竜と王冠のサクリファイス~乙女ゲームの攻略キャラたちがお互いを攻略して王都炎上?

浅草ゆうひ

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12、騎士王と雨月の冠

234、玉座、王冠、柱と床

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 旗が翻る。他国の。
 エインヘリア兵がそこら中にいる。冒険者だ。冒険者を使っている――、
(冒険者を便利に使うのは、僕だったはずなのに)
 『騎士王』ニュクスフォスに抱えられて城内を運ばれるクレイは、遠き日に思い付いた遊びを思う。あんなこともこんなこともしたかった――それにしても、城内も城付近も、すっかり制圧されたような気配がある。
(国内の冒険者を使ったのと、他国の冒険者を少しずつ潜入させて伏せておいたのかな? ダンジョンに挑戦すると言えば、入国もしやすいか……冒険者ギルドは、やはり僕がキープしておくべき札だった)
 運ばれた先は、王のいない玉座の間だった。
 さては堂々と玉座に落ち着くのかと思っていれば、上機嫌なニュクスフォスは「アーサー王は存命で、友好国として保護していますよ」などと言う。
「……保護」
「友好国の我が国は、アイザールが我が友好国を攻めているとおききして、友好国の危機に駆け付けてお守りしたわけです、友好国のエインヘリアが。友好国ですから」
「ええ……」
 それはおかしい。あと友好国がゲシュタルト崩壊しそう。
 そんな思いが目から溢れた。
「そんなの、誰も信じない。どう見ても侵略――漁夫……」
「おやおや、外交官殿は穿った見方をなさる。こんなに仲が良いじゃないですか、ねえ!」
 陽気に笑って、ニュクスフォスがクレイを座らせるのは、玉座だった。

「……?」
 行儀よく、人形を飾るみたいに座らされたクレイは眉を寄せた。
(座った。座らされた) 
「おお、佳いですね。よくお似合いですね。素晴らしい――麗しい! じっとなさってくださいね。お行儀よく。そのまま?」
 たいそう燥いだ様子のニュクスフォスは、ニコニコとして配下に豪奢な王冠を運ばせて、両手でそれを取り上げた。
「それは、なにかな」
 ぞわぞわと背筋に嫌な予感が湧く。
「これは今日のためにつくらせた俺からの献上品ですよ、クレイ殿下!」
 いそいそと王冠が被せられる。ぞくりとした。
「な……、なんと?」
 紅色の瞳がキラキラと妖艶な煌めきを見せて、玉座の前で鑑賞でもするかのようにニュクスフォスが座り込んでいる。
 これが観たかったのだと言わんばかりの顔が嬉しそうだった。
(そういえば、そういう期待を見せていた時があったな。唆したり焚きつけたりしていたな)
 
 ――こいつ、僕をファーリズの玉座に座らせて。王冠まで。
「『友好国の危機に駆け付けた』のに、『今日のためにつくらせた』?」
 距離があるのを良いことに玉座から滑り落ちるようにして逃れ、王冠を床に置けばニュクスフォスは不満そうな気配をありありと浮かべた。
「細かいことは気にしちゃいけません」
 まるで聞き分けの悪い子に言い聞かせるような口ぶりで言ったニュクスフォスは立ち上がり、「もう一度」とばかりにクレイを玉座に戻して固定した。
「待っ……い、言わないとわからない? ここは王様の座る場所だよ、僕は王冠を被る身分ではないよ」
 ――とんでもない。これは、とんでもない。
 クレイは真っ青になった。 
「アーサー王は望むなら殺してやってもいいですよ。俺は空いた玉座に貴方を座らせることができるのです。文句を言う奴は黙らせましょう」
「いやいや。のぞ、のぞまないよ……っ、なんてことをくちにするのか! と、と、とんでもない」
 ずるずると玉座から床に逃れたクレイは、床掃除でもするように這いつくばって隅に逃げた。
「あっ、なんて情けない逃げ方をなさるんです! いけませんっ、みっともない!」
 悲鳴が背中にあがる。威厳とか権威とかいう単語を言い連ねている。
「僕をそこに座らせないで。僕にそれを押し付けないで。僕は遠慮する。絶対いらない……勘弁して」
 柱だ。
 柱を見つけて、少年はしがみついて必死に叫んだ。
「ぼ、ぼくは、この柱が好き。この柱とずっとくっついてる。離すなら舌を噛んで死ぬ……! よいか、絶対だ! 死んでも離れぬ!」 
「ちょっ……な、なんという……」
 ニュクスフォスが絶句している。配下ともども対応に困った様子でおろおろしている。 
 
「よいか、そ、そこになおれ」
 ――こいつには、わからせねばならぬ。
 クレイは柱とくっついたまま、威厳とやらを意識した。要は偉そうにせよと言うのだろう。気位が高そうにすればよいのだろう。
 言い放てば、エインヘリア勢はニュクスフォスを先頭に柱の前に膝をついてくれるようだった。
(これはなんだ。眩暈がする光景だな……悪夢だな) 
 思い出すのは、レネンから聞いた、いつかオスカーが『鮮血』に騙った文言だ。
 
『クレイ様は、やはり特別な血統書付きだけあって、お高く留まってるわけですよ』
 あれか。紅薔薇ハートモアの貴族らやファーブルを相手にやってるみたいなノリか。
 玉座を唆して、座らせて喜ぶぐらいだ。さぞ刺さるのだろう、そういうのが。
 
「そなたらは、我が家名を知らぬのか。なんて、浅学。なんて、侮辱! ――僕は、驚いている。僕は、コルトリッセンである。その名は誇り高き臣の名である。覆らぬ白の臣と呼ぶ者もいる。王国一の忠臣、血統優れし名門、格式高き、いと雅やかにて高潔な血統なのである。野心とは無縁なのである。コルトリッセンに野心は宿らぬ。それが、誇りなのだ」
 
(貴族らしく、或いは王族らしく。上品におっとりと、ちょっと子どもっぽくやればよいのだろう。僕は、得意だぞ)
 柱から少し離れて、王甥は嘆かわしく睫毛を伏せた。
 
「その脳に我が家の由緒正しき所以を刻むがよい」
 ああ、柱が安心する。
 寄るべとは、大事なのだ。
 王甥は切々と囀った。
「元は王族だった当家初代は、臣下にくだる時に時の王が名をくださったのを大切に名乗って、その家を絶やすまい、名を穢すまいと誓ったのである。ゆえに、ゆえに、王家は都合が悪くなると処分したい王族を安心安全なコルトリッセンに嫁がせるのである。そうすると、その瞬間政敵は無害な忠臣になり、生まれた子どもも例え加護を持っていても王族ではなく忠実な臣下貴族として教育され骨の髄まで忠心を叩き込まれて、王位を脅かす事はないのである。子孫は代々、そのくだらない血を繋ぎ、我が母ラーシャもそ……、お、お前が大好きなラーシャは、……つまり、つまり……めんどい」
 
 何を言いたかったのだっけ。
 微妙に余計なことを言った感じがして、クレイは柱に頬を押し付けた。
 
「つまり、コルトリッセンは王様にはならないのだ。絶対なのだ。そなたらは、我が清廉な家名に泥を塗ったのだ。コルトリッセンを玉座に座らせるのは、辱めに等しい暴虐非道の行いなのだ。僕だけでなく、過去にこの家名を守りし全ての祖先への冒涜なのだ。それは、とんでもないことなのだ。よ、よいな」
 そう。そんな感じのことを言いたかったんだ。
 言い募り、クレイはハアハアと息を継いだ。
「僕は、かえりたい」
 ほろりと本音が零れた。
「つ……疲れた。エインヘリアに帰りたい」 
 そうだ。そうではないか!
「玉座を貰ったら、僕はエインヘリアに帰れないよ? 『家』とかシェリとか言ってたのは、全部適当なその場しのぎの方便か何かだったとでも、言うの……」
 視線を送れば、ニュクスフォスはちょっと驚いたような顔をした。
 
 ちょうどそのタイミングで玉座にエリックに連れられてアーサー王がやってきたので、クレイは玉座に座っていなくてよかったと心の底から安堵したのだった。

「アイザールの後続は、もういない様子で……クレイは何をしてるんだ?」
 エリックが不思議そうに問いかける。
「……柱がひんやりしていて気持ちいいんだ……」
「そのエインヘリアの人たちは?」
 アーサー王も奇妙な光景に驚いている。
 それはそうだろう。今まで何処にいらしたのかは存じぬが、自分が不在の玉座の間で甥が柱に抱き着いていて、友好国を名乗りつつ城の内外を固める他国勢が床に座っているのだから。

「こ……この方々は、床の冷たさがひんやりしていて気持ちいいと」
 こんな言い訳が通るか――笑顔で言ってみれば、妙に憎めないファーリズの王と王子は「そっか」とあまり気にしない様子で済ませてくれた。ああ、ゆるい――これが、毒気をいい感じに中和してくれるのだ。
 
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