竜と王冠のサクリファイス~乙女ゲームの攻略キャラたちがお互いを攻略して王都炎上?

浅草ゆうひ

文字の大きさ
164 / 260
10、守護竜不在の学院編

156、剣術大会と婚活パーティ、いと罪深き性癖

しおりを挟む
「なお、別会場では婚活パーティも開いています。併せてお楽しみください」
 会場に不思議なアナウンスが流れている。剣術大会と並行して、謎のパーティも開催されたようだった。

 割れるような歓声に楽しい気持ちを煽られるように手を叩くララカが、近くに座るネネツィカにオペラグラスを貸してくれる。
「ラーフルトンの騎士、強いです!」
 無邪気に力いっぱいそう褒められれば、ネネツィカは「うちのティミオスは強いのですわ! おほほほ!」と有頂天になって自慢した。一緒に観戦するヘレナは「うちの騎士も素敵でしょう~」とにこにこ。ユージェニーはというと、「私はエリック様一筋だから」と言いつつエリックの顔が描かれた団扇をひらひらさせている。
「作ったの?」
「うん」
 エリックは剣の腕も優れているようで、対戦相手を次々と下しては会場を沸かせていた。
「でもユージェニー、エリック様はオスカーの騎士だからあなたはつまりオスカーを応援している……」
「そのあたりが私にはよくワカラナイ。なんで互いの騎士になってるのかしら……」
「そりゃやっぱり、薄い本よ」
「まあまあ、うふふ」
 乙女たちの妄想談義の中、ララカは「ウスイホン!」とはしゃいだ声を混ぜていた。無邪気。
「ララカ様、お友達ができてよかったですねえ」
 お付きの外交官ディドが微笑ましく見守り、珈琲を啜る。
「今度、うちにも呼ぶ!」
「ああ、いいんじゃないですかね」

「何故、キーリング卿が此処に?」
 ステージ上では試合が進み、オスカーが問いかけていた。あっさりと喉元に長剣を突き付けられて、容赦なく敗北を告げられながら。
「貴殿は公爵家――クレイ殿下の騎士に毒を盛ったのでしょう」
 フィニックスは言葉少なにそう声を返して、冷ややかな目を向けていた。
「騎士道にあるまじきなさりよう」
 そこには正義感めいた感情が灯っていた。年下の伯爵公子を軽蔑するような色があった。
 無礼で騎士道を弁えぬ悪漢から主を守ろうというような、気に入らない気配があった。
「なんですとッ」
(そもそもクレイ様には剣術大会に出せるような騎士など元々いないというのに。恐らく勇者を出そうとなさっていたのでしょうが――、なにより、人前で『殿下』などとお立場が悪くなるような敬称を連呼しやがって。微妙なお立場も御家の事情も知らん奴が、ちょっと強いからってナイト面しやがって)
 オスカーはすっかり腹を立てていた。
 単に負けるだけならまだしも、困っているところに勝手にやってきてナイトを名乗ったり、他の奴が言えば窘められるような敬称をつけて騎士面して――クレイがちょっと嬉しそうな気配をチラチラと醸し出しているあたり、気に入らない。何から何まで気に入らないのだ。

「そういえば、オスカーは散々毒を盛るとか言ってましたわね」
 なるほど、口は災いの元――とネネツィカはついつい納得してしまったものだが。
「これは離間の策――計略だ。クレイの陰謀だ!」
 隣で休憩していたエリックはオーガストのオロオロした視線に見守られながら憤然としていた。
「あのオスカーを俺に寄越して、わざと毒だなんだと言わせてフィニックスに同情させたのだ!」
「それはないんじゃないかと……ほら殿下。王妃様も応援にいらしてますよ。ほら、ほら」
 オーガストがVIP席で微笑むエリックの母妃を示して、ご挨拶に参りましょうねえ、とあやしてある。

「行ったか」
 エリックが席を立つとそれを見計らっていたとばかりにクレイがやってきて、空いた席にひらりとメモ紙を置いていった。
「どれどれ……」
 早速拾い上げるネネツィカ。周りにいたみんなが一緒になって覗き込む。
「『ざまぁ』」
「あれ? 本当に計略なの?」
 ヘレナが首を傾げると、ユージェニーは訳知り顔で説明した。
「これはね、偶然の結果だけど気持ちよくなって勝ち誇りたいお兄様のお子ちゃまな感性の発露だと私は思うわ」
 エリック様に見られたらまた拗れるから握りつぶしてしまいましょう――そんな異母妹たちに「全部聞こえてるよ」と返しつつ、クレイは観覧席に落ち着いてレネンを呼びつけようとして、思いとどまる。レネンには公爵家主催の婚活パーティへの出席を命じたのだ――。


「坊ちゃん、俺は逢引の約束を取り付けてきました」
 アドルフが喜ばしい報告をしてくる。
「そうか! よかったな。どんな女性なの?」
 少年はワクワクと問いかけた。『昇格する歩兵』の連中にも、パーティへの参加を許可していたのだ。あいつらが全員家庭を持って子どもを作り。広い託児スペースに全員の子が集まって家族のように育っていったら、どんなに微笑ましいだろう。あったかの毛布にクッション、たっぷりのお菓子、絵本に玩具――気が早過ぎる妄想が脳内を駆け巡る、
「片方は商家の三女で、片方は旅芸人で」
「お前……二人に手を付けたの。それは駄目だよ。どっちかに決めなよ」
「いやあ、それがどっちも良い感じでなかなか」
「ほら、あみだくじ作ってやるから」
「将来の伴侶をくじで決めるのはちょっと」

 くだらないやり取りをしながら、クレイはレネンがどんな相手と結ばれるのか夢を見た。

 優しい子がいいな、僕ならば。
 裏切らない子がいいな、暗殺してこない子がいいな。
 身分は低くてもいいんだ。人の良し悪しってそんなものじゃないだろう。あったかい感じが大事だよ。
 そこの道端に花が咲いてたよ、みたいな些細な話を何気なく他愛もなく楽しめて、当たり前に手を繋ぐことができて、一緒におはようって言ったりおやすみって言ったり、今日は天気が良いのだねって笑ったりするんだ。

 手が届かない花もまた良いもので、見上げて恋慕うもよし、ちょっと人目を忍んで恐る恐る手を伸ばしてみるもよし。指先がかすかに触れた時の快感なんて格別で――触れてはいけないと思うからこそドキドキしてしまって堪らなくなる――、

 ――僕は何を考えてるんだ?

 クレイはハッとした。どきりとした。
 あれっ、僕ってそういう性癖? 高嶺の花に手を伸ばしたくなるとか、他人のものに魅力を感じるとか、そんなやつ?

 僕大丈夫?
 この性癖大丈夫?
 僕のこの立場でその性癖って、やばくない?
 割と一番ダメな性癖じゃない?

 少年はこの時、自分の性癖らしきものを自覚した。

「僕は……やっぱ死んだ方が世の中のためなのでは……」
「突然どうなさったんです」
「エリックが悪いと思う。そういうことにしちゃダメかな……」

 この人たち、本当にめんどい。離れた場所で見守っていたネネツィカは、内心の全ては理解できないものの、とりあえず二人がとてもめんどくさいのだけはいつも通りだと思った。
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

人族は一人で生きられないらしい――獣人公爵に拾われ、溺愛されて家族になりました

よっちゃん
BL
人族がほとんど存在しない世界に、 前世の記憶を持ったまま転生した少年・レオン。 獣人が支配する貴族社会。 魔力こそが価値とされ、 「弱い人族」は守られるべき存在として扱われる世界で、 レオンは常識の違いに戸惑いながらも必死に生きようとする。 そんな彼を拾ったのは、 辺境を治める獣人公爵アルト。 寡黙で冷静、しかし一度守ると決めたものは決して手放さない男だった。 溺愛され、守られ、育てられる日々。 だが、レオンはただ守られるだけの存在で終わることを選ばない。 学院での出会い。 貴族社会に潜む差別と陰謀。 そして「番」という、深く重い絆。 レオンは学び、考え、 自分にしかできない魔法理論を武器に、 少しずつ“並び立つ覚悟”を身につけていく。 獣人と人族。 価値観も、立場も、すべてが違う二人が、 それでも選び合い、家族になるまでの物語。 溺愛×成長×異世界BL。 読後に残るのは、 「ここに居場所があっていい」と思える、あたたかな幸福。

普段「はい」しか言わない僕は、そばに人がいると怖いのに、元マスターが迫ってきて弄ばれている

迷路を跳ぶ狐
BL
全105話*六月十一日に完結する予定です。 読んでいただき、エールやお気に入り、しおりなど、ありがとうございました(*≧∀≦*)  魔法の名手が生み出した失敗作と言われていた僕の処分は、ある日突然決まった。これから捨てられる城に置き去りにされるらしい。  ずっと前から廃棄処分は決まっていたし、殺されるかと思っていたのに、そうならなかったのはよかったんだけど、なぜか僕を嫌っていたはずのマスターまでその城に残っている。  それだけならよかったんだけど、ずっとついてくる。たまにちょっと怖い。  それだけならよかったんだけど、なんだか距離が近い気がする。  勘弁してほしい。  僕は、この人と話すのが、ものすごく怖いんだ。

前世が飼い猫だったので、今世もちゃんと飼って下さい

夜鳥すぱり
BL
黒猫のニャリスは、騎士のラクロア(20)の家の飼い猫。とってもとっても、飼い主のラクロアのことが大好きで、いつも一緒に過ごしていました。ある寒い日、メイドが何か怪しげな液体をラクロアが飲むワインへ入れています。ニャリスは、ラクロアに飲まないように訴えるが…… ◆いつもハート、エール、しおりをありがとうございます。冒頭暗いのに耐えて読んでくれてありがとうございました。いつもながら感謝です。 ◆お友達の花々緒さんが、表紙絵描いて下さりました。可愛いニャリスと、悩ましげなラクロア様。 ◆これもいつか続きを書きたいです、猫の日にちょっとだけ続きを書いたのだけど、また直して投稿します。

限界オタクだった俺が異世界に転生して王様になったら、何故か聖剣を抜いて勇者にクラスチェンジした元近衛騎士に娶られました。

篠崎笙
BL
限界ヲタクだった来栖翔太はトラックに撥ねられ、肌色の本を撒き散らして無惨に死んだ。だが、異世界で美少年のクリスティアン王子として転生する。ヲタクな自分を捨て、立派な王様になるべく努力した王子だったが。近衛騎士のアルベルトが勇者にクラスチェンジし、竜を退治した褒美として結婚するように脅され……。 

身代わり召喚された俺は四人の支配者に溺愛される〜囲い込まれて逃げられません〜

たら昆布
BL
間違って異世界召喚された青年が4人の男に愛される話

この俺が正ヒロインとして殿方に求愛されるわけがない!

ゆずまめ鯉
BL
五歳の頃の授業中、頭に衝撃を受けたことから、自分が、前世の妹が遊んでいた乙女ゲームの世界にいることに気づいてしまったニエル・ガルフィオン。 ニエルの外見はどこからどう見ても金髪碧眼の美少年。しかもヒロインとはくっつかないモブキャラだったので、伯爵家次男として悠々自適に暮らそうとしていた。 これなら異性にもモテると信じて疑わなかった。 ところが、正ヒロインであるイリーナと結ばれるはずのチート級メインキャラであるユージン・アイアンズが熱心に構うのは、モブで攻略対象外のニエルで……!? ユージン・アイアンズ(19)×ニエル・ガルフィオン(19) 公爵家嫡男と伯爵家次男の同い年の乙女ゲー転生BLです。

異世界に勇者として召喚された俺、ラスボスの魔王に敗北したら城に囚われ執着と独占欲まみれの甘い生活が始まりました

水凪しおん
BL
ごく普通の日本人だった俺、ハルキは、事故であっけなく死んだ――と思ったら、剣と魔法の異世界で『勇者』として目覚めた。 世界の命運を背負い、魔王討伐へと向かった俺を待っていたのは、圧倒的な力を持つ美しき魔王ゼノン。 「見つけた、俺の運命」 敗北した俺に彼が告げたのは、死の宣告ではなく、甘い所有宣言だった。 冷徹なはずの魔王は、俺を城に囚え、身も心も蕩けるほどに溺愛し始める。 食事も、着替えも、眠る時でさえ彼の腕の中。 その執着と独占欲に戸惑いながらも、時折見せる彼の孤独な瞳に、俺の心は抗いがたく惹かれていく。 敵同士から始まる、歪で甘い主従関係。 世界を敵に回しても手に入れたい、唯一の愛の物語。

処理中です...