魔女家の公子は暴君に「義兄と恋愛しろ」と命令されています。

浅草ゆうひ

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二章、未熟な聖杯と終末の予言

27、殿下、新しい剣でござる!

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「……そなたらは俺が脳筋だと言うが、そんなのは子供時代の話だ。今は違う」
 ノウファムが若干不満気に眉を寄せつつ、前に足を進ませる。

 扉の先に広がっている現在地は、壁が遠い。広い部屋だ。
 
「エーテル、天井付近に大きめの光を飛ばしてくれるか」
 ノウファムに名を呼ばれて、僕は一も二もなく頷いた。
「はい、殿下」

 求心力が落ちている今は、「兄様」より「殿下」とお呼びした方が良いだろう。
 僕は配下勢の士気と忠誠心を心配しながら忠臣面をした。

 大きめの光の珠が天井に張りついて明るくなる視界に、ノウファムの剣がすらりと抜き放たれるのが視えた。

「――ふっ」
 鋭い呼気と同時に、剣閃がまっすぐに奔る。
 空間を断つような剣捌きは鮮やかで、武芸に通じていない素人でも「なんかすごい」と技量の高さを感じてしまうほど。

 斬り捨てられて床にごとりと落ちたのは、突然襲い掛かってきた大量の牛型の氷像の破片だった。
 なんで牛型なのかはわからないけれど。
 あと、結構硬そうな氷だけど、剣が刃こぼれ起こしたりしないんだろうか。
 ノウファムは昔から力任せに剣を奮って岩とか魔獣とかを斬っては、剣を折ったりしていたと聞いたことがある。

 よく英雄物語とかでギリギリの戦いをして相打ちになる展開があるけれど、ノウファムの場合は敵といっしょにダメになるのは剣なのだ……。

「エーテル、オレが守るからな」
 ロザニイルが兄貴ぶってニカッと笑い、背中に僕を庇ってくれる。
 その顔を見て、僕はいつかカジャに怯えながらロザニイルが僕とノウファムを守ろうとしてくれたのを思い出した。

 ……ロザニイルは、いい奴なのだ。

「……僕もロザニイルを守ってあげるよ」
 僕が杖先にロザニイルを真似したみたいな炎をつくって氷像に放つと、ロザニイルは大袈裟なほど喜んで、はしゃいだ声で肩を揺らして笑った。
 本心から喜んでいるのがわかると、不思議と僕まで気持ちが明るくなる。
 ……ロザニイルはこういう奴だから、ノウファムにも好かれるのだろう。僕はそう思った。

 
「殿下、新しい剣でござる!」
 モイセスが用意周到に剣を投げて、ノウファムが豪快に剣をへし折っている。いや、氷像に斬りつけて倒しながら剣をダメにしている。
 なんだか剣が可哀想になるな――僕は頭痛を覚えてそっと頭を抑えた。

 
 やがて動く氷像がなくなると、ノウファムは怪我人の手当と休憩を提案した。

 治癒魔術で怪我人を癒し、持ってきた食糧と水で休憩すると、「この先はどんな仕掛けがあるんだろう」とか「無事に帰れるんだろうか」といった不安が湧いてくる。

「冒険って感じでたのしいな!」
 ロザニイルはそんな僕とは対照的に暢気に笑っていた。

「僕は心配です。閉じ込められていては補給もできません。食糧が尽きれば……」

 思わず心配を吐露すると、ノウファムとぱちりと目が合った。
 その青い瞳が何故か懐かしむように細くすがめられて、僕は不思議な気持ちになった。


 そんな表情をするんだ。

 ――そんな表情ができるんだ。

 なんだか、すごく大人っぽくて色っぽかった。

 シリアスな状況も忘れて、僕は色ボケみたいなことを考えたのだった。

「本日中に遺跡は攻略できる」
 朗々としたノウファムの声が室内に響く。
「次の扉で終わりだ。帰り支度でもしておけ」


 その声は余裕があって、自信に溢れていて――まるで、ここを攻略するのが初めてではないみたいだ。僕はなぜか、そう思った。
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