竜と王冠のサクリファイス~乙女ゲームの攻略キャラたちがお互いを攻略して王都炎上?

浅草ゆうひ

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5、北の大地と黒歴史編

23、ギスギスバツでおねがいします!?

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「ネネツィカ、今日はお母様と淑女らしく刺繍をして過ごしましょう」
 朝食の席で母がそう言った。父と兄は「こちらも出かけるぞ」と言葉を交わしている。

 父と兄が出かけた後、母と娘は客人――エイヴンとヴァルターを応接室で出迎えた。普段は父が使う事の多い部屋は、高級感のある広々とした空間。毛足の長い絨毯の上に落ち着くソファはシェル(貝殻)型の背もたれで、美しい彫が天板に入ったテーブルの上にお菓子が並べられていく。エディブルフラワーが咲き誇る中で上品なスワンラインのホワイトチョコレートが佇むカップケーキにこんがり暖かみのある焼き色を魅せるバスクチーズケーキ、バターとオレンジハチミツの爽やかな甘みのさくさくクッキーといった見た目も華やかなお菓子を並べるのは、メイドのアン。執事のティミオスがカモミールティーを注ぐ。ふわふわと癒し系の薫りが鼻腔をくすぐり、エイヴンは嬉しそうに眼を細めたが。

「冷害でお困りとお伺いしておりましたが、贅を尽くした素晴らしいおもてなしですな」
 慇懃に呟いたのは、いかにも日陰者で偏屈な魔術師といった風体のヴァルターだ。眉間には深い皺が刻まれ、愛想の欠片もない。

「厭味ったらしく聞こえるのは気のせいです奥様。こいつは口下手なもんで」
 エイヴンがへらへらと頭を下げれば、母がおっとりと微笑み、娘のネネツィカも淑やかにドレスの裾を持ち上げて挨拶をした。

「先生、いつもヒューバートがお世話になっております。当家もそれなりに歴史ある家柄ですから、当然一年やそこらの自然災害で困窮する領民を養っても先生方に礼儀を尽くす程度の余裕はございますとも」
「冷たいお水だけのおもてなしだったらお年を召した先生のおなかが冷えて体調を崩されてしまうかもしれませんものね! お母様~!」

 無邪気な子どもといった声でピュアな笑顔をつくるネネツィカ。母はそんな娘に眉を下げ、頬に手を当てて「あらぁ、お年寄りだなんて。まだ全然お若いのよ、お若いから本業の学院教師のお仕事だけではお給料がご心配で、こうして副業にも勤しんでいらっしゃる勤労ぶりなのですよ」と窘めるような口ぶりで捲し上げた。

「は、ははは、はは」
(この環境で仕事をするのか……)

 同僚であり友人の魔術師は、今にも「帰る」と言い出しそうなオーラを出しつつ踏み止まっている。エイヴンは気弱な笑顔を顔に張り付かせてカモミールティーをひとくち頂いた。
(胃に優しい感じの味。今の俺にぴったりだ)

「さすが伯爵家の奥様とお嬢様は礼儀作法を心得ていらっしゃる」
「先生、学院って副業は許可されていますの?」
「お母様は先生が心配なのですわね! おほほほ!」
 エイヴンは思わず言わずにいられなかった――「皆さん! ギスギスバツでおねがいします!」と。

 若干険悪な雰囲気ながら、とにかく仕事の話が始まった。母が資料を取り出して、「こんなアイディアがあるのですが、実現可能でしょうか?」とヴァルターと打ち合わせを進めるとネネツィカはエイヴンと一緒に聞き役にまわっていたが、「そういえばご息女は魔法の才能があると聞いておりますが」とヴァルターが視線を向けると姿勢を正して頷いた。
「アタクシ、先生をお手伝いできると思いますわ!」
 キラキラした目を向けると、ヴァルターはサッと視線を外して重々しく宣言した。
「吾輩の仕事は各案を狭い農地で試し、効果の見込みをご当主様にご報告するといったところでしょうな。有効な対策だと判断していただければ、そのあとはご当主様が歴史ある家柄の資産をたっぷりとつぎ込み、大量の魔術師や業者を雇い入れて公の事業として領地改革をなさるでしょう」
「先生、現場にまいりましょう! アタクシやる気満々ですの!」
「ひとまず作業工程と必要な物資をリストアップしますので、物資の手配と――」
「物資がいらない対策からまずやりましょう! アタクシ近くの農地に案内しますの!」
 ヴァルターの袖を引き、耳元でネネツィカが早く速くと急かしている。元から不機嫌そうな魔術師の顔が凶悪に引きつり、こめかみに青筋が浮いた。
「エイヴン! 仕事だ! その娘の相手をしろ!」
「えっ、俺ぇ?」
 指名されたエイヴンはビクッとしつつ、いそいそと薄い聖書を取り出してネネツィカにアピールした。
「ここに新刊がある――」
「あら……まだ入手していない本ですわ」
 ネネツィカは目の色を変えた。
「これについて語り合いたい」
「アタクシ、お庭を案内しますわ!」
 後ろに執事を伴い、ネネツィカは薄い聖書に釣られていそいそとエイヴンを庭に連れて行ったのだった。

(あの聖書を見せられた時の令嬢のただならぬ反応。一体、どのようなものなのか)
 ヴァルターはますます聖書に興味を抱くのであった。
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