竜と王冠のサクリファイス~乙女ゲームの攻略キャラたちがお互いを攻略して王都炎上?

浅草ゆうひ

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終章・旅人の夜の詩

246、若様、フェアグリン、追いかけっこ、ワイストン

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 エイヴン・フィーリーは雪のちらつく平穏な街中を本を手に歩いていた。薄い本は最近では誰のネタを扱ったのかわかりにくくぼかすようになっており、暗号めいたジャンル名と微妙に特徴を変えたキャラクターがわかる人にだけわかる世界を魅せている。

「……と、あれはなにかな、怖っ」
 エイヴンの目についたのは、ウェザー商会本部にぞろぞろと入っていく騎士の一団であった。
 如何にも貴族の若様といった風情の青年が颯爽と建物入りし、物々しい騎士が続いて、ひらひらとその周囲で遊び舞うのは神秘的な光を魅せる妖精――それも、長く生きていて力の強い『光の』古妖精。
「フェアグリンじゃないか、怖っ」
 エイヴンはもう一度呟いた。
 そして、建物入りしたのが一瞬視えた先頭の青年がそういえばあまり接点がないけれど元教え子だったと思い出すのであった。
「おお、フットワークの軽いことで……」
 声が聞こえたのだろうか、ふわふわと古妖精フェアグリンがエイヴンに気付いた様子で寄ってくる。
「あっ、いやいや。来なくていいよ。俺はただの通行人ですぅ」
 エイヴンはへらへら笑って逃げ出した。

 ウェザー商会の内部では、商会長のルーファスがあたふたと『若様』の応対に走っていた。
「ウェザー商会と言えば、上流の中央貴族が後ろについていて時節をよく知り、商機創造の才に優れて惜しむべくは採算を度外視の道楽嗜好……並々ならぬラーフルトンへの偏愛奉仕ぶり、あの独特の妖精趣味……あいつはなんであんなに妖精が好きなんだ。わからん。ちょっと金遣いが荒く利益を鑑みずお莫迦なところが商会の足を引っ張ってる感じが味わい深い、商会長の苦労がしのばれる。すなわち莫迦道楽貴族……思えばあのクレイにぴったりなネーミングであったな、自分のセンスが恐ろしい」
「莫迦道楽貴族……まあ、確かにうちの支援者貴族は変わり者なのは確かですが、そのクレ、なんとか様とやらとは別の方なのは申し上げておきましょう」
 ルーファスはなんともいえない顔で笑顔をつくった。とりあえず自ら認めることは致すまい――脳裏に思い描くは、あの和やかで仲睦まじい、変な兄妹だ。
「別人と念押しした上でですが、悪い方ではないと言うのも、申し上げておきましょう」
「おお。それは理解する、大丈夫だ。思えばあれは……俺に構ってほしくて仕掛けた可愛らしい悪戯のようなものではあるまいかな! さては、……もしや、俺がケイオスレッグに熱を入れていたから嫉妬なされていた? そ、そうか。そうだったのか……? そうだな! じゃあ、そういうことにしよう。今俺の中で真実が決まったぞ」
「それ、アキラカにちがうな、雑魚」
 背丈の低い若いシュナとかいう騎士が微妙なファーリズ語でツッコミをいれている。
 騎士を侍らせた若様は、調書らしき紙束を机に置いてから「それはさておき」と本題に乗り出した。
「耳の速い商会長におかれては、北西エインヘリアの皇帝が何かを求めておたくの商会を召す予定だと既にきいているのではなかろうか」
 ルーファスは背に汗をかきながら営業スマイルを湛えた。
 つまり、これは『クレイからきいているだろう』と確認しているのだ。
「な、なんと~、そのような話は初めてお伺いしました。真実ならば、大変光栄ですね……」
「情報がまだ耳に届いていなかったと? そうか、そんなこともあるだろう。ちなみにだが、俺は花を所望する。花をくれたまえ。いと高貴にしてやんごとなき御方に献上するのだ、わかるな?」
 若様が鷹揚に笑って求める品をオーダーしてくれる。
 ルーファスは安堵した。
 ならば、普通に取引してあとは終わりで許されるのではあるまいか。『そろそろ終わりに』と口添えもして貰えたときくし――その『終わり』がトドメでなければの話だが。
「植物の花ですね」
 ぽろりと言えば、若様はしたり顔で首肯した。
「おお! それだ。やはりきいていたか。ならば安心。植物のほうをくれぐれも頼むぞ」
 今のは失言だっただろうか――若様の満面の笑みを見て、ルーファスはじっとりと汗ばむ手のひらをハンカチで拭った。
 
 
 商会の外では、エイヴンが『光の』古妖精フェアグリンと追いかけっこをしていた。
「暇なの? 遊びたいの? あっ、もしかして100年くらい前に調子に乗って配下妖精ぶった切ったのを恨んでる? ごめんねぇ! 反省するっ! 今日はさ、別な奴と遊んだらいいよっ、俺はただの教師として生きていくんだ、これから薄い本も読むところだし」
 ひらひらと燐光を纏い、ちらつく雪の隙間を縫うように飛翔する妖精フェアグリン。冬空を背に、光の槍を一筋生み出して攻撃する気満々で佳麗なかんばせを笑みで彩っている。

「街中よ? 他の人を巻き込んじゃだめよ?」
 以前の自分が散々各地で暴れ放題だったのは棚に上げ、エイヴンは呪術を手繰りかけて――教え子である学生マリアを見かけて手を止めた。
「あっ」
 エイヴン・フィーリーは呪術が使えない設定で、無能気味の平凡な歴史教師として生きるのだ。
「先生、……」
 エイヴンに気付いたマリアが手を振って、フェアグリンの光の槍に気付いて硬直した。
 咄嗟に呪術をひっこめて、エイヴンはマリアの前に両腕を広げて立ち塞がった。

「逃げ――」
 一撃を庇って、逃げて貰って。
 その後で――、

 秒に満たぬ時間、思考がエイヴンの脳を駆け巡る。
 光の槍がスローモーションめいて迫る。逃げれば教え子に当たるだろうし、これは格好良く負傷する場面だ。エイヴンは覚悟を決めていた。
 勇者は何度も大きな傷を負ってきたのだ、今更負傷を恐れる気持ちはなかった。

 光の切っ先が届く。
 と、寸前でふわりとそれが何かに阻まれ、溶けるように消えていった。
「あっ」
 エイヴンは思わず声をあげた。
 自分を守るように目の前に展開された障壁めいた魔法の気配に、とても懐かしいあたたかさが感じられたからだ。
(俺、これを知ってるぞ。何度もこれに守られた気がするぞ。まさにこんな感じで、こんな温度で。同じ術で)

 ――ワイストン!

 勇者の魂が相棒の名を呼び、術の使い手を振り返る。そして、目を大きく見開いた。
 そこには見慣れた黒髪の魔術師、友人であり同僚魔術教師のヴァルターがいたのだ。
 
「他国の妖精か」
 眉間に深い皺をよせ、ヴァルターが窘めるように杖を振り、彼の生徒を呼びつけた。
「デミル! 妖精は貴様の客ではないか」
 呼びつけられた生徒、『冬の』デミルはふわふわと現れて、「また遊びにきたのか! フェアグリンはしつこいな」と笑いながら古妖精同士の円舞曲へとフェアグリンを誘うのだった。
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