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待遇改善
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「ほら、さっさと食べなさいよ」
「仕事の邪魔しないでよね」
散々言いたい放題理緒を罵った二人は、最後に食事を食べろという話に戻った。実際、これが終わらないと仕事が終わらないのだろう。そうしている間に、二人の声を聞きつけたらしい年配の女性がまたしてもノックなしで入ってきた。恰幅がよく、目つきの悪いその女性は、部屋に入るとじろりと中の様子を一瞥すると、残っている食事を目にして、大きくため息を付いた。
「奥様、まだお食事が終わっていないのですか?早くして頂きませんと、厨房も片付かないのですが」
「で、でも、その食事は腐っていると…」
「腐る?まぁ?我がファレル公爵家の食事をそのように貶めるとは!」
「でも…」
「全く、これだから物知らずの平民は…これは貴族の一般的な朝食です。早く食べてくださらないと困ります」
理緒の元までずかずかと入り込んできたその女性は、不機嫌な表情を崩しもせずにそう理緒に強要した。
「そうか…ならお前達が食べてみろ」
キャンキャン吠える三人の声に、一際低く男性の声が響いた。三人は急に入り込んできた声に表情を歪めたが、クローゼットの前で壁にもたれかけて立つ辺境伯の姿を見ると、表情を一変させた・
「ひっ!」
「ご、ご主人様…」
「な、な…」
まさか我が家の主がこんなところで、今の自分達の会話を聞いているなど思いもよらなかったのだろう。赤かった顔が今は白を通り越して青くなっていた。
「早く食え」
辺境伯の言葉は少ないが、その声には相手に否やとは言わせない強さがあった。侍女たちは目に見えて怯え、震えているのが見える程だった。
「まずはこの二人の上司であるお前だ。早く食え」
「な…ご、ご主人様…お、お許しを…」
「何に対してだ?」
「そ、それは…」
「我の妻、それも国王陛下がお認めになった者に出した食事だ。お前達はこれが貴族の一般的な食べ物だと、今、ここで言っただろう?」
「そ…それは…」
「では、お前が食べろ」
「ひぃっ…」
辺境伯は今度は後ろに控えていた侍女を見据えて声をかけると、その侍女も怯えて小さく悲鳴を上げた。先ほどの理緒への態度は何だったのだ…と言うくらいには、侍女たちの怯えようは凄かった。これが領主というものなのか…と理緒はその身分制度の厳しさを思い出し、居心地の悪さを感じた。
結局、その三人の侍女はそのまま首になった。それもいわゆる放逐という形で、この世界では罪を犯した者達への待遇と同じだった。これで彼女達がこの辺境伯領の他の屋敷に勤める事はほぼ不可能で、若い侍女に至っては辺境伯家への不敬を働いたとして縁談なども望めようもなかった。また、年配の侍女は婚家から離縁されて実家に戻ったが、そこにも居場所はなく、修道院に入ったという。厳しい身分制度のこの国では当然の処分で、理緒にとっては厳し過ぎて気の毒に思うほどだった。
食事に関しては、指示を出したのはあの年配の侍女長で、平民の理緒を快く思わなかったのが理由だった。辺境伯が理緒に関わらなかったため、辺境伯が彼女を疎んじていると思い、辺境伯の代わりに思い知らせてやろうと思ったのだと。
身勝手な言い分に理緒は呆れるしかなかったが、これも全て辺境伯のせいだろうと理緒は思った。
自分は随分前からルイの子守を辞めて、街に戻りたかったのだ。さっさと認めてくれれば襲撃されて婚姻の契約を結ぶこともなく、こうはならなかっただろうに…と理緒は思った。
それでも、それからの理緒の待遇は大きく改善された。食事も真っ当な者が出るようになったし、侍女もネリーがこちらの屋敷勤めとなって理緒の専属になった。他にもネリーが選んだ若い侍女が二人、理緒付きになり、この二人はネリーが選んだだけあって好意的で、理緒はホッと胸をなでおろした。
「他に嫌な思いをした事は?」
後日、突然現れた辺境伯にそう聞かれた理緒は、その言葉の真意を測りかねた。不快と言うなら、そう言ってくる当人が一番不快だったりする。相変わらず不愛想でにこりともしないし、一ミリたりとも親しみを感じない。これが夫なのか…と思うと理緒の心が先に折れそうな気がする。のだが、さすがにそれを馬鹿正直に言えるほど、理緒の心臓は強くなかった。
「そうですね…教師の方々、ですかね…」
逃げてからというもの、侍女にも教師にも最後に言いたい事を言ってやればよかったと思うくらいには腹立たしく思っていた理緒は、この際言いたい事は全て言ってしまえと開き直る事にした。黙っていたところで自分の境遇がよくなるわけでもないのだ。
理緒は教師たちの態度や、寝る時間もない程に出された課題の量などを、余すところなく伝えた。教師を付けて貰えるのは有難いが、自分は無知なので大量に詰め込まれても消化できない事、人を見下す人から教わる気にはなれない事などを伝えると、辺境伯は意外にも理緒の言い分を認め、改善すると言った。
実際、理緒は勉強出来た事は有難いと思っていた。逃げている間もこちらの知識があるお陰で、かなり過ごしやすかった事は否めなかったのだ。それに、元の世界に戻れない以上、この世界の知識はあって困る事はない。元の世界では勉強など面倒にしか思わなかった理緒だったが、皮肉なものでこの世界に来てから、ようやく勉強する事の有難味を嫌というほどに思い知ったのだ。
「仕事の邪魔しないでよね」
散々言いたい放題理緒を罵った二人は、最後に食事を食べろという話に戻った。実際、これが終わらないと仕事が終わらないのだろう。そうしている間に、二人の声を聞きつけたらしい年配の女性がまたしてもノックなしで入ってきた。恰幅がよく、目つきの悪いその女性は、部屋に入るとじろりと中の様子を一瞥すると、残っている食事を目にして、大きくため息を付いた。
「奥様、まだお食事が終わっていないのですか?早くして頂きませんと、厨房も片付かないのですが」
「で、でも、その食事は腐っていると…」
「腐る?まぁ?我がファレル公爵家の食事をそのように貶めるとは!」
「でも…」
「全く、これだから物知らずの平民は…これは貴族の一般的な朝食です。早く食べてくださらないと困ります」
理緒の元までずかずかと入り込んできたその女性は、不機嫌な表情を崩しもせずにそう理緒に強要した。
「そうか…ならお前達が食べてみろ」
キャンキャン吠える三人の声に、一際低く男性の声が響いた。三人は急に入り込んできた声に表情を歪めたが、クローゼットの前で壁にもたれかけて立つ辺境伯の姿を見ると、表情を一変させた・
「ひっ!」
「ご、ご主人様…」
「な、な…」
まさか我が家の主がこんなところで、今の自分達の会話を聞いているなど思いもよらなかったのだろう。赤かった顔が今は白を通り越して青くなっていた。
「早く食え」
辺境伯の言葉は少ないが、その声には相手に否やとは言わせない強さがあった。侍女たちは目に見えて怯え、震えているのが見える程だった。
「まずはこの二人の上司であるお前だ。早く食え」
「な…ご、ご主人様…お、お許しを…」
「何に対してだ?」
「そ、それは…」
「我の妻、それも国王陛下がお認めになった者に出した食事だ。お前達はこれが貴族の一般的な食べ物だと、今、ここで言っただろう?」
「そ…それは…」
「では、お前が食べろ」
「ひぃっ…」
辺境伯は今度は後ろに控えていた侍女を見据えて声をかけると、その侍女も怯えて小さく悲鳴を上げた。先ほどの理緒への態度は何だったのだ…と言うくらいには、侍女たちの怯えようは凄かった。これが領主というものなのか…と理緒はその身分制度の厳しさを思い出し、居心地の悪さを感じた。
結局、その三人の侍女はそのまま首になった。それもいわゆる放逐という形で、この世界では罪を犯した者達への待遇と同じだった。これで彼女達がこの辺境伯領の他の屋敷に勤める事はほぼ不可能で、若い侍女に至っては辺境伯家への不敬を働いたとして縁談なども望めようもなかった。また、年配の侍女は婚家から離縁されて実家に戻ったが、そこにも居場所はなく、修道院に入ったという。厳しい身分制度のこの国では当然の処分で、理緒にとっては厳し過ぎて気の毒に思うほどだった。
食事に関しては、指示を出したのはあの年配の侍女長で、平民の理緒を快く思わなかったのが理由だった。辺境伯が理緒に関わらなかったため、辺境伯が彼女を疎んじていると思い、辺境伯の代わりに思い知らせてやろうと思ったのだと。
身勝手な言い分に理緒は呆れるしかなかったが、これも全て辺境伯のせいだろうと理緒は思った。
自分は随分前からルイの子守を辞めて、街に戻りたかったのだ。さっさと認めてくれれば襲撃されて婚姻の契約を結ぶこともなく、こうはならなかっただろうに…と理緒は思った。
それでも、それからの理緒の待遇は大きく改善された。食事も真っ当な者が出るようになったし、侍女もネリーがこちらの屋敷勤めとなって理緒の専属になった。他にもネリーが選んだ若い侍女が二人、理緒付きになり、この二人はネリーが選んだだけあって好意的で、理緒はホッと胸をなでおろした。
「他に嫌な思いをした事は?」
後日、突然現れた辺境伯にそう聞かれた理緒は、その言葉の真意を測りかねた。不快と言うなら、そう言ってくる当人が一番不快だったりする。相変わらず不愛想でにこりともしないし、一ミリたりとも親しみを感じない。これが夫なのか…と思うと理緒の心が先に折れそうな気がする。のだが、さすがにそれを馬鹿正直に言えるほど、理緒の心臓は強くなかった。
「そうですね…教師の方々、ですかね…」
逃げてからというもの、侍女にも教師にも最後に言いたい事を言ってやればよかったと思うくらいには腹立たしく思っていた理緒は、この際言いたい事は全て言ってしまえと開き直る事にした。黙っていたところで自分の境遇がよくなるわけでもないのだ。
理緒は教師たちの態度や、寝る時間もない程に出された課題の量などを、余すところなく伝えた。教師を付けて貰えるのは有難いが、自分は無知なので大量に詰め込まれても消化できない事、人を見下す人から教わる気にはなれない事などを伝えると、辺境伯は意外にも理緒の言い分を認め、改善すると言った。
実際、理緒は勉強出来た事は有難いと思っていた。逃げている間もこちらの知識があるお陰で、かなり過ごしやすかった事は否めなかったのだ。それに、元の世界に戻れない以上、この世界の知識はあって困る事はない。元の世界では勉強など面倒にしか思わなかった理緒だったが、皮肉なものでこの世界に来てから、ようやく勉強する事の有難味を嫌というほどに思い知ったのだ。
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