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11、三国同盟と魔王の時代
166、お兄様が乙女ゲームで男を攻略している件
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ネネツィカは懐かしい寮の部屋で、久しぶりのヘレナと再会を喜び合った。
「わたくし、数日はここでのんびりしますわ」
「私も」
冬の間に、色々なことがあった。布団にくるまりながら二人はゆるゆると互いの情報を交換した。
「エリック様は、透明化と翼を利用して結構頻繁にわたくしの部屋に遊びに来ますのよ」
「幽閉って聞いて心配してたけど、お元気なのね。よかった」
リーン砦は、魔物は現れるもののエインヘリア軍は徐々に姿を見せなくなったらしい。
「うちの国だけじゃなくて、他の国もそう。エインヘリアの国内が内乱だかで、他国どころじゃなくなったみたい。何故か突然冒険者が一斉蜂起したとか、城まで攻められてるとか」
「まあ。身につまされるお話ですわね」
「うちの国も結構なごたつき具合だもんねえ……」
ここ数日は国王が病に倒れたりもしているのだ。
「ユージェニーが、デミルに交渉してティーリーの封印を解かせようとしたり、呪術で魔王化を無かったことにできないか色々試してるみたい」
ヘレナはそう言って、「私は何もしてない傍観者だなぁ……」としみじみした。
「まあ、それを望んだのだけどね」
ネネツィカはうーんと首を傾げて、「世の中はワーッと同時にいろんなところでいろんな人が動いてますから、ね」と部屋の隅に畳まれた新聞を示した。
「そうね」
新入生の中には、オスカーの弟やアイザールからの留学生である皇子もいた。ヘレナはそれについて触れて、「ゲームには完全になかった展開とか人物だから、私たちはもうすっかりゲームの関係ないリアルを生きてるんだと思うよ」と語るのだった。
そして、あれこれと話していると自然と出てくるのが新しいジャンルやカップリング、推しの話。
「クレストフォレスにお邪魔した時、わたくしは『騎士王』を見ましたわ。外国語はできないのか、お喋りはしませんでしたけど」
「おおー! いいなあ。『妖精射手』と一緒にエインヘリアとの戦争で大活躍した人だよね。『妖精射手』が後ろから弓を射るんだけど、最前線で彼を狙って迫ろうとする敵を足止めして、守るの」
「素敵……『妖精射手』はお会いできませんでしたけど、どんな方なのかしら」
「名前の通り妖精族の人だよ。綺麗系のお兄さん?」
「いいじゃないですの!」
先ほどまでの真面目な話は何処へやら、二人は眠気も吹き飛ぶはしゃぎっぷりで声を華やがせた。
「オスカーの弟さんはひょろっとしてて、知的な眼鏡さんなのよ。明日学院で『あの子だよ』って教えてあげるね」
「お名前はなんて?」
「エイミル君だよ」
「エイミル君、ですわね。覚えましたわ」
時計の針が休まずに時を刻む。あの時計は人がいなくて誰も見ていない時もずっと動いているのだ、と思うと、ネネツィカはなんだか不思議な気持ちになった。
「アイザールの皇子は、どんな方でしたの」
「カタコトだよ。私はわかるけど、他の学生はあんまり意思疎通できないかも?」
「カタコトは、ケイオスレッグで慣れてますわ」
ネネツィカはほんのりと懐かしいメンバーを想った。シュナも含めて全員がもう影も形もなく何処かに行ってしまったけれど、賑々しいあの存在感は独特で。
「ああいうのは、異世界だと『箱』って呼んでたかな」
「『箱』……」
ヘレナはウンウンと枕に頬をつけて、ちょっぴり眠そうな目を向けた。
「箱推し、みたいに言う。ひとりだけじゃなくてね、グループとかの全体を『この子ら全員』って推す、みたいな」
ネネツィカはごろんと寝返りを打って天井を見つめて、なるほどと言葉を返した。
「わかる気がしますわ……」
あの子らは、つるんでわちゃわちゃしてるからなんだか面白かった気がする。ネネツィカは彼らが今何処で何をしているかわからないけれど、世界の各地にバラバラに散り散りになっているのだとしたら、なんだか寂しいし、勿体無いなと思うのだ。
「学校とかって、そういうとこなんだよ」
ヘレナがうとうとと夢とうつつの狭間に微笑んだ。
「大人になって、みんなバラバラになる。でも、なんかその前の猶予期間みたいな、みんなここで一緒に居なさーい、みたいな束縛っていうか、不自由があって……自由だったらバラけちゃうようなメンバーが奇跡みたいにその一定の期間、つるんだりしてさ。でも、期限付きだから、卒業して嘘みたいにバラけたり、それきりになったりもする」
その後も続く縁は、比率で言うと少ないのかなぁ。
同窓会とかもあったけど。
「縁が切れやすい社会だった、都会は特に」
少し寂しそうにヘレナが言うから、ネネツィカは「わたくしたちはずっとこうして仲良しでいましょうね」と迷子みたいに頼りなく呟いたのだった。
乙女たちがそんなハートフルな夜を過ごしている頃、歴史教師のエイヴン・フィーリーは『乙女のための同人図書ルーム』で癒しのひと時を送っていた。
「新刊が豊富でいいねえ。寝る時間惜しんで読んじゃう。あー、俺が全部読み終わるまで明日が来なければいいのに。読み終わったら寝るからその時間も欲しいな」
そんな勇者に、ヒタヒタと忍び寄るのは聖女と呼ばれるユージェニーだった。
「こんばんは……」
「ヒッ」
ホラーな気配を演出した挨拶に全力でびびるエイヴン。ユージェニーは「脅かすの成功」と笑み、ふわりとエイヴンの隣に座り込んだ。
「先生、ティーリーの封印、解きませんか?」
「いや、あれ封印したのデミルよ」
「……デミルには断られまして」
ユージェニーは困り顔をした。
「好感度上げないから……君のお兄さんの方がよほど頑張って攻略してたよ」
俺にも好きな本いっぱい貢いでくれて、仲良くなろうと頑張ってるのが伝わってきたよ。カップリング談義もちょっと変だけど面白かったし。
エイヴンがそう告げると、ユージェニーはブツブツと「次の新刊は『お兄様が乙女ゲームで男を攻略している件』にしようかしら」と呟く。エイヴンは「割と間違ってないんだよなあ」と笑ってしまった。
「むしろ、お兄さんにおねだりしなよ」
「この前、兄のおねだりを拒否したから……」
ユージェニーはそう言いつつも、「アスライトに頼んで封印解いてって手紙書いてみようかしら」と検討する。
「そっちじゃなくて妖精王に頼めと書けば……まあ、いいや」
エイヴンはへらりと肩をすくめて、貴重な時間をお楽しみに費やすべく意識を薄い本に戻すのであった。
「わたくし、数日はここでのんびりしますわ」
「私も」
冬の間に、色々なことがあった。布団にくるまりながら二人はゆるゆると互いの情報を交換した。
「エリック様は、透明化と翼を利用して結構頻繁にわたくしの部屋に遊びに来ますのよ」
「幽閉って聞いて心配してたけど、お元気なのね。よかった」
リーン砦は、魔物は現れるもののエインヘリア軍は徐々に姿を見せなくなったらしい。
「うちの国だけじゃなくて、他の国もそう。エインヘリアの国内が内乱だかで、他国どころじゃなくなったみたい。何故か突然冒険者が一斉蜂起したとか、城まで攻められてるとか」
「まあ。身につまされるお話ですわね」
「うちの国も結構なごたつき具合だもんねえ……」
ここ数日は国王が病に倒れたりもしているのだ。
「ユージェニーが、デミルに交渉してティーリーの封印を解かせようとしたり、呪術で魔王化を無かったことにできないか色々試してるみたい」
ヘレナはそう言って、「私は何もしてない傍観者だなぁ……」としみじみした。
「まあ、それを望んだのだけどね」
ネネツィカはうーんと首を傾げて、「世の中はワーッと同時にいろんなところでいろんな人が動いてますから、ね」と部屋の隅に畳まれた新聞を示した。
「そうね」
新入生の中には、オスカーの弟やアイザールからの留学生である皇子もいた。ヘレナはそれについて触れて、「ゲームには完全になかった展開とか人物だから、私たちはもうすっかりゲームの関係ないリアルを生きてるんだと思うよ」と語るのだった。
そして、あれこれと話していると自然と出てくるのが新しいジャンルやカップリング、推しの話。
「クレストフォレスにお邪魔した時、わたくしは『騎士王』を見ましたわ。外国語はできないのか、お喋りはしませんでしたけど」
「おおー! いいなあ。『妖精射手』と一緒にエインヘリアとの戦争で大活躍した人だよね。『妖精射手』が後ろから弓を射るんだけど、最前線で彼を狙って迫ろうとする敵を足止めして、守るの」
「素敵……『妖精射手』はお会いできませんでしたけど、どんな方なのかしら」
「名前の通り妖精族の人だよ。綺麗系のお兄さん?」
「いいじゃないですの!」
先ほどまでの真面目な話は何処へやら、二人は眠気も吹き飛ぶはしゃぎっぷりで声を華やがせた。
「オスカーの弟さんはひょろっとしてて、知的な眼鏡さんなのよ。明日学院で『あの子だよ』って教えてあげるね」
「お名前はなんて?」
「エイミル君だよ」
「エイミル君、ですわね。覚えましたわ」
時計の針が休まずに時を刻む。あの時計は人がいなくて誰も見ていない時もずっと動いているのだ、と思うと、ネネツィカはなんだか不思議な気持ちになった。
「アイザールの皇子は、どんな方でしたの」
「カタコトだよ。私はわかるけど、他の学生はあんまり意思疎通できないかも?」
「カタコトは、ケイオスレッグで慣れてますわ」
ネネツィカはほんのりと懐かしいメンバーを想った。シュナも含めて全員がもう影も形もなく何処かに行ってしまったけれど、賑々しいあの存在感は独特で。
「ああいうのは、異世界だと『箱』って呼んでたかな」
「『箱』……」
ヘレナはウンウンと枕に頬をつけて、ちょっぴり眠そうな目を向けた。
「箱推し、みたいに言う。ひとりだけじゃなくてね、グループとかの全体を『この子ら全員』って推す、みたいな」
ネネツィカはごろんと寝返りを打って天井を見つめて、なるほどと言葉を返した。
「わかる気がしますわ……」
あの子らは、つるんでわちゃわちゃしてるからなんだか面白かった気がする。ネネツィカは彼らが今何処で何をしているかわからないけれど、世界の各地にバラバラに散り散りになっているのだとしたら、なんだか寂しいし、勿体無いなと思うのだ。
「学校とかって、そういうとこなんだよ」
ヘレナがうとうとと夢とうつつの狭間に微笑んだ。
「大人になって、みんなバラバラになる。でも、なんかその前の猶予期間みたいな、みんなここで一緒に居なさーい、みたいな束縛っていうか、不自由があって……自由だったらバラけちゃうようなメンバーが奇跡みたいにその一定の期間、つるんだりしてさ。でも、期限付きだから、卒業して嘘みたいにバラけたり、それきりになったりもする」
その後も続く縁は、比率で言うと少ないのかなぁ。
同窓会とかもあったけど。
「縁が切れやすい社会だった、都会は特に」
少し寂しそうにヘレナが言うから、ネネツィカは「わたくしたちはずっとこうして仲良しでいましょうね」と迷子みたいに頼りなく呟いたのだった。
乙女たちがそんなハートフルな夜を過ごしている頃、歴史教師のエイヴン・フィーリーは『乙女のための同人図書ルーム』で癒しのひと時を送っていた。
「新刊が豊富でいいねえ。寝る時間惜しんで読んじゃう。あー、俺が全部読み終わるまで明日が来なければいいのに。読み終わったら寝るからその時間も欲しいな」
そんな勇者に、ヒタヒタと忍び寄るのは聖女と呼ばれるユージェニーだった。
「こんばんは……」
「ヒッ」
ホラーな気配を演出した挨拶に全力でびびるエイヴン。ユージェニーは「脅かすの成功」と笑み、ふわりとエイヴンの隣に座り込んだ。
「先生、ティーリーの封印、解きませんか?」
「いや、あれ封印したのデミルよ」
「……デミルには断られまして」
ユージェニーは困り顔をした。
「好感度上げないから……君のお兄さんの方がよほど頑張って攻略してたよ」
俺にも好きな本いっぱい貢いでくれて、仲良くなろうと頑張ってるのが伝わってきたよ。カップリング談義もちょっと変だけど面白かったし。
エイヴンがそう告げると、ユージェニーはブツブツと「次の新刊は『お兄様が乙女ゲームで男を攻略している件』にしようかしら」と呟く。エイヴンは「割と間違ってないんだよなあ」と笑ってしまった。
「むしろ、お兄さんにおねだりしなよ」
「この前、兄のおねだりを拒否したから……」
ユージェニーはそう言いつつも、「アスライトに頼んで封印解いてって手紙書いてみようかしら」と検討する。
「そっちじゃなくて妖精王に頼めと書けば……まあ、いいや」
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