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7、春の学院生活
76、薄い本ではいつもイチャコラしてますのよ
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明日は一度家に帰る事にしている。
不思議なもので、家を離れる事に慣れてきた最近でももうすぐ帰るのだと思うと、嬉しくて待ち遠しくて堪らない。
貴族令嬢たるもの、成人する頃には嫁ぐのだからあまり里心が強すぎるのもよろしくない、と生家に依存しすぎぬよう、しかし嫁いだ後も生家に利のあるよう一定の情はあれかしと絶妙なバランスの情操教育を受けているのだが。
「ふんふーん♪」
数学の講義が終わり、ご機嫌でノートを畳んだネネツィカは次の講義へと移動する。同じ講義を受ける中で仲の良くなった同学年の貴族令嬢、コーデリアとベスが左右を固めて、三人で他愛のないやりとりに花を咲かせながら吹き抜け状の渡り通路を歩く。数学と美術の講義が連続するので、二つの講義を一緒に受けている三人は運命共同体みたいにつるんで移動するのだ。通路の向こうからヘレナとユージェニーがやってきて、すれ違い様に手を振る。二人は次の文学講義を一緒に受けるのでつるんでいる。こちらは別講義なので別講義仲間とつるんでいるわけで、あちらとこちらが分かれるのは当たり前の自然な成り行きなのだが――手を振り返しながら、内心でちょっとだけ「美術じゃなくて文学にするべきだったかしら」とネネツィカは唇を尖らせた。
「ネネツィカさん、御覧になって。第二王子殿下よ」
こそこそとベスが耳打ちする。
誘われてそちらを視れば、なるほど取り巻きを盛大に引き連れたエリック王子が吹き抜けの階下を移動中だ。とても目立つ。
「手を振ったりはしませんの~?」
コーデリアがワクワクした顔である。ベスも「ちょっとした移動時間に確かめ合う愛……! 素敵ですわ」と盛り上がっている。
「すれ違い移動時間に手を振って想いを確かめるのはさっきやりましたわ」
愛ではなくて友情だけど。
ネネツィカはフッと令嬢らしからぬニヒルな笑みを吐き、ふとエリック王子のグループの進行方向からクレイとその取り巻きグループがやってくるのを見た。
「あ、ほら。お二人ともご覧になって」
二人が盛り上がる気分も、わかるわー―ネネツィカは共感を胸に声をひそめてワクワクした。
「今あの二人がちょっとした移動時間に確かめ合う愛のシーンを見せてくれますわ」
上からこそこそワクワク見守るネネツィカ。腐の同志ではないコーデリアとベスはそんなネネツィカに首をかしげつつ、「どういうことかしら」「見守ってみましょう」と言葉を交わしている。
この二人に腐の道を勧めようか最近悩んでいたネネツィカは、今が千載一遇のチャンスだと確信していた。たった今これから、エリック王子とクレイにその道の魅力を実演してもらおう。ネネツィカは影に隠れつつ、階下の二人に念を送った。
(さあ! いちゃいちゃしてください! ちょっと友情というには行き過ぎた感じで構いませんから!)
階上でそんな戯けた懇願の念を送られていると知らず、エリック王子を見付けたクレイは一瞬表情を曇らせたかと思うと、サッと道を譲るように壁際に寄った。取り巻きたちも次々とそれに倣う。エリック王子は譲られたスペースを堂々と歩いて過ぎていく。取り巻きの行列が通過してから、クレイが移動を再開する様子は王城内の王族と臣下の構図でその力関係は明らかだった。
「……ええ……」
がっくりと肩を落とすネネツィカ。
「あのお二人、あまり仲がよろしくないと聞きますわ」
「ええ。取り巻きどうしも、たまに揉めていますし。あまり望ましくないですわよねえ」
ベスとコーデリアがそんなことを言っている。次世代の国王候補ナンバーワンの派閥と有力貴族で大臣の孫の派閥が個人的に不仲というのは、あまり良い話ではなかった。とはいえ、現実的にセーフな範囲での不穏なので、噂話ができている。取り巻きを引き連れた臣下側の少年は実際、先ほども弁えた態度で道を譲ったのだから。
これが不遜にも道を譲らずに衝突するようであれば、将来の内乱を憂えずにいられないというものだ。なにせ、臣下の少年とて王族の血と守護竜の加護を持ち、序列は低いが王位継承権を有しているのだから。
「……な、仲良しなのですわよ、あのお二人は」
ネネツィカは小さな声で呟いた。
「アタクシの薄い本ではいつもイチャコラしてますのよ」
二人はネネツィカを見て、「?」といった顔をした。それがなんとも気を使った感じの、「失礼に思われないように、でも何言ってるか理解できない」って感じの顔だったので、ネネツィカはグサッと傷付いた。
不思議なもので、家を離れる事に慣れてきた最近でももうすぐ帰るのだと思うと、嬉しくて待ち遠しくて堪らない。
貴族令嬢たるもの、成人する頃には嫁ぐのだからあまり里心が強すぎるのもよろしくない、と生家に依存しすぎぬよう、しかし嫁いだ後も生家に利のあるよう一定の情はあれかしと絶妙なバランスの情操教育を受けているのだが。
「ふんふーん♪」
数学の講義が終わり、ご機嫌でノートを畳んだネネツィカは次の講義へと移動する。同じ講義を受ける中で仲の良くなった同学年の貴族令嬢、コーデリアとベスが左右を固めて、三人で他愛のないやりとりに花を咲かせながら吹き抜け状の渡り通路を歩く。数学と美術の講義が連続するので、二つの講義を一緒に受けている三人は運命共同体みたいにつるんで移動するのだ。通路の向こうからヘレナとユージェニーがやってきて、すれ違い様に手を振る。二人は次の文学講義を一緒に受けるのでつるんでいる。こちらは別講義なので別講義仲間とつるんでいるわけで、あちらとこちらが分かれるのは当たり前の自然な成り行きなのだが――手を振り返しながら、内心でちょっとだけ「美術じゃなくて文学にするべきだったかしら」とネネツィカは唇を尖らせた。
「ネネツィカさん、御覧になって。第二王子殿下よ」
こそこそとベスが耳打ちする。
誘われてそちらを視れば、なるほど取り巻きを盛大に引き連れたエリック王子が吹き抜けの階下を移動中だ。とても目立つ。
「手を振ったりはしませんの~?」
コーデリアがワクワクした顔である。ベスも「ちょっとした移動時間に確かめ合う愛……! 素敵ですわ」と盛り上がっている。
「すれ違い移動時間に手を振って想いを確かめるのはさっきやりましたわ」
愛ではなくて友情だけど。
ネネツィカはフッと令嬢らしからぬニヒルな笑みを吐き、ふとエリック王子のグループの進行方向からクレイとその取り巻きグループがやってくるのを見た。
「あ、ほら。お二人ともご覧になって」
二人が盛り上がる気分も、わかるわー―ネネツィカは共感を胸に声をひそめてワクワクした。
「今あの二人がちょっとした移動時間に確かめ合う愛のシーンを見せてくれますわ」
上からこそこそワクワク見守るネネツィカ。腐の同志ではないコーデリアとベスはそんなネネツィカに首をかしげつつ、「どういうことかしら」「見守ってみましょう」と言葉を交わしている。
この二人に腐の道を勧めようか最近悩んでいたネネツィカは、今が千載一遇のチャンスだと確信していた。たった今これから、エリック王子とクレイにその道の魅力を実演してもらおう。ネネツィカは影に隠れつつ、階下の二人に念を送った。
(さあ! いちゃいちゃしてください! ちょっと友情というには行き過ぎた感じで構いませんから!)
階上でそんな戯けた懇願の念を送られていると知らず、エリック王子を見付けたクレイは一瞬表情を曇らせたかと思うと、サッと道を譲るように壁際に寄った。取り巻きたちも次々とそれに倣う。エリック王子は譲られたスペースを堂々と歩いて過ぎていく。取り巻きの行列が通過してから、クレイが移動を再開する様子は王城内の王族と臣下の構図でその力関係は明らかだった。
「……ええ……」
がっくりと肩を落とすネネツィカ。
「あのお二人、あまり仲がよろしくないと聞きますわ」
「ええ。取り巻きどうしも、たまに揉めていますし。あまり望ましくないですわよねえ」
ベスとコーデリアがそんなことを言っている。次世代の国王候補ナンバーワンの派閥と有力貴族で大臣の孫の派閥が個人的に不仲というのは、あまり良い話ではなかった。とはいえ、現実的にセーフな範囲での不穏なので、噂話ができている。取り巻きを引き連れた臣下側の少年は実際、先ほども弁えた態度で道を譲ったのだから。
これが不遜にも道を譲らずに衝突するようであれば、将来の内乱を憂えずにいられないというものだ。なにせ、臣下の少年とて王族の血と守護竜の加護を持ち、序列は低いが王位継承権を有しているのだから。
「……な、仲良しなのですわよ、あのお二人は」
ネネツィカは小さな声で呟いた。
「アタクシの薄い本ではいつもイチャコラしてますのよ」
二人はネネツィカを見て、「?」といった顔をした。それがなんとも気を使った感じの、「失礼に思われないように、でも何言ってるか理解できない」って感じの顔だったので、ネネツィカはグサッと傷付いた。
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