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10、守護竜不在の学院編
135、忠実なる臣下のこの僕が!
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フランメルク城での事件から数日後、王国では『守護竜ティーリーが封印されたらしい』という噂が流れ始めている。紅薔薇派閥の貴族らはおおいに湧いて、過激派が調子付いていた。噂は紅薔薇派閥の者らも積極的に広めていて、公式な発表はまだだが、噂によれば『魔王なる存在がいて、守護竜ティーリーを暴れさせていた』とか。『かつての盟友勇者が駆け付けて、一時的に守護竜ティーリーを封印した』とか。『勇者はそのまま魔王を倒す旅に出て、倒した後は守護竜ティーリーの封印を解くらしい』とか。
(いやいや、旅になんて出ないよお)
歴史教師のエイヴン・フィーリーはのほほんと講義の準備をしていた。
デミルあたりがエイヴンを構ったりするのもあってか、劇の勇者キャラがエイヴンになかなか似ていたのもあってか、友人教師のヴァルター・アンドルートは最近すこし疑わし気な視線を向けてくるようになっていて、エイヴンとしては冷や汗ものだが、なんとか隠し通したいところである。
何故かというと――何故だろう。
「エイヴン、放課後は妖精学校に行くが、一緒に行くか?」
問いかける目が親密な温度を燈している。
「いやあ。俺、妖精ってちょっとまださ、怖いんだよね。あはは」
家でのんびりしたいしね――へらりと言って手を振って。ああ、と思い出す。
――この近しい距離を失いたくないんだ。俺は。
「デミル様って呼んだ方がいいのかな」
アッシュ少年の声がちょうど聞こえて「そうそう、こんな感じになっちゃう」とエイヴンは眉を下げた。
「んーん? 今までとおりでいいよ」
デミルは青年姿から少年姿に変身して、それまでと同じように無邪気に笑った。
「う、うん。デミル」
アッシュがそう言ったので、エイヴンは「おっ、いいね」とにっこりとした。
ラーフルトンのお嬢様は、恋人のエリックを引っ張ってクレイに会わせている。
この仲が結局良いのだか悪いのだかいまいちよくわからない二人組が遭遇させられて、周囲にいた学生たちがみんなしてハラハラやらワクワクやらの視線を注いでいる。
「クレイ、あの手紙は――」
俺、見ちゃったぞあの炙り出し。
どう見ても喧嘩売ってるよな。
そんな風に言いかけたエリックが、ビクッとした。
おもむろにクレイが膝をついて、何やらとても大袈裟に、芝居がかった風に言ったのだ。
「これはこれは殿下。殿下は守護竜ティーリーが封印されて、さぞお困りでいらっしゃることでしょう。さぞお困りでいらっしゃることでしょう。おかわいそうに! ああ、おかわいそうに! おかわいいこと!」
少年の声は、どうも大切なことを二度繰り返しているようだった。エリックはとてもムカついた。
おかわいそうに、はわかるけど「おかわいいこと」は違うだろ!
なんだそのふざけた態度は!
「つきましては、忠実なる臣下の僕が、守護竜アスライトの加護を貸出いたします。忠実なる臣下のこの僕が!」
「んっ?」
ざわりと取り巻きたちが湧く。
「守護竜アスライトの加護をエリック様に……!?」
「忠実なる臣下だって」
――「ほう。それは誰の真似……」取り巻きのオスカーが言いかけると、クレイはサッと立ち上がって、付け足した。
「あと、こちらの伯爵公子はエリック殿下にぜひお仕えしたいと申しておりますゆえ、そちらでお役立てください。僕はこの駒、ほしくないので」
「えっ」
なんか変な駒を押し付けられた!? エリックはユンク伯爵公子を見て「あっ、忠誠断られた人だ、『鮮血』攫っちゃった事件の時の人でもある」と冷や汗をかいた。
「えーと、ユンク伯爵公子は有名だよね。妖精関連事業はとても順調で、伯爵は辣腕と評判だし、腕も立つと」
知ってる。うん、有名な人材だ――「『鮮血』を代わりにちょうだい!」と言われたらどうしようと思っていたエリックは、ひとまずくれるだけらしい気配を察して安心しつつ「じゃあ遠慮なく貰おうかな」と王子様モードのキラキラスマイルを召喚した。
ティーリーがいなくなった分、エリックは頑張らなければならないのだ――、
「う、嬉しいな。これから……よろしくねっ!!」
キラッ☆
そんな風に笑いかければ、ユンク伯爵公子はなんだかしょんぼりしていた。
(俺の王子モードが通用しない……っ!? これは、さてはクレイの策略だな! あとでオーガストとトラン医師に相談しよう)
エリックはそう決意した。
ネネツィカは「一応仲直りはできそうなのかしら……?」と二人(ともう一人)を見比べて、「もうすぐアローウィンですわね。アローウィンは、『みんな』で仲良く楽しみましょうね」とその場に居合わせた全員に向けて宣言したのであった。
エイヴンはゆるく微笑み「まあ、これで平穏な学院生活が訪れるといいなあ」と呟いてから、「――っくしゅん!」とくしゃみをした。
「先生、お大事に~」
「先生、たすかる」
学生たちが声をかけてくれる。
「あー、ありがとう。『お大事に』はわかるけど『たすかる』ってなに?」
思わず聞けば、学生は「聖女様がそういう言い方をするから、真似してる」と言った。
そういえば、異世界人といっても出身の時代はズレがあるのだ。
ユージェニーの時代では、くしゃみに対して「たすかる」という文化があるのかな? エイヴンは、ジェネレーションギャップを感じて不思議な気持ちになった。
(いやいや、旅になんて出ないよお)
歴史教師のエイヴン・フィーリーはのほほんと講義の準備をしていた。
デミルあたりがエイヴンを構ったりするのもあってか、劇の勇者キャラがエイヴンになかなか似ていたのもあってか、友人教師のヴァルター・アンドルートは最近すこし疑わし気な視線を向けてくるようになっていて、エイヴンとしては冷や汗ものだが、なんとか隠し通したいところである。
何故かというと――何故だろう。
「エイヴン、放課後は妖精学校に行くが、一緒に行くか?」
問いかける目が親密な温度を燈している。
「いやあ。俺、妖精ってちょっとまださ、怖いんだよね。あはは」
家でのんびりしたいしね――へらりと言って手を振って。ああ、と思い出す。
――この近しい距離を失いたくないんだ。俺は。
「デミル様って呼んだ方がいいのかな」
アッシュ少年の声がちょうど聞こえて「そうそう、こんな感じになっちゃう」とエイヴンは眉を下げた。
「んーん? 今までとおりでいいよ」
デミルは青年姿から少年姿に変身して、それまでと同じように無邪気に笑った。
「う、うん。デミル」
アッシュがそう言ったので、エイヴンは「おっ、いいね」とにっこりとした。
ラーフルトンのお嬢様は、恋人のエリックを引っ張ってクレイに会わせている。
この仲が結局良いのだか悪いのだかいまいちよくわからない二人組が遭遇させられて、周囲にいた学生たちがみんなしてハラハラやらワクワクやらの視線を注いでいる。
「クレイ、あの手紙は――」
俺、見ちゃったぞあの炙り出し。
どう見ても喧嘩売ってるよな。
そんな風に言いかけたエリックが、ビクッとした。
おもむろにクレイが膝をついて、何やらとても大袈裟に、芝居がかった風に言ったのだ。
「これはこれは殿下。殿下は守護竜ティーリーが封印されて、さぞお困りでいらっしゃることでしょう。さぞお困りでいらっしゃることでしょう。おかわいそうに! ああ、おかわいそうに! おかわいいこと!」
少年の声は、どうも大切なことを二度繰り返しているようだった。エリックはとてもムカついた。
おかわいそうに、はわかるけど「おかわいいこと」は違うだろ!
なんだそのふざけた態度は!
「つきましては、忠実なる臣下の僕が、守護竜アスライトの加護を貸出いたします。忠実なる臣下のこの僕が!」
「んっ?」
ざわりと取り巻きたちが湧く。
「守護竜アスライトの加護をエリック様に……!?」
「忠実なる臣下だって」
――「ほう。それは誰の真似……」取り巻きのオスカーが言いかけると、クレイはサッと立ち上がって、付け足した。
「あと、こちらの伯爵公子はエリック殿下にぜひお仕えしたいと申しておりますゆえ、そちらでお役立てください。僕はこの駒、ほしくないので」
「えっ」
なんか変な駒を押し付けられた!? エリックはユンク伯爵公子を見て「あっ、忠誠断られた人だ、『鮮血』攫っちゃった事件の時の人でもある」と冷や汗をかいた。
「えーと、ユンク伯爵公子は有名だよね。妖精関連事業はとても順調で、伯爵は辣腕と評判だし、腕も立つと」
知ってる。うん、有名な人材だ――「『鮮血』を代わりにちょうだい!」と言われたらどうしようと思っていたエリックは、ひとまずくれるだけらしい気配を察して安心しつつ「じゃあ遠慮なく貰おうかな」と王子様モードのキラキラスマイルを召喚した。
ティーリーがいなくなった分、エリックは頑張らなければならないのだ――、
「う、嬉しいな。これから……よろしくねっ!!」
キラッ☆
そんな風に笑いかければ、ユンク伯爵公子はなんだかしょんぼりしていた。
(俺の王子モードが通用しない……っ!? これは、さてはクレイの策略だな! あとでオーガストとトラン医師に相談しよう)
エリックはそう決意した。
ネネツィカは「一応仲直りはできそうなのかしら……?」と二人(ともう一人)を見比べて、「もうすぐアローウィンですわね。アローウィンは、『みんな』で仲良く楽しみましょうね」とその場に居合わせた全員に向けて宣言したのであった。
エイヴンはゆるく微笑み「まあ、これで平穏な学院生活が訪れるといいなあ」と呟いてから、「――っくしゅん!」とくしゃみをした。
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「先生、たすかる」
学生たちが声をかけてくれる。
「あー、ありがとう。『お大事に』はわかるけど『たすかる』ってなに?」
思わず聞けば、学生は「聖女様がそういう言い方をするから、真似してる」と言った。
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