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11、三国同盟と魔王の時代
164、新年会、断罪――幽閉と追放
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新年会で、政争絡みの揉め事が起きるかもしれないとか、エインヘリア国境近く、リーン砦を守る勇士を広く募集中だとか。
そんな噂を気にしつつ、ネネツィカは王都火災の傷跡浅きファーリズからおひさまの昇る方角に出かけた。乙女ゲームの外の世界、天を突く針葉樹林が雪を冠るクレストフォレス。理由はシンプルで、ララカに招かれたので。
一緒に招かれていたのは、聖夜に絆を結んだらしきユージェニー。
「私は、魔王を殺さずに魔王の力を消すのが良いと思うって、オーガストに提案したの」
エリックの騎士に相談されたというユージェニーは、そう打ち明けてくれた。
「クレストフォレスは森林地帯で、古からの妖精族が人間族と友好関係を結び、盟主妖精レイスト・リアの調停のもとに成り立つ国となっております」
ラーフルトンの治める領地にも似ているので、我々には過ごしやすい雰囲気かもしれませんねとティミオスはニッコリした。
現地に到着すると、森色の旗がはためく中をお姫様がとても嬉しそうに走って出迎えてくれた。
「いらっしゃい、お友達! です!」
ララカが無邪気に笑って、頭から足先まで古めかしい全身鎧を着込んだ騎士たちを振り返る。リーダー格と思しき長身の騎士は、無言のまま恭しく箱を差し出してくれた。
「歓迎の、しるしです。ララカがつくりました」
小さな絵本がそこにあって、「まあ可愛い」と頂けば、中身のお話はネネツィカとティミオスがお茶を飲んで美味しいねって言うだけの、とてもほのぼのとしたお話だった。
「聖女様には、これです」
ララカはそう言ってユージェニーにもうひとつ箱を渡した。ユージェニーはチラリと中身を見て、にこにことお礼を告げていた。
「この騎士は、『騎士王』です。夕方になったら、ここを離れてエインヘリアのほうに行ってしまうのです」
ララカが懸命に紹介してくれる。騎士王は無言で礼をして、配下騎士と一緒に時間になるまで空気のような控えめな気配で三人を護衛してくれた。
「今夜は三人でいっぱい遊びましょう、ね!」
ララカがそう言って、こっそりと「ディドさんは最近いそがしくて、ララカは寂しいのです」と呟いたので、ネネツィカとユージェニーは滞在期間中ずっとララカと一緒にいて、いろんな遊びをしたり、お互いの国の話をしたりして平穏な時間を過ごしたのだった。
新年会は国に戻ってすぐの時期にひらかれていて、帰路に着くネネツィカとユージェニーは「忙しいね」とくしゃくしゃと笑った。
空が青々として、下の方が白い。そんな寒い日。雪は降っていなかった。
年が明けた祝いの会には大勢の貴族が出席していて、王も王妃も健在の姿を披露して、昨年の事件を振り返り不幸や犠牲を悼み、未来への展望を語る。新しき年が良いものとなるようにと願う――そして、公爵家に声をかけた。
「昨年度はシャジャル王妃にエリック王子と、よく加護を貸してくれた」
アーサー王がそう忠義を労うと、クレイは緊張気味に畏まって頭を垂れた。
「さて、頼ってばかりですまないが、この情勢である。そなたも先日の王都急襲の件は存じておろう。国王命令である。我が国の領空、国境をアスライトに守らせよ。それと、我が息子エリックが、魔王の呪いにて妙な状態になったと報告もある。それも治して欲しい」
さくっと頼むよ君、できるんだろう? そんなノリで依頼する国王に、クレイの祖父ブノワが渋い顔で言葉を返そうとした時、それを制して少年が声を響かせた。
「それが、あいにくですが、できかねまして」
「――クレイ」
祖父は顔色をなくして孫を見た。
何を言うのか、黙っていればなんとかしてやろうというのに――そんな気配にゆるゆると頭を振って、孫は祖父に逆らった。
「できかねるとは?」
王はブノワに黙り控えるよう視線を送り、甥に促した。
甥は、妹によく似ていた。
目元などが特に。
それを見ていると、なにやら可哀想になってくるのだ。特有の憐れみと庇護の情を誘うような気配を持っている。
「僕には確かに昨年秋頃まで加護がございましたが、どうも敬愛する王室への野心を疑われるような迂闊な言動が多かったようでアスライトに嫌われてしまい、愛想を尽かされてしまいまして」
少年は懺悔をするように申し訳なさそうに言葉を連ねた。
「現在は、加護を失くしているのです」
なるほどなるほど、と見ていたエリックは微笑んだ。
あると偽っていたのではなく、確かにあったけれど昨年のごたごたで失ったのだと言えば、少なくても虚偽の罪には問われないのだ。
(投了かな、自殺かな、終わりにしたいのかな、クレイ。俺に断りなく。やる気をなくした? どうにでもなれとか自暴自棄になってる? なんだお前。なんだお前)
エリックはニコニコした。
「な、……なんたることか!!」
会場中が悲鳴のような絶望のような動揺にざわついた。
「守護竜に嫌われるなど――そんな『王族』は許されぬ!」
エリックを支持する第二王子派閥な者たちがここぞとばかりに騒いでいる。
君たちは元々王族扱いしてなかったじゃないか――エリックはニコニコとグラスを置いた。
「断罪するべきだ!」
「追放……追放だ。これを追放し、竜の機嫌を取り戻すのだ、守護竜に詫びるのだ」
なるほど、なるほど。
エリックは騒乱の中、すくりと立ち上がって王の隣にて軽く手を上げた。
「みんな! 落ち着いてほしい!」
きらきらと王子スマイルを浮かべるのも板についたもので、皆はすぐに静かになった。
注目の静寂と緊張が、とても気持ち良い。エリックはにっこりとして、翼と尻尾をわさりと披露した。
「守護竜が怒るのも当然さ! なんたって、俺が魔王になっちゃったんだからね! いやあ、すまないっ、俺のせいなんだ」
爽やかにそう言って、けろりと笑った。
――当然ながら、会場は爆発するような騒ぎになった。新年を祝うどころではなくなってしまい、その日はそのままお開きになって――後日、国王はシリル王子の捜索隊を増員した上で第二王子は魔王にかけられた呪いの治療、という名目で幽閉し、公爵令息は国境際のリーン砦の防衛を任ずる、という名目で中央から追放されたのだった。
そんな噂を気にしつつ、ネネツィカは王都火災の傷跡浅きファーリズからおひさまの昇る方角に出かけた。乙女ゲームの外の世界、天を突く針葉樹林が雪を冠るクレストフォレス。理由はシンプルで、ララカに招かれたので。
一緒に招かれていたのは、聖夜に絆を結んだらしきユージェニー。
「私は、魔王を殺さずに魔王の力を消すのが良いと思うって、オーガストに提案したの」
エリックの騎士に相談されたというユージェニーは、そう打ち明けてくれた。
「クレストフォレスは森林地帯で、古からの妖精族が人間族と友好関係を結び、盟主妖精レイスト・リアの調停のもとに成り立つ国となっております」
ラーフルトンの治める領地にも似ているので、我々には過ごしやすい雰囲気かもしれませんねとティミオスはニッコリした。
現地に到着すると、森色の旗がはためく中をお姫様がとても嬉しそうに走って出迎えてくれた。
「いらっしゃい、お友達! です!」
ララカが無邪気に笑って、頭から足先まで古めかしい全身鎧を着込んだ騎士たちを振り返る。リーダー格と思しき長身の騎士は、無言のまま恭しく箱を差し出してくれた。
「歓迎の、しるしです。ララカがつくりました」
小さな絵本がそこにあって、「まあ可愛い」と頂けば、中身のお話はネネツィカとティミオスがお茶を飲んで美味しいねって言うだけの、とてもほのぼのとしたお話だった。
「聖女様には、これです」
ララカはそう言ってユージェニーにもうひとつ箱を渡した。ユージェニーはチラリと中身を見て、にこにことお礼を告げていた。
「この騎士は、『騎士王』です。夕方になったら、ここを離れてエインヘリアのほうに行ってしまうのです」
ララカが懸命に紹介してくれる。騎士王は無言で礼をして、配下騎士と一緒に時間になるまで空気のような控えめな気配で三人を護衛してくれた。
「今夜は三人でいっぱい遊びましょう、ね!」
ララカがそう言って、こっそりと「ディドさんは最近いそがしくて、ララカは寂しいのです」と呟いたので、ネネツィカとユージェニーは滞在期間中ずっとララカと一緒にいて、いろんな遊びをしたり、お互いの国の話をしたりして平穏な時間を過ごしたのだった。
新年会は国に戻ってすぐの時期にひらかれていて、帰路に着くネネツィカとユージェニーは「忙しいね」とくしゃくしゃと笑った。
空が青々として、下の方が白い。そんな寒い日。雪は降っていなかった。
年が明けた祝いの会には大勢の貴族が出席していて、王も王妃も健在の姿を披露して、昨年の事件を振り返り不幸や犠牲を悼み、未来への展望を語る。新しき年が良いものとなるようにと願う――そして、公爵家に声をかけた。
「昨年度はシャジャル王妃にエリック王子と、よく加護を貸してくれた」
アーサー王がそう忠義を労うと、クレイは緊張気味に畏まって頭を垂れた。
「さて、頼ってばかりですまないが、この情勢である。そなたも先日の王都急襲の件は存じておろう。国王命令である。我が国の領空、国境をアスライトに守らせよ。それと、我が息子エリックが、魔王の呪いにて妙な状態になったと報告もある。それも治して欲しい」
さくっと頼むよ君、できるんだろう? そんなノリで依頼する国王に、クレイの祖父ブノワが渋い顔で言葉を返そうとした時、それを制して少年が声を響かせた。
「それが、あいにくですが、できかねまして」
「――クレイ」
祖父は顔色をなくして孫を見た。
何を言うのか、黙っていればなんとかしてやろうというのに――そんな気配にゆるゆると頭を振って、孫は祖父に逆らった。
「できかねるとは?」
王はブノワに黙り控えるよう視線を送り、甥に促した。
甥は、妹によく似ていた。
目元などが特に。
それを見ていると、なにやら可哀想になってくるのだ。特有の憐れみと庇護の情を誘うような気配を持っている。
「僕には確かに昨年秋頃まで加護がございましたが、どうも敬愛する王室への野心を疑われるような迂闊な言動が多かったようでアスライトに嫌われてしまい、愛想を尽かされてしまいまして」
少年は懺悔をするように申し訳なさそうに言葉を連ねた。
「現在は、加護を失くしているのです」
なるほどなるほど、と見ていたエリックは微笑んだ。
あると偽っていたのではなく、確かにあったけれど昨年のごたごたで失ったのだと言えば、少なくても虚偽の罪には問われないのだ。
(投了かな、自殺かな、終わりにしたいのかな、クレイ。俺に断りなく。やる気をなくした? どうにでもなれとか自暴自棄になってる? なんだお前。なんだお前)
エリックはニコニコした。
「な、……なんたることか!!」
会場中が悲鳴のような絶望のような動揺にざわついた。
「守護竜に嫌われるなど――そんな『王族』は許されぬ!」
エリックを支持する第二王子派閥な者たちがここぞとばかりに騒いでいる。
君たちは元々王族扱いしてなかったじゃないか――エリックはニコニコとグラスを置いた。
「断罪するべきだ!」
「追放……追放だ。これを追放し、竜の機嫌を取り戻すのだ、守護竜に詫びるのだ」
なるほど、なるほど。
エリックは騒乱の中、すくりと立ち上がって王の隣にて軽く手を上げた。
「みんな! 落ち着いてほしい!」
きらきらと王子スマイルを浮かべるのも板についたもので、皆はすぐに静かになった。
注目の静寂と緊張が、とても気持ち良い。エリックはにっこりとして、翼と尻尾をわさりと披露した。
「守護竜が怒るのも当然さ! なんたって、俺が魔王になっちゃったんだからね! いやあ、すまないっ、俺のせいなんだ」
爽やかにそう言って、けろりと笑った。
――当然ながら、会場は爆発するような騒ぎになった。新年を祝うどころではなくなってしまい、その日はそのままお開きになって――後日、国王はシリル王子の捜索隊を増員した上で第二王子は魔王にかけられた呪いの治療、という名目で幽閉し、公爵令息は国境際のリーン砦の防衛を任ずる、という名目で中央から追放されたのだった。
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