竜と王冠のサクリファイス~乙女ゲームの攻略キャラたちがお互いを攻略して王都炎上?

浅草ゆうひ

文字の大きさ
252 / 260
終章・旅人の夜の詩

244、君は薄い本のネタがほしいんだ

しおりを挟む
 コルトリッセン公爵家の使用人たちは慣れた様子できびきびと仕事をこなしていた。
 ユージェニーが運ばせた物がどんどん積まれる。どんどん増える。
 兄クレイは布やら装飾品やらなにやらにどんどん埋もれていった。

「ユージェニー、なにかな、これはなにかな。ごめん、兄さんちょっと埋まっちゃってる。埋まってる。埋もれていく」
 クレイはもぞもぞと物品の山を掻き分けて顔を出した。ルーファスが助け起こしてくれている。
 金襴緞子、タフタにサテンにビロード、クレープ・ド・ソワ、キャメロ、装飾品の数々……、衣装に宝石。

「こちらは、お兄様のご婚約祝いに贈ろうと思っていた品々です」
「えっ、そうなの。なんと、ユージェニーから僕に贈り物を」
 クレイはちょっと感動した。
「ちょっと埋もれてしまいそうだけど、どれも佳いお品のようだね。ありがとう……兄さん大切にするね。なにより、その気持ちがとても嬉しい」
 ――なんて嬉しいのだろう! 可愛い異母妹がこんなサプライズを!
「兄さんも、ユージェニーにお返しをするね。何が欲しい? 魔塔とか買ってみる? 僕、ちょっと前からあれ買ってみたいと思ってて……」

 ユージェニーはひらひらした衣装を広げた。
「ご覧くださいな、これはお后様なお兄様に似合うと思ってオーダーしたドレスなんですよ。優雅で可憐なデザインです」
「綺麗だね。ユージェニーは趣味がとても佳い。ところで、僕は大切な事を申さねばならないのだけれど、ドレスはちょっと着る機会がないかもしれない」
「ドレスへの偏見がありますよお兄様。これは、中性的なデザインなんです。コートはアビ・ア・ラ・フランセーズに腰下は前後の丈にギャップのある後ろが足首丈までのドレスとなり、正面にショートパンツを。お袖止めにもレースやフリルをふんだんに、姫袖の下から可憐さを足すように。ミニハットにゴシックなジャボにラーシャモチーフのカメオブローチ……そもそも、異世界ではジェンダーフリーやジェンダーレスという言葉もあるのです」
 何かのスイッチが入ったように語り、衣装をひとつひとつ取っては熱く語るユージェニーに、ルーファスとクレイは圧倒されつつ頷き続けた。
「社会的・文化的性差の押し付けは、文明的ではありません、と申し上げましょう――性別における決め付けや役割分担にとらわれず、男女間の力関係や格差をなくすのだ、と申し上げましょう。お莫迦な道楽貴族はもっと享楽的で、度し難い感じでよいんじゃありません? お兄様、今更良い子ぶっても『もう遅い』です。散々あっちこっち『君も好き』『君と仲良くしたい』と手を出してきたではありませんか。人によってはあれはビッチと呼ぶでしょう。異母妹ユージェニーが名付けてあげます、『健全ビッチ』と」
「ビッ……」
 ルーファスが思わず声をあげかけた。さすがに無言のリアクションを貫くには、いささか過激であった。
「お兄様の強みは頭が良いとかじゃないんですよ。グリエルモだって、『チェックと申し上げる』とか油断しきって悠々と間合いに飛び込んだりしないで、こんな風の衣装で綺麗に着飾って落としてしまったらよかったんです」
「突然グリエルモを出すじゃないか――あれは僕の黒歴史に追加されている……とても恥ずかしい」
「レネンの言うことを丸のみにするのは、なんでです。『騎士王』の名誉がなんですか、あれはどっちかといえばお兄様の名誉のためのご発言でしょうに。もしそうではなく自分の名誉を気にするといわれたなら『お前の名誉など知らん』って言っておやりなさい。あちらから言ってきた話なのですから、もしあちらが子どもが作れないと気にするなら『お前が産卵せよ』とでも言っておやりなさい。もし父や兄なのだとアピールするなら、父や兄と婚約する者などいないのでやめると、父はアクセルで兄はエリック様で足りているのだと言いなさい。ぽっと出に肉親面させるんじゃありません。ちょっとあっちの身分が高くなったからと下手に出るのではなく、貴方は上に行くのです! 攻めだか受けだかも妹は知りませんが、成り上がり者にビビってはいけません。常に心は上にあれと」
「す、すごいことを言っている……」
「ちょっと立って、これを試着してみてくださいな」
 ユージェニーはひらひらとした衣装をあてたり羽織らせたりして、「思ってたより育ってない」などと呟いている。
「僕は今傷付いたぞ、妹よ」
「石ころとか言って寝てばかりいるからですよ、偏食するからですよ。そのうち病気になりますよ」
 異母妹ユージェニーは遠慮がなかった。
「『それなり』の情しかなくて咄嗟の次善策で逃げただけの婚約なら、する前に白紙にするんですよ。きいていれば、策だのなんだの、浪漫も遊び心も夢もない……、それも、女性を政治の道具みたいにして。『亡き義母ラーシャ様』が悲しみますよ。そういう策とかは、エリック様と遊べばいいじゃないですか。そんな策とやらが必要だと思うくらいなら、最初から婚約自体をやめちゃいなさい」
「ぼ、僕は別に、拒否権なく贈りつけようというわけではないよ。お気に召したら娶ってもよいのではって話だよ? 女性の側も、意欲のある方にお任せするよ。嫌がるひとには頼まないよ。浪漫も遊び心も夢もない……のは、仕方ないのでは?」
 クレイはちょっと困り顔になった。
「だって、現実だもの。ゲームや物語の登場人物と違って、現実はずっと続いて、ずっと生きるのだもの……」
「でも、いつ死ぬかわからないじゃないですか」
 ユージェニーは当たり前の温度でそれを思い出させた。
「それは、そう。……だから、思い残すことのないよう、自分が死んだ後の周囲のために生きてるうちにあれこれと備えたりするのでは?」
「だからの後は、私ならそうは言いません。限られた時間、生きてる間の自分を幸せにするために頑張るのが人生だって言います」
 ユージェニーは明るい色の瞳を勝気にきらきらと輝かせた。
 それは鮮やかな緑柱石のようで、世界が過ぎた夏の新緑を思い出させるようで、なんだか生命力に溢れていた。

異母妹ユージェニーは、魅力的だな)
 クレイはふとそんなことを思った。
(これはこの娘の外見が優れているからではなく、身分が特別だからでもなく、女性だからというわけでもなく、なんだか型に嵌らなくて、貴族令嬢の当たり前なんか知りませんって感じで、頑張っていて、……ずっとひたむきに同じ目標を追い続けている。そんな魅力かな)

「僕は勘違いしていた。僕よりもユージェニーのほうが、ミハイと気が合うに違いない」
 クレイはふとそんなことを呟いた。
「ミハイ? なんです?」
「いや。ミハイはさておき、僕はユージェニーが妹でよかったな。とても刺激的で、兄想いで、……僕はユージェニーが好きだよ」
「それはありがとうございますお兄様。私もお兄様のことが好きですよ。……ルーファスさん、ほら。これですよ」
「なるほど」
 
 ――何が『なるほど』だというのか。
 
 異母兄クレイは少し考えて、「でも、美人計も佳い案だと思うんだ。僕はやりたいんだけどなあ」と未練がましくルーファスを見た。
 そして異母妹ユージェニーの剣呑な眼に気付き、「そろそろエリックと遊ぶんだった」と言って公爵家から逃げ出すように立ち去ったのだった。
「とても良いことをいっぱい聞かせてくれたが、根っこのところをつつくとユージェニーは薄い本のネタがほしいんだ。兄はわかってるぞ。要は押し倒せとか言いたいのだろう。僕はわかってるぞ」
 と、そんなことを捨て台詞のように言い残して。
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

人族は一人で生きられないらしい――獣人公爵に拾われ、溺愛されて家族になりました

よっちゃん
BL
人族がほとんど存在しない世界に、 前世の記憶を持ったまま転生した少年・レオン。 獣人が支配する貴族社会。 魔力こそが価値とされ、 「弱い人族」は守られるべき存在として扱われる世界で、 レオンは常識の違いに戸惑いながらも必死に生きようとする。 そんな彼を拾ったのは、 辺境を治める獣人公爵アルト。 寡黙で冷静、しかし一度守ると決めたものは決して手放さない男だった。 溺愛され、守られ、育てられる日々。 だが、レオンはただ守られるだけの存在で終わることを選ばない。 学院での出会い。 貴族社会に潜む差別と陰謀。 そして「番」という、深く重い絆。 レオンは学び、考え、 自分にしかできない魔法理論を武器に、 少しずつ“並び立つ覚悟”を身につけていく。 獣人と人族。 価値観も、立場も、すべてが違う二人が、 それでも選び合い、家族になるまでの物語。 溺愛×成長×異世界BL。 読後に残るのは、 「ここに居場所があっていい」と思える、あたたかな幸福。

普段「はい」しか言わない僕は、そばに人がいると怖いのに、元マスターが迫ってきて弄ばれている

迷路を跳ぶ狐
BL
全105話*六月十一日に完結する予定です。 読んでいただき、エールやお気に入り、しおりなど、ありがとうございました(*≧∀≦*)  魔法の名手が生み出した失敗作と言われていた僕の処分は、ある日突然決まった。これから捨てられる城に置き去りにされるらしい。  ずっと前から廃棄処分は決まっていたし、殺されるかと思っていたのに、そうならなかったのはよかったんだけど、なぜか僕を嫌っていたはずのマスターまでその城に残っている。  それだけならよかったんだけど、ずっとついてくる。たまにちょっと怖い。  それだけならよかったんだけど、なんだか距離が近い気がする。  勘弁してほしい。  僕は、この人と話すのが、ものすごく怖いんだ。

前世が飼い猫だったので、今世もちゃんと飼って下さい

夜鳥すぱり
BL
黒猫のニャリスは、騎士のラクロア(20)の家の飼い猫。とってもとっても、飼い主のラクロアのことが大好きで、いつも一緒に過ごしていました。ある寒い日、メイドが何か怪しげな液体をラクロアが飲むワインへ入れています。ニャリスは、ラクロアに飲まないように訴えるが…… ◆いつもハート、エール、しおりをありがとうございます。冒頭暗いのに耐えて読んでくれてありがとうございました。いつもながら感謝です。 ◆お友達の花々緒さんが、表紙絵描いて下さりました。可愛いニャリスと、悩ましげなラクロア様。 ◆これもいつか続きを書きたいです、猫の日にちょっとだけ続きを書いたのだけど、また直して投稿します。

限界オタクだった俺が異世界に転生して王様になったら、何故か聖剣を抜いて勇者にクラスチェンジした元近衛騎士に娶られました。

篠崎笙
BL
限界ヲタクだった来栖翔太はトラックに撥ねられ、肌色の本を撒き散らして無惨に死んだ。だが、異世界で美少年のクリスティアン王子として転生する。ヲタクな自分を捨て、立派な王様になるべく努力した王子だったが。近衛騎士のアルベルトが勇者にクラスチェンジし、竜を退治した褒美として結婚するように脅され……。 

身代わり召喚された俺は四人の支配者に溺愛される〜囲い込まれて逃げられません〜

たら昆布
BL
間違って異世界召喚された青年が4人の男に愛される話

この俺が正ヒロインとして殿方に求愛されるわけがない!

ゆずまめ鯉
BL
五歳の頃の授業中、頭に衝撃を受けたことから、自分が、前世の妹が遊んでいた乙女ゲームの世界にいることに気づいてしまったニエル・ガルフィオン。 ニエルの外見はどこからどう見ても金髪碧眼の美少年。しかもヒロインとはくっつかないモブキャラだったので、伯爵家次男として悠々自適に暮らそうとしていた。 これなら異性にもモテると信じて疑わなかった。 ところが、正ヒロインであるイリーナと結ばれるはずのチート級メインキャラであるユージン・アイアンズが熱心に構うのは、モブで攻略対象外のニエルで……!? ユージン・アイアンズ(19)×ニエル・ガルフィオン(19) 公爵家嫡男と伯爵家次男の同い年の乙女ゲー転生BLです。

異世界に勇者として召喚された俺、ラスボスの魔王に敗北したら城に囚われ執着と独占欲まみれの甘い生活が始まりました

水凪しおん
BL
ごく普通の日本人だった俺、ハルキは、事故であっけなく死んだ――と思ったら、剣と魔法の異世界で『勇者』として目覚めた。 世界の命運を背負い、魔王討伐へと向かった俺を待っていたのは、圧倒的な力を持つ美しき魔王ゼノン。 「見つけた、俺の運命」 敗北した俺に彼が告げたのは、死の宣告ではなく、甘い所有宣言だった。 冷徹なはずの魔王は、俺を城に囚え、身も心も蕩けるほどに溺愛し始める。 食事も、着替えも、眠る時でさえ彼の腕の中。 その執着と独占欲に戸惑いながらも、時折見せる彼の孤独な瞳に、俺の心は抗いがたく惹かれていく。 敵同士から始まる、歪で甘い主従関係。 世界を敵に回しても手に入れたい、唯一の愛の物語。

処理中です...