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7、春の学院生活
61、学院の外で
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――新生活が始まって少しした頃。
爛漫な春景色を外に眺めながら、部屋の中の会話が弾む。
「それでねお母様、図書ルームは女学生の社交場みたいになったの」
その週末を自邸宅で過ごす事にしたネネツィカは、母に学院での出来事を語った。
「まあ。お母様もその図書ルームを見学してみたいわ」
「外部見学も可能にできないか、ミス・ミネルヴァにきいてみますわ!」
仲睦まじく語り合う母娘に、父と兄がなんとも言えない顔で顔を見合わせた。
「学院でそんなことを……」
一家団欒。
そんな空間で控え目に人数分の紅茶を注ぐのは、執事のティミオスだ。優しい香りに視線を向けて、ネネツィカは眩しそうな目をした。
「普通のティミオスを見るのは久しぶりですわ……」
「恐れ入ります」
どうやら、今この場にいるティミオスはサポートキャラモードではないらしい。
「もうアタクシ達はゲームから解放されたのかしら」
コソコソと耳打ちすると、ティミオスは微妙な顔をした。
「あいにく、まだ終わっていないかと」
「そ、そう」
あとでもう少し詳しく聞いてやろう。そう思っていたネネツィカは、自室に戻ってごろんとベッドに転がって――すやすやと眠ってしまったのだった。
「講義スケジュールも決まったみたいだし、今日は週明けからの学院生活に必要なものを買いにいくわよ」
母がそう言って娘を馬車に押し込む休日の朝、ネネツィカは欠伸を噛み殺しながらティミオスの手を引っ張った。
寮生活に最低限必要なものは、すでに揃っている。けれど母は「この髪飾りは制服に合うんじゃないかしら」とか「この寝巻はどう?」とか、「このペンは素敵ね」とか、まるで自分が学院生活を送るみたいなテンションであれやこれやと商品を選ぶ。
「お勉強の参考書コーナーがあるわ。いいのがあったら買いましょう」
ネネツィカはあっちへ連れて行かれたりこっちへ引っ張っていかれたりしながら、学院の同級生や先輩にこのテンションの母を見られたら少し恥ずかしいかも、と思ったり、こんな風に母と買い物できるのはこの先何歳くらいまでなんだろう、とか取り留めのない考えを巡らせていた。
――現在の時間は、うっかりすると明日も明後日もその次も、永遠に続くような気がする。けれど、それは永遠ではないのだ。
最近、そんなことをよく思うのだ。どうしてだろう。
母に甘やかされ、氷菓子を買ってもらって執事と二人店先のベンチに座って味を楽しんでいると、なんだか何年か前の自分に戻ったような心地がする。明日にはまた学院生活に戻って、こんな時間ともお別れだと思うといかにも惜しくて、寂しい――ネネツィカはこの休日のひとときが凄く大切な時間に思えた。
「ねえティミオス」
「はい、ネネツィカお嬢様」
「アタクシーー」
のんびりと何かを言いかけた時、聞き覚えのある声が雑踏の中から聞こえる。
「やめてくれ!」
視線を向けると、そこには入学式で揉めたひょろのっぽことアッシュ・フィーリーがいた。
「あら」
「おや」
主従の声が綺麗にハモる。
アッシュが数人の少年たちに囲まれて、なにやら揉めている――。
「喧嘩かしら? 物騒ねえ……」
母が口元に手を当てて眉を顰めた。
「平民のくせに、生意気なんだよ」
「学院を辞めろ!」
どうやら学院の学生たちと思われる少年たちは口々にアッシュを罵り、その手に大切そうに守られていた新品の教科書を地面に落として踏み躙った。
「……いじめですわ」
ネネツィカは目を見開いて声を洩らした。
「学院生にあんなことをする方々がいるなんて」
呟きと同時にもしや? と疑念がわき上がる。
――これもイベントかしら、と。
横目にちらりと執事を見れば、執事は人らしい温もりの感じられる気配をしているようで、選択がどうとかイベントがどうとか言い出す様子はなかった。
(考えてみれば、ヘレナの情報だとアッシュは攻略キャラではないのだわ)
ネネツィカはなんでもかんでもイベントだと疑うようになってしまった自分に危機感を覚えつつ、立ち上がった。
爛漫な春景色を外に眺めながら、部屋の中の会話が弾む。
「それでねお母様、図書ルームは女学生の社交場みたいになったの」
その週末を自邸宅で過ごす事にしたネネツィカは、母に学院での出来事を語った。
「まあ。お母様もその図書ルームを見学してみたいわ」
「外部見学も可能にできないか、ミス・ミネルヴァにきいてみますわ!」
仲睦まじく語り合う母娘に、父と兄がなんとも言えない顔で顔を見合わせた。
「学院でそんなことを……」
一家団欒。
そんな空間で控え目に人数分の紅茶を注ぐのは、執事のティミオスだ。優しい香りに視線を向けて、ネネツィカは眩しそうな目をした。
「普通のティミオスを見るのは久しぶりですわ……」
「恐れ入ります」
どうやら、今この場にいるティミオスはサポートキャラモードではないらしい。
「もうアタクシ達はゲームから解放されたのかしら」
コソコソと耳打ちすると、ティミオスは微妙な顔をした。
「あいにく、まだ終わっていないかと」
「そ、そう」
あとでもう少し詳しく聞いてやろう。そう思っていたネネツィカは、自室に戻ってごろんとベッドに転がって――すやすやと眠ってしまったのだった。
「講義スケジュールも決まったみたいだし、今日は週明けからの学院生活に必要なものを買いにいくわよ」
母がそう言って娘を馬車に押し込む休日の朝、ネネツィカは欠伸を噛み殺しながらティミオスの手を引っ張った。
寮生活に最低限必要なものは、すでに揃っている。けれど母は「この髪飾りは制服に合うんじゃないかしら」とか「この寝巻はどう?」とか、「このペンは素敵ね」とか、まるで自分が学院生活を送るみたいなテンションであれやこれやと商品を選ぶ。
「お勉強の参考書コーナーがあるわ。いいのがあったら買いましょう」
ネネツィカはあっちへ連れて行かれたりこっちへ引っ張っていかれたりしながら、学院の同級生や先輩にこのテンションの母を見られたら少し恥ずかしいかも、と思ったり、こんな風に母と買い物できるのはこの先何歳くらいまでなんだろう、とか取り留めのない考えを巡らせていた。
――現在の時間は、うっかりすると明日も明後日もその次も、永遠に続くような気がする。けれど、それは永遠ではないのだ。
最近、そんなことをよく思うのだ。どうしてだろう。
母に甘やかされ、氷菓子を買ってもらって執事と二人店先のベンチに座って味を楽しんでいると、なんだか何年か前の自分に戻ったような心地がする。明日にはまた学院生活に戻って、こんな時間ともお別れだと思うといかにも惜しくて、寂しい――ネネツィカはこの休日のひとときが凄く大切な時間に思えた。
「ねえティミオス」
「はい、ネネツィカお嬢様」
「アタクシーー」
のんびりと何かを言いかけた時、聞き覚えのある声が雑踏の中から聞こえる。
「やめてくれ!」
視線を向けると、そこには入学式で揉めたひょろのっぽことアッシュ・フィーリーがいた。
「あら」
「おや」
主従の声が綺麗にハモる。
アッシュが数人の少年たちに囲まれて、なにやら揉めている――。
「喧嘩かしら? 物騒ねえ……」
母が口元に手を当てて眉を顰めた。
「平民のくせに、生意気なんだよ」
「学院を辞めろ!」
どうやら学院の学生たちと思われる少年たちは口々にアッシュを罵り、その手に大切そうに守られていた新品の教科書を地面に落として踏み躙った。
「……いじめですわ」
ネネツィカは目を見開いて声を洩らした。
「学院生にあんなことをする方々がいるなんて」
呟きと同時にもしや? と疑念がわき上がる。
――これもイベントかしら、と。
横目にちらりと執事を見れば、執事は人らしい温もりの感じられる気配をしているようで、選択がどうとかイベントがどうとか言い出す様子はなかった。
(考えてみれば、ヘレナの情報だとアッシュは攻略キャラではないのだわ)
ネネツィカはなんでもかんでもイベントだと疑うようになってしまった自分に危機感を覚えつつ、立ち上がった。
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