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8、夏の海底洞窟と罪人の流刑地編
90、罪人の流刑地村
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観戦を終えた翌日、オスカーは馬車を連ねて罪人の流刑地村へと出発する一行を見送った。お忍びという触れ込みだったが、どう見ても堂々としているのは突っ込んではいけないのだろうと呟く声を風が攫って、一行を追いかけていく。
「お嬢様、わたくしから離れないようにしてくださいね」
エスコートするティミオスがそっと心配そうに囁くから、ネネツィカは安心させるように頷いた。
「好みの男がいたら仰い! お持ち帰りしてあげますわ」
それにしても、村は殺風景で、不衛生に視えた。
温暖な気候のおかげでユンク伯爵領は基本的に緑豊かで、何処に言っても明るく開放的な街並みと陽気な気質の民という印象だったのだが、流刑地の方角に近付くにつれ道は細くなり、路面も荒れてゴロゴロした石が目立つようになり、手入れされていない野性味ある自然風景が広がって、ついには通行止めの線まで張り巡らせられていた。
「呪糸鉄線でございますね」
ティミオスが眉を顰めて、あちらとこちらに線を引き、こちらへの侵入を防いだり、あらかじめ囚人に刻んだ呪印識別信号を感知して、出入りを管理者に知らせる類の呪術なのだと説明してくれる。
「こっちからあちらに行くのはフリーなのね」
それを越えていくと、ようやく居住地を確保した様子の村があって、それぞれが馬車から降り立った。
「ここが盗賊団の故郷ですの?」
「『元』、盗賊団だよ」
首を傾げれば、若干顔色を悪くしたクレイが黒ローブのレネンに支えられて馬車から降りてくる。軽く酔ったらしい。軟弱ですねとティミオスが呟いたから、ネネツィカは少し驚いた。この執事は、あまり誰かを悪く言うことがネネツィカの記憶にはなかったからだ。
『元』盗賊団のメンバーが数人、恐る恐る村に近付いていく。
彼らは、こんな所で死ぬだけの人生など嫌だと団結して此処から脱走した者たちだ。その中でも、故郷がどうしようもなく気になっていた者、現地に行って罵られたり、捕まって元の境遇に戻ったり、或いは死が齎されるようであっても、脱走したままの自分ではいられぬという想いを胸に村の土を踏む決心をした者たちだ。
「おおい、おおい」
テオドールが走って行く。ぼろぼろのあばら家に飛び込んでいく。
「あいつ、どの面下げて」
石礫を拾う枯れ木のような爺さんと、「俺が来る前に逃げた連中かい」と粗野で狂暴な笑みを浮かべて拳を腰だめに後を追おうとする全身に傷痕を勲章めいて際立たせる大男。遠巻きに貴族たちから何かくすねられないか機を狙う栄養状態の悪そうな子どももいる。
囚人であったり、それから生まれた子どもであったり、此処にいるのはそんな連中だった。追おうとした村人の前に、ベルンハルトが割って入って膝をついた。
アドルフが朗々と声を張り上げる。
「聞いてくれ! 此処の待遇が改善できるかもしれないんだ!」
兄を見つめるマナがそっと視線を『貴族たち』に移した。
「貴族様が、憐れんでくださるようで……」
『元』盗賊団のメンバーが決してうまくはない弁舌を熱心に奮ってそんなことを言えば、村人の反応は様々だった。どうやら喜ばしい報せの様子に希望を抱いたり、喜ぶ者。憐れみを有難がる者、憐れみに反発し、貴族への嫌悪感を丸出しにする者、貴族どころか世の中全てが憎い、そんな風情の者――、
「まずは、少ないけど食糧を持ってきたよ。あとは、名簿をつくる。ひとりひとり、どんな罪を何年前に犯したのか、罪がないのにここで生まれたからここにいるのか、罪があるなら再犯の可能性はあるか、村の外に出たいか、村で生活したいか、仕事をする気はあるか……俺がいた頃の連中分はわかるだけ書いたけど、俺が出て行ったあとに此処に来た連中の分はないから、自己紹介から頼みたい」
アドルフが使命感溢れる顔で、村を想っての懸命な声を響かせている。
マナはそれを聞き、行動を始めるひとりひとりの顔をじっと見つめた。
「お嬢様、わたくしから離れないようにしてくださいね」
エスコートするティミオスがそっと心配そうに囁くから、ネネツィカは安心させるように頷いた。
「好みの男がいたら仰い! お持ち帰りしてあげますわ」
それにしても、村は殺風景で、不衛生に視えた。
温暖な気候のおかげでユンク伯爵領は基本的に緑豊かで、何処に言っても明るく開放的な街並みと陽気な気質の民という印象だったのだが、流刑地の方角に近付くにつれ道は細くなり、路面も荒れてゴロゴロした石が目立つようになり、手入れされていない野性味ある自然風景が広がって、ついには通行止めの線まで張り巡らせられていた。
「呪糸鉄線でございますね」
ティミオスが眉を顰めて、あちらとこちらに線を引き、こちらへの侵入を防いだり、あらかじめ囚人に刻んだ呪印識別信号を感知して、出入りを管理者に知らせる類の呪術なのだと説明してくれる。
「こっちからあちらに行くのはフリーなのね」
それを越えていくと、ようやく居住地を確保した様子の村があって、それぞれが馬車から降り立った。
「ここが盗賊団の故郷ですの?」
「『元』、盗賊団だよ」
首を傾げれば、若干顔色を悪くしたクレイが黒ローブのレネンに支えられて馬車から降りてくる。軽く酔ったらしい。軟弱ですねとティミオスが呟いたから、ネネツィカは少し驚いた。この執事は、あまり誰かを悪く言うことがネネツィカの記憶にはなかったからだ。
『元』盗賊団のメンバーが数人、恐る恐る村に近付いていく。
彼らは、こんな所で死ぬだけの人生など嫌だと団結して此処から脱走した者たちだ。その中でも、故郷がどうしようもなく気になっていた者、現地に行って罵られたり、捕まって元の境遇に戻ったり、或いは死が齎されるようであっても、脱走したままの自分ではいられぬという想いを胸に村の土を踏む決心をした者たちだ。
「おおい、おおい」
テオドールが走って行く。ぼろぼろのあばら家に飛び込んでいく。
「あいつ、どの面下げて」
石礫を拾う枯れ木のような爺さんと、「俺が来る前に逃げた連中かい」と粗野で狂暴な笑みを浮かべて拳を腰だめに後を追おうとする全身に傷痕を勲章めいて際立たせる大男。遠巻きに貴族たちから何かくすねられないか機を狙う栄養状態の悪そうな子どももいる。
囚人であったり、それから生まれた子どもであったり、此処にいるのはそんな連中だった。追おうとした村人の前に、ベルンハルトが割って入って膝をついた。
アドルフが朗々と声を張り上げる。
「聞いてくれ! 此処の待遇が改善できるかもしれないんだ!」
兄を見つめるマナがそっと視線を『貴族たち』に移した。
「貴族様が、憐れんでくださるようで……」
『元』盗賊団のメンバーが決してうまくはない弁舌を熱心に奮ってそんなことを言えば、村人の反応は様々だった。どうやら喜ばしい報せの様子に希望を抱いたり、喜ぶ者。憐れみを有難がる者、憐れみに反発し、貴族への嫌悪感を丸出しにする者、貴族どころか世の中全てが憎い、そんな風情の者――、
「まずは、少ないけど食糧を持ってきたよ。あとは、名簿をつくる。ひとりひとり、どんな罪を何年前に犯したのか、罪がないのにここで生まれたからここにいるのか、罪があるなら再犯の可能性はあるか、村の外に出たいか、村で生活したいか、仕事をする気はあるか……俺がいた頃の連中分はわかるだけ書いたけど、俺が出て行ったあとに此処に来た連中の分はないから、自己紹介から頼みたい」
アドルフが使命感溢れる顔で、村を想っての懸命な声を響かせている。
マナはそれを聞き、行動を始めるひとりひとりの顔をじっと見つめた。
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