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三章、悪役の流儀

54、アザラシ妖精と三人の暴君

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「僕の名前はエーテル。君は、耳飾りに封印されていたのかな、それとも好き好んで耳飾りに住んでいるのか……」

 小さくて白くてふわふわのアザラシ妖精に挨拶をすると、真っ黒でつぶらな瞳がくりくりとして僕を見た。

「きゅーぅ!」
 声も可愛いんだぁ……。

「どちらにしても、可愛いね」
 僕は小さな妖精に蕩けるような気持ちになって、ニコニコした。
 ノウファムはこの妖精が耳飾りに住んでいるのを知っていたのだろうか?
 そんな口振りでもなかったかもしれない?

「僕の使い魔として契約を交わしてくれる?」
「きゅっ?」

 妖精という生き物は、嘘を嫌う性質があると伝えられている。
 僕は包み隠さず自己紹介をした。

「僕は魔女家のエーテル。記憶がちょっと曖昧なんだけど、たぶん人生三回目の真っ最中なんだ……」
「きゅうっ」

 アザラシはちっちゃな頭をフリフリして相槌を打ってくれる。話を聞いてくれてるんだと思うと、胸がキュンとした。

「僕に力を貸してほしい。気分が乗らなかったら、拒否してもいい。でも、力を貸してくれたら貸してくれた分だけ、僕は君に魔力ごはんをあげる。これが契約だ」

 優しく契約を持ちかけると、アザラシ妖精は乗り気な様子でコクコクと頷いた。可愛い。

「キューイって名前にしようか」
「きゅう!」
 キューイという名前をつけると、アザラシ妖精が僕の一部になったみたいな感覚を覚えた。

「キューイ、少し大きくなってみて」
 試しに魔力を籠めて念じると、手のひらサイズだったキューイがふわふわっと枕くらいのサイズになる。
 ホワホワしていて、抱き心地がいい。

「抱き枕だ。これいいな……」
 
 ノウファムに貸してあげたら喜ぶんじゃないだろうか?
 キューイをぎゅうっと抱きしめて、僕はノウファムがこの子を抱っこして眠る姿を想像した。

「可愛いな……」
 想像した姿はとても微笑ましい。
 今度ぜひ抱っこして眠ってもらいたいものだ――、

「……っと、それはさておき、暗殺事件だよっ」

 和んでしまった僕は、キューイを耳飾りに戻して室内に引き返した。

 記憶は全て戻ったわけではないけれど、事件については比較的思い出せる。
 暗殺事件は、過去二回の世界で同じ日に同じように発生した。そこに至るまで、記憶を持つ僕とカジャが現実世界に干渉して世界情勢を変えたのに、だ。
 
 暗殺は、二回ともに対して行われた。

 最初の世界では先代の国王――ノウファムとカジャの父を狙って暗殺事件が起きた。
 最初の世界、先代の国王は暴君と呼ばれていたのだ。

 二回目の世界は、ノウファムに対しての暗殺事件が起きた。カジャと計画して先王を弑し、僕たちはノウファムを若き王として立てた。しかし、ノウファムは何故か最初の世界の彼とは人が違ったようになって、暴君化したのだった。

 三回目――今回の暴君は……、

 カジャだ。
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