竜と王冠のサクリファイス~乙女ゲームの攻略キャラたちがお互いを攻略して王都炎上?

浅草ゆうひ

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終章・旅人の夜の詩

247、産卵することを命じるッ……冗談なので辞表を提出するのはやめてほしい!

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 デミルとじゃれ合うように上空を飛び回るフェアグリンへと、やがて地上から声が引き上げの声がかけられ、手が振られる。
「おおいフェアグリン。移動するぞ~」 
「おたくの妖精、迷惑ですう」
 元学生の『若様』へとクレームを投げつつ、エイヴンは魔術教師のヴァルターをちらちらと見た。

「いやあ、助かったよヴァルター。ありがとう! 死ぬかとおもったなぁ」
「先生、ありがとうございます」
 学生のマリアがお礼を言ってくる。
「ああ、いや。俺は何も。お礼はアンドルート先生にしよう」
「アンドルート先生、ありがとうございました。フィーリー先生も咄嗟に庇ってくれたの、格好良かったですよ」
「あっ、そう? えへへ、いやあ。照れるぅ」
 エイヴンはへらへらとした。

(ワイストンっぽさを感じたんだ、さっき)
 それは、間違いないと思うのだ。

 それは、例えば血のつながりみたいなものだろうか。
 実は子孫か何かなのだろうか。
 それとも、輪廻転生的に魂が同じとかなのだろうか。
 詳しい事はエイヴンにはわからない。わからないが、エイヴンは紛れもない『ワイストン』との繋がりを感じていた。

「お前、いたんだな……」
 しみじみと呟けば、不機嫌そうなヴァルターの目が「何を言ってるのか」的に冷めていた。
「いやいや。うんうん。俺は『ヴァルターっていう良い友人がいて幸せ者だなぁ』って、そう言ったのさ」
 マリアが「燃料じゃないですかー!」と喜んでいる。
「はは、先生燃料になっちゃった!」
(俺の薄い本もできるのかな?)
 エイヴンはちょっとだけ楽しみが増えた心地になった。
 勇者ではなく、歴史教師の本ができる――それってなんだか、新しい自分が定着したみたいで、悪い気がしないかも? ……と。
 
◇◇◇

「俺の騎士オーガスト、恒例行事と洒落込もうではないか」
 王城では第二王子エリックが朗々と声を響かせていた。

「恒例行事……俺の存在意義ってこれなんですかね」
 オーガストは諦めの境地に達しつつ、第二王子の『いつもの』を待った。トラン医師も慣れた様子でほのぼのと見守っている。

「見ろッ、これは、俺が産卵した!! 俺はついに卵生ヒーローになったぞオーガスト!」
 エリックは元気いっぱいに竜の卵を掲げ、オーガストの目の前に置いた。
「……」
 オーガストは無感情な瞳でそれを見つめ、薄いリアクションを湛えている。
(あれっ、もうちょっとリアクション頑張ろうよオーガスト。薄いな! 俺の恋人が描いた薄い本みたいに薄い!)
 エリックは不満を覚え、言葉を連ねた。
「俺が産んだ!! 腹を痛めて、俺は産卵した! それはもう大変だった!」
 そしてオーガストの肩に手を置いた。
「殿下、俺にも許容ラインがありますよ。この俺にもアウトなラインはありますからね。ラインを越えたら辞表を提出するかもしれません」
 オーガストは何かしらの予感を感じているようで、オブシディアンの瞳に今までにない光を湛えてそう言った。
「お、おう。ラインな。わかる。俺はわかる。ばっちりだ。任せろ?」
 エリックは父譲りの軽いノリでウンウンと頷き、一瞬だけ迷い、目の前の騎士の気配を探った。
 海より深い包容力的な許容ライン。そう、オーガストとはそのような男であった。
 よし、いける。
(次はオーガストの番だ。産卵することを命じる……! そう言って、笑っ……)
「オーガスト……」
 つ、つぎは……オーガストの……、言いかけた瞳が騎士の気配に気付いて、強張った。

「……」

 束の間、室内には沈黙の帳が降りた。
 絵画にでもなったかのように、その時その場の全員がぴたりと止まり、息をすることすら忘れたような緊迫した空気があった。
 
「……いつも、すまなかった」
 エリックは結局、ぽつりとそう言って謝ったのだった。
 騎士の目が本気で辞表を提出しそうに見えたのだ。エリックは背に汗を流しつつ、全力で縋って引き止めた。
「き、君という騎士がいないと俺は大変困るので、辞表を提出するのはやめてほしい。俺を見捨てないでくれ。産卵とか言わないから……あっ」
「仰いましたね、殿下……」
 あたふたするエリックへと、オーガストはくしゃりと苦笑した。
 慌てふためいているこの王子は、自分の良く知る少年の気配で、オーガストの大切な主で、弟のような存在なのだ。
「……俺もいまいちお役に立てぬ騎士ですが、お話をきく役くらいはできましょう。こちらこそ、お見捨てなくと申さねばなりません……でも、産卵ネタはやめましょうね……」
「お、お、オーガストはこれ以上なく役に立っているぞ! 俺は感謝しまくってる! ちなみにあの卵は竜の卵なんだ。すごいだろう」
 親しい温度で言葉を連ねる二人を、トラン医師がニコニコと見守っていた。
 
 ちなみにもうお持ち帰りされた卵のもう一つ、クレイの側はというと『歩兵』らと呪術師を集めて得意げに見せびらかしていた。
「見よ、これを何だと思う」
 鳥の巣めいて大きな籠にふわふわのクッションを敷き詰め、そこに卵をちょこんと置いて問えば当たり前のようにテオドールが「卵ですね、何の卵ですかね」ときいてくれる。
(いいぞテオドール、お前はまったく常識的なリアクションをしてくれる)
 クレイは満足した。
「答えをすぐ与えたのではつまらぬ。発想を楽しみたい。ここにアイディアを投函する箱を置くので、各々、自由に思い付きを紙に書いていれるのだ。面白かった者には褒美をあげよう」

 アドルフが早速「茹でます?」などと言っている。
「た、食べてはいけない……」
 そこだけは流石に念押しせねば。
「これは貴重で大切な卵なので、そこだけは承知しておくように」

 黒竜アスライトはそんなクレイを冷ややかな目で見ていて、竜という存在に慣れた室内の者たちは「アイディアも何も、普通に考えればあの竜が卵を産んだのでは?」と思うのだった。

 『ボクが産んだわけじゃない』
 そんな思いを察してか、アスライトは淡々と否定する。

「まあ、どこかで落ちてて拾ってきた何かなんだな」
「それだけは確かだな」
 和やかな室内で、クレイは何通か手紙をしたためた。
「これをハートモア侯爵に届けるのだ」
 さらさらと書いた手紙を送り出し、窓の外に視線をやれば、日ごとに深まる冬の気配が室内とは対照的に静謐で、清らかだった。
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