竜と王冠のサクリファイス~乙女ゲームの攻略キャラたちがお互いを攻略して王都炎上?

浅草ゆうひ

文字の大きさ
87 / 260
7、春の学院生活

79、そういう年頃なんだな

しおりを挟む
 美術の時間。
 学生たちは数人でグループを形成し、モデル役を交代してクロッキー活動をしている。ひとつのポーズ、30秒。
「全体を見て描くのですわ」
「このポーズ、辛い……」
「動かないで」
 グループごとに真剣さの中に楽しさを滲ませた声がいくつもあがり、スケッチブックにポーズが増えていく。
 スカートの裾を摘んで贈られた薔薇を一輪差し出すポーズを淑やかに決めたネネツィカは、手足が攣りそうなのを澄まし顔で我慢しながらそれを見た。
 同じポーズでじっとしているのは、意外とつらい。中途半端に上げた手が油断すると下がっていきそうで、ネネツィカは自分の手に「そのままよ、そのままの高さよ」と言い聞かせた。

「なんだね、これは」
 美術教師のウーバー・ダニエロワ先生が問いかけて、講義室の床に落ちたそれを拾い上げる。
 それは、紙だった。
「サマーハーレムパーティのお誘い」
 先生の声が静寂の中、響き渡る。

「すみません、僕のです。ちょっとチラシを作ろうとしてて……」
 名乗り出た学生は、エリック王子の取り巻きの一人だった。確かヘンリーとかいう名前だったろうか。
 ネネツィカはなるほどと唸る。参加者を募るチラシを作ってばら撒こうというのか――、
「そういう活動は講義時間外にするように」
 先生が咎めている。ヘンリーはしょんぼりとして反省を唱え、先生が離れた隙にチラシをまた作り始めた。時間に追われている――この時間、ありとあらゆる講義で同じ光景が散見された。

 ――王子のために、全員で!
 ――俺たちならできる! みんなでお役に立とう!

 そんな尊き友情だか下心だかの目的意識で団結した彼らにとって、そのチラシ制作作業は講義よりよほど有意義に感じられた。

「アレだな。そういう年頃なんだな……」
 元凶とも言えるエイヴン・フィーリーは湯呑みに入った緑色のぬるい茶をずずっと啜り、学生たちを見守った。

 褐色肌に白頭のオスカー・ユンクがチラシを受け取っている。
「あ――」
 透明化の呪術を施された黒いローブ姿の男たちが跡について行こうとして、同じように透明化した別の黒ローブたちに妨害されている。
 あれは王位を巡る派閥同士の水面下抗争だろうか。暗殺者と護衛か、それとも……。
「学院内で呪術廻戦しないで欲しい」
 エイヴンはしみじみと呟いた。

 華やかでキラキラした乙女のための世界でも、見えない所では案外ドロドロしているものだ。
「学院内で暗殺事件も、嫌だなあ」
 取り巻きが撒いた薔薇と呪術なんとかで撒かれた鮮血が床を汚して、用務員がびっくりしながら清めている。全く、良い迷惑だ。

「ね、君もそう思うだろ」
 エイヴンは同意を求めるように虚空に指を滑らせた。綴るコードは、世界に触れる。引っ張り出すようにクイっと引けば、青年が現れた。

 サポートキャラと呼ばれる執事――ティミオスが項垂れるから、エイヴンは自分がいじめっ子にでもなったみたいな気分になった。
「お嬢様がサポートをあまり使わないから、暇なんだなあ。でもね、君も悪いよ。サポートキャラがAI丸出しでサポートキャラって言っちゃ、味気ないのさ」
 同情する様にコードを弄って、エイヴンは肩をすくめた。
「せっかく人間らしくなれてたんじゃないか」
 そして、笑った。
「もっと「ゲームじゃありませんよ」って路線でいこう。ゲームだけど」

 ティミオスは瞬きをして、呼吸を繰り返して問いかけるような目を向ける。エイヴンは優しい先生の顔のまま、張り紙の束を渡した。
「……学院内での呪術廻戦は禁止です?」
「コードを弄ったお礼に、それを貼って来てよ……呪術の講義室の周りは、貼らなくていいけど」
 それには、呪術がこめられている。貼られた周辺では他の術士が術を扱えなくなるのだ。

「かしこまりました」
 優美に一礼する執事に手を振り、エイヴンは「たまに良いことすると気分がいいよね」と自分に言い聞かせるように溢してお茶を啜る。

 学院内に鐘がなる。
 呪術の講義が始まろうとしている――。
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

人族は一人で生きられないらしい――獣人公爵に拾われ、溺愛されて家族になりました

よっちゃん
BL
人族がほとんど存在しない世界に、 前世の記憶を持ったまま転生した少年・レオン。 獣人が支配する貴族社会。 魔力こそが価値とされ、 「弱い人族」は守られるべき存在として扱われる世界で、 レオンは常識の違いに戸惑いながらも必死に生きようとする。 そんな彼を拾ったのは、 辺境を治める獣人公爵アルト。 寡黙で冷静、しかし一度守ると決めたものは決して手放さない男だった。 溺愛され、守られ、育てられる日々。 だが、レオンはただ守られるだけの存在で終わることを選ばない。 学院での出会い。 貴族社会に潜む差別と陰謀。 そして「番」という、深く重い絆。 レオンは学び、考え、 自分にしかできない魔法理論を武器に、 少しずつ“並び立つ覚悟”を身につけていく。 獣人と人族。 価値観も、立場も、すべてが違う二人が、 それでも選び合い、家族になるまでの物語。 溺愛×成長×異世界BL。 読後に残るのは、 「ここに居場所があっていい」と思える、あたたかな幸福。

普段「はい」しか言わない僕は、そばに人がいると怖いのに、元マスターが迫ってきて弄ばれている

迷路を跳ぶ狐
BL
全105話*六月十一日に完結する予定です。 読んでいただき、エールやお気に入り、しおりなど、ありがとうございました(*≧∀≦*)  魔法の名手が生み出した失敗作と言われていた僕の処分は、ある日突然決まった。これから捨てられる城に置き去りにされるらしい。  ずっと前から廃棄処分は決まっていたし、殺されるかと思っていたのに、そうならなかったのはよかったんだけど、なぜか僕を嫌っていたはずのマスターまでその城に残っている。  それだけならよかったんだけど、ずっとついてくる。たまにちょっと怖い。  それだけならよかったんだけど、なんだか距離が近い気がする。  勘弁してほしい。  僕は、この人と話すのが、ものすごく怖いんだ。

前世が飼い猫だったので、今世もちゃんと飼って下さい

夜鳥すぱり
BL
黒猫のニャリスは、騎士のラクロア(20)の家の飼い猫。とってもとっても、飼い主のラクロアのことが大好きで、いつも一緒に過ごしていました。ある寒い日、メイドが何か怪しげな液体をラクロアが飲むワインへ入れています。ニャリスは、ラクロアに飲まないように訴えるが…… ◆いつもハート、エール、しおりをありがとうございます。冒頭暗いのに耐えて読んでくれてありがとうございました。いつもながら感謝です。 ◆お友達の花々緒さんが、表紙絵描いて下さりました。可愛いニャリスと、悩ましげなラクロア様。 ◆これもいつか続きを書きたいです、猫の日にちょっとだけ続きを書いたのだけど、また直して投稿します。

限界オタクだった俺が異世界に転生して王様になったら、何故か聖剣を抜いて勇者にクラスチェンジした元近衛騎士に娶られました。

篠崎笙
BL
限界ヲタクだった来栖翔太はトラックに撥ねられ、肌色の本を撒き散らして無惨に死んだ。だが、異世界で美少年のクリスティアン王子として転生する。ヲタクな自分を捨て、立派な王様になるべく努力した王子だったが。近衛騎士のアルベルトが勇者にクラスチェンジし、竜を退治した褒美として結婚するように脅され……。 

身代わり召喚された俺は四人の支配者に溺愛される〜囲い込まれて逃げられません〜

たら昆布
BL
間違って異世界召喚された青年が4人の男に愛される話

この俺が正ヒロインとして殿方に求愛されるわけがない!

ゆずまめ鯉
BL
五歳の頃の授業中、頭に衝撃を受けたことから、自分が、前世の妹が遊んでいた乙女ゲームの世界にいることに気づいてしまったニエル・ガルフィオン。 ニエルの外見はどこからどう見ても金髪碧眼の美少年。しかもヒロインとはくっつかないモブキャラだったので、伯爵家次男として悠々自適に暮らそうとしていた。 これなら異性にもモテると信じて疑わなかった。 ところが、正ヒロインであるイリーナと結ばれるはずのチート級メインキャラであるユージン・アイアンズが熱心に構うのは、モブで攻略対象外のニエルで……!? ユージン・アイアンズ(19)×ニエル・ガルフィオン(19) 公爵家嫡男と伯爵家次男の同い年の乙女ゲー転生BLです。

異世界に勇者として召喚された俺、ラスボスの魔王に敗北したら城に囚われ執着と独占欲まみれの甘い生活が始まりました

水凪しおん
BL
ごく普通の日本人だった俺、ハルキは、事故であっけなく死んだ――と思ったら、剣と魔法の異世界で『勇者』として目覚めた。 世界の命運を背負い、魔王討伐へと向かった俺を待っていたのは、圧倒的な力を持つ美しき魔王ゼノン。 「見つけた、俺の運命」 敗北した俺に彼が告げたのは、死の宣告ではなく、甘い所有宣言だった。 冷徹なはずの魔王は、俺を城に囚え、身も心も蕩けるほどに溺愛し始める。 食事も、着替えも、眠る時でさえ彼の腕の中。 その執着と独占欲に戸惑いながらも、時折見せる彼の孤独な瞳に、俺の心は抗いがたく惹かれていく。 敵同士から始まる、歪で甘い主従関係。 世界を敵に回しても手に入れたい、唯一の愛の物語。

処理中です...