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10、守護竜不在の学院編
138、語尾イタズラと◯◯しないと出られない部屋の可能性について
しおりを挟む騎士も決まり、意気揚々と登校したネネツィカは、オスカーが取り巻きとケイオスレッグのメンバーに囲まれて駄弁っているのを目撃した。
「エリック様は俺を騎士として出してくれない気配なのだが……ウィンザー卿かキーリング卿――或いはご自分が出そうな勢いで鍛錬しておられるが……」
「王子、つよつよ騎士、たくさん。出れないです、ざこオスカー様」
エインヘリア人のレビエが相槌を打っている。微妙にファーリズ語が堪能になっていた。
「レビエお前、『ざこ』の意味わかって使ってるか?」
「オスカー様もユンク伯爵家の騎士(自分)とか言っちゃって勝手に出てしまえば良いのでは?」
エリックの取り巻きになってから親しくなったらしきヘンリーという少年が助言をしている。
「(自分)って、燃えないだろ……お前想像してみろよ、『俺の騎士、俺!』って名乗るんだぞ」
「ざこの騎士ざこ?」
アイザール人のシュナが棒キャンディを舐めて、「ざぁこ!」と笑っている。
「お前らはなんでそんなに『ざこ』が気に入ったんだ」
クレストフォレス人のショーがシュナの目が逸れた隙にキャンディに辛子を振りかけた。
「アイディアおもう、どく、盛るです。護衛に。出れなくなるよ」
気付いたシュナは顔を真っ赤にしてショーに殴りかかった。
「ヒドイ! 許すしない!」
レビエが間に入って宥めようとすると、シュナは「ウルサイ! シンリャクシャ!」と嚙みついた。
「おい喧嘩すんな!」
「……貴族は変な事で盛り上がるんだね!」
学院のキュアリアス寮前を通ると、デミルがふわふわ降ってきて、マシュマロをくれた。
「オイラたちの寮、騎士とか剣術大会まったく話してなーい! お店とか仮装ばっかり話してる!」
「まあ、そうなるでしょうね」
デミルは膝を抱えてくるくる回転し、逆さまになった状態でぷかぷか宙に浮いてついてくる。
「オイラ、キュアリアス寮の騎士、しようかな~?」
ネネツィカはぎょっとした。
「デミルは剣が使えますの?」
「んーん。でも、使ったら使えそう」
これだから天才は! という視線が周囲から注がれている。
その気持ちは、ネネツィカにも割とよくわかる。なにせ、マリア様という神絵師に出会ってからネネツィカはあまり「わたくし、神!」みたいに自分の絵を見れなくなったので。
「――でもね? わたくしの脳内の萌えはわたくしが描かないと世の中に存在しないのですわ。それは、とても大切な考え方なのだとわたくしは思うのです……」
遠い目をして呟けば、デミルが「どしたの?」と気遣ってくれる気配。
「いいえ。なんでもありませんわ」
にこりと淑女らしく微笑んで魔術学Ⅱの講義室に入れば、なにやら騒ぎが起きていた。
「野良妖精が悪戯してるよ、デミル~! 好きだけど」
アッシュが助けを求めてくる。んっ? ネネツィカはびっくりした。
「悪戯をやめろー! 好きだけど」
男子学生が教科書を手にぷんすかしている。どこかから紛れ込んで来たらしき野良妖精は愉し気に講義室を一周した。
「誰か先生呼んできて、好きだけど」
女子学生が呼びかけて、「行ってくる、好きだけど」隣にいた男子が講義室の外に駆けて行った。
「あっ、デミルがいるから、そっちに止めて貰ったらいいのに、好きだけど」
最前列をキープしていたヘレナが手を振って「大変。ここにアンドルート先生が来たら先生が『好きだけど』と喋ってくれるかも」と興奮していた。
ほーん、なるほど? ネネツィカはピーンときた。似たような悪戯を以前みたことがある――その時は、語尾にハートマークがついていた。
「語尾に『好きだけど』がついてしまうのですわね、好きだけど」
「あはは、楽しい悪戯だね! 好きだけど」
デミルは面白おかしくカラカラ笑ってから、「でも講義がはじまるから、これくらいですとーっぷ」と妖精を止めてくれたのだった。
その後でヴァルター・アンドルート先生が来たので、ヘレナは「あぁっ、惜しいぃ……!」としょんぼりした。
「ふふ、ヘレナは残念でしたわね、でもよかったよかったですわ。――はっ」
この瞬間、ネネツィカの脳裏にきゅぴーんっと閃く何かがあった。
「あ……」
「ネネツィカちゃん?」
デミルが顔を覗き込んでくる。
「お待ちになって。妄想が……捗りますわ……」
席に落ち着きながら、ヘレナと深刻な顔を見合わせる。お互いの気持ちは、わかっていた。何も言葉は必要ない。二人は何も言わずにメモに台詞を書いて交換した。
『吾輩を押し倒すなど言語道断。好きだけど』
『あいつの事が嫌いなんだ。好きだけど』
「……何をしているのかね」
ヴァルターが無言で杖を振り、メモをゴミ箱に処分した。眼差しはとても冷ややかだった。
講義は淡々と進んで、空想力の加齢に伴う自由度消失可能性とか、物の道理や世界の在り方を知らない子供の方が魔法が得意とか、そんな話をしていた。
魔法の話は好きだけど、ネネツィカは懲りずにメモの交換をとてもこっそりと続けていた。
例えば、アローウィンの出店に何をするとか、お揃いで仮装しようとか、ユージェニーも誘おうとか、さっきの語尾ネタで薄い本を作ろうとか。
『エリック様とクレイにアレを仕掛けたら仲良くなれるかしら』
ふと思いついて書いてみると、ヘレナは『バレないようにここぞってセリフだけに仕掛けられたら面白そう』と返してくれた。
『あとは、◯◯しないと出られない部屋、を出店で出してみるとか?』
それは薄い本でよくあるアレね? ヘレナ――ネネツィカは食いついた。それはもう身を乗り出して鼻息荒く――扇で隠しつつ――目を輝かせた!
『例えば、どんな風に?』
自分でも「あんなこと、こんなこと、いっぱいやりたい、見たい……」と陶然と考えながらメモを返せば、影が差した。はっ――このゾワゾワと絶対零度の地獄に引き摺り込むような怖い気配、先生!
そろそろっと顔を上げたら、ヴァルターが眉間に深い深い皺を寄せ――そんなに寄せたら眉間の筋肉(?)だって疲れるんじゃないかしらと思うほど――「よろしい、講義に参加する意思がないならご退場願おう!」ピシャリと言って、二人をまとめて講義室の外につまみ出してしまった。
「あー、推しに嫌われちゃう」
がくり、とヘレナが「やっちゃった」と項垂れた時、バタバタと廊下の向こうから走ってきたユージェニーがスマイル120%でガラガラっと開けて。
「せんせー、すぅいまっせぇん! おくれましたぁ!!」
溌剌と叫んで中に入ろうとして、同じようにつまみ出されて廊下に三人が揃ったのだった。
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