竜と王冠のサクリファイス~乙女ゲームの攻略キャラたちがお互いを攻略して王都炎上?

浅草ゆうひ

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11、三国同盟と魔王の時代

169 、俺は悪くない(二度目)

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「それ、ずるいよ」
 温めたカップを並べて砂時計を返しながら、少年が文句を呈していた。
「徒歩や馬で何週間も何ヶ月もするような距離を簡単に飛んでこないでよ。そういうのをチートって言うんだ」
「知ってるよ」
 友人はけろりとして「妖精王の幻想馬車と似たようなものじゃないか」と主張した。
「あれは、学校専用だからまだ無害だよ。君たちは王都や帝都を行き来して燃やしたり襲ったりしてたじゃないか」
「幻想馬車だって戦時に活用してる奴はいたんだけどな」
 えっ、そうなの。妖精王が力を貸してたの? 誰に? アッシュに?
 少年は少し驚いた。全くそんな情報は本人からも聞いていなかったので。

 湯音柔らかにハーブティーを注げば、ふわふわとした優しい香りがたちのぼる。呪術師レネン・スゥームは壁際で気配を薄くして少年たちを見守っていた。

「お茶が淹れられるようになったんだなあ」
「こんなの簡単だよ」
 そんなやり取りは当たり前の気やすさで、やれ味が少し濃いだの、君が前に淹れたやつよりは美味しいだの語るさまは平和で、世界中ありったけ探しても何も問題など生じてないみたいな和やかさがある。けれど、決してそんなわけでもないのだと、室内の全員がわかっていた。

「羽を広げて見せる必要はなかったね」
 ゲームの感想戦のように少年が洩らして、友人が「そう?」と首を傾げる。
「インパクトがあっただろ。助けてやったのに」
「僕は助けて欲しいなんて言ってない」
 語る声は残念そうだった。
「君の印象はこれで三度下がったんだ。一度は第三王子とのいざこざで、二度は暴走竜、三度目が魔王……」
「第三王子との件は仕方のない不幸な事故で、ティーリーは魔王のせい、魔王になったのは呪いということになって現在は解呪されたのさ」
 友人がけらけらと笑って「ちなみに他にもいっぱいあるぞ! 心を病んでたり、鮮血を攫って飼い殺したりとか」と指折り数え、「お前のやらかしも数えてやろうか?」と言い出せば少年はうんざりと首を振る。

「君は完全無欠の王子様で、正統で順当な継承者で、誰もが認める、誰からも何も不満を持たれないような――歴史の試験で有名な賢君として回答されるような、立派な王様になれたんだ」
 でも経歴にケチがつきまくって汚れちゃったじゃないか。そんな風に不満を溢すのだ。

(その原因のほとんどはお前じゃないか)
 若干呆れつつ、エリックはカップを置いた。

「竜の加護も厚いのだし、身元も明らかだし、勉強もできて運動神経もよくて芸事の才まである、努力家で、でもそれを伏して臣下受けの良い外面を綺麗に自然に取り繕える……」
「それは、褒めてくれてありがとう……」
「なのに、なんか泥がつきまくって格が下がっちゃったんだよ、もったいない」
(だから、それはお前のせいじゃないか)

 エリックは面倒になってニコニコした。
「二股はかけるし、何するかわかんなくてめんどくさいし。せっかく『鮮血』もいたのに逃げられてるし、……オスカーなんて死んじゃったじゃないか」
「え?」
 エリックはきょとんとした。
「オスカーが何?」
 問いなおすと、クレイはとても深刻な顔で目を伏せて言いにくそうにそれを告げるではないか。
「エリック、君は知らないのか。彼は……彼は、死んでしまったよ?」
「えっ、そうなの」
 生きてると思うけど?
 エリックは心底驚いた。いや、だって最近も会ったし。
「そうだよ」
「あっ、……そう?」
 なんか死んだ事になったらしい。視線を彷徨わせば、部屋に控える家臣たちもなんとも悲痛な表情を湛えているではないか。

「そっか。へえ……」
 ハーブティーを味わえば、上品な自然の味がして美味しい。
 クレイはそんなエリックをまじまじと見つめて、眉を顰めた。そして、悩ましく悲しげに距離を置くように呟くのだ。
「エリック、君は友人が亡くなったのに何故そんなに平然としているの。仲が良かったんじゃないの? やっぱり、君ってちょっと理解できないよ……僕は君という人物の感性を、本当に理解できない」

 エリックはハーブティーを飲み干して「いや、だって生きてると……」と反論をしかけたが、こちらに近付く足音を聞いて思い直して立ち上がった。

「人が来るみたいだし、そろそろ行くよ。またね」
「いいよ、絶交だ。もう来なくていいよ」
 ――すっかり機嫌が悪くなったじゃないか。
「うんうん、後日誤解が解けたら手紙で教えてね」
 ひらりと手を振り退散すれば、太陽が高く君臨する時間帯の青空はからりと晴れていて、雲ひとつなく快い。

 魔王の力が無くなればこうして自由気ままに遊びまわることも出来なくなるんだな――そう思うと、エリックはもう少しこのままがいいなと考えてしまうのだった。
 
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