竜と王冠のサクリファイス~乙女ゲームの攻略キャラたちがお互いを攻略して王都炎上?

浅草ゆうひ

文字の大きさ
143 / 260
10、守護竜不在の学院編

135、忠実なる臣下のこの僕が!

しおりを挟む
 フランメルク城での事件から数日後、王国では『守護竜ティーリーが封印されたらしい』という噂が流れ始めている。紅薔薇派閥の貴族らはおおいに湧いて、過激派が調子付いていた。噂は紅薔薇派閥の者らも積極的に広めていて、公式な発表はまだだが、噂によれば『魔王なる存在がいて、守護竜ティーリーを暴れさせていた』とか。『かつての盟友勇者が駆け付けて、一時的に守護竜ティーリーを封印した』とか。『勇者はそのまま魔王を倒す旅に出て、倒した後は守護竜ティーリーの封印を解くらしい』とか。

 
(いやいや、旅になんて出ないよお)
 歴史教師のエイヴン・フィーリーはのほほんと講義の準備をしていた。
 デミルあたりがエイヴンを構ったりするのもあってか、劇の勇者キャラがエイヴンになかなか似ていたのもあってか、友人教師のヴァルター・アンドルートは最近すこし疑わし気な視線を向けてくるようになっていて、エイヴンとしては冷や汗ものだが、なんとか隠し通したいところである。
 
 何故かというと――何故だろう。
 
「エイヴン、放課後は妖精学校に行くが、一緒に行くか?」
 問いかける目が親密な温度を燈している。
「いやあ。俺、妖精ってちょっとまださ、怖いんだよね。あはは」
 家でのんびりしたいしね――へらりと言って手を振って。ああ、と思い出す。
 
 ――この近しい距離を失いたくないんだ。俺は。

「デミル様って呼んだ方がいいのかな」
 アッシュ少年の声がちょうど聞こえて「そうそう、こんな感じになっちゃう」とエイヴンは眉を下げた。
「んーん? 今までとおりでいいよ」
 デミルは青年姿から少年姿に変身して、それまでと同じように無邪気に笑った。
「う、うん。デミル」
 アッシュがそう言ったので、エイヴンは「おっ、いいね」とにっこりとした。

 ラーフルトンのお嬢様は、恋人のエリックを引っ張ってクレイに会わせている。
 この仲が結局良いのだか悪いのだかいまいちよくわからない二人組が遭遇させられて、周囲にいた学生たちがみんなしてハラハラやらワクワクやらの視線を注いでいる。

「クレイ、あの手紙は――」
 俺、見ちゃったぞあの炙り出し。
 どう見ても喧嘩売ってるよな。
 そんな風に言いかけたエリックが、ビクッとした。

 おもむろにクレイが膝をついて、何やらとても大袈裟に、芝居がかった風に言ったのだ。
「これはこれは殿下。殿下は守護竜ティーリーが封印されて、さぞお困りでいらっしゃることでしょう。さぞお困りでいらっしゃることでしょう。おかわいそうに! ああ、おかわいそうに! おかわいいこと!」
 少年の声は、どうも大切なことを二度繰り返しているようだった。エリックはとてもムカついた。

 おかわいそうに、はわかるけど「おかわいいこと」は違うだろ!
 なんだそのふざけた態度は!

「つきましては、忠実なる臣下の僕が、守護竜アスライトの加護を貸出いたします。忠実なる臣下のこの僕が!」
「んっ?」
 ざわりと取り巻きたちが湧く。
「守護竜アスライトの加護をエリック様に……!?」
「忠実なる臣下だって」
 ――「ほう。それは誰の真似……」取り巻きのオスカーが言いかけると、クレイはサッと立ち上がって、付け足した。
「あと、こちらの伯爵公子はエリック殿下にぜひお仕えしたいと申しておりますゆえ、そちらでお役立てください。僕はこの駒、ほしくないので」
「えっ」
 なんか変な駒を押し付けられた!? エリックはユンク伯爵公子を見て「あっ、忠誠断られた人だ、『鮮血』攫っちゃった事件の時の人でもある」と冷や汗をかいた。
「えーと、ユンク伯爵公子は有名だよね。妖精関連事業はとても順調で、伯爵は辣腕と評判だし、腕も立つと」
 知ってる。うん、有名な人材だ――「『鮮血』を代わりにちょうだい!」と言われたらどうしようと思っていたエリックは、ひとまずくれるだけらしい気配を察して安心しつつ「じゃあ遠慮なく貰おうかな」と王子様モードのキラキラスマイルを召喚した。
 ティーリーがいなくなった分、エリックは頑張らなければならないのだ――、
「う、嬉しいな。これから……よろしくねっ!!」
 キラッ☆
 そんな風に笑いかければ、ユンク伯爵公子はなんだかしょんぼりしていた。
(俺の王子モードが通用しない……っ!? これは、さてはクレイの策略だな! あとでオーガストとトラン医師に相談しよう)
 エリックはそう決意した。
 
 ネネツィカは「一応仲直りはできそうなのかしら……?」と二人(ともう一人)を見比べて、「もうすぐアローウィンですわね。アローウィンは、『みんな』で仲良く楽しみましょうね」とその場に居合わせた全員に向けて宣言したのであった。

 エイヴンはゆるく微笑み「まあ、これで平穏な学院生活が訪れるといいなあ」と呟いてから、「――っくしゅん!」とくしゃみをした。
「先生、お大事に~」
「先生、たすかる」
 学生たちが声をかけてくれる。
「あー、ありがとう。『お大事に』はわかるけど『たすかる』ってなに?」
 思わず聞けば、学生は「聖女様がそういう言い方をするから、真似してる」と言った。

 そういえば、異世界人といっても出身の時代はズレがあるのだ。
 ユージェニーの時代では、くしゃみに対して「たすかる」という文化があるのかな? エイヴンは、ジェネレーションギャップを感じて不思議な気持ちになった。
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

人族は一人で生きられないらしい――獣人公爵に拾われ、溺愛されて家族になりました

よっちゃん
BL
人族がほとんど存在しない世界に、 前世の記憶を持ったまま転生した少年・レオン。 獣人が支配する貴族社会。 魔力こそが価値とされ、 「弱い人族」は守られるべき存在として扱われる世界で、 レオンは常識の違いに戸惑いながらも必死に生きようとする。 そんな彼を拾ったのは、 辺境を治める獣人公爵アルト。 寡黙で冷静、しかし一度守ると決めたものは決して手放さない男だった。 溺愛され、守られ、育てられる日々。 だが、レオンはただ守られるだけの存在で終わることを選ばない。 学院での出会い。 貴族社会に潜む差別と陰謀。 そして「番」という、深く重い絆。 レオンは学び、考え、 自分にしかできない魔法理論を武器に、 少しずつ“並び立つ覚悟”を身につけていく。 獣人と人族。 価値観も、立場も、すべてが違う二人が、 それでも選び合い、家族になるまでの物語。 溺愛×成長×異世界BL。 読後に残るのは、 「ここに居場所があっていい」と思える、あたたかな幸福。

普段「はい」しか言わない僕は、そばに人がいると怖いのに、元マスターが迫ってきて弄ばれている

迷路を跳ぶ狐
BL
全105話*六月十一日に完結する予定です。 読んでいただき、エールやお気に入り、しおりなど、ありがとうございました(*≧∀≦*)  魔法の名手が生み出した失敗作と言われていた僕の処分は、ある日突然決まった。これから捨てられる城に置き去りにされるらしい。  ずっと前から廃棄処分は決まっていたし、殺されるかと思っていたのに、そうならなかったのはよかったんだけど、なぜか僕を嫌っていたはずのマスターまでその城に残っている。  それだけならよかったんだけど、ずっとついてくる。たまにちょっと怖い。  それだけならよかったんだけど、なんだか距離が近い気がする。  勘弁してほしい。  僕は、この人と話すのが、ものすごく怖いんだ。

前世が飼い猫だったので、今世もちゃんと飼って下さい

夜鳥すぱり
BL
黒猫のニャリスは、騎士のラクロア(20)の家の飼い猫。とってもとっても、飼い主のラクロアのことが大好きで、いつも一緒に過ごしていました。ある寒い日、メイドが何か怪しげな液体をラクロアが飲むワインへ入れています。ニャリスは、ラクロアに飲まないように訴えるが…… ◆いつもハート、エール、しおりをありがとうございます。冒頭暗いのに耐えて読んでくれてありがとうございました。いつもながら感謝です。 ◆お友達の花々緒さんが、表紙絵描いて下さりました。可愛いニャリスと、悩ましげなラクロア様。 ◆これもいつか続きを書きたいです、猫の日にちょっとだけ続きを書いたのだけど、また直して投稿します。

限界オタクだった俺が異世界に転生して王様になったら、何故か聖剣を抜いて勇者にクラスチェンジした元近衛騎士に娶られました。

篠崎笙
BL
限界ヲタクだった来栖翔太はトラックに撥ねられ、肌色の本を撒き散らして無惨に死んだ。だが、異世界で美少年のクリスティアン王子として転生する。ヲタクな自分を捨て、立派な王様になるべく努力した王子だったが。近衛騎士のアルベルトが勇者にクラスチェンジし、竜を退治した褒美として結婚するように脅され……。 

身代わり召喚された俺は四人の支配者に溺愛される〜囲い込まれて逃げられません〜

たら昆布
BL
間違って異世界召喚された青年が4人の男に愛される話

この俺が正ヒロインとして殿方に求愛されるわけがない!

ゆずまめ鯉
BL
五歳の頃の授業中、頭に衝撃を受けたことから、自分が、前世の妹が遊んでいた乙女ゲームの世界にいることに気づいてしまったニエル・ガルフィオン。 ニエルの外見はどこからどう見ても金髪碧眼の美少年。しかもヒロインとはくっつかないモブキャラだったので、伯爵家次男として悠々自適に暮らそうとしていた。 これなら異性にもモテると信じて疑わなかった。 ところが、正ヒロインであるイリーナと結ばれるはずのチート級メインキャラであるユージン・アイアンズが熱心に構うのは、モブで攻略対象外のニエルで……!? ユージン・アイアンズ(19)×ニエル・ガルフィオン(19) 公爵家嫡男と伯爵家次男の同い年の乙女ゲー転生BLです。

異世界転移した元コンビニ店長は、獣人騎士様に嫁入りする夢は……見ない!

めがねあざらし
BL
過労死→異世界転移→体液ヒーラー⁈ 社畜すぎて魂が擦り減っていたコンビニ店長・蓮は、女神の凡ミスで異世界送りに。 もらった能力は“全言語理解”と“回復力”! ……ただし、回復スキルの発動条件は「体液経由」です⁈ キスで癒す? 舐めて治す? そんなの変態じゃん! 出会ったのは、狼耳の超絶無骨な騎士・ロナルドと、豹耳騎士・ルース。 最初は“保護対象”だったのに、気づけば戦場の最前線⁈ 攻めも受けも騒がしい異世界で、蓮の安眠と尊厳は守れるのか⁉ -------------------- ※現在同時掲載中の「捨てられΩ、癒しの異能で獣人将軍に囲われてます!?」の元ネタです。出しちゃった!

劣等アルファは最強王子から逃げられない

BL
リュシアン・ティレルはアルファだが、オメガのフェロモンに気持ち悪くなる欠陥品のアルファ。そのことを周囲に隠しながら生活しているため、異母弟のオメガであるライモントに手ひどい態度をとってしまい、世間からの評判は悪い。 ある日、気分の悪さに逃げ込んだ先で、ひとりの王子につかまる・・・という話です。

処理中です...