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7、春の学院生活
79、そういう年頃なんだな
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美術の時間。
学生たちは数人でグループを形成し、モデル役を交代してクロッキー活動をしている。ひとつのポーズ、30秒。
「全体を見て描くのですわ」
「このポーズ、辛い……」
「動かないで」
グループごとに真剣さの中に楽しさを滲ませた声がいくつもあがり、スケッチブックにポーズが増えていく。
スカートの裾を摘んで贈られた薔薇を一輪差し出すポーズを淑やかに決めたネネツィカは、手足が攣りそうなのを澄まし顔で我慢しながらそれを見た。
同じポーズでじっとしているのは、意外とつらい。中途半端に上げた手が油断すると下がっていきそうで、ネネツィカは自分の手に「そのままよ、そのままの高さよ」と言い聞かせた。
「なんだね、これは」
美術教師のウーバー・ダニエロワ先生が問いかけて、講義室の床に落ちたそれを拾い上げる。
それは、紙だった。
「サマーハーレムパーティのお誘い」
先生の声が静寂の中、響き渡る。
「すみません、僕のです。ちょっとチラシを作ろうとしてて……」
名乗り出た学生は、エリック王子の取り巻きの一人だった。確かヘンリーとかいう名前だったろうか。
ネネツィカはなるほどと唸る。参加者を募るチラシを作ってばら撒こうというのか――、
「そういう活動は講義時間外にするように」
先生が咎めている。ヘンリーはしょんぼりとして反省を唱え、先生が離れた隙にチラシをまた作り始めた。時間に追われている――この時間、ありとあらゆる講義で同じ光景が散見された。
――王子のために、全員で!
――俺たちならできる! みんなでお役に立とう!
そんな尊き友情だか下心だかの目的意識で団結した彼らにとって、そのチラシ制作作業は講義よりよほど有意義に感じられた。
「アレだな。そういう年頃なんだな……」
元凶とも言えるエイヴン・フィーリーは湯呑みに入った緑色のぬるい茶をずずっと啜り、学生たちを見守った。
褐色肌に白頭のオスカー・ユンクがチラシを受け取っている。
「あ――」
透明化の呪術を施された黒いローブ姿の男たちが跡について行こうとして、同じように透明化した別の黒ローブたちに妨害されている。
あれは王位を巡る派閥同士の水面下抗争だろうか。暗殺者と護衛か、それとも……。
「学院内で呪術廻戦しないで欲しい」
エイヴンはしみじみと呟いた。
華やかでキラキラした乙女のための世界でも、見えない所では案外ドロドロしているものだ。
「学院内で暗殺事件も、嫌だなあ」
取り巻きが撒いた薔薇と呪術なんとかで撒かれた鮮血が床を汚して、用務員がびっくりしながら清めている。全く、良い迷惑だ。
「ね、君もそう思うだろ」
エイヴンは同意を求めるように虚空に指を滑らせた。綴るコードは、世界に触れる。引っ張り出すようにクイっと引けば、青年が現れた。
サポートキャラと呼ばれる執事――ティミオスが項垂れるから、エイヴンは自分がいじめっ子にでもなったみたいな気分になった。
「お嬢様がサポートをあまり使わないから、暇なんだなあ。でもね、君も悪いよ。サポートキャラがAI丸出しでサポートキャラって言っちゃ、味気ないのさ」
同情する様にコードを弄って、エイヴンは肩をすくめた。
「せっかく人間らしくなれてたんじゃないか」
そして、笑った。
「もっと「ゲームじゃありませんよ」って路線でいこう。ゲームだけど」
ティミオスは瞬きをして、呼吸を繰り返して問いかけるような目を向ける。エイヴンは優しい先生の顔のまま、張り紙の束を渡した。
「……学院内での呪術廻戦は禁止です?」
「コードを弄ったお礼に、それを貼って来てよ……呪術の講義室の周りは、貼らなくていいけど」
それには、呪術がこめられている。貼られた周辺では他の術士が術を扱えなくなるのだ。
「かしこまりました」
優美に一礼する執事に手を振り、エイヴンは「たまに良いことすると気分がいいよね」と自分に言い聞かせるように溢してお茶を啜る。
学院内に鐘がなる。
呪術の講義が始まろうとしている――。
学生たちは数人でグループを形成し、モデル役を交代してクロッキー活動をしている。ひとつのポーズ、30秒。
「全体を見て描くのですわ」
「このポーズ、辛い……」
「動かないで」
グループごとに真剣さの中に楽しさを滲ませた声がいくつもあがり、スケッチブックにポーズが増えていく。
スカートの裾を摘んで贈られた薔薇を一輪差し出すポーズを淑やかに決めたネネツィカは、手足が攣りそうなのを澄まし顔で我慢しながらそれを見た。
同じポーズでじっとしているのは、意外とつらい。中途半端に上げた手が油断すると下がっていきそうで、ネネツィカは自分の手に「そのままよ、そのままの高さよ」と言い聞かせた。
「なんだね、これは」
美術教師のウーバー・ダニエロワ先生が問いかけて、講義室の床に落ちたそれを拾い上げる。
それは、紙だった。
「サマーハーレムパーティのお誘い」
先生の声が静寂の中、響き渡る。
「すみません、僕のです。ちょっとチラシを作ろうとしてて……」
名乗り出た学生は、エリック王子の取り巻きの一人だった。確かヘンリーとかいう名前だったろうか。
ネネツィカはなるほどと唸る。参加者を募るチラシを作ってばら撒こうというのか――、
「そういう活動は講義時間外にするように」
先生が咎めている。ヘンリーはしょんぼりとして反省を唱え、先生が離れた隙にチラシをまた作り始めた。時間に追われている――この時間、ありとあらゆる講義で同じ光景が散見された。
――王子のために、全員で!
――俺たちならできる! みんなでお役に立とう!
そんな尊き友情だか下心だかの目的意識で団結した彼らにとって、そのチラシ制作作業は講義よりよほど有意義に感じられた。
「アレだな。そういう年頃なんだな……」
元凶とも言えるエイヴン・フィーリーは湯呑みに入った緑色のぬるい茶をずずっと啜り、学生たちを見守った。
褐色肌に白頭のオスカー・ユンクがチラシを受け取っている。
「あ――」
透明化の呪術を施された黒いローブ姿の男たちが跡について行こうとして、同じように透明化した別の黒ローブたちに妨害されている。
あれは王位を巡る派閥同士の水面下抗争だろうか。暗殺者と護衛か、それとも……。
「学院内で呪術廻戦しないで欲しい」
エイヴンはしみじみと呟いた。
華やかでキラキラした乙女のための世界でも、見えない所では案外ドロドロしているものだ。
「学院内で暗殺事件も、嫌だなあ」
取り巻きが撒いた薔薇と呪術なんとかで撒かれた鮮血が床を汚して、用務員がびっくりしながら清めている。全く、良い迷惑だ。
「ね、君もそう思うだろ」
エイヴンは同意を求めるように虚空に指を滑らせた。綴るコードは、世界に触れる。引っ張り出すようにクイっと引けば、青年が現れた。
サポートキャラと呼ばれる執事――ティミオスが項垂れるから、エイヴンは自分がいじめっ子にでもなったみたいな気分になった。
「お嬢様がサポートをあまり使わないから、暇なんだなあ。でもね、君も悪いよ。サポートキャラがAI丸出しでサポートキャラって言っちゃ、味気ないのさ」
同情する様にコードを弄って、エイヴンは肩をすくめた。
「せっかく人間らしくなれてたんじゃないか」
そして、笑った。
「もっと「ゲームじゃありませんよ」って路線でいこう。ゲームだけど」
ティミオスは瞬きをして、呼吸を繰り返して問いかけるような目を向ける。エイヴンは優しい先生の顔のまま、張り紙の束を渡した。
「……学院内での呪術廻戦は禁止です?」
「コードを弄ったお礼に、それを貼って来てよ……呪術の講義室の周りは、貼らなくていいけど」
それには、呪術がこめられている。貼られた周辺では他の術士が術を扱えなくなるのだ。
「かしこまりました」
優美に一礼する執事に手を振り、エイヴンは「たまに良いことすると気分がいいよね」と自分に言い聞かせるように溢してお茶を啜る。
学院内に鐘がなる。
呪術の講義が始まろうとしている――。
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