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7、春の学院生活
65、魔法と魔術と謙虚と堅実
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アンドルート先生は怒鳴り散らしたりはしなかった。
淡々と杖を振って、デミルの鳥を紙に戻した。
「『魔術』とは、知識と技術である」
講義室を見渡す目が怖い。学生たちは口をつぐんで姿勢を正したりして緊張に耐えた。
「『魔法』とは多くの場合は人ならざる者ないし才ある者が息を吸い歩行するのと同様に何気なく自然に発露する神秘である」
デミルが何か言おうとして、口をパクパクさせている。喋れないんだ――ネネツィカは先生の杖を見た。
「教育指導とは、猿人を文明人に進化させるために行われる。特に力ある者に必要とされるのは、一定の社会性と道徳観念である。
この講義は才能を鼻にかけた天狗が釣れやすいが、評価されるのは才能ではなく努力と誠実さ――真摯な受講態度と『魔術』理論の理解度である」
灰色の視線がネネツィカに向く。ネネツィカはギクリとした。
「天才と呼ばれる受講生がもう一人いたな」
何故か楽しそうな声色がそう言うので、ネネツィカは内心で悲鳴をあげた。周囲から視線が集まるのが火照った頬に感じられる。
「ラーフルトン、貴殿はこの講義にいかなる志で臨むつもりだろうか?」
指名されて、ネネツィカはしゅぴんとバネのような俊敏さで起立した。敬礼みたいに手が胸に行く。無意識の仕草だ――アタクシは先生に目をつけられるような事を何もしてません! と。
「はい先生! アタクシは、謙虚・堅実をモットーに学ぶ心積りであります!!」
高らかに宣言すれば、先生はうっそりと頷いて視線を移してくれた。
――許された!!
ネネツィカはちょこんと席に落ち着き、ちょっぴりドヤ顔になった。ヘレナに教えてもらってから、一度言ってみたかったセリフだったので。
「よかろう、では……」
黒髪がゆらりと揺れて教壇で杖が掲げられるのを学生たちは恐怖だか憧憬だかが複雑に混ざった眼差しで見つめてこくりと唾を飲む。
「せんせーっ、しゅいませぇん! 遅れましたァー!!」
バタバタと講義室に駆け込む足音と共に雄叫びを上げて、ユージェニーがガラリと扉を開けて入り口でダイナミックに躓き、分厚い教科書を床にぶちまけたのはその時だった。杖もぽおんと飛んでいき、天井付近でくるくる回転して――、
「ぎゃっ」
カエルが潰れたみたいな声をあげたのは、デミルだった。
「あっ、ごめんなさい! やだ、私ったらテヘペロ」
ユージェニーの杖が偶然デミルの頭にヒットして、ユージェニーはペコペコと頭を下げて謝りながらちゃっかりとデミルの隣に着座した。
感情を窓から捨てたみたいな先生の声が静かに響いた。
「遅れた理由は――」
ひええ。とネネツィカは机を見つめてハラハラと会話を聞く。
「人生という道に迷ってしまって」
ユージェニーが深刻そうに答えて、デミルがビリビリとノートをまた破ったから、先生は二人を講義室からつまみ出して鍵を閉めてしまった。
――ユージェニー、それは無いですわ。
ネネツィカは時折ガタガタ揺れる扉の方を気にしないようにしながら真面目な表情を顔に貼り付けて、分厚い教科書の真新しい香りを楽しむように深呼吸した。
先生が全体を見渡して「わかる者はいるか」と質問するたび、ヘレナが「はい! はい!」と予習してきた事を猛烈アピールして挙手しまくっている――。
淡々と杖を振って、デミルの鳥を紙に戻した。
「『魔術』とは、知識と技術である」
講義室を見渡す目が怖い。学生たちは口をつぐんで姿勢を正したりして緊張に耐えた。
「『魔法』とは多くの場合は人ならざる者ないし才ある者が息を吸い歩行するのと同様に何気なく自然に発露する神秘である」
デミルが何か言おうとして、口をパクパクさせている。喋れないんだ――ネネツィカは先生の杖を見た。
「教育指導とは、猿人を文明人に進化させるために行われる。特に力ある者に必要とされるのは、一定の社会性と道徳観念である。
この講義は才能を鼻にかけた天狗が釣れやすいが、評価されるのは才能ではなく努力と誠実さ――真摯な受講態度と『魔術』理論の理解度である」
灰色の視線がネネツィカに向く。ネネツィカはギクリとした。
「天才と呼ばれる受講生がもう一人いたな」
何故か楽しそうな声色がそう言うので、ネネツィカは内心で悲鳴をあげた。周囲から視線が集まるのが火照った頬に感じられる。
「ラーフルトン、貴殿はこの講義にいかなる志で臨むつもりだろうか?」
指名されて、ネネツィカはしゅぴんとバネのような俊敏さで起立した。敬礼みたいに手が胸に行く。無意識の仕草だ――アタクシは先生に目をつけられるような事を何もしてません! と。
「はい先生! アタクシは、謙虚・堅実をモットーに学ぶ心積りであります!!」
高らかに宣言すれば、先生はうっそりと頷いて視線を移してくれた。
――許された!!
ネネツィカはちょこんと席に落ち着き、ちょっぴりドヤ顔になった。ヘレナに教えてもらってから、一度言ってみたかったセリフだったので。
「よかろう、では……」
黒髪がゆらりと揺れて教壇で杖が掲げられるのを学生たちは恐怖だか憧憬だかが複雑に混ざった眼差しで見つめてこくりと唾を飲む。
「せんせーっ、しゅいませぇん! 遅れましたァー!!」
バタバタと講義室に駆け込む足音と共に雄叫びを上げて、ユージェニーがガラリと扉を開けて入り口でダイナミックに躓き、分厚い教科書を床にぶちまけたのはその時だった。杖もぽおんと飛んでいき、天井付近でくるくる回転して――、
「ぎゃっ」
カエルが潰れたみたいな声をあげたのは、デミルだった。
「あっ、ごめんなさい! やだ、私ったらテヘペロ」
ユージェニーの杖が偶然デミルの頭にヒットして、ユージェニーはペコペコと頭を下げて謝りながらちゃっかりとデミルの隣に着座した。
感情を窓から捨てたみたいな先生の声が静かに響いた。
「遅れた理由は――」
ひええ。とネネツィカは机を見つめてハラハラと会話を聞く。
「人生という道に迷ってしまって」
ユージェニーが深刻そうに答えて、デミルがビリビリとノートをまた破ったから、先生は二人を講義室からつまみ出して鍵を閉めてしまった。
――ユージェニー、それは無いですわ。
ネネツィカは時折ガタガタ揺れる扉の方を気にしないようにしながら真面目な表情を顔に貼り付けて、分厚い教科書の真新しい香りを楽しむように深呼吸した。
先生が全体を見渡して「わかる者はいるか」と質問するたび、ヘレナが「はい! はい!」と予習してきた事を猛烈アピールして挙手しまくっている――。
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