竜と王冠のサクリファイス~乙女ゲームの攻略キャラたちがお互いを攻略して王都炎上?

浅草ゆうひ

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6、ゲームのスタート

59、世界のルートと死亡キャラ、お泊り会、青春とはそのようであるか

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 さらさらと室内に音がはしる。
 筆を執るのは、冴えやかな月めいた青年。冷たく鋭利な刃に似た印象を与える銀髪碧眼の王太子。

 王太子に指名された23歳のシリル・ティーリー・ファーリズは、隣国の皇子に手紙を書いていた。
 シリル王子の護衛として控える騎士フィニックスは『鮮血』の異名を生む一因であったであろう鮮やかな赤毛を垂らして頭を下げている。伏せた顔には憂慮の感情が浮かんでいた。
 王太子に指名されたシリル王子は、ここ数日様子がおかしいのだ。

 何時からか、は明確だ。王族の中でも選ばれた者だけが入ることを許される特別な部屋に初めて入ってから。
 その部屋で何があったのかは、わからない。けれどその部屋から出てきたシリル王子は、顔色を蒼白にして、一目で動揺しているとわかる状態だった。
 そして、その日以来――シリル王子はフィニックスが知る限り、一度も守護竜を呼んでいない。何かを恐れるように、その名を遠ざけている。そんな風にフィニックスには思えるのだった。

◇◇◇

 窓の外で月が輝いている。

 『それ』は、寮の一室――同人図書ルームで『二人』が遭遇しているのを見ながら、『過去』を思い出していた。

 世界を創造した神々は、妖精を創り、竜を創り、人を創り―ー、
 妖精は、気紛れでいたずらで、強力な存在として人を玩具のように扱い、戯れに虐げた。世界は自分たちの遊び場として神が定めたのだと思い、好き放題していた。

 そこに、勇者が現れた。
 勇者は、この世界に生まれた彼は、異世界人の記憶を持っていた。
 彼は、「この世界がゲームの世界だ」と言った。「自分は異世界人だ」と言った。だから、その当時すでに厭世的な竜だったアスライトが彼に興味を持ったのを、覚えている。

 勇者は、妖精から人を助けた。友人や家族、住んでいた村。旅をして訪れた場所、出会った誰か。手の届く場所から順に少しずつ。
「俺は、力に物を言わせて好き勝手する妖精モンスターは嫌いだ。目の前で助けを求めている人、困っている人、悲劇を見過ごせない。この手で救えるだけ救ってみせるんだ」
 ティーリーはちっぽけな人の勇者の、その優しき勇気を愛した。
「俺は、魔法で人の心を操ったり、変えたりする妖精モンスターが嫌いだ。人の心は自由だ」
 アスライトは、異世界人である彼が言うその言葉に強く惹き付けられた。
 神に従順なティーリーと違い、アスライトは思っていたのだ、ずっと。

 ――定められた設定のまま、淡々と既定路線を進む世界が嫌いだ。
 ――つくられた自分という存在を生きるのが、神が定めている役割をこなすのが、嫌だ。

 異世界人である勇者は、つくられた存在ではない。その事実は、アスライトにとって、とても特別な事だった。
「俺に協力してくれ」
 自分の意思で、彼を選んだ。そう思った。

 ……けれど。

「そ、んな。俺は、――俺も、ゲームのキャラなのか?」
 勇者は、その真実に辿り着いた。
「異世界人の記憶を持つ勇者。『そういう設定』――俺は、『ただの創作キャラ』なのか!!」
 ――ティーリーとアスライトが勇者に力を貸すのは、定められたゲームのストーリーだった。

 勇者が、アスライトが絶望した。
 ティーリーは二者を淡々と俯瞰していた。

「こんな、こんな……――」
 自ら死のうとしても、勇者は死ねなかった。次回作、スピンオフの乙女ゲームに登場するから。

 ティーリーは知っている。
 神々が綴った『物語』と言う名の歴史の流れを。
 ティーリーは守っている。
 この世界を、王子を、未来を、神々が定めた『設定』を。

 その役目を神々が竜に担わせたから。
 そのための力を、神々が与えてくれているから。

「お前は私に加護をくれた。守ってくれると、味方してくれると言っていた。
 しかし、私が死にたくないと言っても、それが『神々の定めた運命』なら、助けてはくれないのだな」
 シリル王子が呟く声は悲壮で、けれど対する竜の眼は無機質で冷ややか。何を当然の事を言っているのかといった顔であった。
「その道に進むと決まれば」

 死ぬルートが選ばれれば、死ぬ定めのキャラが死ぬ。
 ――それは、当たり前のことではないか。

「脇役の死亡キャラが死ぬのは、四季が巡るようなものだ」

◇◇◇

 クレイは夢を見ていた。

 にゃあ、みゃあと愛らしい鳴き声の猫がたくさんいる夢である。それらが真ん中で座るクレイに爛々とした目を向けて、跳びかかってこようとしたり膝に乗ろうとしたり、様々な思惑を見せている。

「猫さんたち、ぼくが良いと言わないと、君たちはぼくに触れてはいけないのだよ」

 クレイはのんびりとそう言って、「待つのだ」と告げた。全員に。

 それは、当たり前なのだ。
 みんなそれに従うのだ。

 当然の温度感で告げたそれに、猫たちが「にゃー」と愛らしく従順に従って良い子にしている。

 蜜柑色の縞猫さん、ほこほこした三毛猫さん、育ちの良さそうな白猫さんに、黒猫さん……いっぱい! みんな、良い子!

「うん、うん。いいね。良い子は順に撫でてあげる」
 上機嫌でおっとりと微笑んだクレイは、ふと言うことを聞く気配のない1匹に気が付いた。

「あれっ、そこの猫さん、きみは……お前……」
 前傾姿勢で獲物を狙う目を見せて、不穏な気配の猫さんは、止める間もなくぴゃっと跳びかかってくる。
(この猫さんは、ぼくの言うことを聞いてくれない!)
「ひゃっ!」
 飛びかかる猫にびくりとして、クレイは思わず情けない声をあげた。

 そこで、目が覚めた。
 現実世界でもうっかり悲鳴をあげながら。

「おやおや、怖い夢でも見てしまいましたかな?」
 ちょっと面白がるような、びっくりしたような声がかけられる。ぱちぱちと目を瞬かせる視界には『白頭』の公子、オスカーがいた。
 気を落ち着かせるように頭を撫でながら、猫がニコニコしている……いや、猫ではない、オスカーなのだ。

「はっ……」
 現実世界のクレイは、学院の寮に居た。確か本を読んでいたのだ。それでついつい、うとうとと寝てしまったのだろう。
「そ、そのようだ。うっかり寝ていた……変な夢を見ていた」
 なにやらよくわからないが、ふとしたはずみにあの少女と普通に話が出来るようになったので、ちょっと意識して学院で過ごす時間を増やしてみたのだ。

 取り巻きたちは比較的ほどよい距離感で静かにしてくれて、たまにカードで遊んでくれることもある。本を開けばそっとしてくれるので読書なども出来て、なかなか悪くない。

 大人に囲まれているいつもの集会よりは全然健やかで、平穏なのだ。

「ふうむ、ふむ! 実はうなされていらしたので、おれが起こして差し上げましたッ! ところでそろそろお帰りの時間ですかな!」
 真偽はわからぬが公子はそんな事を言って肩をそびやかしている。これは誉めて欲しいのだ。クレイは理解した。

「それは、ありがとう……。ところで、ぼくは寮に泊まるという行為に興味がある。ちょっと泊まってみたらダメだろうか」
 部屋はあるのだ、一応。あまり入ったこともないけれど。

 試しに思い付きで言ってみれば、オスカーはおおいに驚き、同時に目をキラキラと輝かせた。

「おおっ、それは珍しい、そして素晴らしいチャレンジ精神! 何事も経験と申します、おれがお供しますから是非泊まりましょう!」

 そして、公子はたいそう張り切り、テキパキと宿泊の手配をしてくれたのだった。

◇◇◇

 カルロ・エクノはエクサスロイデ寮の一室にて早速宿泊の準備を進めている。
 寮泊まりを決意したクレイへと、取り巻き貴族の子弟らがそろりそろりと声をかけている。カルロは声をかけている連中があの歪で気味悪い紅薔薇ハートモア派閥に属する貴族の家の令息らだと気付いてゾッとした。夜中にこいつらにこぞって寮であの大人らを真似た王子様ごっこでもされたら付き合いきれん――、そんな思いを背景に、友人オスカーが有象無象をかき分け押し退け、誰より先に主従劇めいたものを始めようとしていた。例の集まりには参加していないが、こいつはこいつで芝居好きなのだ。

「おお、麗しの我がラ……、姫、貴方様の一の従者オスカーが全て手配いたしますゆえ、一言ぜひお言葉を賜りたい。すなわち『よきにはからえ』……これですッ。さあ、仰い」
 聞いていたカルロは肝を冷やした。
(オスカーお前、今『ラーシャ姫』と呼びそうになったな。それは地雷だぞ)
 ヒヤヒヤと見守っていると、クレイは慣れた様子で「よきにはからえ」と若干面倒そうにおざなりに、しかし付き合いよろしく応えてくれたようだった。
 間違いなくそのノリに慣れている――日常茶飯事として脊椎反射レベルで応えられるのだ。カルロはそれを知っていた。

「素晴らしい。もう少し上から見下す感じがあれば完璧と言えましょう」
「お前は何を言ってるんだ」
 上機嫌のオスカーへと、カルロはツッコミを入れて暴走を引き止めた。身分上々にして扱いやすき歳下の芝居相手を見つけて調子に乗っているが、あまりやりすぎると暗殺されても知らんぞ、と内心恐々としながら。

「ところで先ほどから壁際にいる黒ローブの術師は何ですかな? 学院はあいにく護衛付き添いもお断りなのですぞ」
 思い出したように友人が「あれですあれ」と指差すは一見何もない空間であったが、言われると呪術師らしきものが姿を見せて軽く頭を下げる。姿を潜める術を扱い、控えていたらしい。

「これはレネンという。レネン・スゥームと」
 クレイは当たり前のように告げて呪術師をそばに招き、彼が目深にかぶる黒ローブのフードをくいくいと引っ張ってお気に入りの気配を見せた。

「呪術師ですな!」
「うん、うん」
「地方にもお噂はかねがね流れておりますぞ。公爵家の呪術師は有能と」
 オスカーがゴマをすれば、クレイは嬉しそうな気配を見せた。
「当然である」
 呪術師への賛辞はツボだったらしい。カルロの目には公爵令息クレイのご機嫌が目に見えて上昇する様子がはっきりと見て取れた。
 
 ならばお気に入りの呪術師はそのまま、と、他の取り巻きが見て見ぬ振りを決める中、友人オスカーが「それでは、この後はおれがお世話致すので呪術師殿はお帰りあれ!」と言い放ったのをみて、カルロは思わず笑ってしまった。
 
 ――たった今せっかく好感度を上げたのだろうに!
 
「おいおい我が友オスカーよ、お前のその強気の態度はどこからくるのか」
 しかし、意外にもクレイはその言葉に頷いて「レネンはお帰り」と呪術師に命じたのであった。
「坊ちゃん!」
 流石に黙っていられなかったのか、呪術師レネンが引き下がっている。けれど、主人の少年は淡々とした顔で「レネンには前からお休みが必要だと思っていた」などと宣って、呪術師を追い払ったのだった。

「さあさあ、大人もいなくなりました! ではおれたちは青春を謳歌しようではありませんか、つまり夜更かしして遊ぶのです! 最初はカード、次は肝試し、そして浴場で騒いで泳いで沈んでのぼせ、最後に健やかに恋バナと洒落込み照れ隠しに枕でも投げて寝ると」
 陽気な声が溌剌とそんな夜をけしかければ、上品を気取る中央貴族らの子らは眉を顰めていたけれど、やはり意外にもクレイ本人は「青春とはそのようであるか」などと呟いて大人しく従うようだった。
 
 
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