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三章、悪役の流儀
49、吟遊詩人、この歌を大陸各地で広めているのだね
しおりを挟む魔物が襲ってくるのが明日だと、何故わかっていらっしゃるんですか?
それを皆に共有するべきではないのでしょうか?
――殿下も、ロザニイルみたいに滅亡の夢を見ているのでしょう?
幾つもの言葉を呑み込んで、僕は迎えに来た二足歩行の猫の騎士、ネイフェンに連れられてフロアを移動した。
ネイフェンは普段よりも装飾の多い華美な騎士服を着ていて、腰に佩いた剣の柄に僕が贈った青い石のお守りをつけている。ちゃんとつけてくれてるんだ――僕はほんわかとした気持ちになった。
「坊ちゃん、警報は聞こえていらっしゃいましたか? お姿が視えぬので、心配しておりました」
「うん。僕、警報は聞いたのだけど」
その後は抱き枕になって寝てた、という事実を持て余して僕がもじもじしていると、ネイフェンはそれをどう受け取ったのか「おいたわしい」って感じの眼差しになった。
連れ出されたのは、青空がみえる外のデッキフロアだ。
港側、船尾方向に仕切られたステージのようなスペースがあり、仕切りから中央に向かってテーブルや椅子が並び、貴族たちが食事しながら談笑している。
端っこでは乗組員や兵士たちが走り回って安全確認していて、忙しそうだ。
「魔物が目撃されたのですが、パーティを続行されるようでして」
ネイフェンがこそりと教えてくれる。
「明日魔物が襲ってくるよって言ったら、この人たちパーティを中断するかな? しないかな……」
僕はノウファムの言葉を思い出しながら、貴族たちと一緒にワイングラスを掲げるカジャを視た。
そもそも、「どうして明日魔物が襲ってくるとわかるのか」と問われると返す言葉がない。
ノウファムが寝言みたいに言ってたから――それだけの理由なのだ。
ぱちりと目が合うと、当たり前のように手招きをされる。
ネイフェンに付き添われて近くに寄れば、隣の椅子に座らされた。
「おはようございます、カジャ陛下。本日もご機嫌が大変麗しいようで」
陽光に眩しいほど輝く銀髪が穢れを知らぬ聖浄な感じだ。
それを大切に優しく梳く誰かの褐色の指を幻視したような気がして、僕はサッと目を逸らした。
「王国の聖杯は、昨夜はお兄様と仲良く過ごしたようだね」
カジャはねっとりとした意味ありげな声で言って、僕の手をさすった。
「同衾したのだと聞いているよ。可愛がって貰ったのかな? 嬉しかった? よかったね、エーテル?」
周囲の視線が気になる。
ちらっと見れば、カジャはとても楽しそうな笑顔を浮かべていた。
反抗しない獲物を弄んで面白がるみたいな、暴君の笑顔だ。
「お前のポエムのお手本になると思って、最近大陸で人気の吟遊詩人を呼んだのだよ……情操教育というやつだね、エーテル?」
「じょ、情操教育……」
ステージに立つ吟遊詩人は、森妖精だった。
人間の耳の位置に生えた耳がちょっと長くて、先が尖っている長細い形状で、蜂蜜色の髪がさらさらと潮風に靡く姿が幻想的で、美しい。
瞳はロザニイルとちょっと似ている緑色だ。
優雅に一礼した吟遊詩人は、宮廷楽師たちが伴奏する旋律に引き立てられながら美声をふるわせた。
赤い液体が注がれたワイングラスをネイフェンから受け取り、赤い色を楽しんでからひとくち含む。
口の中がぎゅっと締め付けられるような収斂味と果実味が心地よい。
身体の内側からふわっとあったかくなる酒気を楽しんでいる僕の耳に、綺麗な歌声がずっと聴こえている。聞こえているのだが――「この歌は無礼なのではなくて?」「大丈夫なのか?」周囲がコソコソと囁く声が聞こえ始める。
それもそのはずで、歌詞がどうもあやしいのだ。
♪おお、闇に魅入られし狂える弟殿下は兄殿下から貴き位を奪い
♪けれど英雄の胸には不屈の志あり、国と民を想う熱き救国の燈火は未だ消えることなし
♪暴君は大陸に野心をみせて、邪悪な魔杖で覇を唱えんと……
透明感のある歌声は情感たっぷりに歌詞を歌い上げていて、要するに、要するに――「これは、カジャ陛下とノウファム殿下の歌ではないか」。
皆がそう思う歌なのだった。
「素晴らしい。この歌を大陸各地で広めているのだね?」
カジャは無邪気とすら思える声色で笑って拍手し、臣下に何かを言いつけた。そして、吟遊詩人を拘束させて、ステージからさっさと下げてしまった。
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