【R18】爽やか系イケメン御曹司は塩対応にもめげない

四葉るり猫

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同意した覚えはありません

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 その後、美緒と入れ替わるように小林が風呂に入り、その後はリビングでテレビを見ながら二人は晩酌に突入していた。ビールを飲みながらお笑い番組を見ていた美緒だったが、正直気もそぞろであまり楽しめなかった。隣にいる小林を意識している自分に気が付いてしまったからだ。何と言うか、非常に気まずいし居心地が悪い。お酒のせいで付き合うと言ってしまった失態もあって、飲んで憂さを晴らす事も出来ず、かと言って帰る事も出来そうになく、美緒は鬱々とした気分を抱えていた。

 もう何度目かもわからないが、呼吸に合わせてこっそりため息をついた美緒は、視線を感じて小林の方に視線を向けた。そこには、愁いを帯び、何かを言いたげな表情で自分を見下ろす小林の姿があった。

「…なに?」

 視線が合っても何も言わない小林に、何となく居たたまれない空気を感じた美緒は、ビールを飲みながらそう尋ねた。

「さっきから…ずっとため息ついてる」
「…っ」

 図星を刺されてしまった美緒は、思わず視線を逸らした。何だか心の中まで見透かされてしまったような気がして気まずさがこの上なかった。何か言わなければと思うのに、ぴったりくる言葉が見つからない。何でもないと言っても小林には通じない気がしたし、だからと言ってため息の理由を話すことも出来そうになく、美緒は途方に暮れた。

「俺といるのは…嫌か?」
「…え?」

 暫く気まずい沈黙が続いた後、弱々しく聞き取れないほどの問いかけに、美緒は視線を上げた。小林はどこか傷ついた様な表情を浮かべていて、美緒はちくりと胸が傷むのを感じた。別にこんな表情をさせたかったわけではないのだ。

「い、嫌ってわけじゃ…」
「そうか?でもお前、俺の事嫌ってただろう?」
「そりゃあ…まぁ…でも…前ほど嫌いってわけじゃ…ないし」
「そうか?じゃ、好きか嫌いかで言ったらどっちだ?」

 まさか二択で聞かれるとは思わなかった美緒は答えに詰まった。嫌い…ではないだろうが、好きと言うほどでもなかった。いや、二択で言えば今はマイナスよりプラスなのだが…

「お前、俺の顔が好きなんだよな?」
「え?あ、うん…」
「そっか。じゃ、トータルではどうだ?顔でプラス百とした場合は?」
「え?…顔を百とすると…プラス、かなぁ…」

 あれ?と思いながらも、言っている事に間違いはないと思うし…と美緒は頷いた。顔は好みだし、性格も…思っていた程嫌な奴じゃないと思う。顔と嫌いないところを天秤にかけたら、プラスに傾くだろう。思考がぶっ飛んでて理解不能なところもあるが…

「そっか、よかった」
「へ?何が?」
「さすがに同意なしじゃマズいだろ?」
「同意?って何の…」

 そういうと小林は、誰もが見惚れる秀麗な顔に嬉しそうな表情を浮かべながら、ゆっくり覆いかぶさってきた。ちょ、近いって…と美緒が後退りしようとしたが、その前にがっちり腕を掴まれてしまった。

「今からお前を抱くための同意」
「…は?何言っ…?」

 その先の言葉を、美緒は発する事が出来なかった。言いかけた半開きの唇が小林のそれに塞がれて、あっという間に舌が入り込んで来たからだ。咄嗟に両手で小林の胸を押すが、自身よりも大きな身体はびくともせず、いつの間にか大きな手に後頭部をしっかりと固定されていた。何?今何て言った?と美緒が混乱している間にも、口内に入り込んできた侵入者は我が物顔で美緒の口内を暴れまわり、逃げる舌を追いかけてきた。

「…ま…っ…んんっ…」

 貪るような深いキスに美緒は息苦しさから逃げようとしたが、小林はそれを許さなかった。厚みのある舌が絡みつき吸い上げる度にゾクゾクと何かが這い上がる感じがし、軽く甘噛みされると言いようのない痺れに襲われた。だがそれ以上に美緒を窮地に追いやったのは、初めてで息の仕方がわからなかった事だった。逃れようにもがっちり捕獲されていて、どうにかしようにも空気を吸う余裕すら与えられなかった。意識が遠ざかりそうになり、必死に胸を叩いたところでようやく解放された。

「…こ…ろす…気?」
「はぁ…お前、その顔反則…」

 ようやく解放された頃には、美緒は酸欠や何やらでヘロヘロになっていた。お花畑が見えた気がしたし、もう少し遅かったら死んだんじゃないかと本気で思った。余りの暴挙に睨みつけたが、肩で息をしながら涙目でのそれはむしろ小林を喜ばせるだけだった。

「あ~もうお前可愛すぎ…こういう時は鼻で息するんだよ」

 美緒の抗議すらも嬉しそうに受け止めながら、小林は耳を甘噛みしながらそう囁き、それだけで美緒の中の何かがかっと熱くなった気がした。美緒の意識の奥で警鐘が鳴るのを感じ、思わず距離を取ろうとした。

「じゃ、もう一回な」
「は…?んんー!」

 うっとりとした表情で小林はまた唇を重ねてきて、美緒は再び小林の舌の侵入を許してしまった。今度は先ほどの荒々しさは薄れ、ねっとりと柔らかく美緒の舌に絡みついてきて、美緒はぞわぞわする感覚にまた身を震わせながら、教えられた通り必死に鼻で息を繰り返した。他人とディープキスなんて気持ち悪い、絶対に無理と思っていた筈なのに、不思議と嫌悪感が湧かず、身体の奥からじりじりしたものが湧き上がってくる感覚に美緒は混乱した。

「っ…はぁっ…」

 ようやく解放された頃には、美緒は酸欠とそれ以外の何かのせいで、すっかり力が入らなくなっていた。小林は美緒の頬に残った互いの間につうと引いた糸の残骸を舐め取ると、可愛い、好きだと繰り返しながら頬や額に啄む様な軽いキスの雨を降らせた。そのうち唇が項を這うように移動し、そのくすぐったさに身を捩った。

「ひゃぁ!」
「ああ、お前、感じやすいんだな。可愛い…」
「な…」

 なんかもう、言われる事が一々エロくて恥ずかしすぎて、美緒のキャパをとっくに超えていた。いや、言葉だけではない。欲を宿した目も、掠れた声も、押し付けられる身体の筋肉の質感も、何もかもが色気に溢れてて、男に免疫のない美緒には毒でしかなかった。どうしてこうなった?ちょっと待て!と思うのだが、混乱した頭は適切な対処法を美緒にさせなかった。

「ちょ…待っ…」
「嫌」

 これ以上我慢したら手加減出来なくなるから…と耳元で囁かれて思わず見上げると、小林は普段の爽やかさからは想像出来ないほどの強い欲情を目の奥に燃やして美緒を見下ろしていた。言われた内容が物騒過ぎて、かえって現実味がない。そもそも今の状況が想定外すぎて、もう何からどう消化していけばいいのかもわからなくなっていた。

「いや、でも、あの…」
「ん-何?」
「いや、その…こ、こういうのは…」
「初めて?」

 すっと小林の顔が鼻先にくっつくほどの距離に迫ってきて、美緒は驚きに声が出せずこくこくと頷くしか出来なかった。もう恥ずかしいなどと言ってる場合ではない。とにかく逃げたかった。のだが…

「やっぱり。だろうと思ってた」
「は?…あの、引かない…の…?」
「何で?すっげぇ嬉しい。そうだろうと思ってたけど、はっきり聞くとヤバイ…」
「へ?」

 引かれるかと思っていた美緒だったが、小林の反応は予想していたものとは違っていた。小林の目がぎらついていて、美緒は顔が引きつるのを止められなかった。何がヤバイのか、知るが怖い…

「あ~もうお前、これ以上煽るな」
「え?は?」
「もう黙っとけ。酷くされたくないだろう?」

 返事をする間もなく、また唇を奪われて美緒は目を白黒させるばかりだった。そうしている間にも小林は美緒の動きを封じたまま首筋に唇を這わせ、手が室内着の上から美緒の胸のふくらみに辿り着き、やわやわとその感触を楽しむように動いた。その流れるような動きに美緒は経験の差を強く感じてしまい、急に怖くなった。

「や!やっぱり付き合うとか無理!」
「は?何言って…」
「だって!け、経験値とか違い過ぎるし」
「経験値って…そんなの必要ないだろう」
「必要ないことない!こ、っ、小林は慣れてるからいいけどっ」
「いや、それはその…」
「レベル1の初心者とレベル99のラスボスじゃ、全然相手にならないじゃない」
「は?何言って…」

 美緒にしていれば、ゲーム開始直後にラスボスに挑むような心境だった。こっちは何をするのかもよくわかっていないのに、向こうは百戦錬磨だなんて不公平過ぎる。しかも相手は誰もが認めるイケメンなのに、こっちは平々凡々なのも。見た目はどうしようもないだけに、せめて経験値くらいは…と言うのが美緒の心境だった。

「じゃ、け、経験値積んでくるからそれからして」
「は?ちょ…!待てよ。経験値積むってどうやって」

 色々キャパをオーバーし過ぎた美緒は、完全に混乱していた。現状を回避したい一心だったが、それには恥ずかしさや経験の差、見た目の差など、コンプレックスもかなり影響していただろう。一方の小林は、美緒の言っている内容に驚きを隠せずにいた。やっと手に入ると思った矢先に経験値が云々言われても、直ぐには理解出来なかったからだ。

「お、男の人にはそういうところがあるんでしょ?だったら女性向けにもそういうところが…」
「ねぇよ」
「へ?」
「あったって行かせるかよ!何で好きな女の初めて、他の野郎に譲らなきゃいけないんだよ!」
「だ、だって…」

 いきなりの小林の剣幕に、今度は美緒の方が驚いて目を丸くした。既に混乱の中にいる美緒は何で怒られているのか、イマイチよくわからなかったのだ。自分は散々経験値を積んでいるのに、どうして自分はダメなのだとしか思えなかった。

「なぁ、経験値積むって、他の野郎とこういう事するってわかってんのか?」
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