竜と王冠のサクリファイス~乙女ゲームの攻略キャラたちがお互いを攻略して王都炎上?

浅草ゆうひ

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終章・旅人の夜の詩

242、君に謝……覚えてろ

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 妖精たちの世界に冬の気が広がっていた。
『冬』の妖精王、成年姿を取るデミルは雪白に燐光を撒く長い髪をふわふわと靡かせて、冬の配下妖精が散らばって冬の手を広げる様子を眺めている。
 長命の妖精の時間感覚はかなりのんびりしているようで、デミルが「ちょっと妖精界で用事が」とか「すぐ戻るね」言うとだいたい「ちょっと」や「すぐ」ではない。それに慣れたアッシュは、待ってるだけではなくて用事を手伝うようになったのだった。
「デミルー! あっ、今日はでかい」
 『暇つぶしの剣シュヴェール』の連中が駆け寄っていく視界に、アッシュは目を細めた。

「やーあ!」
 友達の温度で、デミルが人懐こさを感じる笑顔を咲かせた。妖精王と呼ばれる――昔は悪として勇者に封印された彼の事を、今この場にいる者は皆友達だと思っていて、怖がることはないのだ。

「アッシュ! 今日もあそんでくれるんだね!」
 子供の姿にふわりと変化して、デミルは地面に足をつけてアッシュを見上げた。
 元々ひょろりとして背が高かったアッシュは、最初会ったときよりも体付きがしっかりとして、背筋もすらりと伸び、経験に裏付けされた自信らしきものがほんのりと控えめながら腰を落ち着かせていた。
「今日も、明日もかな」
 永遠に続くみたいなノリでそういう友達を見て、デミルはニコニコした。そして、冬の気を世界に走らせながら語るのだった。

「以前、友達の妖精がね……」

 人間と仲良くなったんだ。
 その人間がいなくなって、とても悲しんでいた……。

「うん。友達が?」
 美しき冬景色に目を細めて、アッシュが夏の名残を斬る。これよりは此処は冬に染まるのだと知らしめるような紫電は、見ていると快くて、何故かデミルが誇らしくなるのだ。
(オイラのアッシュはこんなに強い! 世界中のみんなが見て、びっくりするといい!)

 ――妖精の友達は、定命との別れを悲しんでた。
「友達はね、花が散ってしまったのが悲しいって嘆いてた」
 これにアッシュは何を思うだろ。
 デミルがそっと見上げれば、アッシュは優しく頷いた。
「人間も、春が終わるたびに春の花が散るのを惜しんだりするよ」
 声はあたたかかった。
「花だけじゃないさ。犬とか猫とか、家畜とか……おじいちゃんやおばあちゃんや……うーん、」
 アッシュはちょっと言葉を探すようだった。そして、言葉を見つけた顔をして、何かを思いついたみたいに片手を伸ばした。デミルの胸にその手のひらを当てた。
「生まれた後はみんな死ぬ。いつかは」

 その言葉は、デミルの心臓に楔を打ち込むようだった。

「冬も死ぬかな? 春も死ぬかな?」
 デミルはそわそわと問いかけた。それはたいそう魅力的な現象に思えたのだ。
「そうだね……俺たちの言葉には、こういうのがあるよ。『咲く花は同じに見えても去年のそれとは違う』と」
 アッシュがにこりと笑う。

「じゃあ、オイラたちは寝てる間に死んで、また生まれるとでも言うのかな。それは面白いね。春も、今は死んでいて、また生まれるんだね」
 冬は蕩けるように目を閉じて、刹那の永遠を想うのだった。

◇◇◇

「君のことをなんと呼んだらよいのだろう」
 秘密結社ファーブラ秘密基地でエリックと一緒にソファに落ち着いた少女にそんな問いを口にしつつ、クレイは招待状を手渡した。
「ネネツィカでよいですわ」
 少女はそう言っていつも通りの笑顔をほんわかと浮かべた。
「うん。では、そのように……ここだけの話、僕いつもその名前が変だなって思ってた。君が付けたの? アナグラムが何かなのかな」
「名前が変とか言うなよクレイ」
 思わずこぼした本音にエリックが眉を上げている。
「こちらにいる間、わたくしはあくまでわたくしなのですわ。わたくしの認識ではラーフルトン家の父が名付けてくださったとなっています」
 彼女はそう言ったので、真相は闇の中であった。
「不思議だね」
「そろそろ夢からあちらに帰らないと……」
 少女はそう言うと、ふわふわと空気に溶けるようにして姿を薄くしていく。
「また明日?」
「次は、明後日くらいになるかもしれません」
 春めいた気配がちょっと申し訳なさそうに微笑んだ。
「なるほど、そんな感じ……?」
 ちらりと視線を向ければ、エリックは気丈な目をした。
「俺は彼女が来てくれた時に、また来たいと思ってもらえるように頑張る事にしたんだ」
 前向きに自分にできる事をしようと決意する眼差しは、ひたむきで一生懸命で、少し痛々しい。
 ――おお、エリック!
 クレイはそんな友人に胸を痛めた。
「エリック、その切なくて一途で健気な感じ……とてもよい……いいよね、そういうの」
「お前はちょっと黙ってて」
 思わず呆れた調子で言ってから、エリックは居住まいを正して友人を見た。
「いや、なんだ。まあ、わかってくれてありがとう……」
「ああ、いや。こっちもごめんね。ついツボに入ってしまって……反省する」
 クレイはエリックに倣って居住まいを正し、向かい合った。
 『お兄さん』といえば、エリックとて2歳年上だ。
 ――そんなことを思っていると、目の前のエリックはなにやら神妙な様子で、尻尾も畳んできちんとしている。
「いや、俺も謝るよ……反省してるよ。今だから言うけどさ」
「ん?」
 そして、なにやら謝るのだ。
「俺は、ティーリーにあの娘を俺のヒロインにしたいって駄々こねた……」
「お、おお……」
 ――なにやら深刻な顔で告白タイムをするのだ。
「クレイに負けたくないと言ってしまった」
「ぼ、僕に」
「それで多分ティーリーが彼女をヒロインっぽくしたり、クレイを攻略キャラから外したりなあれこれを、おそらく……いや、後から知ったんだ。そのやってたらしき内容は」
 エリックは言いにくそうにしつつその後に続く自分の行いにも触れた。
「暗殺犯にしてやれば言い逃れもできないし、回避したつもりでこいつ詰んでるだろーって思ったものだ。真面目な話しようとしたら倒れるし。そのせいで俺は冤罪を……あとバイオリンはへったくそだったな……劇のセリフなんて言っちゃってさ……いや、ごめん」
 クレイは頷いた。
「こういうのって自分から告白するのが大事だよね。僕はわかるよエリック、その美学が。いいだろう、ならば僕とて申そうではないか。冤罪はわざと噂を広めつつ、適度なところで『その噂は嘘です』って発表したことで信ぴょう性を増しつつ我が家の忠誠心を魅せたのさ。僕はパーティ中に使者に騒がせたし、派閥の人に頼んで間者に白竜を煽らせて言論弾圧や世論操作もしてもらったよ。あれはなかなかうまくいっ、……いや。ごめんね」
 二人は互いに見つめ合って、にっこりとした。
 
 もう二人同時に謝って水に流そう、それがいいね――、
 
「……覚えてろ。俺はお前に『ざまぁ』してやるぞ」
「……そっちこそ。僕だってお前に『ざまぁ』してやるとも」
 
 そんな二人に呆れた様子でティミオスは「この二人がいなければお嬢様は……」と呟き、一方で「けれど、悲劇的だったというあちらの世界のお嬢様が救われたのなら、それもよかったのでしょうか」と少しだけ前向きな眼になった。
 
 夢から覚める少女の魂を見送る春妖精は、従者を案じて夢から去りかける少女に囁いたのだった。
 ――その心の移しでも創り、今までのようにこの世界の住人として生きるようにしませんか、と。
 この時少女は、すこしだけ考える気配を見せて現実に戻っていったのだった。

 そんなやり取りを知らず、クレイはティミオスに招待状を手渡した。
「さて、これはリーガンに頼んで手に入れたアイザール新政権の主催なされる戦争慰霊会、平和祈願会とやらの招待状だよ。君のお嬢様の分もある。以前のアローウィンみたいに、執事じゃなくて騎士……いや、騎士より貴公子。それで行ったらどうかなって僕は思うの。お礼は、ちょっと耳の先のほうを触らせてくれれば……」
 そわそわと伸びる指先が妖精種の特徴ある耳に触れると、ティミオスは軽く眉を寄せた。
「わたくしはまだハサミに触れていいと申しておりませんが? 不躾では?」
「そういえばそうだね……しかし、うん……お詫びになるかわからないけど、爵位も買ってプレゼントしよう。男爵でいい? もっと上と言われるとすこし辛いかな、僕は最近ちょっと倹約精神に芽生えつつある……」
 ちらりと窺うのは、以前よりくたびれた雰囲気のルーファスだった。

「ルーファス、苦労をかけてすまない……?」
 とりあえず、謝ろう。
 クレイはそう思って頭を下げたのだった。
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