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7、春の学院生活
66、ハロー、ワールド、略奪愛を成し遂げてください
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歴史の講義では、アッシュが最前列に座っていた。ネネツィカはその隣に行こうかと思ったけれど、学年上のエリック王子も講義室にいて、嬉しそうに隣の席に手招きしてくれるので彼の隣に落ち着いた。
「この講義の単位はまだ取っていなかったから、ネネツィカも受講すると聞いたし、受けようかと思って」
エリック王子がにっこりと微笑む。私、美少女です! といった雰囲気の少女がスススッと当然の顔をして寄ってきて、その隣に座る。ユージェニーだ。
「私もこの講義を受けるんです。すごい偶然! 運命を感じますね? 感じてください?」
「ユージェニー……」
ちょうどエリック王子を真ん中にしてサンドイッチするみたいな形で、ネネツィカとユージェニーは視線を絡めて見えない火花を散らした。
歴史の後は、隣国で使われる言語の講義だ。ファーリズ王国は外交にそれほど力を入れていないが、外から攻めようと思っても竜に守られていて他国がほとんど手出しできない特殊な国だ。妖精出禁というお国柄、妖精が多かったり、純血妖精や混血妖精が政治に携わるような国からは特にあまりよく思われていない節もある。
そんな中、隣国のアイザール共和国は比較的友好関係にある国。国民により選ばれた首相が国家元首となっている。皇族はいるが象徴的な存在で、敬われてはいるが政治には携わっていないらしい。
アイザール語の講義を担当するのは、短い金髪を肩口で揃えたレリア・サリサ先生。女性の教師だ。
ヘレナが他者には隠しているけど実はアイザールの出身なので、「母国語だから、教えてあげられるよ」と手を引かれてネネツィカはこの講義に挑んでいる。
講義にはクレイもいて、ネネツィカを見つけるとにっこりと手を振っている。
クレイが機嫌良く手を振るのをみて、すぐ隣に付き添っていたオスカーがワクワクとした顔を見せている。
(おお、クレイ様! なんと第二王子の婚約者にアプローチを。さては第二王子との不仲はこの令嬢が原因なのですかな!)
――三角関係だ。それも、このたいそう子供っぽくて大人しくて覇気のないクレイが。
「ほう、ほう。これは意外……クレイ様にそんな激しい一面もございましたか、結構結構。ぜひ略奪愛を成し遂げてください! おれは面白おかしく観戦します!」
言いながら差し出すのはアイザールを含む他国語の単語帳だった。
「略奪愛などしないよ」
軽く恥じらいに頬を染めつつ、クレイはちゃっかり単語帳を貰っておいた。このオスカーは他国交流の活発な領地の出自ゆえか、多国語を流暢に喋れるのだ。
祖父が外務系のクレイとしては、外国語の習得には力を入れたいところであった。
「アイザール語は私たちの言語とよく似ています」
サリサ先生が板書する文字は几帳面さが滲み出る綺麗な字だった。
「名詞、助詞、動詞」
皆が黒板と手元のノートを見比べて、手を動かしている。ネネツィカがサラサラと文字を綴るのは、お母様と買い物した時に見つけたカラーインク入りのペンだ。オレンジのインクペンで猫を描いて、黒で吹き出しをつける。セリフは――、
「猫、は、歩く――ニャオ、イル、トット」
サリサ先生が矢印付きで『過去形』の概念を説明する声に続いて、教科書のページをめくる音がする。講義室には20人ほどがいて、それが一斉にページをめくるのがネネツィカには新鮮だった。
「猫は歩いた――ニャオ、イラ、トッタ」
アイザール語の講義が終わると、クレイが席に来て「呪術の講義、受ける?」と教科書を見せたからネネツィカとヘレナはそれぞれ教科書を取り出して見せて、頷いた。
「じゃあ、一緒に行こう」
周囲の視線が好奇心を見せている。移動の間も講義室についてからも、何人も耳をそば立てている。
「ぼくたち、割と仲が良いんだ」
視線を巡らせて周囲へとクレイが微笑んでから、面白がるような顔で付け足した。
「伝えておいてね」
――エリックに。
オスカーなどは珍しく距離をあけて遠巻きに見守る体制を取りつつ、大喜びで「やればできるんじゃないですか!」と焚き付けている。
(しまった。つい調子に乗ったじゃないか……)
やらかしてから後悔の念に襲われるクレイだが、講義が始まるとすぐに意識を切り替える。呪術はレネンやユージェニーがとても熟達していて、その便利さをよくよく知る一方で自分は苦手なのだ。座学まではできるのに、実技となると何をやってもうまくいかない。それがクレイのコンプレックスのひとつだった。
「ハロー、ワールド」
無精髭を蓄えた太めの男性教師、マルコ・ペルコ先生が呪術の基本を教えてくれる。箱の中に箱が入っているような絵を描き、文字を書き。
(おや……この子、猫さんを……)
ふと気付くとネネツィカはノートに落書きなどをしている。なんとも和む可愛らしい絵を。
ネネツィカが箱の周りに猫を描いて遊んでいると、クレイが物言いたげな目で見ていたので、「何か文句が?」と紙の端に書いてやると、クレイは自分のノートの端に猫を描いて「にゃあ」という鳴き声を吹き出しの中に書いた。
その猫の顔といったら、目と目の大きさは違うし距離もおかしいし、耳は片方がピョンとしていて片方だけはくたっとしていて、絶妙に不細工でユニークな作風だったので、ネネツィカは心の中でクレイに画伯の称号を贈ったのだった。
「この講義の単位はまだ取っていなかったから、ネネツィカも受講すると聞いたし、受けようかと思って」
エリック王子がにっこりと微笑む。私、美少女です! といった雰囲気の少女がスススッと当然の顔をして寄ってきて、その隣に座る。ユージェニーだ。
「私もこの講義を受けるんです。すごい偶然! 運命を感じますね? 感じてください?」
「ユージェニー……」
ちょうどエリック王子を真ん中にしてサンドイッチするみたいな形で、ネネツィカとユージェニーは視線を絡めて見えない火花を散らした。
歴史の後は、隣国で使われる言語の講義だ。ファーリズ王国は外交にそれほど力を入れていないが、外から攻めようと思っても竜に守られていて他国がほとんど手出しできない特殊な国だ。妖精出禁というお国柄、妖精が多かったり、純血妖精や混血妖精が政治に携わるような国からは特にあまりよく思われていない節もある。
そんな中、隣国のアイザール共和国は比較的友好関係にある国。国民により選ばれた首相が国家元首となっている。皇族はいるが象徴的な存在で、敬われてはいるが政治には携わっていないらしい。
アイザール語の講義を担当するのは、短い金髪を肩口で揃えたレリア・サリサ先生。女性の教師だ。
ヘレナが他者には隠しているけど実はアイザールの出身なので、「母国語だから、教えてあげられるよ」と手を引かれてネネツィカはこの講義に挑んでいる。
講義にはクレイもいて、ネネツィカを見つけるとにっこりと手を振っている。
クレイが機嫌良く手を振るのをみて、すぐ隣に付き添っていたオスカーがワクワクとした顔を見せている。
(おお、クレイ様! なんと第二王子の婚約者にアプローチを。さては第二王子との不仲はこの令嬢が原因なのですかな!)
――三角関係だ。それも、このたいそう子供っぽくて大人しくて覇気のないクレイが。
「ほう、ほう。これは意外……クレイ様にそんな激しい一面もございましたか、結構結構。ぜひ略奪愛を成し遂げてください! おれは面白おかしく観戦します!」
言いながら差し出すのはアイザールを含む他国語の単語帳だった。
「略奪愛などしないよ」
軽く恥じらいに頬を染めつつ、クレイはちゃっかり単語帳を貰っておいた。このオスカーは他国交流の活発な領地の出自ゆえか、多国語を流暢に喋れるのだ。
祖父が外務系のクレイとしては、外国語の習得には力を入れたいところであった。
「アイザール語は私たちの言語とよく似ています」
サリサ先生が板書する文字は几帳面さが滲み出る綺麗な字だった。
「名詞、助詞、動詞」
皆が黒板と手元のノートを見比べて、手を動かしている。ネネツィカがサラサラと文字を綴るのは、お母様と買い物した時に見つけたカラーインク入りのペンだ。オレンジのインクペンで猫を描いて、黒で吹き出しをつける。セリフは――、
「猫、は、歩く――ニャオ、イル、トット」
サリサ先生が矢印付きで『過去形』の概念を説明する声に続いて、教科書のページをめくる音がする。講義室には20人ほどがいて、それが一斉にページをめくるのがネネツィカには新鮮だった。
「猫は歩いた――ニャオ、イラ、トッタ」
アイザール語の講義が終わると、クレイが席に来て「呪術の講義、受ける?」と教科書を見せたからネネツィカとヘレナはそれぞれ教科書を取り出して見せて、頷いた。
「じゃあ、一緒に行こう」
周囲の視線が好奇心を見せている。移動の間も講義室についてからも、何人も耳をそば立てている。
「ぼくたち、割と仲が良いんだ」
視線を巡らせて周囲へとクレイが微笑んでから、面白がるような顔で付け足した。
「伝えておいてね」
――エリックに。
オスカーなどは珍しく距離をあけて遠巻きに見守る体制を取りつつ、大喜びで「やればできるんじゃないですか!」と焚き付けている。
(しまった。つい調子に乗ったじゃないか……)
やらかしてから後悔の念に襲われるクレイだが、講義が始まるとすぐに意識を切り替える。呪術はレネンやユージェニーがとても熟達していて、その便利さをよくよく知る一方で自分は苦手なのだ。座学まではできるのに、実技となると何をやってもうまくいかない。それがクレイのコンプレックスのひとつだった。
「ハロー、ワールド」
無精髭を蓄えた太めの男性教師、マルコ・ペルコ先生が呪術の基本を教えてくれる。箱の中に箱が入っているような絵を描き、文字を書き。
(おや……この子、猫さんを……)
ふと気付くとネネツィカはノートに落書きなどをしている。なんとも和む可愛らしい絵を。
ネネツィカが箱の周りに猫を描いて遊んでいると、クレイが物言いたげな目で見ていたので、「何か文句が?」と紙の端に書いてやると、クレイは自分のノートの端に猫を描いて「にゃあ」という鳴き声を吹き出しの中に書いた。
その猫の顔といったら、目と目の大きさは違うし距離もおかしいし、耳は片方がピョンとしていて片方だけはくたっとしていて、絶妙に不細工でユニークな作風だったので、ネネツィカは心の中でクレイに画伯の称号を贈ったのだった。
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