183 / 260
11、三国同盟と魔王の時代
175、ライブダンジョンのお誘いと反乙女ゲーム同盟
しおりを挟む
暑気に植物と動物の匂いがむわりとする昼下がり、陽光がしたたかに地上を照らしている。苛烈な太陽は、まるで地上で起きる全てを監視して、ひとつも見逃さぬと言うような眩さで青空に君臨していた。
シリルが家畜の世話をしている。黒髪に汗を煌めかせ、泥まみれになって、日にさらされて。
「ヘイヘーイ忠犬『鮮血』~、今どんな気持ち? 今どんな気持ち?」
犬小屋の隣に座り込んで、夢の中に迷い込んだみたいにおぼつかない様子で主人を見つめるフィニックスをグリエルモが突っついている。
「ご主人様に捨てられて悲しいかー! ご主人様に会えて嬉しいかー! 俺とバトってスッキリするかー?」
よしやろう今やろう、そんな風に肩を揺らしたり剣の鞘を叩く相手を完全に無視して、フィニックスは立ち上がる。
「シリル様、手伝わせてください……!」
赤毛が燦々と注ぐ日差しにきらきら艶を放つ。背を見送り、『成り上がり』は息を吐いた。
「おーい、大切なご主人様のお世話してくれた友好国に礼もないのか。そんなんだから副団長止まりなんだぜ」
俺がもう少し若かったらキレてるかも、と苦笑する声に、フィニックスはハッとした顔で振り返って頭を下げた。
「失礼致しました……我が主君をお守りくださったアイザール政権に心より感謝申し上げます」
「おう。これからよろしくな、フィニックス」
よかったよかった、とグリエルモはからりと笑う。
「これから……」
「そ。俺たちは、今日より同じ陣営になろうぞ」
その笑顔は不遜で、傲慢で、太陽のもとで己こそが光なりと雄叫びをあげるようだった。
「私に、アイザールにくだれと?」
フィニックスが眉を寄せる。
「シリル王子の平穏を守るため、アイザール所属の騎士となる――忠犬にはそれだけでも十分か。しかし、これはそんなちっぽけな話にはとどまらない」
犬小屋の隣でゆらりと立ち上がり、『成り上がり』は剣を抜いて高く翳した。
「お前さんはシリル王子から聞いてはいないだろうが……」
剣身が陽を反射して光る。
「ここは創造多神『株式会社ハッピーSエンターテインメント』の箱庭であるファーリズの外つ国――アイザール共和国。俺たちは『反乙女ゲーム同盟』。この世界の自由なる『その他大勢』として、神の代行者を騙る守護竜に管理統制される不自然な国家体制を否定する!」
「ワン、ワン!」
戻ってきたわんこが「ここは僕のお家だぞ」って感じで吠え立てた。
「……」
わんこが賑々しく騒ぐ中、グリエルモがそっと移動するのをフィニックスがしらっとした眼で見ていた。
「『鮮血』、……そんな目で俺を見るな」
――格好つけたんだけどなあ。
そう言って、グリエルモは剣をおさめて笑うのだった。
「貴殿が何を仰るのか、私には分かりかねます」
「シリル王子に話してもらおうかね。おじさんも一緒に家畜の世話してやるよ」
――呪術の鳥がパタパタと高い空を飛んでいく。
家の中では、女性たちが和やかな時間を過ごしていた。
「私達の生活はアイザール政権により秘匿され、守られています」
皇女ディアナがほんのりと微笑み、冷えた麦茶を注いでくれる。ヘレナは姉と母国語で積もる話に花を咲かせ、時折ネネツィカに話を通訳してくれた。
家の外で馬のいななきが聞こえると、ディアナが扉の方を見た。
「お姉さま!」
ミハイがパタパタと戸を開けて家の中に飛び込んでくる。
「アルマお姉さま! こっちに先に来たんだね? ディナーは食べられる? お城に行くよね?」
子犬のようにきゃらきゃらと騒いで狭い室内を飛び回るミハイに、ヘレナはにっこりした。
「ええ、ミハイ。もうちょっとしたらお城に行くわ」
ネネツィカはミハイのために持ってきた果実飴の小瓶を差し出して、「多分、わたくしもお邪魔しますの」とそっと確認した。ヘレナに誘われて来たものの、果たして団欒の中に混ざっていて良いのか自信がなくなって来たので。
「一緒に来てよ……お願い」
ヘレナはそう言って、ネネツィカの手を握る。
「1人だと怖いわ」
「ええ、ええ」
お姉さまたちは、仲良しなんだね! そんな風にあどけなく言ったミハイは、「あのね、ディナーの時に魔道具を用意してもらうから、みんなで魔王を観ようね!」と誘う。
「魔王を観る……?」
不思議な言葉を聞いた。そんな目で『お姉さま方』が視線を交差させる。
「これ」
ミハイがチラシのようなものを見せてくれた。どれどれ、と読んでみると、多国籍な言語にて「魔王、再び!? ライブダンジョンのお誘い~ぷるぷる、ぼくこわい魔王じゃないよ~」という文言と映像投影魔道具の使用のお願い、映像投影魔道具を発動させた時の魔王からの布告映像を受信するための専用の術式が書いてある。
「なんです、これは」
「なんだろう……」
お姉さま方は、困惑を深めるばかりであった。
シリルが家畜の世話をしている。黒髪に汗を煌めかせ、泥まみれになって、日にさらされて。
「ヘイヘーイ忠犬『鮮血』~、今どんな気持ち? 今どんな気持ち?」
犬小屋の隣に座り込んで、夢の中に迷い込んだみたいにおぼつかない様子で主人を見つめるフィニックスをグリエルモが突っついている。
「ご主人様に捨てられて悲しいかー! ご主人様に会えて嬉しいかー! 俺とバトってスッキリするかー?」
よしやろう今やろう、そんな風に肩を揺らしたり剣の鞘を叩く相手を完全に無視して、フィニックスは立ち上がる。
「シリル様、手伝わせてください……!」
赤毛が燦々と注ぐ日差しにきらきら艶を放つ。背を見送り、『成り上がり』は息を吐いた。
「おーい、大切なご主人様のお世話してくれた友好国に礼もないのか。そんなんだから副団長止まりなんだぜ」
俺がもう少し若かったらキレてるかも、と苦笑する声に、フィニックスはハッとした顔で振り返って頭を下げた。
「失礼致しました……我が主君をお守りくださったアイザール政権に心より感謝申し上げます」
「おう。これからよろしくな、フィニックス」
よかったよかった、とグリエルモはからりと笑う。
「これから……」
「そ。俺たちは、今日より同じ陣営になろうぞ」
その笑顔は不遜で、傲慢で、太陽のもとで己こそが光なりと雄叫びをあげるようだった。
「私に、アイザールにくだれと?」
フィニックスが眉を寄せる。
「シリル王子の平穏を守るため、アイザール所属の騎士となる――忠犬にはそれだけでも十分か。しかし、これはそんなちっぽけな話にはとどまらない」
犬小屋の隣でゆらりと立ち上がり、『成り上がり』は剣を抜いて高く翳した。
「お前さんはシリル王子から聞いてはいないだろうが……」
剣身が陽を反射して光る。
「ここは創造多神『株式会社ハッピーSエンターテインメント』の箱庭であるファーリズの外つ国――アイザール共和国。俺たちは『反乙女ゲーム同盟』。この世界の自由なる『その他大勢』として、神の代行者を騙る守護竜に管理統制される不自然な国家体制を否定する!」
「ワン、ワン!」
戻ってきたわんこが「ここは僕のお家だぞ」って感じで吠え立てた。
「……」
わんこが賑々しく騒ぐ中、グリエルモがそっと移動するのをフィニックスがしらっとした眼で見ていた。
「『鮮血』、……そんな目で俺を見るな」
――格好つけたんだけどなあ。
そう言って、グリエルモは剣をおさめて笑うのだった。
「貴殿が何を仰るのか、私には分かりかねます」
「シリル王子に話してもらおうかね。おじさんも一緒に家畜の世話してやるよ」
――呪術の鳥がパタパタと高い空を飛んでいく。
家の中では、女性たちが和やかな時間を過ごしていた。
「私達の生活はアイザール政権により秘匿され、守られています」
皇女ディアナがほんのりと微笑み、冷えた麦茶を注いでくれる。ヘレナは姉と母国語で積もる話に花を咲かせ、時折ネネツィカに話を通訳してくれた。
家の外で馬のいななきが聞こえると、ディアナが扉の方を見た。
「お姉さま!」
ミハイがパタパタと戸を開けて家の中に飛び込んでくる。
「アルマお姉さま! こっちに先に来たんだね? ディナーは食べられる? お城に行くよね?」
子犬のようにきゃらきゃらと騒いで狭い室内を飛び回るミハイに、ヘレナはにっこりした。
「ええ、ミハイ。もうちょっとしたらお城に行くわ」
ネネツィカはミハイのために持ってきた果実飴の小瓶を差し出して、「多分、わたくしもお邪魔しますの」とそっと確認した。ヘレナに誘われて来たものの、果たして団欒の中に混ざっていて良いのか自信がなくなって来たので。
「一緒に来てよ……お願い」
ヘレナはそう言って、ネネツィカの手を握る。
「1人だと怖いわ」
「ええ、ええ」
お姉さまたちは、仲良しなんだね! そんな風にあどけなく言ったミハイは、「あのね、ディナーの時に魔道具を用意してもらうから、みんなで魔王を観ようね!」と誘う。
「魔王を観る……?」
不思議な言葉を聞いた。そんな目で『お姉さま方』が視線を交差させる。
「これ」
ミハイがチラシのようなものを見せてくれた。どれどれ、と読んでみると、多国籍な言語にて「魔王、再び!? ライブダンジョンのお誘い~ぷるぷる、ぼくこわい魔王じゃないよ~」という文言と映像投影魔道具の使用のお願い、映像投影魔道具を発動させた時の魔王からの布告映像を受信するための専用の術式が書いてある。
「なんです、これは」
「なんだろう……」
お姉さま方は、困惑を深めるばかりであった。
0
あなたにおすすめの小説
人族は一人で生きられないらしい――獣人公爵に拾われ、溺愛されて家族になりました
よっちゃん
BL
人族がほとんど存在しない世界に、
前世の記憶を持ったまま転生した少年・レオン。
獣人が支配する貴族社会。
魔力こそが価値とされ、
「弱い人族」は守られるべき存在として扱われる世界で、
レオンは常識の違いに戸惑いながらも必死に生きようとする。
そんな彼を拾ったのは、
辺境を治める獣人公爵アルト。
寡黙で冷静、しかし一度守ると決めたものは決して手放さない男だった。
溺愛され、守られ、育てられる日々。
だが、レオンはただ守られるだけの存在で終わることを選ばない。
学院での出会い。
貴族社会に潜む差別と陰謀。
そして「番」という、深く重い絆。
レオンは学び、考え、
自分にしかできない魔法理論を武器に、
少しずつ“並び立つ覚悟”を身につけていく。
獣人と人族。
価値観も、立場も、すべてが違う二人が、
それでも選び合い、家族になるまでの物語。
溺愛×成長×異世界BL。
読後に残るのは、
「ここに居場所があっていい」と思える、あたたかな幸福。
普段「はい」しか言わない僕は、そばに人がいると怖いのに、元マスターが迫ってきて弄ばれている
迷路を跳ぶ狐
BL
全105話*六月十一日に完結する予定です。
読んでいただき、エールやお気に入り、しおりなど、ありがとうございました(*≧∀≦*)
魔法の名手が生み出した失敗作と言われていた僕の処分は、ある日突然決まった。これから捨てられる城に置き去りにされるらしい。
ずっと前から廃棄処分は決まっていたし、殺されるかと思っていたのに、そうならなかったのはよかったんだけど、なぜか僕を嫌っていたはずのマスターまでその城に残っている。
それだけならよかったんだけど、ずっとついてくる。たまにちょっと怖い。
それだけならよかったんだけど、なんだか距離が近い気がする。
勘弁してほしい。
僕は、この人と話すのが、ものすごく怖いんだ。
前世が飼い猫だったので、今世もちゃんと飼って下さい
夜鳥すぱり
BL
黒猫のニャリスは、騎士のラクロア(20)の家の飼い猫。とってもとっても、飼い主のラクロアのことが大好きで、いつも一緒に過ごしていました。ある寒い日、メイドが何か怪しげな液体をラクロアが飲むワインへ入れています。ニャリスは、ラクロアに飲まないように訴えるが……
◆いつもハート、エール、しおりをありがとうございます。冒頭暗いのに耐えて読んでくれてありがとうございました。いつもながら感謝です。
◆お友達の花々緒さんが、表紙絵描いて下さりました。可愛いニャリスと、悩ましげなラクロア様。
◆これもいつか続きを書きたいです、猫の日にちょっとだけ続きを書いたのだけど、また直して投稿します。
限界オタクだった俺が異世界に転生して王様になったら、何故か聖剣を抜いて勇者にクラスチェンジした元近衛騎士に娶られました。
篠崎笙
BL
限界ヲタクだった来栖翔太はトラックに撥ねられ、肌色の本を撒き散らして無惨に死んだ。だが、異世界で美少年のクリスティアン王子として転生する。ヲタクな自分を捨て、立派な王様になるべく努力した王子だったが。近衛騎士のアルベルトが勇者にクラスチェンジし、竜を退治した褒美として結婚するように脅され……。
この俺が正ヒロインとして殿方に求愛されるわけがない!
ゆずまめ鯉
BL
五歳の頃の授業中、頭に衝撃を受けたことから、自分が、前世の妹が遊んでいた乙女ゲームの世界にいることに気づいてしまったニエル・ガルフィオン。
ニエルの外見はどこからどう見ても金髪碧眼の美少年。しかもヒロインとはくっつかないモブキャラだったので、伯爵家次男として悠々自適に暮らそうとしていた。
これなら異性にもモテると信じて疑わなかった。
ところが、正ヒロインであるイリーナと結ばれるはずのチート級メインキャラであるユージン・アイアンズが熱心に構うのは、モブで攻略対象外のニエルで……!?
ユージン・アイアンズ(19)×ニエル・ガルフィオン(19)
公爵家嫡男と伯爵家次男の同い年の乙女ゲー転生BLです。
異世界に勇者として召喚された俺、ラスボスの魔王に敗北したら城に囚われ執着と独占欲まみれの甘い生活が始まりました
水凪しおん
BL
ごく普通の日本人だった俺、ハルキは、事故であっけなく死んだ――と思ったら、剣と魔法の異世界で『勇者』として目覚めた。
世界の命運を背負い、魔王討伐へと向かった俺を待っていたのは、圧倒的な力を持つ美しき魔王ゼノン。
「見つけた、俺の運命」
敗北した俺に彼が告げたのは、死の宣告ではなく、甘い所有宣言だった。
冷徹なはずの魔王は、俺を城に囚え、身も心も蕩けるほどに溺愛し始める。
食事も、着替えも、眠る時でさえ彼の腕の中。
その執着と独占欲に戸惑いながらも、時折見せる彼の孤独な瞳に、俺の心は抗いがたく惹かれていく。
敵同士から始まる、歪で甘い主従関係。
世界を敵に回しても手に入れたい、唯一の愛の物語。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる