竜と王冠のサクリファイス~乙女ゲームの攻略キャラたちがお互いを攻略して王都炎上?

浅草ゆうひ

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11、三国同盟と魔王の時代

177、呪われた国ファーリズと春妖精

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「あの王子はレディの元婚約者でしたね」
 細く瞑る形の眼を柔和に笑ませ、ネクシが話しかけてくる。ネネツィカは嫋やかに扇を広げて、そっとティミオスを見上げた。
「あの魔王とは関係のない話でございますが、我がお嬢様は婚約破棄についてはお心を痛めておられ、お耳にも入れたくないご様子です」
 これは楽ですわ、ティミオスが全部相手してくれそう――ネネツィカは傷心の令嬢面を装ってスプーンでプリンをすくった。純白のクリームを上に冠るプリンはとても美味しかった。甘い、とろける! 幸せ!
「それは失礼致しました、レディ・ネネツィカ。そしてプリンがお好みに合いましたようで何よりです」
「美味ですわ……」
「……お嬢様……」


「お隣の王子は結構おバカって噂だよ」
「こら、ミハイ」
 ミハイがきゃらきゃらと無邪気に笑って、兄のルカ第一皇子が嗜めている。ネネツィカの耳には『王子』『バカ』程度は聞き取れた。
(エリック様、バレてます――バレてバカ呼ばわりされてます……)
 ネネツィカはそっと遠い目をして恋人を想った。きっとバレると思っていないでアレをなさったのだわ。そんな確信めいたものを胸に抱きつつ。

「レディ――妖精の姫君は国際交流会にもいらっしゃいますか?」
 ネクシが柔らかに声を続け、閉じた眼を従者ではなくネネツィカ本人に据えている。
「国際交流会……? 恥ずかしながら、初耳ですわ……それに、妖精の姫君とは。面映い呼び方ですの」
 ラーフルトンは確かに妖精の血が混ざる家系なのは確かだけれどデミルやララカといった純血と比べると如何にもその称号は大袈裟で不似合いに思える14歳のネネツィカである。
「その美しい髪を見れば、春を呼ぶ妖精を想わずにいられません」
 ネクシはニコニコとそう言って、アイザールやクレストフォレスで有名な古妖精の話を教えてくれた。

 それは美しき春花色の髪を持つ花の姫君。
 外国では『呪われた大地』と呼ばれるファーリズ地方でかつて冬の古妖精が暴れていた時代から、憐れな人間たちに優しく手を差し伸べた優しき妖精のお姫様。

「わたくし、その妖精のお話は少しだけ知ってますわ。勇者伝説にちょっとだけ出ますもの。ワイストンのお母様として」
 けれど、その血は何代も経て薄まり、現在は妖精などと名乗れるものではない――そう控えめに微笑んで、そっと問うのは不穏な単語。
「呪われた大地というのは、初耳ですが」
 仮にも外交に携わる方が、その国の者相手に使う単語かしら? と。

「呪われた国ファーリズ、かの国を、外の者の中にはそう呼ぶものもいるのですよ」
 ネクシは非礼を詫びるでもなく教えてくれた。
 不自然にその一帯だけ、この世界から神々の箱庭として切り取られ隔離された国。
 妖精を排除し、竜が絶対の存在として君臨して管理統制する歪な国。
 他国が兵を派遣しても異常な力を持つ竜がことごとくそれを追い返し、けれどその力で積極的に他国に侵略を仕掛けることもない。最初に竜が定めた領土が絶対で、それを譲ることはなく、それ以上を欲することもない。他国間の紛争に兵を派遣してくる事はあっても、ファーリズを巡る紛争に他国の介入する余地はない。ただ始まりと同じ区分の『神々の箱庭』をそっくりそのまま、百年二百年と『竜に支配され』歴史を紡いでいく――そんな国。

 魔道具の画面内では試験的にひとつの冒険者パーティがダンジョン攻略する風景が映っていた。
 パーティメンバーは何処かでみたようなメンツで――あれは以前、北の領地で暴れていた盗賊団の方々ではなくて? ネネツィカは少し驚いた。

「交流会、ボクも行きたいよ!」
 ミハイ皇子がハイハイと手をあげて、ルカ皇子に「お前はダメだ、落ち着きがないし」とダメ出しされている。

 わたくしは何故他国のロイヤルアットホームに混ざっているのかしら――ネネツィカはそっとスープを頂いた。まろやかで美味しい。

「お口に合ったようで何よりです」
「ええ、とても……」
 ネクシは招待状を差し出して、「ご予定が無いのでしたらアイザールの友としてご参列ください」と誘ってくれた。
「お誘いありがとうございます。父や兄と相談してお返事いたしますわ」
 家に帰ってみれば、似たような招待状がエリック王子やクレストフォレスのララカからも届いている。

「ティミオス、わたくしもしかして……主人公なのではなくて?」
 このモテよう……モテ期!
 ネネツィカは自分の時代が到来したのかと一瞬思った。
「うっかり傍観者かと思ってましたが、わたくしはやはり主役なのね」
「お嬢様、調子に乗っていらっしゃる」
 ティミオスは微笑ましげに主を見守り、ついでとばかりに庭先を示した。

「お庭でもうひとつ、拾い物がありそうですよ」
「……?」
 何かしら?
 窓を開けて夜の庭を見てみるが、時折さやさやする木の葉擦れ音が静けさを伝えるばかり。そっと顔色を窺うが、執事は曖昧で捉えどころのない笑顔を綺麗に保っている。
 春色の髪をふわふわと揺らして、ネネツィカはゴレ男くんを呼んだ。窓の外に無音で招いて、手のひらにぴょこんと乗って降ろして貰えば、夜風が暑気を和らげてくれて、気持ち良い。
「拾い物を探しに夜のお散歩でもしてみようかしら。お前がそう言うのですものね」
 稚くそう微笑んで、執事を従えて歩き出す。気の赴くまま、ゆるゆると。足元でゆらゆらと草が揺れていて、花が控えめに混ざっているのが可愛らしい。
 夜は穏やかで、星々は『人間たちのアレコレなんて知りません』って感じの色を高いところで広げて見下ろしていて、そんな庭を貴族らしからぬ奔放さで歩めば、めんどくさい日頃のしがらみ一切から解放されたみたいで、なんだかとても楽しい時間だった。

 
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