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正妻としての扱い
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辺境伯の屋敷に連れ戻された理緒は、逃げ出す要因になった侍女や教師への不満を吐き出すだけ吐き出したせいか、思いがけず待遇がよくなってしまい戸惑った。よくなって困るというのも変な話なのだが、この世界の者ではないだけに、あまり丁重に扱われるとボロが出そうで心配になったのだ。これまでは侍女や教師の嫌がらせのお陰で無知な平民の扱いで済んだが、真っ当に扱われると普通の会話をしなければならず、それが一番不安要因となったのだ。
こちらの世界の知識が増えたとはいえ、理緒の思考のベースは相変わらず日本だった。その為、身分制度があり人権もそれに倣うようなこの世界では、理緒の考え方は異質であり、非常識になる。一つ一つは小さなことでも、それが積み重なれば無用な疑いを持たれる可能性があったのだ。
更にもう一つ、理緒を悩ませるようになったのは、当の辺境伯だった。辺境伯が理緒を構わなかったせいで侍女たちが勘違いをし、それで理緒が逃げ出したという事実は、彼にとって大きなショックだった…らしい。
困った事にあれ以来、辺境伯がやたらと理緒を構うようになったのだ。理緒にしてみればむしろ放置、出来れば別邸で別居婚をお願いしたいくらいなのだが、辺境伯も後ろめたく思う部分があったのだろう。今後は正妻としてきちんと扱うと宣言されてしまい、理緒の不安を一層煽った。
「今から、私の事は名で呼べ」
「名前、って?」
「私の名前だ。知らんのか?」
「…ええ、っと…」
聞かれた理緒だったが、まずい事に完全に名前を忘れている事に気が付いて、背筋が寒くなるのを感じた。ファレル辺境伯という家名は逃亡に必要だったため覚えていたが、個人に興味がなかったせいか、ルイがアルと呼んでいたのは覚えているが、正式な名前はうる覚えだった。
「えっと…アル…フレッド…様でしたっけ?」
「…アルバートだ」
本当に覚えていないとは思わなかったのだろう。辺境伯―今からはアルバート―の目が僅かに座ったようにも見えたが、理緒は見なかった事にした。結局、体裁を整える必要があると極めて真っ当な理由を言われれば嫌だという訳にもいかず、渋々ながらも名前呼びを了承した。一方で理緒の名は既に呼び捨てにされていたので変更はなかった。
また、屋敷から戻ってからは辺境伯の隣の正妻の部屋に変わっていたし、非常に不本意なのだが寝室も一緒になった。しかも、どういう訳か同じベッドで、後ろから抱き込まれて寝る羽目になっていて、理緒が頭を抱えたのは言うまでもない。
「…何で一緒に…」
「夫婦なら当然だろう」
「でも、ルイ様がいるから何もしないって…」
「何もしない。だが、また勘違いする者が出てくる可能性があるからその対策だ」
「だからって、何もくっ付かなくても…」
「お前の寝相が悪いから仕方ないだろう」
「はぁ?」
「あれは蹴られたり殴られたりしないための予防措置だ。他意はない」
「はぁああぁ?」
しれっと、明日は期末テストだと分かり切った事を告げる先生のような淡々とした声でそう言われて、理緒は返す言葉が見つからなかった。自分の寝相が悪いと思った事はないが、戻ってきた日、辺境伯は何度も理緒の肘打ちや蹴りを食らったのだという。これではさすがに寝ていられないからと、後ろから抱き込んで寝たのだと言われれば、申し訳なさが先になって強く反対出来ない理緒だった。
のだが…
「眠れない…」
しっかりと後ろから抱き込まれた理緒は、やはり居心地の悪さから寝付けずにいた。こっちの世界から来てからというもの、警戒心からか寝つきが悪く、一方で眠りが浅いのか直ぐに目が覚めてしまうようになっていたが、この状況はより一層理緒の睡眠時間を奪った。とは言え、知らない間に寝ているし、目覚めれば思った以上にすっきりしていて、そこだけは不思議だったが…
そして、この状況で寝ている後ろの御仁が理緒には不思議で仕方なかった。誰かはわからないが、正体不明の人物の罠に嵌って婚姻の契約をしてしまっただけの自分に、どうしていきなり構ってくるのか…逃げ出したから関係は一層悪化すると思っていただけに、この変化がどうしても理解出来なかった。
これに関しては、ネリーにも尋ねたのだが、こういう事はご本人にお聞きくださいと言われて一蹴されてしまった。ネリーの言う通りなのだが、聞いて本心を素直に答えてくれるとも思えなかった。前回とは違う意味で、理緒が逃げたしたくなったのは言うまでもなかった。
こちらの世界の知識が増えたとはいえ、理緒の思考のベースは相変わらず日本だった。その為、身分制度があり人権もそれに倣うようなこの世界では、理緒の考え方は異質であり、非常識になる。一つ一つは小さなことでも、それが積み重なれば無用な疑いを持たれる可能性があったのだ。
更にもう一つ、理緒を悩ませるようになったのは、当の辺境伯だった。辺境伯が理緒を構わなかったせいで侍女たちが勘違いをし、それで理緒が逃げ出したという事実は、彼にとって大きなショックだった…らしい。
困った事にあれ以来、辺境伯がやたらと理緒を構うようになったのだ。理緒にしてみればむしろ放置、出来れば別邸で別居婚をお願いしたいくらいなのだが、辺境伯も後ろめたく思う部分があったのだろう。今後は正妻としてきちんと扱うと宣言されてしまい、理緒の不安を一層煽った。
「今から、私の事は名で呼べ」
「名前、って?」
「私の名前だ。知らんのか?」
「…ええ、っと…」
聞かれた理緒だったが、まずい事に完全に名前を忘れている事に気が付いて、背筋が寒くなるのを感じた。ファレル辺境伯という家名は逃亡に必要だったため覚えていたが、個人に興味がなかったせいか、ルイがアルと呼んでいたのは覚えているが、正式な名前はうる覚えだった。
「えっと…アル…フレッド…様でしたっけ?」
「…アルバートだ」
本当に覚えていないとは思わなかったのだろう。辺境伯―今からはアルバート―の目が僅かに座ったようにも見えたが、理緒は見なかった事にした。結局、体裁を整える必要があると極めて真っ当な理由を言われれば嫌だという訳にもいかず、渋々ながらも名前呼びを了承した。一方で理緒の名は既に呼び捨てにされていたので変更はなかった。
また、屋敷から戻ってからは辺境伯の隣の正妻の部屋に変わっていたし、非常に不本意なのだが寝室も一緒になった。しかも、どういう訳か同じベッドで、後ろから抱き込まれて寝る羽目になっていて、理緒が頭を抱えたのは言うまでもない。
「…何で一緒に…」
「夫婦なら当然だろう」
「でも、ルイ様がいるから何もしないって…」
「何もしない。だが、また勘違いする者が出てくる可能性があるからその対策だ」
「だからって、何もくっ付かなくても…」
「お前の寝相が悪いから仕方ないだろう」
「はぁ?」
「あれは蹴られたり殴られたりしないための予防措置だ。他意はない」
「はぁああぁ?」
しれっと、明日は期末テストだと分かり切った事を告げる先生のような淡々とした声でそう言われて、理緒は返す言葉が見つからなかった。自分の寝相が悪いと思った事はないが、戻ってきた日、辺境伯は何度も理緒の肘打ちや蹴りを食らったのだという。これではさすがに寝ていられないからと、後ろから抱き込んで寝たのだと言われれば、申し訳なさが先になって強く反対出来ない理緒だった。
のだが…
「眠れない…」
しっかりと後ろから抱き込まれた理緒は、やはり居心地の悪さから寝付けずにいた。こっちの世界から来てからというもの、警戒心からか寝つきが悪く、一方で眠りが浅いのか直ぐに目が覚めてしまうようになっていたが、この状況はより一層理緒の睡眠時間を奪った。とは言え、知らない間に寝ているし、目覚めれば思った以上にすっきりしていて、そこだけは不思議だったが…
そして、この状況で寝ている後ろの御仁が理緒には不思議で仕方なかった。誰かはわからないが、正体不明の人物の罠に嵌って婚姻の契約をしてしまっただけの自分に、どうしていきなり構ってくるのか…逃げ出したから関係は一層悪化すると思っていただけに、この変化がどうしても理解出来なかった。
これに関しては、ネリーにも尋ねたのだが、こういう事はご本人にお聞きくださいと言われて一蹴されてしまった。ネリーの言う通りなのだが、聞いて本心を素直に答えてくれるとも思えなかった。前回とは違う意味で、理緒が逃げたしたくなったのは言うまでもなかった。
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