魔女家の公子は暴君に「義兄と恋愛しろ」と命令されています。

浅草ゆうひ

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三章、悪役の流儀

41、船上パーティ「私はあの国を滅ぼす」(軽☆)

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 北西の遺跡から帰った僕のもとには、東方の国主を歓待する船上パーティへの招聘しょうへい状があった。
 丁重なようでいて拒否権のないそれは、具体的には主催であるカジャにお供せよという内容であった。
 
「僕、嫌な予感がするんだ」
 ――そして嫌な予感はだいたい当たるんだ……。



 船上パーティが催される場所は、王都の東南エクノ地方にある多島海。気温が高め、暑い地方だ。
 土地が沈降し、海水が陸地に浸入した海岸付近には、たくさんの小さな島が散らばっている。

 華やかに着飾った王侯貴族の乗り込む客船は、名前が『ラクーン・プリンセス』といって、とても大きい。
 外装は白を基調としていて、青い海景色に爽やかに映えている。
 2000人ほどが乗り込める豪華客船で、海の上に出ている階層が四層もある――建物風にいえば四階建てだ。
 
 それぞれの階層には客室と共有スペースがあり、共有スペースは例えばカジノ、バーやスパ、オーシャンビューの展望浴場、食事会場、ダンスフロア。
 客室は大きなバスタブにラグジュアリー・ベッド、プライベート・バルコニーも完備された薄い黄色の灯りに明るく照らされて、上品かつ温かみを感じる居心地の良い空間だ。

「やあ、王国の聖杯エーテル。体調が良さそうじゃないか。そういえばお薬をやめていたんだったか」
 久しぶりに会う国王カジャは、絢爛な衣装と王冠を纏っていると純粋に美しい――ついつい、見惚れてしまうほど。
 狂者だとか暴君だとか言われる彼は恐ろしい存在で、あり得ないほどの魔力を持つ強者だ。けれど、外見だけは月の化身や精霊のよう。
 
 王兄であるノウファムも色合いは大分違うがやはり美形なので、血筋なのだろうか。
 
「ポエムはできたかい。お兄様にご披露する前に、私がチェックしてあげようね」
「本人にポエムを披露するんですか……」
「当然じゃないか」

 恐ろしいことを言いながら、カジャはパーティ会場の席に座った。
 そして、膝の上に僕を抱きかかえると、愛玩動物を愛でるみたいに頬を撫でて耳元で猫なで声を発する。ちらちらと送られる周囲からの視線が気になって仕方ない。恥ずかしい。

「エーテル、こちらに向かってくるお客様が視えるね。あれは東の獣人国の国主だよ」
 僕は小さく頷いた。
 挨拶のために近付いてくる集団の中に、それらしき獣人がいる。
 獅子型と思しき獣耳と尾が生えている、筋骨隆々とした武人っぽい獣人だ。
 
 僕たちの住む王国の東側には、小さな国がいくつかある。
 獣人国は、そのうちのひとつだ。山岳地帯にある国で、森妖精たちの国、大森林地帯に隣接している。

「私はあの国を亡ぼす。いいね」

 ――いいね、って言われても。

 僕が返答しかねていると、カジャの片手が自然な仕草で僕の上着の隙間に入り込んできた。
「っ!」
 妖しげな手付きで胸元を探られると、動揺が背を奔る。 

 挨拶する貴人が下卑た視線を送ってくる。
 羞恥心に頬を染めながら、僕は睫毛を伏せた。

「これはこれはカジャ陛下、そちらが噂の王配の聖杯殿下というわけですかな」
「まだ婚姻していないけどね。このエーテルはこうやって撫でてあげないと淋しがって泣いてしまう甘えん坊なんだ」

 ――誰が淋しがって泣いてしまう甘えん坊だっ!
 
 カジャの指先が意地悪するみたいに乳輪をなぞり、不埒な感覚を芽生えさせようとする。
 微弱なくすぐったさが少しずつ官能の甘さを呼び起こして、脚の間に落ち着かない熱を感じ始める。
 腰を揺らして甘ったるい吐息を零してしまいそうで、僕は唇を噛んで息を殺した。

「く、ぅ……っ」 
 他者から見ても、性感を煽られているのは丸わかりだろう。
 和やかに談笑するカジャにふつふつと反抗心が湧く一方で、もどかしい指の動きから意識が離せない。
  
「……っ、」
 感じていると周囲に思われたくなくて、僕は必死に呼吸を繰り返した。

「情欲に耐えるお姿は色めいていて、そそりますな」
 獅子の王が舌なめずりするような気配で――獲物を前にした肉食獣の声で僕を見ている。
 それが感じられて、僕は鳥肌をたててカジャの腕にしがみついた。

「……お貸ししましょうか」
 愉しげに哂うカジャの声がする。何を言っているのか一瞬理解し損ねていると、カジャはあっさりと僕を獅子の王に渡してしまった。

「カジャ陛下は、気前がよくていらっしゃる!」
 獅子の王は大喜びで僕を抱きかかえ、燥いだ様子で頬にキスをしてきた。そして、どこかへと連れて行こうとする――連れて行かれる。


「へ……陛下。陛下?」

 遠ざかるカジャは華やかな笑顔を浮かべて、ひらひらと手を振っていた。
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