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5、北の大地と黒歴史編
29、ワイルドは黒歴史の香り
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「さあさあ、読んでおくれ」
クレイが勧めるので、ネネツィカは早速手紙を読んでみることにした。護衛と執事を連れた一行はずらずらと歩き、庭先のテーブルセット周辺で落ち着いた。
さやさやと緑が揺れて、日差しは眩くて風が光っているように感じられる。
手紙には、以前よりもわざと筆圧強く、角張って書かれた様子の文字が並んでいた。
「ほぉーん……きっと文字もワイルドを意識なされたのですわね」
「そうそう。とても頑張って書いてたのだよ」
『オレの麗しき婚約者ネネツィカへ』
書き初めから早速うわさの『オレ』である。ネネツィカは謎の羞恥心に襲われた。
『手紙を読んでやったぜ。まったく、忙しいってのに。オレのハートを文字だけで鷲掴みにして悪いニャンコちゃんだ』
「……くっ!?」
(なんですの、これは)
キッツイ! ネネツィカは戦慄した。思わず呻き声が溢れてしまうのを堪えきれなかった。震える指先が手紙を伏せそうになる。
(いけません、仮にも婚約者からの手紙よネネツィカ! 無理なんて思っちゃダメ……! 読むの。読むのよネネツィカ!)
「がーんばれ、がーんばれ。きみなら読める。ぼくは、そう信じるものである」
クレイが隣でおっとりと応援してくれている。それが茶化す感じというか、絶妙に力の抜ける感じというか、絶対応援してない、煽ってます――ネネツィカは殴りたくなった。
兄妹揃って見た目は佳いのに。外見はすごくなでなでして着飾らせて飾っておきたいくらいなのに。
『オレは最近ワイルドソード技をマスターしたんだ。オーガストも一撃で倒しちゃうぜ。この前なんて盗んだ早馬で走り出した先で暴れ野良ドラゴンがいたからよ、オレのシマでなにやってんじゃボケって一撃必殺でわからせてやったわけ。まあサイキョーっていうか。でもオレはまだまだ伸び代があるからよ』
「ひっどい……あまりにもひっどい……」
ネネツィカは溜まらず手紙を伏せた。クオリティがひどい。
「殿下、こんなのワイルドというより黒歴史ですわー!?」
「ふ、……っ、くくっ、……」
肩を震わせ、クレイが笑っている。
(あっ、コイツこっそりアタクシの手元を覗いて読んでましたのね! マナー違反ですわよ!!)
「ね、だから直接話した方がいいよって僕は言ったんだよ。手紙、これでも3回書き直しさせたんだよ、最初のとかもっと酷くて」
――ね、とクレイが護衛を振り返る。後ろにいた黒フードの護衛がムスッとした顔で「悪かったな」と言い放った。その声に聞き覚えがあるネネツィカは、「あら?」と視線を向けた。
少年の背丈の黒フードは、視線に気づいて黙り込む。
クレイはくすくす笑い、黒フードに手を伸ばした。
「ね、ぼくが紹介してあげようか? とびきりワイルドな王子様だよって」
「いらない!」
癇癪を起こした駄々っ子みたいに弾けた声は、やっぱり聞き覚えがあって――ネネツィカは恐る恐る問いかけた。
「まさか、エリック王子殿下ですの?」
ぐぐ、と喉を唸らせる音がして、黒フードが顔を見せた。前よりも日に焼けた肌に、相変わらず宝石みたいに美しい煌めきの青い瞳がそこにあった。吊り目がちな目元から頬は赤く紅潮していて、手を差し出す仕草は夢の中の銀の影を思い出させた。
「久しぶりだね、……だな?」
憤然と顎を上げる様子は、確かに前と違っている。なんとなく無理をしている感じもあって謎の微笑ましさと恥ずかしさがあるのだが、ネネツィカは周りをぐるりと確かめてから声を顰めた。
「あの……立場的にすごくまずいことをなさってませんこと?」
友人の護衛に扮して会いにくるとは――、
「ワイルドじゃないかい、……ワイルドだろ?」
「殿下、それはワイルドじゃありません」
……しかも、無理してるのがバレバレなのだ。それがますます痛々しさを助長させている。
「えっ、そんな馬鹿な!?」
「馬鹿な、ではありません!」
執事はポカンとしてやり取りを見守っている。その隣ではクレイが笑っていた。
「ああ、アタクシすごく今、申し上げたい事があるのですけれど……」
ネネツィカは遺憾の意をたっぷり込めて変わり果てた殿下を見た。
「言ってみろ、オレは懐がでかいから何でも言っていいぞ」
こういうのをスパダリって言うんだろ、と練習したらしきスパダリ顔を披露するエリック王子。
「すごく! 見てて! 恥ずかしい気持ちになるので! 申し訳ないのですけれども! 元に戻ってくださいます?」
「ははっ、エリック、失敗したね! しってる? こういうの『ざまぁ』っていうのだって。ユージェニーが前、言ってた」
クレイがとても楽しそうに笑っていた。ネネツィカは二人まとめて家の外に放り出そうかと一瞬本気で考えた。
「そうか。違ったかぁ……」
エリック王子はしょんぼりと黒フードで顔を隠してからクレイをポカッと殴って黙らせた。
「護衛は主人を殴ったりしないんだよ、エリックは護衛失格だよ」
クレイがちょっと不満げに言って、呪術師の背中に隠れてしまった。
「甘ったれてるなあ。主人が道を違えた時は、諫めるのも臣下の務めなんだぞ」
そう言いながらエリック王子がテーブルの皿からプレーンクッキーをつまんで差し出している。
「これが美味い」
にこにこと言えば、呪術師の背中からそっとクレイが顔を出して、興味を惹かれた顔をした。
「でも、お前にはあげない」
エリック王子は意地悪に言ってクッキーを全部ネネツィカの皿に盛り上げた。
「まあ、エリック様――意地悪ですの」
「ふふん」
エリック王子はやんちゃな顔をして笑った。それがとても子どもっぽくて、ネネツィカはくすりと笑ってクッキーをもう一枚のお皿に取り分けた。
「では、こちらはクレイ様の分ということで」
クレイに皿を渡すと、エリック王子が軽くむくれた顔をして、やはり子どもっぽい。
ではクレイはどうかというと、皿のクッキーをちょこんとつまんで「エリック、ざまぁだよ」とお気に入りらしきフレーズを繰り返していた。
「まさか王子殿下がお忍びでいらっしゃるとは」
ティミオスは人差し指を顎に当てて困り顔をして、残りの使節団護衛たちに問いかけるような視線を向けた。お菓子やお茶を楽しみつつ、ふらふらと花畑に寄って行って揃いの花冠などをつくりはじめた少年少女――彼らは楽しいかもしれないが、大人にとってはとんでもない事態であった。
(ティミオスの困り顔は色気があって妄想したくなるのですわ)
ネネツィカはそんな事を考えながら愛らしい花冠を少年たちに被せて、ほわほわと見惚れていたが。
「そうとわかればこうしてはいられません。ひとまず当主に報告をいたしますので、邸宅内にてお待ちくださいますでしょうか」
少女の妄想を予感しつつ、ティミオスはテキパキと一行を誘導し、「えぇっ、王子殿下が?」と、気弱なラーフルトン伯爵の胃にダメージを与えたのであった。
「そうそう、ネネツィカ、夢の話を手紙書いておいたからね」
エリック王子は大人たちに囲まれる寸前にそう囁き、落ち着いたらまた孤児院に行こうと微笑んだ。2人が出会った思い出の場所だ、とか呟いて。
「孤児院はデートスポットではないのですが」
ティミオスが嘆くように響いたから、ネネツィカは楽しくなった。
エリック王子の手紙には、夢の話が書いてあった。ネネツィカは見るたびに心が折れそうになる文面と数日向かい合い、なんとかその部分にたどり着いた。
「オレってば竜の加護をバリ持ってっから、ユージェニーもだけど呪いは得意分野なわけ。うちの王国の聖ってのはそっちなんだよ。遡ると勇者が竜と契約したんだけど以下略、そっちが妖精に悪戯されてるのがわかってオレはぷんぷんおこおこでぶっ飛んでいったんだが」
ひどい文章も慣れれば読める。ネネツィカは無感情を顔に張り付かせて、手紙をめくり――「お嬢様」優しい声がふわりと耳朶をくすぐった。
「あら、何かしら!」
ビクッと肩を揺らして振り返るネネツィカ。そこには、真っ白なうさぎを抱っこした執事の姿があった。
「まあ! 可愛いうさぎさんですわね」
夢で見たうさぎさんとそっくり、と胸の内に驚きを秘めながら。
どうしたの? と問いかけるネネツィカに、執事はにこにこと微笑んだ。
「お嬢様が気にされているご様子なので」
捕まえて参りました、と差し出されたそれは、ふわふわしていた。
「アタクシが何を気にしたかしら」
白うさぎを優しく撫でると、うさぎは賢そうな目を向けてくる。
「出過ぎた事でしたら申し訳ございません。お休み中に時折、この冬うさぎと戯れていらしたのが感じられたものですから」
冬うさぎ、とネネツィカは音を舌に乗せてみた。執事の薄紅の瞳は優しげで、ちょっと焦っているみたいにも見えたから、ネネツィカはくすくすと笑ってあげた。
「レディの寝言は聞かなかったフリをしなきゃ」
「仰る通りでございます、失礼いたしました」
「だからあの時は知らないフリをしていたのですわね」
そういうことにしてあげる、と瞳を覗き込めば、親しい距離感に安堵が満ちる。
「それで、冬うさぎさんはどんな妖精さんですの?」
無邪気な声で問いかけを重ねれば、執事はおっとりと彼の友を紹介してくれる。
「冬うさぎは冬という季節を大地に巡らせる役目を持っている妖精でございます」
ネネツィカはふむふむと相槌を打って聞き入る傍らで、ヘレナの布教でハマった勇者伝説を思い出していた。
伝説には、妖精がたくさん出てくるから。
クレイが勧めるので、ネネツィカは早速手紙を読んでみることにした。護衛と執事を連れた一行はずらずらと歩き、庭先のテーブルセット周辺で落ち着いた。
さやさやと緑が揺れて、日差しは眩くて風が光っているように感じられる。
手紙には、以前よりもわざと筆圧強く、角張って書かれた様子の文字が並んでいた。
「ほぉーん……きっと文字もワイルドを意識なされたのですわね」
「そうそう。とても頑張って書いてたのだよ」
『オレの麗しき婚約者ネネツィカへ』
書き初めから早速うわさの『オレ』である。ネネツィカは謎の羞恥心に襲われた。
『手紙を読んでやったぜ。まったく、忙しいってのに。オレのハートを文字だけで鷲掴みにして悪いニャンコちゃんだ』
「……くっ!?」
(なんですの、これは)
キッツイ! ネネツィカは戦慄した。思わず呻き声が溢れてしまうのを堪えきれなかった。震える指先が手紙を伏せそうになる。
(いけません、仮にも婚約者からの手紙よネネツィカ! 無理なんて思っちゃダメ……! 読むの。読むのよネネツィカ!)
「がーんばれ、がーんばれ。きみなら読める。ぼくは、そう信じるものである」
クレイが隣でおっとりと応援してくれている。それが茶化す感じというか、絶妙に力の抜ける感じというか、絶対応援してない、煽ってます――ネネツィカは殴りたくなった。
兄妹揃って見た目は佳いのに。外見はすごくなでなでして着飾らせて飾っておきたいくらいなのに。
『オレは最近ワイルドソード技をマスターしたんだ。オーガストも一撃で倒しちゃうぜ。この前なんて盗んだ早馬で走り出した先で暴れ野良ドラゴンがいたからよ、オレのシマでなにやってんじゃボケって一撃必殺でわからせてやったわけ。まあサイキョーっていうか。でもオレはまだまだ伸び代があるからよ』
「ひっどい……あまりにもひっどい……」
ネネツィカは溜まらず手紙を伏せた。クオリティがひどい。
「殿下、こんなのワイルドというより黒歴史ですわー!?」
「ふ、……っ、くくっ、……」
肩を震わせ、クレイが笑っている。
(あっ、コイツこっそりアタクシの手元を覗いて読んでましたのね! マナー違反ですわよ!!)
「ね、だから直接話した方がいいよって僕は言ったんだよ。手紙、これでも3回書き直しさせたんだよ、最初のとかもっと酷くて」
――ね、とクレイが護衛を振り返る。後ろにいた黒フードの護衛がムスッとした顔で「悪かったな」と言い放った。その声に聞き覚えがあるネネツィカは、「あら?」と視線を向けた。
少年の背丈の黒フードは、視線に気づいて黙り込む。
クレイはくすくす笑い、黒フードに手を伸ばした。
「ね、ぼくが紹介してあげようか? とびきりワイルドな王子様だよって」
「いらない!」
癇癪を起こした駄々っ子みたいに弾けた声は、やっぱり聞き覚えがあって――ネネツィカは恐る恐る問いかけた。
「まさか、エリック王子殿下ですの?」
ぐぐ、と喉を唸らせる音がして、黒フードが顔を見せた。前よりも日に焼けた肌に、相変わらず宝石みたいに美しい煌めきの青い瞳がそこにあった。吊り目がちな目元から頬は赤く紅潮していて、手を差し出す仕草は夢の中の銀の影を思い出させた。
「久しぶりだね、……だな?」
憤然と顎を上げる様子は、確かに前と違っている。なんとなく無理をしている感じもあって謎の微笑ましさと恥ずかしさがあるのだが、ネネツィカは周りをぐるりと確かめてから声を顰めた。
「あの……立場的にすごくまずいことをなさってませんこと?」
友人の護衛に扮して会いにくるとは――、
「ワイルドじゃないかい、……ワイルドだろ?」
「殿下、それはワイルドじゃありません」
……しかも、無理してるのがバレバレなのだ。それがますます痛々しさを助長させている。
「えっ、そんな馬鹿な!?」
「馬鹿な、ではありません!」
執事はポカンとしてやり取りを見守っている。その隣ではクレイが笑っていた。
「ああ、アタクシすごく今、申し上げたい事があるのですけれど……」
ネネツィカは遺憾の意をたっぷり込めて変わり果てた殿下を見た。
「言ってみろ、オレは懐がでかいから何でも言っていいぞ」
こういうのをスパダリって言うんだろ、と練習したらしきスパダリ顔を披露するエリック王子。
「すごく! 見てて! 恥ずかしい気持ちになるので! 申し訳ないのですけれども! 元に戻ってくださいます?」
「ははっ、エリック、失敗したね! しってる? こういうの『ざまぁ』っていうのだって。ユージェニーが前、言ってた」
クレイがとても楽しそうに笑っていた。ネネツィカは二人まとめて家の外に放り出そうかと一瞬本気で考えた。
「そうか。違ったかぁ……」
エリック王子はしょんぼりと黒フードで顔を隠してからクレイをポカッと殴って黙らせた。
「護衛は主人を殴ったりしないんだよ、エリックは護衛失格だよ」
クレイがちょっと不満げに言って、呪術師の背中に隠れてしまった。
「甘ったれてるなあ。主人が道を違えた時は、諫めるのも臣下の務めなんだぞ」
そう言いながらエリック王子がテーブルの皿からプレーンクッキーをつまんで差し出している。
「これが美味い」
にこにこと言えば、呪術師の背中からそっとクレイが顔を出して、興味を惹かれた顔をした。
「でも、お前にはあげない」
エリック王子は意地悪に言ってクッキーを全部ネネツィカの皿に盛り上げた。
「まあ、エリック様――意地悪ですの」
「ふふん」
エリック王子はやんちゃな顔をして笑った。それがとても子どもっぽくて、ネネツィカはくすりと笑ってクッキーをもう一枚のお皿に取り分けた。
「では、こちらはクレイ様の分ということで」
クレイに皿を渡すと、エリック王子が軽くむくれた顔をして、やはり子どもっぽい。
ではクレイはどうかというと、皿のクッキーをちょこんとつまんで「エリック、ざまぁだよ」とお気に入りらしきフレーズを繰り返していた。
「まさか王子殿下がお忍びでいらっしゃるとは」
ティミオスは人差し指を顎に当てて困り顔をして、残りの使節団護衛たちに問いかけるような視線を向けた。お菓子やお茶を楽しみつつ、ふらふらと花畑に寄って行って揃いの花冠などをつくりはじめた少年少女――彼らは楽しいかもしれないが、大人にとってはとんでもない事態であった。
(ティミオスの困り顔は色気があって妄想したくなるのですわ)
ネネツィカはそんな事を考えながら愛らしい花冠を少年たちに被せて、ほわほわと見惚れていたが。
「そうとわかればこうしてはいられません。ひとまず当主に報告をいたしますので、邸宅内にてお待ちくださいますでしょうか」
少女の妄想を予感しつつ、ティミオスはテキパキと一行を誘導し、「えぇっ、王子殿下が?」と、気弱なラーフルトン伯爵の胃にダメージを与えたのであった。
「そうそう、ネネツィカ、夢の話を手紙書いておいたからね」
エリック王子は大人たちに囲まれる寸前にそう囁き、落ち着いたらまた孤児院に行こうと微笑んだ。2人が出会った思い出の場所だ、とか呟いて。
「孤児院はデートスポットではないのですが」
ティミオスが嘆くように響いたから、ネネツィカは楽しくなった。
エリック王子の手紙には、夢の話が書いてあった。ネネツィカは見るたびに心が折れそうになる文面と数日向かい合い、なんとかその部分にたどり着いた。
「オレってば竜の加護をバリ持ってっから、ユージェニーもだけど呪いは得意分野なわけ。うちの王国の聖ってのはそっちなんだよ。遡ると勇者が竜と契約したんだけど以下略、そっちが妖精に悪戯されてるのがわかってオレはぷんぷんおこおこでぶっ飛んでいったんだが」
ひどい文章も慣れれば読める。ネネツィカは無感情を顔に張り付かせて、手紙をめくり――「お嬢様」優しい声がふわりと耳朶をくすぐった。
「あら、何かしら!」
ビクッと肩を揺らして振り返るネネツィカ。そこには、真っ白なうさぎを抱っこした執事の姿があった。
「まあ! 可愛いうさぎさんですわね」
夢で見たうさぎさんとそっくり、と胸の内に驚きを秘めながら。
どうしたの? と問いかけるネネツィカに、執事はにこにこと微笑んだ。
「お嬢様が気にされているご様子なので」
捕まえて参りました、と差し出されたそれは、ふわふわしていた。
「アタクシが何を気にしたかしら」
白うさぎを優しく撫でると、うさぎは賢そうな目を向けてくる。
「出過ぎた事でしたら申し訳ございません。お休み中に時折、この冬うさぎと戯れていらしたのが感じられたものですから」
冬うさぎ、とネネツィカは音を舌に乗せてみた。執事の薄紅の瞳は優しげで、ちょっと焦っているみたいにも見えたから、ネネツィカはくすくすと笑ってあげた。
「レディの寝言は聞かなかったフリをしなきゃ」
「仰る通りでございます、失礼いたしました」
「だからあの時は知らないフリをしていたのですわね」
そういうことにしてあげる、と瞳を覗き込めば、親しい距離感に安堵が満ちる。
「それで、冬うさぎさんはどんな妖精さんですの?」
無邪気な声で問いかけを重ねれば、執事はおっとりと彼の友を紹介してくれる。
「冬うさぎは冬という季節を大地に巡らせる役目を持っている妖精でございます」
ネネツィカはふむふむと相槌を打って聞き入る傍らで、ヘレナの布教でハマった勇者伝説を思い出していた。
伝説には、妖精がたくさん出てくるから。
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