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元日常

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44章

「メイク。計画Bに移行するぞ」
キングは会議室でメイクに命令する。
それを聞くとメイクは
「わかってるよ。あんたが負けた時点でそのつもり」と言う。
結構キングはバッサリ言われたが事実だから仕方ない。
命からがら逃げられたがそれはメイクのおかげだ。あのときに瞬間移動で連れられなければ死んでいた。
しかも被害はかなり大きい。キングの1団はほとんど壊滅状態に近い。
あれと互角に戦うのは今の俺達には不可能だ。
「一応聞くが、お前あそこの会長と同一体って言ってたよな。あそこの会長と同じ能力とかは使えないのか?」
とキングはメイクに聞いた。
あそこの会長と同じ能力を持っているなら簡単なのだが。
「いや、無いね」
メイクは一蹴した。
「確かにあの人と私は同じ存在だけど能力まで同じっていうわけじゃない。あって下位互換の能力しかない」
物事は簡単には行かないようだ。
そもそも異人ならばディストにすら入れないはず。
昔にライさんから聞いた話だがメイクは何故か異人を殺し尽くしたいとここに殴り込みに来てほとんど脅迫気味に入ったと。
イレギュラーだったため扱いにかなり困っている様子だった。
「何でお前は異人なのに異人を殺したいと思ってんだ?」
キングはいい機会だと思いメイクに聞く。
メイクはテーブルに置いてあったタピオカミルクティーを自身の口に運びながら言う。
「それ聞きたいの?」
その瞬間会議室が異様な雰囲気に包まれた。
威圧がすげぇ。
だがキングは折れずに
「あぁ。正直俺は異人が嫌いだ。お前だって例外なく殺したいと思ってる。それが俺のディストに入った理由だ。だけどお前が異人を殺したい理由が全くわからない」
と返した。
すると異様な雰囲気はぱっと消え。
メイクが明るい声で
「そ。ま、話してもそんなに長くはならないよ」と言った。
そしてタピオカミルクティーをテーブルに置くと言う。
「簡単に言えばあの人を殺したいから」
「あの人ってあそこの会長のことだよな?」
キングは聞く。
それにメイクはうんと頷き、
「私たちはまだ未完成。2人が合わさってようやく完璧な存在になれる。そうすれば神に近しい存在に戻ることができる。そのためにはどちらかが死ぬことか、取り込まないといけない。完璧な存在に戻れれば何でもできる」
そこで一回言葉を切って息を吸い言う。
「異人の能力を消し去ることもこの世から消すことも」
そこでキングの頭に思い出すものがあった。
ライさんが言っていた1番平和的な解決方法。そしてそのためにライさんはあそこの会長を殺そうとしていたこと。
「あ、片方違うよ」
心を読んだかのようにメイクは言った。
「ライは自分自身の目的があの人を殺すことだった。そこの利害の一致で私はライと組んでた。だからあの人はその解決方法自体は知っていたけど本当の目的はそっちじゃなかったってこと」
利害の一致で、か。
メイクは組織内での2番目のトップだった。今の話を知っているということはここの2トップは何か別の目的で動いているという自分の予想は合っていた。
とキングは思った。
するとそこで会議室のドアが開く音が聞こえた。
2人がドアの方を見るとそこに居たのはクマを作って疲れている様子のレキだった。
レキは2人に気づくと「やぁ」と挨拶を交わす。
「困ってるよ正直。急に2つの球のうち1つが発光するなんて。もとから寝不足だったのにさらに寝られない…。調べてはいるけど正直原因が不明すぎてお手上げかな」
と愚痴をこぼすレキ。
そしてお茶をコップについで飲む。
「すまんな。研究者をもっと増やしたいんだがあいにく人材が居なくて」
とキングは言ったがレキはコップをテーブルに置いて片手をNOといった感じで振る。
「いや多分だけどこのレベルについて来れる研究者なんて僕と生徒会の咲川…だっけ?ぐらいしかいないからいいよ。それに」
そこでレキはメイクを見る。
「たまにメイクが手伝ってくれるだけで割といい感じで研究は進んでってるから問題はなし。今回が桁違いに難しいだけ」
またお茶を飲んでレキは言う。
いい仲間に恵まれてるな。とキングは思う。
「俺もあの櫻木とかいうやつを倒せるように頑張らないとな…」とキングは覇気のない声で言う。
その様子が気にかかったのかレキはコップを口につけながら
「なんかあったん?」と聞いてくる。
「まだ伝わってなかったんだな。ならこの場で言うか」
ということでキングはそこで昨日の夜の話をする。
櫻木が異人で不死能力の元だったこと。概念を操ってキングの部隊を全滅させたことを
話を一通り聞くとレキは頭を捻って「それって何時ぐらい?」と聞く。
キングは正確な時間がわからず出発する直前の時間を頑張って思い出す。
「確か22時ぐらいだったかな」
その瞬間レキの顔付きが変わった。
何かあったのだろうか。ずっと「そうか…」と呟いている。
キングはわけが分からないがきっと何かあったんだろうと考え。
「じゃ、俺は調達に行ってくるぜ」と会議室を後にする。
キングが会議室から出ていった後、レキはメイクに何かを話す。
それを聞くとメイクはふむといった感じでレキに言った。
「いい発見だ」と。

同刻生徒会室。
生徒会室は平和そのものだった。
向かい合ったソファで復活した櫻木と退院した幽美と牙忍がわちゃわちゃとソシャゲについて話している。
それを盗み聞きしながらパソコンをいじる奏臣。
咲川はまだ実験から戻ってきていない。
ディストが来る前は別に命を懸けた仕事なんて存在せず、こんな生活を送っていた。
今は何もやることがなく動きがあるまで待機しているといった感じで前の状況とは違っているが。
黒山を生き返らせたいと思っている櫻木も今は何も出来ないということを理解している。

数時間前。
「…黒山を生き返らせる方法を聞きたい?」
櫻木が奏臣に聞いた。
奏臣は一緒についてきた牙忍をジロっと見て
「…お前話したのか」と言う。
牙忍は
「約束を破ってしまったのはすいません。で櫻木を連れて戻るにはそれしか無いかと思って」と奏臣に言った。
奏臣は櫻木の家の地図を渡したときにそのことを話していた。
だがそれを話すと櫻木がその目的を1人で急いで達成させようとする恐れがあったためまだ話すな。と口止めをしていたのだ。
「…まぁいい。どうせ落ち着いたら話す予定だったんだ。教えてやろう」
と言ってパソコンの画面を見せる。
そこには4つの能力名らしきものが映っていた。
『時間神創』『強大神化』『身体神持』『思考神化』『空間神激』の4つ。
これが何を意味しているか櫻木には全く理解できない。
そこで奏臣から説明が入る。
「…これは神格能力の名だ」
櫻木が首を傾げて「神格能力?」と復唱する。
奏臣は頷き「…全ての能力のうち最高階位の能力の名前だ」と説明する。
続けて
「…この能力のうち時間神創というものがあるだろう」とその名前を指差す。
「…この能力の概要はざっくり言えば時間を意のままに操ることができる能力だ。止めるのも戻すのも進めるのも自由自在。これでなんとなくわかるか?」
そこで櫻木に聞く。
だが櫻木は「わかんないです」ときっぱり言う。後ろで牙忍が頭を抱える。
奏臣は「…そうか」と言って説明を続ける。
「…これを使えば過去に行って黒山を助けることができるってことだ」
そこで櫻木の顔が明るくなる。
「じゃあ会長はその能力を持ってるんですか?」と質問をする。
だが奏臣は首を振って「…正確に言えば持っていた」と答える。
「…昔は持っていたのだが、メイクと私が分離したことにより失ってしまったんだ。今は下位能力の時間停止しか使えない」
それだけ持ってたら日常生活は十分だと思うけどな。と牙忍は考えていたが、今は黒山を生き返らせることが目的日常生活よりはるかに高い目標だ。それぐらい頭のおかしい能力じゃないといけないのだろう。
「それを手に入れるためにはどうすれば良いんですか?」
櫻木が奏臣に聞く。
奏臣は一言で言い切る。
「…メイクを殺すことだ」
メイクを殺すことによってその魂を奏臣が取り込み元の姿に戻り、時間神創で時間を戻し黒山が生きている未来を創ること。それが黒山を生き返らせる手段。

そして今はメイクの居場所も殺害方法もわからないため、何も出来ないということだった。
そのため生徒会室は平和なものなのだ。
だがそこに1人の少女が駆け込んでくる。
知らない人間でもなくただの咲川だった。
「見つけましたよ!破壊の概念!」
生徒会室に入ってくるなり、そんなことを叫んだ。
それを奏臣が聞くと「…よくやった」と席を立ち、咲川の元へ歩く。
櫻木たちは頭に?を浮かべている。
奏臣は櫻木たちに「…こっちへ来い」と言って咲川が実験していた実験室に向かう。
実験室は数秒で着く。
中は悲惨な状態だった。
無事なものがないんじゃないかと思うほどに破壊し尽くされ、電気も点いておらず暗い。
不気味だった。
唯一部屋に中心に位置する机だけは傷一つなく立っている。
すると咲川が
「櫻木さんの概念のサンプルを貰って概念について研究してました。あ、私は能力で頭脳に悪影響を及ぼすものは全て無効化できるので狂気の概念は効きません。そしてついに辿り着いたのです!」
そこで咲川は唯一壊れていなかった机の上からシャーレを持ってくる。
そこには黒い粒子は複数粒入っていてシャーレにはヒビが入っていた。
「ある程度純度を落とした破壊の概念です!」
とそれを奏臣に渡す。
奏臣はそれを見て感嘆の声をあげた。
「…よくこんな危険な物質を再現してくれた。ありがとう」
牙忍はシャーレを見ながら「これなんですか?」と奏臣に聞いた。
それに奏臣は
「…対異能力者の最終兵器。これがあればメイクを殺すこともできる」と答える。
破壊の概念に櫻木は聞き覚えがあった。
「確か能力も破壊できたんでしたっけ」と櫻木も奏臣に聞く。
「…あぁそうだこれがあればメイクの不死の能力も破壊して命を奪い取れる」
黒山を殺した元凶。
それで黒山を蘇らせる。
今破壊の概念はこっちの味方だ。
「…待っていろメイク。長年にわたる戦い。そろそろ決着をつけよう」

「なーお前。助かる道があるって言ったら聞くか?」
キングは腕を1本ぶっちぎった女に言う。
周辺は槍が何本も突き刺さっており、血も散乱している。
「助かる方法ってのは…何?」
女はキングに聞く。
自らをこんな状態に陥れた張本人に。
キングはニヤッと笑って
「いやなに俺たちの仲間になってもらうだけだ」と女に言う。
女はそのキングの笑いを見て引きつったが躊躇なく
「受けるわ」と快諾する。
死ぬよりはましと考えたのだろう。
「OK。交渉成立だ」
そう言うとキングは女をどこかへ連れて行く。
そのどこかは。
もちろんディスト本部だ。場所は変えた。しかも奏臣の手先は全て排除した。
こちらの動向はあっちには全くわからない。
「さてシーズン2とでも行きますか」
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