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10、守護竜不在の学院編
137、ラーフルトンのチート騎士(たぶん)
しおりを挟む歴史Ⅱの講義で、エイヴン・フィーリー先生が板書している。
「騎士ですって、ヘレナ」
「騎士ですって、ネネツィカ」
ネネツィカとヘレナはこそこそとメモを交換して会話した。
「えー、エインヘリアの遊牧民族は北の牧草地帯が寒冷期で草がナイナイ状態になってツラタンモードになりました。なので、こんな所で生きていけるかぁ、もっとアッタカイとこに行くぜーってノリで、一部が西に、一部が南に移動していきましたぁ。これが移動先で玉突き事故みたいにドンパチして先住民を滅ぼしたりさらに移動させたりして、大陸全体に影響していくわけですねぇ」
「うちは一応、騎士団がありますわ。一番強い人は、お髭がもしゃっとしていて、子煩悩な団長さんかしら」
ネネツィカはラーフルトン家の騎士を想う。アローウィンの日に剣術大会に出てって言ったら、出てくれるかしら。
「出場できる資格が、割とゆるゆるなのですわね。学生でもよし、騎士でもよし……傭兵もよし……ふむん」
ふむん、と文字を書いてゴレ男君の絵を添えると、ヘレナは絵を描き足して、ゴレ男君の手にお花を持たせてくれた。
「うちは、最近クレストフォレス出身で元冒険者の新人が入ったはずだから、その人にお願いしてみようかな?」
「お嬢さんたち、講義も聞いてね……?」
エイヴンは眉を下げて困ったように微笑んだ。
「先生、今話したところ……結構好きな部分なんだ。玉突き事故みたいにワーって世界が動いていくんだよ。ほーら」
先生は世界地図に「ここにネルネル系先住民」「ここエインヘリアル北朝」と書いて紙で作ったらしき遊牧民のカードを2枚にちょきりと切り分け、「一枚がこっちに来た! 先住民とバトル! 先住民ピンチ! 逃げろおー、逃げた先でまたそこの先住民が! またバトル!」と実況した。なんか先生が頑張ってる――学生たちは神妙にノートを取り、終了の鐘が鳴るまで耐えた。
放課後、ネネツィカは領地に戻り、「学院のアローウィンの催しの中に剣術大会というのがあるのですが」と家族に相談してみた。
「ネネツィカ、騎士団長は出せないよ」
父がごめんねと謝った。
「彼には今年『土木工事部門』を任せていて、農地の収穫作業の支援指揮も頼んでるんだけど、『妖精の輪』の観光事業での警備も丸投げしてるから」
「大丈夫ですかお父様、騎士団長が過労死しませんかお父様」
19歳の兄ヒューバートは少し考えてから、「仕事を減らしましょう」と口添えしつつ、「ところで剣術大会は兄が出てやろうじゃないか」と言い出した。
「お兄様も、ご多忙なのでは……?」
嫡男として多忙な兄を思いやれば、兄は当然と頷きつつも、「しかし、妹のためにスケジュールを都合するぐらいは容易い」と言ってくれた。
「その皺寄せが騎士団長に行くことにはなるが」
「やめてあげてお兄様」
見かねた様子で進み出た執事のティミオスは、「差し出がましいようですが」と優美に一礼して申し出た。
「わたくしがお嬢様の騎士となり、出場してもよろしいでしょうか?」
おお、と父が声を上げて「それいいね。ティミオスは見栄えも良いし。なにより最近少し娘に構って欲しそうだったからね」と手を打った。お父様?
「ティミオスは、剣が使えますの?」
なんでも出来そうではあるけれど、と目を丸くして見れば、ティミオスは「もちろんでございます」と請け負った。
「もしや、貴方、……実は『二つ名』があったり、有名な英雄だったりするのかしら?」
ワクワクと問う令嬢に、執事はおっとりと応えた。
「いいえ、お嬢様。わたくしは、あくまでただの執事でございます」
あんまり『ただの』じゃないと思うけど――ネネツィカは思ったけれど、「貴方に似合う騎士制服と剣を特注して、キラキラに飾り立てましょう」と騎士姿の執事を妄想して胸を躍らせた。
「いつも格好良いけど、とっても、とっても、似合うと思いますわ。連れて歩いて見せびらかして、みんなに自慢しますわ!!」
きっととってもお強いのね。魔法だってすごいのですし。
ネネツィカは勝利を確信した。
最近イチャイチャなのだかギスギスなのだかよくわからないあの王子たちは、まさかラーフルトン伯爵家が強い騎士を出してくると思ってもいないだろう。
「ふふふ、今にご覧遊ばせ。我が伯爵家のチートキャラ、ずるずるティミオスをご披露いたしますわ!」
扇をぱらりと開き、ネネツィカは優雅に笑った。
「お嬢様、『ずるずる』とは……?」
「ずるい、とてもずるい、の意味ですの」
ともあれ、こうしてラーフルトン伯爵家の騎士が決まったのだった。
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