竜と王冠のサクリファイス~乙女ゲームの攻略キャラたちがお互いを攻略して王都炎上?

浅草ゆうひ

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11、三国同盟と魔王の時代

170、僕は『騎士王』を攻略する……?

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 エリックと入れ替わるように先触れが来て、どうやら『騎士王』がお飾り大使の存在を思い出したのか、挨拶する気を起こしたようだった。

「無礼な振る舞いをしたらいきなり斬り捨てられたりするのかな?」
 時折爆発音の響く環境にも慣れた風情でクレイが言えば、呪術師がそわそわと心配そうな気配を見せる。

「坊ちゃん、友好関係ですよ友好関係」
「もちろんだよ、僕は『騎士王』を攻略してみせよう」
 自信満々に言いつつ、クレイは情報を精査する。

 親しくなるためには、まず一番大事なのは自分が相手に好意を持つことだ。仲良くなりたい、その人を喜ばせたい、そんな気持ちが無ければ、親しくなる資格もない――利用するだけの下心で近づく輩というのは存外にその心が伝わるものだし、下品ではないか。

 次に大事なのは、やはりその人がどんな人物で、何を好み何を嫌うのかを知る事だろう。
 例えばデミルには、人の社会の身分を傘に着て上から目線で接してはいけない。彼は下心も見抜くから、純粋に遊び仲間になりたいとか、楽しい事を一緒にしたいとか、そんな気持ちで接するのだ。
 勇者の場合は、元々浅いレベルで友好的、協力してくれそうな気配だった。理解者が少なそうな趣味に理解を深めて、「僕もそれの良さがわかります」と趣味友を目指してみれば、少なくとも熱意は伝わったらしくて好意的に受け入れてくれたのだ。
(もし好きな女の子の場合なら。僕を好きになってよって口説くなら――)
 ふとほんわかとそんな想像を巡らせそうになって、少年はちょっと赤くなった。出来もしない事を考えて、こんな時に、と。

 『騎士王』については、あまり情報がなかった。放浪の騎士らしく、多言語使いで先の戦争ではクレストフォレスと縁が深い、程度。名はニュクスフォスといい、親しい配下は名で呼ぶのだとか。名より二つ名が先行して広まっているが。
(僕は友人になったらニュクスと呼ぼうか、フォスと呼ぼうか)
 呼び方は結構大事だ。それだけで距離が縮む気がする。周りの人にも「あっ、仲が良いんだな」と思ってもらえるし。

 ――それにしても。
「多忙とはいえ、軽く放置していた分あちらは既に僕に失礼を働いたと言えるんじゃないかな……」
「坊ちゃん、友好的にですよ……?」

 エインヘリアといえば礼儀より拳と言った先入観のあるお国柄、新しいトップも成り上がり、と礼節の期待はしていなかったクレイだが、謁見は意外に格式張っていて、玉座に落ち着く国主は直言ではなく臣下を通して通訳を介した言葉を下され、装いは古めかしく無骨な全身騎士鎧ながら所作に洗練された上流の気品めいたものさえ感じさせた。

 鎧は飾り気のない実用的なもので、傷がある。現実に戦場にて刻まれし傷なのだろうと思うと、少しだけ少年心がくすぐられる。しかし――多言語使いの触れ込みが真実であれば通訳なしで話もできるであろうに。武人なので礼服礼儀など知らんとアピールする様にくたびれた鎧姿で失礼して、騎士兜を脱ぎもせず。
 わざわざ王族と指名して呼びつけてからに――外務卿に尋ねて協定会談の経緯も確認したが、他国にはそんな要求してないではないか。

(この者はどの国に対しても、ではなく、我が国に対してだけ特別に無礼である)
 恐らくは、外交官でもない血統だけが取り柄の王族もどきを大使によしと選んだ理由とは、無礼な態度を取っても構わんだろうと侮られたからなのだ。成り上がり者は、おつむの軽そうな王族坊やに対して自分のほうが格上だぞと振る舞い、軽く扱う事で己の高貴さを相対的に高め、ファーリズを貶めようというのだ。
(僕は、こいつが偉い王様気取りをするための引き立て役にちょうどいいわけだ)

(こいつの出身はどこだろう。母国語はどれだろう)
 考えながら、言葉を選ぶ。口を開いて、止められるより先に話し出す。
 
武人はエグスイラ礼儀作法エルイム イン 上辺アニューサ ルル 模倣したムイタあなたエウ、 気を使うミュスク ですレン僕はラウイル褒めてワフト あげるヒウム?」
 アイザール語で切り出して、おっとりと微笑んでみた。友好的な表情で喋っておけばあとは「今なんか失礼な事言った?」と言われても「僕は頑張ってしゃべってみたけど外国語が下手でしたでしょうか、わかんないでぇす」って誤魔化せばいい。
 
でもレイエ、 僕はセレ思うのですファン。 結果シグル真似するレイエメピエ失われるフェーレ 真心アエリエ?」
 クレストフォレス語で言葉を続ける。『騎士王』は置物のように微動だにせず座っている。実は中身のない鎧人形置いてるだけだったりして? クレイは想像して少し楽しくなった。
(表情が視えないのが痛い――いいな、愛想笑いしなくても済むじゃないか騎士兜。僕も馬の被り物を被ってくればよかった)

「まずはその顔を晒して、自分の声で囀ってみてはいかが?」
 ファーリズ語で言って、通訳の顔色を窺いながらエインヘリア語に切り替える。
 
僕はイリヒ 貴方がドゥ 好きフォウリウベ なので 仲良くカム したいと思ってミヒテ ……思っていますペン

 一通りニコニコと話してみれば、金属鎧の動く音がして、玉座の鎧姿が動いた。どうやら中身は入っていたらしかった。
 長身の鎧騎士は無言のままスタスタと近寄ってきた。微妙な笑顔を貼りつけた少年が重そうだなと思いながら見ていると、おもむろに腕が伸びた。すわ殴られでもするのかと身を竦めると、なんと籠手に覆われた手は無遠慮に少年の頭に触れて、まるで「いっぱい喋って偉いですね」とでも言いたげに撫でたではないか。
「無――」
 無礼、と言っても許されるんじゃないかな? 一瞬逡巡しつつ口をひらけば、言葉を発するより早く『騎士王』が声を発した。

あなたはドゥ学院にフェンレーレニ行きたいウァンですかレナ?」
 それがふざけたことに単語や助詞ごとに別々の国の言葉を混ぜた問いかけだったので、クレイは自分が「ちゃんと話せますよ、あなたは聞き取れますか」とやり返されているのだと悟った。しかし、兜でくぐもった声は不思議と不快さが薄れる声色で、なんとなく好ましさも感じるのだ。
「ラウ・ウァン……」
 相手の語尾に続くように同じ言葉でそっと返すと、会話が成立した手ごたえと、頷いて離れる気配があった。

「あなたはさっき、意識してか無意識か、ご自分の母国語を使うのを避けたようですね」
 ふと思いついたので言ってみれば、鎧姿は再び置物のようになって動かなくなってしまった。

 後日、驚くべきことに離宮から学院への専用の幻想馬車が用意されて、学院に通学が可能になったと言われれば、少年は「ニュクスフォスは『妖精射手』と縁があるらしいし、実は本人も妖精だったりするのでは?」といぶかしむのであった。
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