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9、裏切りの勇者と妖精王の復活
112、デミルの妖精学校
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海底洞窟では、魔術教師のヴァルター・アンドルートがてきぱきと杖を踊らせて奪い合いを落ち着かせていた。
「たのしいね!」
壁際で女子たちのランチタイムに混ざるデミルがクラッカーに赤色小トマトを乗せながら笑った。その膝には公爵令息から貸し出された呪術の本があるから、本を汚してしまわないかとアッシュはヒヤヒヤしている。
「この本すっごく面白い! クレイ、これをオイラにくれるかな? くれたのかな!」
「あ、どうだろう……ゲームのために貸してくれたんだと思うけど……」
でも、なんか欲しいと言ったらくれそうな雰囲気もあった。アッシュはそう思って、「聞いてみたらいいかも」と言った。その後で「そういえば危篤なんだっけ……?」と口を覆ったけれど。
病床にデミルが突っ込んで行ったら大変だ、とドキドキしたけれど、今のところデミルは大人しくランチを味わうようだった。
この天才兼問題児め――隣に座るアッシュ・フィーリーの耳にはそんな呟きが聞こえたが、デミルはケロリとしてバカにするようにそちらを見た。
言ったのは、眼鏡をかけた男子学生だ。エリックの取り巻きの一人で、名前はなんだったか。寮ですれ違った事が何度もあって、「お前はなぜ大貴族に喧嘩売ったのだ」と蔑み混じりの呟きを零された事があるので、キュアリアス寮の学生なのは間違いない――アッシュが記憶を探る中、「オイラは宝物を並べて取ってねって言っただけ! みんなは勝手に他人の宝を狙って争い始めただけ!」と元気いっぱいの声が――眩しい。
アッシュはさくりと音を立てて緑葉野菜を食み、素朴な苦味を堪能した。瑞々しい――土に根を張って、太陽や雨に育まれた生命力みたいなものをシャキシャキした食感の中に見つけられる。美味しい。
隣にいる少年たちと自分はどうしようもなく別世界の存在なのだ。だが、なんだかそれほど変わらないよって空気で混ざれている最近である。
目が合うと、デミルがニコリとした。
「アッシュは宝を狙わなかった」
「え」
「同じ人間で同じ状況で、他人の宝を奪ってやろうってなる人とならない人がいるのは、なんで?」
デミルがそんなことを訊く。
きっと、思ったままを問いかけてるんだ。
この友達がそんな風なのは、よく知っていた。
まっすぐで、邪気がない。
あれこれ考えて気にする自分とは、もう全然別の生き物みたいなのだ。
「人が一人ひとり違うから? その、身分とか。教育とか……そういうことしたらヤバいって人と、何してもいいって人と……」
けれど、こんな風に言葉を欲しがって、言葉を返して、一緒にご飯を食べている。それが不思議だ。
「教育!」
「あ、うん」
壁際がゆらゆらとして、また海みたいな神秘的な映像が見えた。とても綺麗で、別の世界にいるみたい。
人の社会のあれやこれと無関係にこんな場所にいるのなら、自分もデミルみたいになるのだろうか?
アッシュはこの時、そう考えた。
「これはダメとか、そういう価値観みたいなのを小さい時から教えるんだよ」
何を言っても良い、そんな気配が言葉を引き出してくれるから、アッシュはするするとリラックスして考えを話した。他愛もない雑談だ。
「なんかこわい!」
「怖いかな……」
そう言われれば、人間って怖いかも。
アッシュはほんのりと笑った。
「妖精の学校つくったら、妖精も人間みたいになるかな?」
「どうかなあ」
デミルは不思議な顔でそう言って、海の壁を背景にするその様子が本当に別世界の生き物のようで――けれど、友達だと思った。
ネネツィカちゃん、とデミルが令嬢を呼ぶ声は好意と友情みたいなものを感じさせた。
「なんですの? デミル」
「オイラ妖精の学校、つくる!」
まあ、と微笑む顔が執事を見た。
「センセイを呼んで教えてもらう」
それは決定事項だと告げる眼差しを見た限り、ヴァルターに拒否権はなさそうだった。
◇◇◇
ヴァルター・アンドルートは親妖精派だ。間違いなく妖精の味方だという自覚がある。
「せんせー、捕まえてごらーん」
「ケタケタケタ」
「パオーン!」
人型の妖精が子どものように天真爛漫に鬼ごっこを仕掛けてくる。
鏡の形の妖精がひたすら笑っている。
象の見た目の妖精が暴れている。ああ、木が倒れた。噴水で水浴びしようとして、金魚の妖精を飲んでしまった。
「これをどうせよというのか」
デミルに頼まれた仕事、妖精学校の先生とやら――それは大変な仕事のように思われた。
友人エイヴンは「えっ、なにそれ。やば」とかなりビビった顔をして、「俺は遠くで応援してるから」と本を広げていた。
なぜかユンク伯爵家が後ろ盾になったようで、資金援助は大量にしてもらえている。デミルがやる気満々で妖精の力を奮っている――「おれは別に親妖精派じゃなかったんですがね」と言いつつ、ユンク伯爵家を代表してこの事業を『遊ぶ』公子が妖精の群れに慣れた様子で手を振って、「このちっこい黒いの、育てたら竜そっくりにならないですかね」なんて言っている――。
「たのしいね!」
壁際で女子たちのランチタイムに混ざるデミルがクラッカーに赤色小トマトを乗せながら笑った。その膝には公爵令息から貸し出された呪術の本があるから、本を汚してしまわないかとアッシュはヒヤヒヤしている。
「この本すっごく面白い! クレイ、これをオイラにくれるかな? くれたのかな!」
「あ、どうだろう……ゲームのために貸してくれたんだと思うけど……」
でも、なんか欲しいと言ったらくれそうな雰囲気もあった。アッシュはそう思って、「聞いてみたらいいかも」と言った。その後で「そういえば危篤なんだっけ……?」と口を覆ったけれど。
病床にデミルが突っ込んで行ったら大変だ、とドキドキしたけれど、今のところデミルは大人しくランチを味わうようだった。
この天才兼問題児め――隣に座るアッシュ・フィーリーの耳にはそんな呟きが聞こえたが、デミルはケロリとしてバカにするようにそちらを見た。
言ったのは、眼鏡をかけた男子学生だ。エリックの取り巻きの一人で、名前はなんだったか。寮ですれ違った事が何度もあって、「お前はなぜ大貴族に喧嘩売ったのだ」と蔑み混じりの呟きを零された事があるので、キュアリアス寮の学生なのは間違いない――アッシュが記憶を探る中、「オイラは宝物を並べて取ってねって言っただけ! みんなは勝手に他人の宝を狙って争い始めただけ!」と元気いっぱいの声が――眩しい。
アッシュはさくりと音を立てて緑葉野菜を食み、素朴な苦味を堪能した。瑞々しい――土に根を張って、太陽や雨に育まれた生命力みたいなものをシャキシャキした食感の中に見つけられる。美味しい。
隣にいる少年たちと自分はどうしようもなく別世界の存在なのだ。だが、なんだかそれほど変わらないよって空気で混ざれている最近である。
目が合うと、デミルがニコリとした。
「アッシュは宝を狙わなかった」
「え」
「同じ人間で同じ状況で、他人の宝を奪ってやろうってなる人とならない人がいるのは、なんで?」
デミルがそんなことを訊く。
きっと、思ったままを問いかけてるんだ。
この友達がそんな風なのは、よく知っていた。
まっすぐで、邪気がない。
あれこれ考えて気にする自分とは、もう全然別の生き物みたいなのだ。
「人が一人ひとり違うから? その、身分とか。教育とか……そういうことしたらヤバいって人と、何してもいいって人と……」
けれど、こんな風に言葉を欲しがって、言葉を返して、一緒にご飯を食べている。それが不思議だ。
「教育!」
「あ、うん」
壁際がゆらゆらとして、また海みたいな神秘的な映像が見えた。とても綺麗で、別の世界にいるみたい。
人の社会のあれやこれと無関係にこんな場所にいるのなら、自分もデミルみたいになるのだろうか?
アッシュはこの時、そう考えた。
「これはダメとか、そういう価値観みたいなのを小さい時から教えるんだよ」
何を言っても良い、そんな気配が言葉を引き出してくれるから、アッシュはするするとリラックスして考えを話した。他愛もない雑談だ。
「なんかこわい!」
「怖いかな……」
そう言われれば、人間って怖いかも。
アッシュはほんのりと笑った。
「妖精の学校つくったら、妖精も人間みたいになるかな?」
「どうかなあ」
デミルは不思議な顔でそう言って、海の壁を背景にするその様子が本当に別世界の生き物のようで――けれど、友達だと思った。
ネネツィカちゃん、とデミルが令嬢を呼ぶ声は好意と友情みたいなものを感じさせた。
「なんですの? デミル」
「オイラ妖精の学校、つくる!」
まあ、と微笑む顔が執事を見た。
「センセイを呼んで教えてもらう」
それは決定事項だと告げる眼差しを見た限り、ヴァルターに拒否権はなさそうだった。
◇◇◇
ヴァルター・アンドルートは親妖精派だ。間違いなく妖精の味方だという自覚がある。
「せんせー、捕まえてごらーん」
「ケタケタケタ」
「パオーン!」
人型の妖精が子どものように天真爛漫に鬼ごっこを仕掛けてくる。
鏡の形の妖精がひたすら笑っている。
象の見た目の妖精が暴れている。ああ、木が倒れた。噴水で水浴びしようとして、金魚の妖精を飲んでしまった。
「これをどうせよというのか」
デミルに頼まれた仕事、妖精学校の先生とやら――それは大変な仕事のように思われた。
友人エイヴンは「えっ、なにそれ。やば」とかなりビビった顔をして、「俺は遠くで応援してるから」と本を広げていた。
なぜかユンク伯爵家が後ろ盾になったようで、資金援助は大量にしてもらえている。デミルがやる気満々で妖精の力を奮っている――「おれは別に親妖精派じゃなかったんですがね」と言いつつ、ユンク伯爵家を代表してこの事業を『遊ぶ』公子が妖精の群れに慣れた様子で手を振って、「このちっこい黒いの、育てたら竜そっくりにならないですかね」なんて言っている――。
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