竜と王冠のサクリファイス~乙女ゲームの攻略キャラたちがお互いを攻略して王都炎上?

浅草ゆうひ

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9、裏切りの勇者と妖精王の復活

113、『神はありのままを望まれる』

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 ハーレムパーティが終わると、デミルは早速妖精の学校を作ったようで、しかも何故かその場所はユンク伯爵領だった。伯爵家が支援してくれて、何故かとても上級な呪術師がぞろぞろと建設に力を貸してくれ――「何故かというか、確実にバックに公爵家がついているよね」とヘレナが呟いていた。
 ヴァルター・アンドルート先生は不定期で駆り出され、本当に妖精たちの先生になったという噂。デミルはすっかり先生に懐いたようで、毎回甲斐甲斐しく送迎をしていた。ちなみにまことしやかに囁かれる噂では、教師のハラルス先生が夏の間に誰かに告白したりフラれたりといったロマンスがあったらしい。
 ネネツィカとヘレナはハラルス先生の相手を想像して、スケッチブックに妄想を垂れ流した。

 夏が過ぎて、学院が始まる頃には薄い本が日によって白くなったり元に戻ったりな現象が起きるようになっていた。ティーリーが白くしてる、というのはユージェニーの見解で、なら戻してるのは誰かと問えば勇者と言う。

「今日のスケッチブックは白、ところにより戻るでしょう」
「明日のスケッチブックは白ときどき戻り」
 女学生たちは変異に慣れて、そんな会話を嗜むようになった。「人は慣れる生き物なのよ」とはユージェニーの談。

 ユージェニーは勇者を知っているんだ、とヘレナが情報を聞きたがったしネネツィカも知りたがったけど、ユージェニーはそれよりも、とティーリーの事を話したがった。

「ところ構わず好き勝手降臨してはエリック様の政敵や不敬な発言をした人を威圧しまくってるんだよ」
 元々人前に姿を表す率の高いティーリーは、最近タガが外れたように異様に活発になって人前に自ら呼ばれてもいないのに出てきては口出しをするという。エリックがその都度フォローしているが、人々は竜がおかしいと感じ始めていて、しかし表ではおいそれと批判もできなくなっている。
 夏の間に話題になった第二王子による公爵令息の毒殺未遂は公爵家から公に否定されたけれど、人々は「圧がかけられてそう主張しているだけであれは本当に毒殺未遂だったのだ」と囁いている。「直前におじいさまが辞意表明なさり、外務大臣が交代したのも影響しているでしょうね」とユージェニーは語った。
 第三王子の派閥は「自分たちは第二王子派閥に襲われた側で、襲ってはいない」と主張したが、守護竜が「王子の主張が正しい。何故虚偽を述べるのか」と圧を加えれば、もはや反論はできなかった。第三王子の後見であった内務派は勢力を大きく削がれてしまった。
 新聞を見て、と何冊か取り出して声を低める顔が尋常じゃない危機感に彩られていた。薄い本が真っ白ならば、新聞は真っ黒だった。
「塗り潰されてる……」
 主に王室関連の話題がこうなるのだという。
「良い意見を書いた記事はそのまま載る。批判的な意見を書くと塗り潰される」
「言論統制だね」
「しかもこれ聖女の批判は塗り潰されないで載るのよ、酷くない?」
 ユージェニーは「聖女は神聖なのか」「今問いたい聖女の必要性」といった記事を指した。
「この人たちは本当は私の神聖さとか必要性じゃなくて竜のそれを問題提起したいのよ。でも竜のって書くと怖いから、比較的怖くない私をターゲットにしてるんだわ」

 とは言いつつ、聖女の人気はむしろ向上していた。
 というのも、市井で創造多神教がとても熱心に信仰されるようになってきたからだ。何故そうなったかというと――「神の名前を唱えて『神はありのままを望まれる』と言えば荒ぶる竜が退いた」そんな実体験が広がっていったからである。ゆえに、竜を恐れる者たちは会話の最中に厄除けするかのようにそれを口にする。
「『神はありのままを望まれる』、今日の新聞見たかい」
「『神はありのままを望まれる』、言論統制が酷すぎるよね」
 ――と、こんな感じに。
 神の名で退くとは、もはや守護竜というよりその存在は悪なのでは? 皆が思うようになりつつ、表では言えない、そんな空気が醸し出されていた。

 ヘレナとユージェニーは「こうなってくると乙女ゲームも夢がないなぁ」「だから、リアルだって」「わかってる」と夢が壊れたみたいな顔をしていた。
「その、ゲームではどうでしたの? こんな風にならなかったんです?」
 ネネツィカが問えば、二人は「ゲームはね、学院内で平和にエンジョイしてラブキュンしてちょっと闇深要素入れる程度よ」「うんうん。ドロドロの世間の様子とか政治の動きなんてないよ。ゲームだもん」と口を揃えた。
 でも、世界が滅んだり人が犠牲になったりするのでしょうに……あっ、それが闇深という二文字で済まされるのです? とネネツィカは震えた。

 学院の学生たちは秋のアローウィンイベントに向けた準備を進めつつ日常講義に臨んでいるが、情勢の影響で欠席も目立っている。王子派は我が世の春といった顔でいるが、王子自体は多忙で不在がちになったし、貴族の子女たちも欠席がち。
 ラーフルトン伯爵家も「学院は休んだらどうだ」と家族が勧めるようになり、休む事こそなかったが、寮にはなかなか泊まる許可が貰えなくなってしまった。家族を説得して学院に来ると似たような顔で登校してきた友人たちが「お互い今日も登校組ですね」と笑い合って、不思議な絆めいたものが生まれつつある。

 帰る前にヘレナと寮の部屋で短時間過ごして、またねと言って部屋を出る。そんな日々は少し寂しかった。
 ヘレナが不在の日、ぼんやりと部屋の隅で白い薄い本をめくっていると、久しぶりに見る自称マスコットキャラのクロが窓からひょこりと入ってきて、何やらくたびれた様子でクッションで丸くなった。
 ネネツィカはそれを見て名前を呼んでみようかと思った。
 口を開いて、その名前を呼ぼうとして――呼ぶ前にさらりと空気に溶けるみたいに、その生き物は消えた。
 呼ばれるのを嫌がられて逃げられてしまったのだ、と感じて、ネネツィカは残念に思った。

 そして、その日以来自称マスコットキャラを部屋で見かけることは無くなった。ヘレナに謝ると、そんなこともあるよねと言いながら少し寂しそうに笑ってくれた。

 アローウィンの当日は、なんと他国間で戦争が起きたため中止になった。王国は当事者ではなかったが、新聞はその話題で染まったし、国内も国外も大騒ぎになった。

「あっちもこっちも……今年はどうしてこんなに色んなことが起きるんだろう」
 珍しく顔を出したエリックがネネツィカの元にやってきて、困り顔で隣に座った。
 ネネツィカはその背後でリーガンとクレイが何かを話しているのがとても気になったが、そっと視線を外して頷いた。
「わかってきたね」
 エリックは苦笑した。
「オレが隣にいるときは、オレだけを見ていて……」
 少し弱った風情で言えば、誰かが「ヤンデレ?」と呟くのが恐ろしくはっきりと聞こえた。周囲が無言になって見守るのは、それを言ったのがクレイだからだ。

「ヤン……、それは何だい?」
 意外にも二人は友達みたいな温度感で言葉と視線を交差させた。
「ははっ……、君の大好きな先生に聞いてみなよ」

 最近薄い本への含蓄を深めつつあると噂の公爵令息は、そう言って去って行った。どうやら喧嘩を売ったらしき気配を察した取り巻きは『神はありのままを望まれる』と慌てて唱えたが、クレイは笑って「来ないよ」と言い捨てた。
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