竜と王冠のサクリファイス~乙女ゲームの攻略キャラたちがお互いを攻略して王都炎上?

浅草ゆうひ

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5、北の大地と黒歴史編

25、不思議な穴

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 泥だらけで帰宅して、お母様に叱られた夜。邸宅内にしばらく泊まる事になったヴァルターが農業用地向けの栄養剤、成長促進剤――魔法薬のレシピをくれた。
「珍しい材料もない。レシピ通りに調合すれば赤子にも作れる」
「赤子には流石に無理だと思いますわ」

 ネネツィカはつい突っ込みをしつつ、ヴァルターに頭を下げ、翌日は大人しく家庭教師の先生や礼儀作法の先生に囲まれてお勉強を頑張り、その翌日になってようやく材料を集めに出かけたのだった。

「お命じくだされば調達致しましたのに」
 執事のティミオスが呟くから、ネネツィカは首を振った。
「それが効率がよくて貴族らしさもあるとアタクシも思いましたわ。でも、アタクシ最初のお薬は自分で材料集めから挑戦したかったの」
 家から持ってきた植物図鑑を片手に、農地近くの自然の山のふもとの森を逍遥する足取りは軽い。空気は澄んでいて、土と葉っぱの匂いがする。周りは背の高い木が並んで、緑の天蓋の隙間から差す木漏れ日が光の美しさを教えてくれる。
 鳥の囀りが木霊する中にほんの小さなさりげない虫の鳴き声が混ざっていて、この土と緑の世界に沢山の生き物が生きているのだと感じさせてくれた。

「あ、見てティミオス! 材料のヤマギタケじゃありませんこと!?」
 木の表面に生えるキノコをみつけて、ネネツィカは走り寄った。柔らかくて茶色い肉厚のカサが、木を登る階段みたいに上向きに並んでいる。
「間違いないかと存じます」
「そうよね、これよね!」
 二人でいそいそとキノコを採り、袋に詰めていく。周辺にはキノコを生やした木が群れていて、袋にはたくさんのキノコが集まった。
「あとは、スプラサヌ草とこけら石ね」
「こけら石は、少し西に行った所に流れる小川で採れますよ」
 ティミオスが森に慣れている足取りで迷いなく道を進む。大きく頼もしく見える背中で、茶色い髪がさらさらと揺れて、木漏れ日の中で艶をはなつのが綺麗で、ネネツィカはつい指を絡めて触り心地を堪能したくなってしまう。
「いけませんよ」
「アタクシ、口に出してたかしら?」
 前を歩く肩が揺れた。言葉を連ねようと唇を開きかけたネネツィカは、耳に水のせせらぎが感じられる事に気づいて青い宝石めいて瞳をかがやかせた。

「川ですわー!」
「あっ、お嬢様」
 猪突猛進、ティミオスを追い越し、さあ川へ!
 茂みをかき分けてダッシュしたネネツィカは――「あら?」「お嬢様!!」

 一瞬の喪失感は足元から。フッと景色が上に流れて、真っ直ぐに下に落ちる感覚と喉から無意識に叫ばれる自分の悲鳴につつまれて、暗い穴の中をネネツィカは一気に落ちて、底に着く前に意識を失った。


◇◇◇


 ご機嫌よう、アタクシ、ネネツィカ。今アナタの脳内に直接実況レポートを語りかけていますの。
 アタクシ、魔法薬を作るために材料をゲットしようと森に出かけたら、よくわからないけど足元に穴が空いていてスポーンと落ちてしまいましたの。

「みぎゃぁああああ!!?」

 落ちている最中、酷い悲鳴が聞こえましたわ。カエルを潰しちゃったみたいな――えっ、今のアタクシの悲鳴? まさかそんな。アタクシの悲鳴はもっとお嬢様らしくて可憐ですわ!

 ――とにかく。
 目が覚めると、そこは虹色の橋の上でしたの。ヴァニラみたいな、すっごい良い匂いがする場所でしたわ。
 空は上の方が薄いピンク色で、下に行くほど黄色になっていて、ふわふわの雲から逆さに空から生えたお城がありました。透明な薄い膜に虹色の艶を見せるシャボン玉がふわふわーっと舞っていて、橋の下にはカラフルな大輪のお花を浮かべた透明な水がたぷたぷしていました。

「ここは……」
 アタクシは頬をつねつね、アイタタタでそこが夢じゃないのだと理解しましたわ。そして、呆然と座り込んで、シャボン玉に手を伸ばしたのです。

 すると。
 パチーン!
「ひゃぁっ!?」
 指先で触れたシャボン玉はぱちーんと弾けて消えて、同時に、ころんころんと上の方から鐘の音が聞こえて来ましたの!

「なんかダメでしたかしら!? ごめんなさいですわっ!?」
 ふるふると震えるアタクシ。その目の前に、ふわぁーっとふたつの影が現れたのです。
 ひとつは、以前夢で見た白いうさぎさん。
 もうひとつは――銀色の人の形をした幽霊みたいなおぼろな影――「エリック王子殿下?」アタクシはその時、一眼でそう思いましたの。

 うさぎさんはぴょこんと跳ねて、アタクシの肩に乗り――ふわふわのモフモフな体を頬にすりすりしてくれましたの。かっわいい……! ここが楽園でしたのね!? たぶん違うと思いますけど!
「うふふ、くすぐったいですわ! ふわふわ……!」
 そんなヘヴン状態のアタクシに銀色の影はふわふわと近寄ってきて、手らしきものを差し出したのです。

 その手を取ろうとして――、
「お嬢様! ネネツィカお嬢様!」
 ぐらぐらっ、世界が揺れましたわ。アタクシは手を掴んで、きゃーって叫んで彼に抱きついたのです。すると、きゃーって声がすごくはっきりと耳に聞こえて、抱きついた彼が「お嬢様!」と慌てた声をあげて……アタクシ、そこで夢から覚めてティミオスに抱き抱えられた自分に気付いたのですの。

「ティミオス……アタクシ、穴から落ちましたわね?」
 ぼんやりと周りを見ると、さらさら流れる小川がすぐ近くにありましたわ。

「穴……?」
 ティミオスは戸惑いがちに、アタクシが全力ダッシュで茂みをかき分けて、急な斜面を滑り落ちていって気を失っていたのだと教えてくれましたの。
「わたくしがついていながら申し訳ございません」
 ティミオスが申し訳なさそうに頭を下げて、アタクシに謝るのでアタクシは慌てて「アタクシが走ったのが悪かったのですわ!」と謝りましたの。

「そしてアタクシは手を取って、たぶんふぁーって空を飛びましたの! ふぁーって!」
 そのあと、残りの材料を集めながら、アタクシは夢のお話に脚色を加えて、冒険活劇風にティミオスに教えてあげました。ティミオスが少し残念そうに「わたくしもお供したかったのですが、夢の中ではお供出来なかったようですね」と呟いたので、アタクシはちょっぴり申し訳なくなっちゃいましたのよ。

「今度は一緒に冒険するのですわ! ちゃんと夢の中にもついてきてね!」
 そう言って小指を差し出したら、ティミオスは「かしこまりました」と笑って、自分の小指を絡めて約束してくれましたの。小指と小指を絡めて約束するのは、ヘレナが教えてくれたのですわ。

 でも、アタクシ本当は思うのです。
 ――アタクシ、本当にあの時、ぽっかり開いた不思議な穴に落ちましたのよ。スポーンって。
 それで、すごく良い匂いがして、つねつねしたらちゃんとイタタタってなりましたの。

 服だって汚れていませんもの。
 ――だから、アタクシは「嘘をついてもハリセンボンは許してあげますわ」と付け足して指を離したのです。
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