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5、北の大地と黒歴史編
27、守れ、薄い本!
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ヒューバート・ラーフルトンは学院で優等生に分類される。真面目で落ち着いており、羽目を外す事もない。ティーンズの年頃といえば、情緒のぶれ幅が大きく繊細な年頃で風が吹いただけでポエったりメンがヘラったりして面倒極まりないというのがヴァルターの見解であるが、ヒューバートという少年は次期伯爵家当主の重責もあってか、17歳という年齢にしては論理的思考を備えており、見所のある若者に思えていたのだ。
――だというのに。
「ええい、離さぬか!」
「これだけは……この本だけは……いけません!」
たかが一冊の薄い本。それに、こんなに必死になっているのは一体どうした事だろう。
事の発端は、ヴァルターが伯爵家夫人カリーナの暇潰しのような気まぐれな依頼とその見通しを当主であるラーフルトン伯爵に報告した事に始まる。
『妻がそんなコトを?』
優しく温厚そうな瞳をぱちぱちと瞬かせて、伯爵はあたたかに声を連ねた。
『無礼な発言もあった様子で、失礼をお詫びしよう。このたびのご助力、ご厚意に心から感謝する』
立場的には出ようと思えば高圧的に出られるものだが、ラーフルトン伯爵は帽子を取って頭を下げた。頭は少し禿げかけていた――『妻とは話し合う必要がありそうだ。依頼については、報酬をお渡しするので予定通りご協力を願いたいのだが、可能だろうか。必要な物資を当主の名のもとにすぐに手配する。人材も確保しよう……』仕事はある意味、これで終わりと言っていい。
あとは、伯爵が内も外もうまくまとめるだろう。ヴァルターにはそう思われた。
ラーフルトン伯爵は、魔術師であるヴァルターにとっては少しばかり特別だ。
魔術師は妖精の血が混ざっている者が多く、妖精に親近感を抱いている事が多い。ヴァルター自身も、親妖精派だ――竜の国で親妖精派は現状肩身が狭いので、あまり公言はしないが。
この北の領地は、古の時代に竜だか勇者だかがファーリズの大地に妖精族の立ち入りを禁止する呪式を施した際、唯一例外として認められた地らしい。
勇者の幼馴染の魔法使いワイストン・ラーフルトンがこの地を与えられて、自分の手が届く領地だけでも立ち入りができるように、と妖精たちを匿ったのだとか言い伝えられている。
ラーフルトン伯爵は嫡男ヒューバートを信頼しており、将来後を継ぐ時に備えるため経験を積ませる目的もあるのだと意向を伝えて、ヴァルターとの打ち合わせをヒューバートに任せた。
会議室で会うヒューバートは学院にいる時よりも大人びていて、ヴァルターが友人の忘れ物に気づくまではその振る舞いには何も問題はなかったのだ。
友人エイヴンがここ最近大切にしている聖書の存在は、常々気になっていた。ヒューバートの妹令嬢も聖書を知っている様子で、よく二人で聖書を手に何やら熱心に語り合う姿が見られたのだ。
――ついに、その中身が判明する……。
スッと手を伸ばすヴァルター。それに気づいてハッと息を飲み緊迫した制止の声を放つヒューバート。
「先生! その本はいけません!」
ヒューバートは、その本が何なのか知っていた。妹ネネツィカが愛読する『薄い本』だ。
兄は、妹の趣味を正しく理解していた。なにせ、面と向かってヒューバートと執事ティミオスが手を繋いでほおを染め見つめ合う絵を見せられた事がある。イベントにも一緒に出かけた。
『お兄さまぁ~!』
ヒューバートの脳内に、愛らしいネネツィカの笑顔と声が蘇る。その腐った妄想趣味自体は断固として拒絶するのだが、繋いだ手の温もりはあたたかくて、妹は可愛いのだった。
『お兄さま! アタクシ、お兄さまが……だ、い、す、き! ラブですの! きゃっ』
――そんなセリフは現実には一切なかったが、兄の脳内ネネツィカは両手でハートマークを作って兄への愛情を伝えている。
『婚約だなんて、ぴえんっですわ。ネネツィカ、王子様よりお兄さまのお嫁さんになりたいですの……』
そんなセリフは現実には(略)兄の妄想はなかなか濃かった。
(血の繋がりを感じる)
その表情から何かを察したエイヴンが兄妹を見比べ、満を持して部屋に踏み込んだ。
「ちょっと待ったァァァ!」
「エイヴン!」
「先生!?」
エイヴン・フィーリー(23歳)、職業は学院の歴史教師。ズパーンと扉を開け放ち、部屋の外と中の注目を一身に浴びた彼はキリッとした顔をして、薄い本を取り上げる!
「これは……24歳以上の大人が読んだら謎の奇病に罹ってしまう、呪われた聖書なんだ」
ヴァルターが大きく目を見開いた。そう。彼は先月、24になったばかり――!
「だからお前にだけは見せられないんだよッ! ラーフルトン君は……お前のためを思って止めていたんだ!」
「なん……だと……!」
「せ、先生!!」
ヒューバートが感激した面持ちで歴史教師を見つめている。
――フィーリー先生は、僕と妹を庇ってくれている!
一方部屋の入り口で見守るネネツィカは、「お兄様とエイヴンのカップリング……ヴァルターも混ぜて三角関係……誰がどのポジションに……?」と、新たなカップリングの可能性に目を輝かせていた。この兄にして妹あり、外見的にも内面的にも、確かな血の繋がりを感じる……エイヴンは、しみじみと思った。
(家族って、いいな)
……と。
――だというのに。
「ええい、離さぬか!」
「これだけは……この本だけは……いけません!」
たかが一冊の薄い本。それに、こんなに必死になっているのは一体どうした事だろう。
事の発端は、ヴァルターが伯爵家夫人カリーナの暇潰しのような気まぐれな依頼とその見通しを当主であるラーフルトン伯爵に報告した事に始まる。
『妻がそんなコトを?』
優しく温厚そうな瞳をぱちぱちと瞬かせて、伯爵はあたたかに声を連ねた。
『無礼な発言もあった様子で、失礼をお詫びしよう。このたびのご助力、ご厚意に心から感謝する』
立場的には出ようと思えば高圧的に出られるものだが、ラーフルトン伯爵は帽子を取って頭を下げた。頭は少し禿げかけていた――『妻とは話し合う必要がありそうだ。依頼については、報酬をお渡しするので予定通りご協力を願いたいのだが、可能だろうか。必要な物資を当主の名のもとにすぐに手配する。人材も確保しよう……』仕事はある意味、これで終わりと言っていい。
あとは、伯爵が内も外もうまくまとめるだろう。ヴァルターにはそう思われた。
ラーフルトン伯爵は、魔術師であるヴァルターにとっては少しばかり特別だ。
魔術師は妖精の血が混ざっている者が多く、妖精に親近感を抱いている事が多い。ヴァルター自身も、親妖精派だ――竜の国で親妖精派は現状肩身が狭いので、あまり公言はしないが。
この北の領地は、古の時代に竜だか勇者だかがファーリズの大地に妖精族の立ち入りを禁止する呪式を施した際、唯一例外として認められた地らしい。
勇者の幼馴染の魔法使いワイストン・ラーフルトンがこの地を与えられて、自分の手が届く領地だけでも立ち入りができるように、と妖精たちを匿ったのだとか言い伝えられている。
ラーフルトン伯爵は嫡男ヒューバートを信頼しており、将来後を継ぐ時に備えるため経験を積ませる目的もあるのだと意向を伝えて、ヴァルターとの打ち合わせをヒューバートに任せた。
会議室で会うヒューバートは学院にいる時よりも大人びていて、ヴァルターが友人の忘れ物に気づくまではその振る舞いには何も問題はなかったのだ。
友人エイヴンがここ最近大切にしている聖書の存在は、常々気になっていた。ヒューバートの妹令嬢も聖書を知っている様子で、よく二人で聖書を手に何やら熱心に語り合う姿が見られたのだ。
――ついに、その中身が判明する……。
スッと手を伸ばすヴァルター。それに気づいてハッと息を飲み緊迫した制止の声を放つヒューバート。
「先生! その本はいけません!」
ヒューバートは、その本が何なのか知っていた。妹ネネツィカが愛読する『薄い本』だ。
兄は、妹の趣味を正しく理解していた。なにせ、面と向かってヒューバートと執事ティミオスが手を繋いでほおを染め見つめ合う絵を見せられた事がある。イベントにも一緒に出かけた。
『お兄さまぁ~!』
ヒューバートの脳内に、愛らしいネネツィカの笑顔と声が蘇る。その腐った妄想趣味自体は断固として拒絶するのだが、繋いだ手の温もりはあたたかくて、妹は可愛いのだった。
『お兄さま! アタクシ、お兄さまが……だ、い、す、き! ラブですの! きゃっ』
――そんなセリフは現実には一切なかったが、兄の脳内ネネツィカは両手でハートマークを作って兄への愛情を伝えている。
『婚約だなんて、ぴえんっですわ。ネネツィカ、王子様よりお兄さまのお嫁さんになりたいですの……』
そんなセリフは現実には(略)兄の妄想はなかなか濃かった。
(血の繋がりを感じる)
その表情から何かを察したエイヴンが兄妹を見比べ、満を持して部屋に踏み込んだ。
「ちょっと待ったァァァ!」
「エイヴン!」
「先生!?」
エイヴン・フィーリー(23歳)、職業は学院の歴史教師。ズパーンと扉を開け放ち、部屋の外と中の注目を一身に浴びた彼はキリッとした顔をして、薄い本を取り上げる!
「これは……24歳以上の大人が読んだら謎の奇病に罹ってしまう、呪われた聖書なんだ」
ヴァルターが大きく目を見開いた。そう。彼は先月、24になったばかり――!
「だからお前にだけは見せられないんだよッ! ラーフルトン君は……お前のためを思って止めていたんだ!」
「なん……だと……!」
「せ、先生!!」
ヒューバートが感激した面持ちで歴史教師を見つめている。
――フィーリー先生は、僕と妹を庇ってくれている!
一方部屋の入り口で見守るネネツィカは、「お兄様とエイヴンのカップリング……ヴァルターも混ぜて三角関係……誰がどのポジションに……?」と、新たなカップリングの可能性に目を輝かせていた。この兄にして妹あり、外見的にも内面的にも、確かな血の繋がりを感じる……エイヴンは、しみじみと思った。
(家族って、いいな)
……と。
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