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5、北の大地と黒歴史編
31、孤児院、クレイはあまりオレの婚約者を見てはいけない
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――複雑な心境ですわ。
執事と話した数日後、ネネツィカはクレイとその護衛に扮したエリック王子を連れて孤児院を訪れていた。エリック王子はお忍び行動を取りたがり、安全面に不安があるからせめて正体を明かして護衛ではなく賓客として守られてくださいと何度言ってもきかない。それがワイルドだろと言うから、ネネツィカは残念そうな目を向けてやった。
(ああ、これもアタクシの『お嬢様方の性質』の影響? なら、エリック王子殿下には申し訳ありませんわね)
「元気がないね、ネネツィカ。どうしたの?」
「なんでもありませんわ」
エリック王子の煌めく瞳が案ずる温度を見せてくれる。好意を感じると以前はくすぐったいような嬉しさや、ぽかぽかした感じや、少し気恥ずかしい感じもしたのだけれど、今はそれがなんだか無くなって、後ろめたさみたいなものが湧いてくる。
「エリックが例の手紙書いたから、婚約破棄したくなったのかもしれないよ。あの手紙にはそれだけの破壊力がある……」
そっとクレイが口を挟めば、エリック王子は「お前、最終的に『ぼくは、これでいいと思うよ』なんて言ってたじゃないか」と口を尖らせた。
「『ぼくは』エリックが婚約者に嫌われても別に構わないし……」
「なんだって。オレはお前が自分のことのようにオレの恋愛を応援してくれてると思ってたのに。裏切ったな!」
黙っていると無限に二人で仲の良いような喧嘩になりかけてるような会話を垂れ流す少年たちに、ネネツィカはほんわかと和んで満面の笑みを浮かべた。
(仲良し、とても良い――薄い本。ヘレナに教えてあげなくちゃ)
心の中でそんな事を思っていると、何かを勘違いしたらしきクレイが「ほら、君の婚約者が放置されて寂しそうだよ。ちゃんと気を使ってあげなきゃ」と促した。
「いや、オレが思うに寂しそうっていうか結構幸せそうな気配してる」
エリック王子はそんなことを言いつつ、ネネツィカにキラキラ輝く王子様スマイルを向ける。
「庭に新しく小屋が増えてるね」
孤児院の門を通りながらエリック王子が呟いたから、ネネツィカは笑顔で案内した。
「魔法薬をつくっていますの」
「おねーちゃーん」
小さな女の子が手を振っている。
「さっきトムとラリーとお薬作ってね、お菓子買いに行ってきたの」
ネネツィカはにっこりと手を振りかえし、女の子に近づいた。何度か来るうちに仲良くなった子の1人なのだ。まだ幼いが、布教していけば将来腐に目覚めるかもしれない――と、こっそり期待しているのはネネツィカの秘密である。
「ナスカはお手伝いしなかったのかしら?」
「あたし、葉っぱ切ったよ!」
「あら、偉いのね」
それなら3人で作ったと言わなきゃ、と付け足せば、ナスカと呼ばれた女の子は誇らしげに目をキラキラさせた。
庭で遊んでいた孤児院の子どもたちがチラチラと視線を送っている。小屋の内部にも子どもたちがいて、年配の大人が監督する中で数人がかりでひとつの鍋を囲んで魔法薬の調合をしていた。トムとラリーもそこにいて、「作った分だけ小遣いがもらえるぞ」と張り切っていた。
「ひとつの鍋を完成するごとに、報酬が渡されますの」
数人で作りあげたばかりの子どもたちが報酬を受け取って分け合い、貨幣を握りしめて古屋を出ていく。
「小銭を稼ぎたい子たちが好きな時に立ち寄って稼ぎ、好きな時に出ていくのです」
「へぇ……監督付きでも、……に、魔法薬を作らせるって危なくない? 間違って鍋が爆発したりとか」
クレイが興味深々、作りかけの鍋を覗き込んでいる。言葉を濁したあたりは、『教育を受けてない』とか『知識がない』とか、そんなニュアンスのことを言いかけていたのだろう。別に言ってもいいのに――ネネツィカは応じた。
「魔法薬の中には危険なモノもあるのでしょうけど、この魔法薬は安全ですわ。失敗しても爆発もしませんし毒性が発生することもありませんの。農地に散布するので人が飲むモノではありませんし」
「オレが学院の魔法薬学で調合実習する時と雰囲気が似てるなぁ」
エリック王子が年長者面で語るとクレイは面白がって空いている鍋の前に陣取った。
「ぼくとネネツィカは来年入学予定だし、予習のつもりで調合体験してみようよ」
「フッ、アタクシはすでにひとりでも調合ができますのよ……」
でも、お付き合いしますわ! アタクシが教えて差し上げる! と、ネネツィカがドヤ顔をして隣に並ぶと、エリック王子も鍋を囲む。
「先輩のオレが学院の話をしてあげよう」
「エリックは学院で取り巻きをぞろぞろ連れて歩いてるんだって。他の学生に迷惑だよね」
「クレイも入学したらそうなる」
大人の護衛たちはそんな3人を微笑ましくもおろおろとした様子で見守った。何せ、メンバーは王子に婚約者の伯爵令嬢に王族の血筋の公爵家令息と、場違いにロイヤルだったので。
「クレイ、試しに飲んでみろよ。これ結構甘そうな色してるだろ」
「お腹が痛くなるよ」
「死にはしないって。毒じゃない」
「死ななくても痛いのは嫌だよ」
お付きの呪術師などは、「手を切らないか」やら「変なものを口に入れないか」やら呟きながらハラハラしている。そんな中で、ティミオスはにこにこと自分のお嬢様を見ていた。
これだけ仲の良い少年たちを見ていれば、お嬢様ならば自然と腐女子な面を表に出すだろう――そう思って。
(エリック第二王子などは、もう『オレの将来の伴侶、絶対この子!』と守護竜に駄々をこねたりなさってそうですよ、お嬢様)
ネネツィカはそんな執事に気付きつつ、すまし顔である。
『お嬢様、お二人に例のご趣味を打ち明けてみませんか?』
出発前に、執事はそう提案したのだった。
『貴方がバカと言った趣味ですわね?』
イヤですわ……ネネツィカは首を振った。彼女はあくまで主人なのだ。決定権は譲らない。
執事はその時、とても心配そうに、変な事を言ったのだった。
『ですが、お嬢様。ヒロインやライバルのレンアイモードにハイヤクされてしまいますと、厄介な事件に巻き込まれやすくなってしまいます。おすすめできかねますが……』
よくわからないが、執事は二人に趣味バレしてネネツィカがちょっと嫌われたら良い、と思っている? ――ネネツィカはそう思った。
(せっかくお友達になれたのに、嫌われろなんて――いいえ、そもそも、趣味がバレただけで嫌われたりするかしら。アタクシはエリック様が例えワンコのふりをするのがご趣味だったり、クレイ様が女装お姫様ごっこがご趣味でも――想像しただけで可愛い――)
「エリック、君の婚約者はたまに心がふわふわしてる顔をするね」
不思議そうにクレイが言えば、エリック王子はちょっと眉を寄せた。
「クレイはあまりオレの婚約者を見てはいけない」
「独占欲がつよい……」
少年たちは妄想少女をほったらかしにして延々と話し続ける。それを見ていて、ネネツィカは「アタクシは傍観者でよくてよ」と己の立ち位置を定めるのであった。
執事と話した数日後、ネネツィカはクレイとその護衛に扮したエリック王子を連れて孤児院を訪れていた。エリック王子はお忍び行動を取りたがり、安全面に不安があるからせめて正体を明かして護衛ではなく賓客として守られてくださいと何度言ってもきかない。それがワイルドだろと言うから、ネネツィカは残念そうな目を向けてやった。
(ああ、これもアタクシの『お嬢様方の性質』の影響? なら、エリック王子殿下には申し訳ありませんわね)
「元気がないね、ネネツィカ。どうしたの?」
「なんでもありませんわ」
エリック王子の煌めく瞳が案ずる温度を見せてくれる。好意を感じると以前はくすぐったいような嬉しさや、ぽかぽかした感じや、少し気恥ずかしい感じもしたのだけれど、今はそれがなんだか無くなって、後ろめたさみたいなものが湧いてくる。
「エリックが例の手紙書いたから、婚約破棄したくなったのかもしれないよ。あの手紙にはそれだけの破壊力がある……」
そっとクレイが口を挟めば、エリック王子は「お前、最終的に『ぼくは、これでいいと思うよ』なんて言ってたじゃないか」と口を尖らせた。
「『ぼくは』エリックが婚約者に嫌われても別に構わないし……」
「なんだって。オレはお前が自分のことのようにオレの恋愛を応援してくれてると思ってたのに。裏切ったな!」
黙っていると無限に二人で仲の良いような喧嘩になりかけてるような会話を垂れ流す少年たちに、ネネツィカはほんわかと和んで満面の笑みを浮かべた。
(仲良し、とても良い――薄い本。ヘレナに教えてあげなくちゃ)
心の中でそんな事を思っていると、何かを勘違いしたらしきクレイが「ほら、君の婚約者が放置されて寂しそうだよ。ちゃんと気を使ってあげなきゃ」と促した。
「いや、オレが思うに寂しそうっていうか結構幸せそうな気配してる」
エリック王子はそんなことを言いつつ、ネネツィカにキラキラ輝く王子様スマイルを向ける。
「庭に新しく小屋が増えてるね」
孤児院の門を通りながらエリック王子が呟いたから、ネネツィカは笑顔で案内した。
「魔法薬をつくっていますの」
「おねーちゃーん」
小さな女の子が手を振っている。
「さっきトムとラリーとお薬作ってね、お菓子買いに行ってきたの」
ネネツィカはにっこりと手を振りかえし、女の子に近づいた。何度か来るうちに仲良くなった子の1人なのだ。まだ幼いが、布教していけば将来腐に目覚めるかもしれない――と、こっそり期待しているのはネネツィカの秘密である。
「ナスカはお手伝いしなかったのかしら?」
「あたし、葉っぱ切ったよ!」
「あら、偉いのね」
それなら3人で作ったと言わなきゃ、と付け足せば、ナスカと呼ばれた女の子は誇らしげに目をキラキラさせた。
庭で遊んでいた孤児院の子どもたちがチラチラと視線を送っている。小屋の内部にも子どもたちがいて、年配の大人が監督する中で数人がかりでひとつの鍋を囲んで魔法薬の調合をしていた。トムとラリーもそこにいて、「作った分だけ小遣いがもらえるぞ」と張り切っていた。
「ひとつの鍋を完成するごとに、報酬が渡されますの」
数人で作りあげたばかりの子どもたちが報酬を受け取って分け合い、貨幣を握りしめて古屋を出ていく。
「小銭を稼ぎたい子たちが好きな時に立ち寄って稼ぎ、好きな時に出ていくのです」
「へぇ……監督付きでも、……に、魔法薬を作らせるって危なくない? 間違って鍋が爆発したりとか」
クレイが興味深々、作りかけの鍋を覗き込んでいる。言葉を濁したあたりは、『教育を受けてない』とか『知識がない』とか、そんなニュアンスのことを言いかけていたのだろう。別に言ってもいいのに――ネネツィカは応じた。
「魔法薬の中には危険なモノもあるのでしょうけど、この魔法薬は安全ですわ。失敗しても爆発もしませんし毒性が発生することもありませんの。農地に散布するので人が飲むモノではありませんし」
「オレが学院の魔法薬学で調合実習する時と雰囲気が似てるなぁ」
エリック王子が年長者面で語るとクレイは面白がって空いている鍋の前に陣取った。
「ぼくとネネツィカは来年入学予定だし、予習のつもりで調合体験してみようよ」
「フッ、アタクシはすでにひとりでも調合ができますのよ……」
でも、お付き合いしますわ! アタクシが教えて差し上げる! と、ネネツィカがドヤ顔をして隣に並ぶと、エリック王子も鍋を囲む。
「先輩のオレが学院の話をしてあげよう」
「エリックは学院で取り巻きをぞろぞろ連れて歩いてるんだって。他の学生に迷惑だよね」
「クレイも入学したらそうなる」
大人の護衛たちはそんな3人を微笑ましくもおろおろとした様子で見守った。何せ、メンバーは王子に婚約者の伯爵令嬢に王族の血筋の公爵家令息と、場違いにロイヤルだったので。
「クレイ、試しに飲んでみろよ。これ結構甘そうな色してるだろ」
「お腹が痛くなるよ」
「死にはしないって。毒じゃない」
「死ななくても痛いのは嫌だよ」
お付きの呪術師などは、「手を切らないか」やら「変なものを口に入れないか」やら呟きながらハラハラしている。そんな中で、ティミオスはにこにこと自分のお嬢様を見ていた。
これだけ仲の良い少年たちを見ていれば、お嬢様ならば自然と腐女子な面を表に出すだろう――そう思って。
(エリック第二王子などは、もう『オレの将来の伴侶、絶対この子!』と守護竜に駄々をこねたりなさってそうですよ、お嬢様)
ネネツィカはそんな執事に気付きつつ、すまし顔である。
『お嬢様、お二人に例のご趣味を打ち明けてみませんか?』
出発前に、執事はそう提案したのだった。
『貴方がバカと言った趣味ですわね?』
イヤですわ……ネネツィカは首を振った。彼女はあくまで主人なのだ。決定権は譲らない。
執事はその時、とても心配そうに、変な事を言ったのだった。
『ですが、お嬢様。ヒロインやライバルのレンアイモードにハイヤクされてしまいますと、厄介な事件に巻き込まれやすくなってしまいます。おすすめできかねますが……』
よくわからないが、執事は二人に趣味バレしてネネツィカがちょっと嫌われたら良い、と思っている? ――ネネツィカはそう思った。
(せっかくお友達になれたのに、嫌われろなんて――いいえ、そもそも、趣味がバレただけで嫌われたりするかしら。アタクシはエリック様が例えワンコのふりをするのがご趣味だったり、クレイ様が女装お姫様ごっこがご趣味でも――想像しただけで可愛い――)
「エリック、君の婚約者はたまに心がふわふわしてる顔をするね」
不思議そうにクレイが言えば、エリック王子はちょっと眉を寄せた。
「クレイはあまりオレの婚約者を見てはいけない」
「独占欲がつよい……」
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