竜と王冠のサクリファイス~乙女ゲームの攻略キャラたちがお互いを攻略して王都炎上?

浅草ゆうひ

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6、ゲームのスタート

56、「触れたいんですかな? いいですぞ!」

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 サポートキャラ、執事ティミオスが澄まし顔でネネツィカを見ている。何かあれば話しかけてください、と言った顔だ。
(もしかして暇なのかしら)
 ネネツィカはお守りのように薄い本を抱きしめて、訪問者に視線を移した。

 エリック王子とデミルは互いの存在なんか構うもんかと言った雰囲気でネネツィカに笑顔を向ける。

「部屋を突然訪ねて驚かせてしまってすまない。先ほど話そびれてしまって」
「オイラは驚かせたくて来た! 驚いた? ビックリした? この先輩だれ?」
「部屋の前で偶然彼と出会って……タイミングが被ってしまったみたいだ」
「この人、オイラに遠慮して欲しそうだった! でも遠慮してあげなかったんだ、えへへ」
 エリック王子とデミルが交互に事情を話してくれた。ヘレナは「これ、ゲームでもあったイベントだよ」と囁いた。呼ばれぬままに、ティミオスが頷いて説明すしようと口を開いて。
「どっちを選ぶかで竜陣営と妖精陣営の好感度が上がったり下がったりな選択イベントなんだ」
 ヘレナが先に説明すると、無言のまま口を閉じた。
「あっ、ティミオスがちょっと涙目」
「ごめんね」

 エリック王子が信じられない、と言った奇妙な生き物を見るような目でデミルを見ている。
 ――オレは先輩で、ここは君の所属する寮ではない、貴族達の寮で、さらに言うなら彼女はオレの婚約者なんだ。
 部屋の外で自己紹介をして、わかるだろう、察して遠慮するだろうと期待したのだ。当然の期待だ。
 ――だから何?
 デミルは眼鏡をずらし、あやしい瞳で気まぐれで不遜な猫のように笑ったのだった。まるで自分が何にも縛られない、思い通りに振る舞うのが当たり前とでも言うように。

 ――この竜の国の王子であるエリック王子に、そんな目を向けたのだ。

「『お二人とも』中へどうぞ!」
 ネネツィカはにこやかに二人を部屋の中へと招いた。

「わーい!」
 デミルが無邪気にはしゃぐようにして室内に入り、エリック王子はその様子に唖然あぜんとしながらも、ここで退いては負けてしまうと思って後に続いた。

 ネネツィカは部屋の真ん中にクッションを置いた。
「お二人とも、もしよければこちらへ」
「うん……うん?」
「わー、なになに?」
 ソファじゃなくて床に!? と、二人が不思議そうにしつつ従ってくれる。
「お二人とも、目をつぶってくださる?」

「ヘレナ、あれを」
 ネネツィカは友を見た。ヘレナは早速一冊を床に置いた。そおっと。タイトルの見えない裏側を。ネネツィカはその隣に持っていた本を置き、本棚からまた一冊を取って床に置く。ヘレナも本を取り、置く。


「何をなさっているんです」
 思わずと言った様子でティミオスがつっこんだ。
「ボク、そういうのは……」
 その隣でクロも微妙な顔をしている。

「さあ、お二人とも。目を開けてよろしくてよ!」
 ネネツィカが高らかに告げて、エリック王子とデミルが目を開けた。

「わあ」
「うん……?」
 並んで座る二人の周りをぐるっと囲むように、ボーイズがラブする(でも年齢制限のない健全度高めの)薄い本が捧げられていた。

「エリック様はご存知だとアタクシは知っていますが」
 ポッと恥いるように頬をおさえて、乙女~って感じのオーラでネネツィカが説明する。
「アタクシとヘレナは腐っていますの」
「うん。……うん?」
 エリックは思った。それは多分知ったかをしているだけで知らない事だ。でも、なんとなくわかっているような自分がいる。

『目を覚ますんだエリック、きみのお気に入りの子は変だよ』
 あの時、クレイに返したように。
「オレはネネツィカの少し不思議な(モノは言いよう)ところも気に入ってるから……大丈夫だよ」
 この時、エリック王子が脳裏に描くのはティーリーだった。エリック王子を安心させてくれるティーリーのように――と意識して、エリック王子は優しく包容力のある微笑みを作った。
「腐っていてもいなくても、オレが君に抱いた好意が揺らぐことはないさ」
 きらきらした背景エフェクトが似合いそうな声で言いながら、隣のデミルが「あーっ、野郎どうしでちゅーしてる!」と本のページをめくって実況する現実から目を背けた。
「や、やめよう。えーと、マジェス君だったかな? あまりセリフを朗読したりするものじゃない、と思うよ」
 エリック王子はその趣味がどういうものか完全に理解して、腐っているというのがどういう意味なのかも把握した。
「うん。趣味は、人それぞれだから」
「『あなたは年上だし、身分も上ですから』『そんなこと言わずに僕の友達になってくれ、クレイ』『エリック様……』」
 デミルが友情本を朗読している。
「その本はなんだ!?」
 流石にダメージが大きいエリック王子。

「やー、これはきついよ」
 クロが呟いて。
「あ、でも効いてる」
 隣のティミオスに気づいた。とても残念そうな顔をして、しおしおとして消えていくサポートキャラ。
「ちょっとかわいそう」

「あ、竜だ」
 ショックを受けていたエリック王子はデミルの声でそちらを見た。黒いツヤツヤ、ふわふわした毛並み。愛らしい瞳。尻尾。
「可愛い黒猫だな、君たちのペットなのかい?」
 エリック王子は心を洗われたような目をした。
「猫じゃないよ。エリック先輩は目がフシアナだなあ」
「マジェス君、なぜオレにそんなにつっかかるんだ? 猫を猫と言っただけじゃないか」

 クロは愛らしく「ニャア」と鳴いて、丸くなった。

「ネネツィカ、望むならもっと広い部屋を用意させるよ。オレは手配できるから」
「学院の中でも権力振りかざして、王子様って本当にバカだね!」
「マジェス君……」

 ネネツィカは「この二人、永遠に喧嘩出来そうですわ」と呟いて。
「お二人の本、作れそうかも……」
 ヘレナが呟いた。

「えっ」
「わー、オイラの本! つくってつくって!」
「ま、マジェス君! ダメだ! 君、オレと君がちゅーしてる本が生まれてもいいのか!?」
「うん! オイラ見てみたい!」
「ええ!?」

 ――あら? あら、あら。

 カサカサと心の中で何かが蠢く。ホモォと鳴き声をあげそうなアレが。ああ、日常にそのホモォの愛するえさはあまりにも、あまりにも! 溢れている――

「アタクシ、お二人が仲良くなれると思うのですわ、すごく」
 ネネツィカはヘレナと目を合わせて、無言でうなずきを交わしたのだった。


 ◇◇◇


 一方、ネネツィカに存在感が薄く認知されている公爵令息クレイはというと、順調にオスカーに慣れつつあった。
「おれは単位をほとんど取得済ですからな! ずっとついておりますぞ!」
「さっさと卒業したらよいのでは……」
「全て取得し終えてるわけでもないんで」
「あ、そう……」

(この者は学院に遊びに来ている。間違いない)

 遠慮というものを知らずに距離を詰めてくるこの4歳年上のオスカーという伯爵公子は、噂によると能力自体は優秀らしい。うざい感はあるが、他の控えめな取り巻きと比べると確かに名前も顔も家名も覚えてしまったし、結果的にはうざい売り込みは有効といえるのだろうか――クレイはそんな風に考えた。

(上品ぶっていても結果につながらなければ意味がないんだ)

 眠気を誘う講義中に、ノートの上にコロンと派手な包み紙の飴を転がしてきたり、人のノートを覗き込んで「このスペルが違いますよ」と囁いたりする。やはりちょっと――だいぶ、うざい。
 とはいえ、ちょうど親しかった友人二人に徹底的に空気のように扱われ、寂しさを感じていた少年にとっては、「うざいのもいないよりマシなのかな」と思えたりするのだった。

 ちらりと視線を向ければ、ドン引きするくらいじっとこちらを見ている。いつも。
 護衛を傍に置くのに慣れているので、耐性はあるが――「触れたいんですかな? いいですぞ!」にこにことしてオスカーがそんなことを言う。

「何に? どこに?」
 ちょっとびっくりして問い返せば、褐色の手が勝手にクレイの手をひっつかんで自分の頭に触れさせるではないか。
「おれに。髪に?」
「ぼく、そんな顔してたかな……?」
(全然、そんなこと考えていなかったけどな)

 そして何故ぼくはこいつを撫でないといけないんだろう。
 不思議に思いながらも撫でてみれば、白い髪はさらさらとしていて、よく手入れされた上質の触れ心地で、まあまあ悪くない――伯爵公子も嬉しそうにニコニコしているから、クレイは「まあいいか」と思うのだった。


 付きまとうオスカーの側はというと、「おれは大分この公爵令息に気に入られたぞ」とドヤ顔である。
 雅やかで慎ましいといえばそうだが、どちらかといえばクレイは思っていたより鈍くさくて覇気がない。そしてなにより幼い。弱弱しい。
 歌劇のラーシャ姫もあどけなく天真爛漫だったが、この『ラーシャの御子』は陽ではなく陰だ。同じ学院にいるエリック第二王子などは無駄にキラキラとしていてよく晴れた夏の青空と言った風情のカリスマ性があるものだが、こちらは話しかけずにいるとどんどん影に潜んでいく陰キャだ。では話しかけたらどうなるかというと、未知の生き物にはじめて恐る恐る接するみたいな気配で、雨垂れがぽつぽつ落ちるみたいに返事が返ってくる。総じて煮え切らない、もどかしい。そんなコミュニケーションだ。
 しかし、距離を詰めれば詰めた分詰まっていく感じがあってなかなかちょろい。

 剣を握ったこともなさそうな小さな手が、やわやわと頭を撫でている。

(おれは今、本物の『ラーシャの御子』に頭を撫でられているぞ)

 本の中の世界、劇の中の世界が突然自分の現実となったようで、オスカーは高揚した。

(おれは、『ラーシャの御子』のお気に入りなんだ!)
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