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8、夏の海底洞窟と罪人の流刑地編
105、いいや、チェックメイトだ
しおりを挟む「回避された……いや、できてない」
オレはただ、暗殺計画を知っただけだ。
ただ、守護竜ティーリーにその晩ずっと傍にいるように命じただけだ。
そして、守護竜ティーリーは第三王子を守らずに命令を守ったのだ。
母親も違う、ろくに面会したこともない、ただの政敵――そんな第三王子が亡くなろうと正直、それほど心が痛むことはなかった。むしろ、これで自分の地位はより安定したと思ったものだ。
例えば、これが友人の暗殺計画だったら守ったし、友人の死だったらもっと心が痛んだし、パーティどころではなかっただろう。
混乱する学生たちと夜陰に紛れて、エリックはデミルがキラキラと水飛沫をあげて海を荒らしているのを見上げながら思考を巡らせていた。
守護竜にもみ消してもらうのは、最終手段だ。
それよりも、思いついた案があった。
守護竜アスライトだ。
アスライトの加護を持つクレイが暗殺の首謀者なら、守護竜ティーリーが守れなかったとしても言い訳は立つのだ。双竜の力は対等だと伝えられているのだから、滅多に加護を使わない竜に不意を突かれて対応しきれなかった、公爵家がそんなことをするはずがないと油断していたのに裏切られたのだ、というのは、如何にも説得力のある話じゃないか。世論も味方につくだろう。
違うと言う理由として「アスライトの加護を持っていないから」と主張するなら、そこで「加護がないにも関わらずあると言い張っていた」という自白に繋がり、罪に問える。
どちらに転んでも、勝てるんじゃないか。
名案ではないだろうか? エリックは、この考えを形にして突き付けたくなった。
クレイはパーティが台無しになって危機を逃れたと思っているが、そこに「残念だったな、やっぱりオレの方が上手だった」と王手を突きつけてやったら、どんな顔をするだろう?
そんな思いを巡らせる自分をふと客観的に見つめ直して、エリックは総毛だった。
――どうしてそんな事を考えてしまうんだ。
守護竜を呼びたくなって、しかしエリックは考えた。
『ティーリーは、おかしいのだ』。
そう思えば思うほど――今度はフィーリー先生の言葉が思い浮かぶ。
『万能感』――それが、危険なのだ。まさに今の自分が気を付けるべきことは、それなのではないだろうか……。
「あそこに、……」
耳に声が拾い上げられて、視線を向ける。噂されているのは、王手を突きつけようと思っていた少年と、その友人たちだ。
とぼとぼとハウスに引き上げていく背中を見ていると、「責任……」「宝が」「ゲームのせい」といった呟きが幾つも意識される。ああ、あっちも無傷とはいかなかったんだな。なら、痛み分けだ、これで水に流して、元通りでいいじゃないか。若干、お互いに不始末の尻ぬぐいは面倒かもしれないが――エリックは気持ちを落ち着かせて、ゲームの落としどころを見付けた。
背後、上空で、デミルが声を響かせている。
「怪盗デミルが、お宝を全部見つけちゃったぞ!」
「えっ」
素っ頓狂な声をあげて、エリックがそれを振り仰ぐ。
そこに、綿毛みたいなまっしろの髪を海水に濡らして、海水柱を何本も周囲に伴い、まるで海の王様といった風情で浮遊するデミルがいた。
眼鏡をどこへやったのか、銀色の眼が剥きだしで爛々と――妖しく微笑み、下で右往左往する皆を睥睨する。
周囲には、海水を弾いてキラキラ煌めきながら宙に浮く無数の『宝物』があった。
――皆の宝物だ!
「デミル君! ありがとう、そのペンダントは私のなの」
「マジェス君、左のパンツは俺のだ!」
「デミル! ラブレター返してくれー!」
学生たちが上に浮かぶ天才児兼問題児のデミルにむけて、声をかけて手を差し出している。デミルは「んーん?」と首を振った。
「オイラがゲームに勝ってた」
デミルはドミノマスクを目につけて、楽しそうにカラカラ笑った。
「だから、この宝物ぜーんぶ、オイラのモノ! あたりまえ!」
下から見上げていた全員がぽかんと口を開けた。
「こいつ、すっかりルール忘れてる!」
「さっきまで返すのわかったって言ってたでしょ」
「思い出せー!」
ブーイングの嵐に、デミルは「うーん?」と首をかしげた。そして「ゲームが終わったら返す――そうだったかも!」と笑った。
「それじゃあ」
デミルは、海の水が巻き上げられて地面がぽっかりと晒された海底を指さした。普段は海水に覆われた岩肌に挟まれて、海岸の地底に洞窟の入り口みたいな穴が開いていることに学生たちは気付いた。
「オイラ、さっきあの洞窟のことを『思い出して』、『洞窟探検ゲーム』思いついたから、それを一緒にあそんでくれたら、宝物をかえしてもいい」
そう言って、ふわりと子猫のように欠伸をした。
「もうねむいから、ゲームは明日にしよ! みんな、おやすみ!」
エリックは困惑していた。
「宝物が皆の元に戻れば良い」という思いがある一方で、間違いなく、隠しようもなく、心のどこかで「宝物が皆の元に戻らなくてもいいのに」と少しだけ、――ほんの少しだけ、思ってしまった。そんな自分を自覚してしまったのだ。
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