竜と王冠のサクリファイス~乙女ゲームの攻略キャラたちがお互いを攻略して王都炎上?

浅草ゆうひ

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8、夏の海底洞窟と罪人の流刑地編

103、現代版・勇者の世界技術教本と人魚の悪戯

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「ティミオス」
 名を呼ぶと、執事は即答してくれる。
「はい、お嬢様」
「草笛を止めて」

 ネネツィカは返事を待たずにエリックの手を取った。びっくりしたように顔をあげるエリックに構わずに、ぐいぐいと引っ張っていくのはクレイがゲームをしている輪の中心へと。
「えっ」
「んっ?」
 あちらとこちらで戸惑いが充ちる中、ネネツィカは表情筋に悪女を召喚した。もう令嬢じゃなくても良いくらい、と振り切って外すのは、首飾り。かちゃりと宝置き場に並べてやれば、視線がそこに集中する。

「面白そうな事をなさってるじゃありませんの! アタクシも混ざりますわ!」
 クレイが「きみは呼んでない」みたいな顔をしているのが心底腹立たしい。
 ネネツィカは扇を広げて朗々と語り始めた。

「特別に教えて差し上げますわ! その首飾りは、11歳のお誕生日祝いにエリック様が贈って下さりましたの。この中にはとっても貴重な霊薬『妖精の涙』が入っていますのよ。アタクシ、下さったときのお言葉も覚えています――『キミの助けとなるように』。首飾りをつけてあげるよと仰って、自らのお手でつけてくださったの」
 王子との惚気話に学生たちが「キャー!」と喜んでテンションをあげている。
 エリックは頬を薔薇色に染めて、先ほどまでのしょんぼり具合が嘘のように明るい表情になって、再び王子モードの外面を取り戻していく。クレイはというと、不思議な眼でネネツィカをじっと見上げていた。

 なんですか、その眼は。

 ネネツィカは笑顔で見下ろして、優雅に着席をしてゲームに加わった。
 気を取り直した様子の主催の少年は、それではとゲームを再開して、デミルに下から覗き込むような微笑を向けた。

「怪盗デミルの宝物は、如何なるものでしょうか……?」
 デミルはその瞬間、眼鏡の下の銀色の眼を意外な程動揺させた。
「あっ。あの、彼は、記憶がないんです」
 アッシュがおろおろと言ったので、クレイは大袈裟なほど萎縮して頭を下げる。
「それはすみません……」
 心から気を悪くしてないか恐れるような顔色でそっとデミルを見るクレイに、周囲は「天才とはいえ問題児でもある平民相手にそんなに気にしなくてもいいのに」と不思議そうな顔をした。
「んん、いいよ。オイラ、だいじょうぶ。でも、宝物は思い出せないや」
 デミルはすぐに普段のようにケロリとした。それを見てクレイは心底安心したように息を吐き、ちょっと必死な感じで笑った。
「そうだ、デミル君。もしよかったら、ぼくがデミル君の宝物をご用意してもいいですか」
 子どもっぽい風情で無邪気におねだりするように言えば、デミルが頷く。クレイはニコニコと綺麗な微笑みを湛えて、メイドに何かを言いつけた。メイドを待つ間に、デミルの宝は保留して、怪盗ゲームが和やかに進んでいく。
「ルールがあるゲーム、結構たのしいね」
 デミルは上機嫌でゲームに勝っていく。
「デミルはなんでもできるんだなあ」
 ああ、アッシュはいつの間にか名指しで呼ぶ仲になって――ネネツィカはこっそり心の中の創作メモにその事実を刻み込んだ。

 やがてメイドが運んできたのは、分厚い本だった。公爵令息の読書好きは有名だったので、皆「お好きな本をプレゼントなさるのだな」と納得顔をしてやり取りを見守っている。
「これは、なあに」
 デミルが本を手に取った。ぱらぱらとめくる目が、面白いものを見付けた、といった色に染まる。
「我が家の天才、聖女ユージェニーが綴った世界で一冊の呪術の本……、異母妹いわく、伝説の勇者が当時まだ世界知識が不足していた竜に教えたのと同等の知識量なのだとか。本当かどうかはわかりませんが、その辺の学術書よりハイレベルなのは間違いないかと。……そういえば、最初にこの技術を呪術と名付けたのも勇者だと伝えられているんですよね。それで、公爵家ではこの本のことを『現代版・勇者の世界技術教本』なんて名付けていて」――あどけない声が言葉を続ける。

 あまり語られる事がない公爵家の家庭の話が出ると、皆、興味津々で聞き入った。

「――お兄様!?」

 ガタッと音がして、血相を変えたユージェニーが本を見つめている。
「おっと、あんまり家の話をすると妹が嫌がるようです。繊細な年頃ですから、ええ」
 クレイは「しまった」といった顔をして、さっさとゲームを再開してしまった。

 そして、鐘がもう一度鳴って男子のタイムが終わり、ゲームも切り上げ時といったタイミングで、会場に報せが響き渡った。

「皆さん! パーティどころじゃありませんよ! 第三王子殿下が暗殺されるという事件が発生しました!」
 瞬時に悲鳴めいた声が聴覚を塗り潰すように次々あがり、大騒ぎになる。エリックは愕然と叫んだ犯人を見た――あれは、エリックの部屋までやってきて、「パーティが台無しになるから」と口止めした使者ではないか!
「どうして」
 呻く声に追い打ちのように使者がやってきて、両手両足を地について頭を床につけた。喉も裂けんばかりの大声が、偶然拡声魔道具に拾われて会場中に響き渡る。

「申し訳ありませんエリック殿下! 口止めをされていましたが、どうしても……。臣の首をこの場で刎ねてくださっても、構いません。身辺を整理して参りました。しかし、これだけは言わねばと」
 顔をあげた使者は死を覚悟した瞳をしていた。これを言ってから死ぬのだという決意の漲る顔でエリックを見上げた。
「守護竜の加護があるはずの兄君や弟君が、守護竜に守られずに行方不明になったり暗殺されたのは何故でしょうか。弟殿下の訃報を伏せるように命じ、パーティに興じるお心がわかりません……!」

 最後まで言う前に、パーティ会場が闇に包まれた。今度は何か、と連続の異変に人々がパニックに陥る。

 一片の光も途絶えた異様な闇の中、潮の薫りと共に何かが会場を洗うように踊り回る。
「キャー!!」
「えっ、何!?」
 燐光を放つそれが、闇の中ぽっかりと浮いて視えた。

 海水に濡れてしっとり艶めく長い髪、妙齢の女性めいた美しい顔、悪戯な瞳、腰から下は――、

「あ、人魚だ」
 デミルが無邪気過ぎる声で言った。

「野良人魚みたい。賑やかに楽しく遊んでるのをみて、混ざりたくなったのかな?」
 人魚は可憐に微笑むと、手に持った煌めく宝物の数々を見せた。

「宝物!」
「わたくしの!」「ぼくのも」怪盗ゲームに興じていた学生たちが目を瞠る。人魚は「追いかけてごらん」と言いたげに手を振って、するりと窓から外に出て行った。

「怪盗ゲーム、だって。外に宝物を隠すから見つけてごらんって」
 デミルが解説してくれる。それを聞いた学生たちは、一斉に外に駆け出した。それぞれが大切な宝物を盗まれて、使者と王子のやりとりの衝撃すら今は後回しになっていた。
 もう、パーティどころではなかった。
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