馬鹿にしていた侍女二人だったのだ。この二人がいるという事は、ここは辺境伯の屋敷なのだろう。理緒がいた筈の街からこの屋敷までは馬でも三日はかかる筈の距離だが、どうやって、いつの間に帰ったのか…もしかしたら三日も眠っていたのだろうか…
理緒は二人の姿を視線に入れながらも、そんな事を考えていたが、そんな理緒を侍女は呆けていると思ったのか、意地の悪い笑みを一層深めた。
「さぁ、奥様、まずはお食事を。名ばかりの奥様ではありますが、もう勝手な事をして仕事を増やさないで下さい」
そう言って侍女の一人がお盆に乗った食事をベッド脇にあるサイドテーブルに置くと、さっさと出て行ってしまった。盆の上に乗っていたのは、お粥のようなドロッとした感じの代物だった。何だか変な臭いがするし、どう見ても美味しくなさそうだが、以前ここにいた時に朝必ず出されていた物で、理緒がここにいたくないと思う理由の一つでもあった。ここの食事はこんな風に美味しくないか、やけに辛いか、または生焼けかと、貴族の食事としては疑問に思う物ばかりだった。
一度、普通にパンとスープがいいと言ったが、栄養があって貴族の朝食として一般的だと押し切られてしまったのだが、またこの食事になるのかと思うとうんざりした。食べたくはないが、お腹は空いているし、どうしようもない。理緒は暫くためらったが、諦めてスプーンを手にした。
食べ物を口に入れようとしたタイミングでドアが開いて、辺境伯が戻ってきた。いつもの騎士服ではなく、今はシャツにスラックス姿と、随分とラフな格好に見えた。
「目が覚めたか…」
それだけを言うと辺境伯が理緒の元に向かってきた。さすがにこの状況で食べるのもどうかと思い、手を止めてスプーンを更に戻すと、ああ、食事中だったかと言って皿の中身を目にした辺境伯だったが、次の瞬間、表情を険しくした。
「…これが、朝食?」
何だか酷く驚いているようにも疑っているようにも見えた辺境伯は、直ぐにその皿を手に取って匂いを嗅いだ。
「食べたのか?」
「いえ、今から食べようかと…」
そう言うと辺境伯はほっと息を吐いたが、料理を指に付けて舐めて、直ぐに吐き出した。
「誰がこれを?」
「…侍女ですけど…」
「食べていないな?」
「は、はい。でも…」
「でも?何だ?」
何だろう、この詰問のような言い方は…何だか悪い事でもあったのかと、理緒の中で不安が募った。
「あの…貴族の朝食って…こういうもの、なんですよね?」
「何だと?」
「い、いえ…だって、ずっとこんな食事でしたよ?普通にパンとスープがいいってお願いしたけど、これが貴族流だから、って…」
「何だと…!」
表情はあまり変わらなかったが、辺境伯が怒っているのだけは理解出来た理緒は、思わず身を縮こませた。どこに怒る要素があったのか分からないが、大層ご立腹のようだ。今度会ったら開き直って思う存分文句を言ってやろうと思っていた理緒だったが、あまりの剣幕に声が尻すぼみになってしまった。
「…これは…腐っている」
「は?くさる?」
「そうだ。…何という事だ…あいつらは…」
「あ、あの…どう、いう…」
「他の食事はどうだった?」
「は?」
「他の食事だ。何か気になる事はあったか?」
「気になるって言われても…強いて言うなら、やけに辛かったり、逆に味がなかったりとか…肉なんかも生焼けでしたけど…でも、それが普通だって…」
「侍女が?」
「は、はい…」
圧に負けてつい思った事を言ってしまったが…辺境伯はただでさえデフォルトな不機嫌な表情をさらに不機嫌に染めてしまったため、理緒は居心地の悪さを感じた。何と言うか…怖い先生にテストの点数が悪かった原因を述べよと言われた時の感覚に似ていた。そう言えば、あの先生もこの人と同じくにこりともしなかったな…と、理緒は高一の数学の教師の事を思い出していた。怖い先生だったが…あっちの人というだけで今は好きになれそうな気がした。
「まぁ、いい。これには口をつけるな。私は隠れている。あいつから来たらいつも通り対応しろ」
「は?」
「いいな」
「いや、でも…」
そうしている間にも辺境伯はクローゼットの中に隠れてしまい、理緒が呆気に取られているとノックもなくまたドアが開いた。入ってきたのは先ほどの侍女二人だった。
「まぁ、奥様。まだ食べていなかったんですか?」
「早く食べて下さいよ。片付かないじゃないですか。私達も忙しいですよ」
「あ、あの…」
「もう、勝手に逃げ出したせいで私達まで叱られたんですからね。嫌なら帰ってこなきゃよかったのに」
「全くよね。薄汚い冒険者が奥様だなんて…ファレル家の名折れだわ」
「そうそう。この屋敷の者は誰もあんたなんか認めちゃいないわ。いい気にならない事ね」
罵詈讒謗とはこの事を言うのだろうな…と思いながら、理緒は彼女たちの悪口のオンパレードを聞いていた。カチンと来て言い返してやろうかとも思ったが、それはやめた。ここは好きに言わせて辺境伯に聞かせてやれ、と思ったからだ。
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